1~4章で取上げた国土交通省が公開しているアンケートよりまとめた結果は次の通りでした。

マンション管理がうまくいかないわけ

1、管理会社の管理委託契約は管理実務を行う実務サイクルと管理組合が意志決定を行う際のサポートサイクルに分けることができ、実務サイクルは国土交通省の指針があるため、ルールも明確されている。そのため、管理会社のによる差は発生しにくい業務である。

2、サポートサイクルはマンション生活で発生する様々な問題点を解決するために必要な管理業務であるが、管理会社毎に実力差があり、提供されるサービス内容にも大きな違いがある。

3、サポートサイクルのサービス内容がマンション住民のニーズに応えられているかどうかが管理がうまくいく成功を左右するポイントのひとつになっている。

4、各マンションに常駐する管理員、清掃員は住民との接点が多く、管理の評価に直結する。

5、マンション管理の基本は区分所有者の資産保全、住環境の確保、向上であるが、その意識を共有化できているかどうかも管理の成功に大きく影響する。

6、住民のモラル違反、管理費等の滞納を規約等で少なくすることには限界があり、理事会や管理会社の日頃からの広報活動を通した啓蒙が必要である。

7、賃貸会社等が特別議決に影響する割合は20%であり、理事会や管理会社は注視する必要がある。

8、賃貸会社等が特別議決に参加を促すには、賃貸会社の物件の利用価値を利用すると効果的である。

9、無関心な組合員は一定数存在することを想定し、日々の広報活動により組合員の関心度を高める業務が必要になる。

10、管理会社が管理者に就任しても理事等が悩む内容と同じことに困っていることがわかった。

11、管理会社が管理者に就任していても無関心な組合員、モラル違反や管理費等の滞納への効果的な対策を持っているわけではないとがわかった。

12、管理会社が管理者に就任している管理組合は、無関心者、あるいは管理会社への依存度が高く、ずさんな管理を行われるリスクが高い。

住民間の意識の共有、モラル、滞納者、議決権の行使の重要性などを改善するためには、理事会や管理会社の日頃からの広報活動を通した啓蒙が必要であることはわかりましたが、どのように行うべきかは各管理組合とも模索する必要があります。

1、広報活動の重要性

12項目で気づく点は広報活動の重要性です。

モラル違反、滞納者、無関心者はいずれも特効薬の無い案件です。、解決のヒントは住民の意識にあることは皆さんもご理解頂けると思います。

元々、分譲マンションを購入する時の思いは千差万別で、様々な思惑をもった人が集まります。

居住空間(専有部)を購入する目的であり、共用部は附属であり、美観や機能を意識することはあるでしょうが、管理まで考えて購入する人はほとんどいません。

賃貸物件の共益費程度の感覚に近いのでしょう。

その上、管理組合、理事長、理事、役員の存在、任命、輪番制などマンション管理独特な制度を理解するだけでも大変です。

出来れば関わりあいたくない、やりたくない意識を持つのも理解できます。一方、国土交通省の理事等へのアンケートから組合員の皆さんの意識は「運営には自主性は持ちたい」「面倒なことは任せたい」と相反する結果も読み取れます。

この状態で管理を推し進めるには経験、知識、指導力が必要になりますが。それを一部の住民(理事長、あるいは役員)に任せるのは無理があります。そこで必要になる存在が管理会社であり担当者、管理業務主任者です。

サポートサイクルにおける担当者、管理業務主任者のアクシデントやクレームへの対応能力の重要性は前章で紹介しました。この点は皆さんも十分理解していることと思います。

この章ではサポートサイクルで重要な役割をもつ広報力を考えます。

区分所有法では理事会や総会の議事録の必要性が示され、多くの組合は管理会社に業務を委託しています。多くの管理会社は理事会や総会の議事録用の定型雛形を用意しています。

議事録の趣旨から定型雛形であっても特にも問題になることはありません。

議事録を組合誌と勘違いしている担当者も非常に多いですね。

広報力とは理事会や総会の決定事項を住民に伝える必要性が高い理事会で決定された内容を組合員を含めた住民に周知・伝達する能力になります。発信力とも言えます。

周知・伝達には「注意喚起」をはじめとする掲示物による方法と「組合誌」などの情報誌による方法に大別されますが、担当者のスキルによって得られる効果に差が生まれます。

注意喚起はポスターであり、目的も誰に「行動を意識させること」「注意を促すこと」がなります。対象者により内容に工夫も必要であり、その出来や掲示場所により効果にも大きな違いがでます。

特に子供向けであれば、大人目線で掲示してもほとんど意味はないでしょう。子供目線を考慮した掲示位置を決めるなどの配慮も必要になります。

注意喚起も各社で事前に定型が準備され、防水加工などをした上で掲示されます。また、注意喚起用のプレートも発売されています。

2、重要な役目を持つ組合誌

管理組合によっては、議事録以外に「組合誌」を発行しているケースがあります。これを行うためには管理委託契約内に契約条文として追加する必要があります。

理事会等の決定項目や活動内容を見易く、読みやすく、住民へ伝える目的で発行されます。議事録を配布する組合もありますが、目的が異なるため周知させる効果は限定的になります。

全く発行をしない組合に比べればまだ良いのでしょうが、周知の重要性を考えれば是非、発行を検討すべきです。また管理会社に依頼している組合もありますが、ほとんどは定型雛形で作られた味気ない作りになっています。

おそらくですが、管理会社も組合誌の重要性は認知しているとは思いますが、手間暇を考えると定型による発行を選択している状況です。

一方、組合で独自に工夫され、効果を上げている管理組合もあります。最近ではパワーポイントやワード、エクセルも大きの方が使うことができ、就職試験や転職の際に重要なアピールポイントにもなるほど普及しています。ほとんどパソコンで使える環境があります。

また、無料、有料で「会報作成ソフト」も利用することが出来ます。

むずかしく考えるとなかなか実施の検討を躊躇されると思いますが、基本的な紙面割を定型化するだけでも作業量の軽減は可能です。

当事務所でも理事会に参加した組合向けにマンション管理士報を作成して配布をしています。作成には素人が担当しています。確かに面倒な作業ですが作成過程には新たな発見もあり、担当者は楽しい作業で話しています。(参考例はパワーポイントで作成しています。)

いかがですか。作成時間は1時間程度です。(写真やイラストはフリー素材です)

特に組合情報として一目で問題点を共有することができる記事掲載は外せない項目です。また、引落日を毎月掲載することで不注意による滞納件数が減ることも期待できます。

管理員に館内の月内に発生したトラブルや守って欲しいルールを聞いて記事にまとめることも有効です。注意喚起までの必要性はないが注意すると館内の美化やゴミ集積場の美化、衛生が向上する事項はたくさん持っています。

個人情報の問題もあり、当人の承諾がない限り身元を特定する情報は掲載できないなど幾つか注意して作成する必要はありますが、伝えたいことをアピールするためには重要なツールになることはご理解頂けたと思います。

理事の中から1~2名に広報担当をお願いするため、負担は増えますが組合の承諾が得られるなら報酬を支払うことも検討すべきです。また、管理会社に例を示し、費用を支払って作成を依頼すことも可能でしょう。

配布前には理事会、あるいは理事長の承認を受けることも忘れずに。

3、組合誌のポイント

組合誌の目的は広報であり、住民の意識を改善するために発行します。

発行に対して幾つかポイントになることがあります。

短期に結果を求めてはいけません。住民に浸透するまでは1年以上の時間がかかります。また、手間ですが居住していない組合員、賃貸オーナーへの郵送による配布も行う必要があります。

出来るだけ一人でも多くの参加者を募ることです。例えばお子さんの絵を掲載していますが、親にとってはうれしいことでしょう。また子供の存在を住民に意識してもらうことにもつながります。

組合員の同意があれば、家族紹介や愛犬紹介、中高生のクラブ活動なども掲載しても良いと思います。他人から与えられるだけではなく参加している意識を持つことが重要になります。

ただし、強制や義務化は決して行ってはいけません。自主的な参加が大前提になります。

効果が見えない中、発行を継続することは不安も負担が大きくなりますが継続することが重要です。月によっては理事会に進展がないことも多々あります。新鮮な記事の提供に苦労します。そんな時は管理会社に記事の提供を求めることも良い策です。管理会社は自社で会員報を契約組合に提供してケースもあり、専門家の意見として掲載することもとても重要です。

分かり易さを最初から必要はありません。デザイン性も拘る必要はありません。見栄えが良いに越したことはありませんが、住民に伝われば十分です。技術やデザイン性は自然と身に付きます。焦らずじっくりと考えてください。

また、広報誌の発行には管理会社を利用することも検討してください。人材も豊富でサポートサイクルを理解している管理会社であれば、相談には対応してくれます。大切なことは丸投げをせずに、関わる部分と支援業務の割振りを両者で決定することです。


以上が理事会や管理会社の日頃から行う広報活動を利用したモラル違反、生活ルール違反、住民間トラブル、管理費等の滞納者、賃貸住民、賃貸物件所有者への共通認識を啓蒙する方法の一例です。

これ以外にも方法はあると思いますが、これまでの経験では広報誌を上手に利用している管理組合は、トラブルが少なく、滞納者の割合も一定数に収まっていました。

せっかめメモ
雑学/マンション管理/

面倒なことは管理会社

高い管理費を毎月支払うわけですから、実務を伴う面倒なことは管理会社に任せましょう。これがマンション管理の基本です。口と金は出すから、後は宜しく!!

マンション管理士は図書館

利用するべきはマンション管理士も同じです。サイトを運営している場合、無料相談もあります。利用しない手はありません。

マンション管理士はマンション管理に関する法律に詳しいだけでなく、設備や施設などの知識も備えています。さらに広いネットワークを持っています。そのため、判例も含めて過去にあったクレームや問題についても経験と知恵を有しています。特にマンション管理士協会に所属しているマンション管理士は多くの資料を閲覧することが出来ますし、他のマンション管理士との情報交換もできます。何かあった時に相談できる管理組合員の味方です。

朽ち果てた注意喚起は美観を損なう

長年風雨に晒される看板も一定期間ごとに交換する必要はあります。

プレートに印刷されていても消えかかった場合、まったく意味を持たず、ただ単に外観を悪くしている状態です。

また、自家製の注意喚起も色あせ、ボロボロになったまま掲示しているケースもよく見ますが見た目が良くありません。不必要であれば撤去、必要であれば作り直すことも必要でしょうね。

管理員さんに伝えれば改善してくれます。

組合誌は工夫次第で多くの利用価値は広がる

マンション内の花壇を自主的に管理されている方もたくさんいます。有志活動のひとつで予算化されている管理組合もあります。

情報誌も有志を募ることで発行している組合もあります。

賃貸住民にも意識を伝える

賃貸物件の増加はマンション管理に悪い影響を与えると報告されています。賃貸者も契約時に規約等への同意書を提出します。そのため、規約や使用細則の変更は生活に大きく影響します。他方「どうせ賃貸だから住めれば良いよ」と思う人も多数です。

区分所有者の皆さんは住民の出入りについては知らないケースがほとんどです。誰が借家人なのかを知ることはできますが、積極的に知ろうとはしません。個人情報保護の観点からも良いと思います。

マンション管理がうまく機能している事実は知らせる必要があります。これは皆さんのマンションの市場価値にも影響することです。自分の所有物を悪く風潮する人は少ないですが賃借人にはそんなこと関係ありません。

「あのマンションは良かったよ」「あ~あのマンションはだめだね~」と平気で勝手な評価をします。特にネットは無責任です。一つのうわさが市場価値に影響することもあります。そのためにも賃借人にも広報活動は積極的に行うべきです。

投資物件の区分所有者

最近急激に増えている分譲マンションへの投資。賃貸物件として貸すケースが増えています。また、値上げがあれば売却することを目的に購入した区分所有者です。

遠隔地の区分所有者には一定の負担金(数百円~数千円程度ですが)を求めることは法律でも有効と認められています。

彼らの目的は所有物件から利益を得ることです。賃貸にせよ、売却でもマンションそのものの価値が上がることは受入れやすい事態です。特に2022年以降制定される管理計画認定制度は市場価値に大きく影響します。出来るだけ高い評価を得られれば、賃貸料金、売却価格も高く設定できます。

管理組合の運営情報を知ることが出来る組合誌の発行はうれしいことです。

伝えたいこと以外は自由に作成

会員誌の目的は広報です。伝えたいことだけを目立つように掲載する。これが出来ていれば、他の部分は自由に作成してください。

常識はひとそれぞれ

「それって常識じゃない!」「常識がない」と思わず思ってしまうことはありませんか?

意外に自分が普通だと思っていたことが世間では非常識だったと思うこともありませんか。

「嘘をつく」「人をだます」などの道徳は多くの方が共有する常識ですが、生活ルールまで考えると「我が家の常識」が非常識だったなんてことはたくさんあります。

広報誌の役目は、生活ルールを住民で共有することです。

SNSなどの情報掲載には注意

広報誌に個人のSNSの情報を掲載することは出来るだけ避けるべきです。

SNS利用者には、秘匿性を良いことに好き勝手をする方も存在します。ホームページなど一般向けに公開されている情報は問題ありませんが、住民が個人で運営するSNS(facebook、ブログ、Twitterの)のアカウントの掲載は本人の同意を含めて慎重に判断してください。

地元のお店に協力をお願いすることもOK

近所の安売り情報や特売情報を広報誌に掲載することも良い方法です。また、自治体や町会が開催する催し物の告知も良いでしょうね。

広告料の徴収は収益になるためお勧めしませんが、近隣のお店に主旨を伝えれば宣伝にもなるため、協力は得やすいと思いますよ。

子供たちも重要な住人です

最近は学校の教科にダンスもあると聞いて驚いたことを覚えています。

マンション内には野球やサッカー、バスケットを一生懸命頑張る中高生がいます。ダンス少年少女も増えていますよね。しかし、どれも専有部(自宅)でトレーニングを行うと気になるのが騒音です。

都市部ほど空地はなく、部活以外に自主トレをしたくても出来る場所がなく窮屈な思いをしている話を聞きます。

敷地に余裕があるマンションでは、ルールを決めて活動を許している組合もありますが、厳しく規制する組合もあります。どちらの半田も優劣があるとは思いません。中高生は保護者に守られる存在ですが、彼らの活動を大人として見守る余裕があってもいいのかもしれません。

理事長の熱意に依存している現状

多くの理事会は理事長に選任された方の指導力に依存しいています。輪番制が主流の現在、理事長、理事、監事は義務化しています。そのため、理事長の熱意次第で管理実務の進捗状況が決まってしまいます。何事もなく恒例のことをやって義務を果たすだけと割切る方が理事長に任命されればほとんど管理は変わりません。

ところが管理に熱意がある理事長が任命されれば事は大きく動きます。管理会社は理事等から要請があれば動きますが、自ら積極的な提案を行うことはほとんどありません。理由は・・管理業務主任を参照してください。

私も熱意ある理事長の方にはだいぶ働かされた経験があります。大きな管理組合になればなるほど剛腕である必要があります。どんな提案にも反対は必ずあると思ってください。それを説得して前に進めることは並大抵なことではありません。

ただし、感情的なもつれは遺恨になりその後の生活にも影響します。これをコントロールする役目が管理業務主任者ですが、正直、力量不足の方も多いようです。

マンション住民は多才です。

住民の方には専門家や資格者がたくさんいます。コロナの時も区分所有者の奥様で看護師資格をお持ちの方に大分助けられた覚えがあります。理事会の開催時にどんな注意をした方が良いかとか・・・

大規模修繕工事の時も建築関係の資格者に理事になって頂いたこともあります。

使えるものは使う!!もちろん同意の元ですが、困っていること、アドバイスが欲しいこと等は理事会誌などを活用して住民の協力を得ることも管理を上手く行うひとつの手立てです。


➡ 7章 マンション管理を上手く行うために(3)に続く