これまでの特集記事では、マンション管理の基本、管理委託契約の基本、マンション管理がうまくいかない理由について考えてきました。
そこでわかったことは、国土交通省が示している管理委託契約には、定常的に決まった業務を行う実務業務と不定期にトラブルやイベントが発生するたびに発生するサポート業務があることを示し、それぞれに「実務サイクル」と「サポートサイクル」と名称を決めました。
また、マンション管理がうまくいかない理由では、組合員側と管理会社側のそれぞれに問題があることがわかり、その解決方法として「サポートサイクル」を機能させることが大切であることもわかりました。
しかし、現実は管理会社により「サポートサイクル」を行う能力に差があり、これが管理組合の運営に大きく影響していることを示しました。
今月の特集では、管理費のコスト意識について考えます。
国土交通省は2018年に管理費の全国平均を公開しています。
1、マンション管理費に相場はない
国土交通省が行った「平成30年度マンション総合調査」によると、マンション一戸あたりの管理費(駐車場などの使用料や専用使用料からの充当額を含む)の平均月額(全国平均)は単棟型マンションが1万6,213円、団地型マンションが14,660円でした。

皆さんが支払う管理費と比較していかがでしょうか。
高いですか?安いですか?
ただし、この管理費は全国平均ですが、皆さんのマンションをそのまま当てはめることはできません。
管理費の相場を考える時、管理費がどのような費用により構成されているかを知る必要があります。
下記に管理事務の業務内容を標準管理委託契約書から図にした結果をしめしました。
管理費の各科目については8章 標準管理委託契約を知る -定期委託業務費ー(特集2020年10月号 マンション管理の基本を知る)で説明しました
4つの業務費用と管理会社へ支払う報酬によって構成されています。この費用については管理委託契約書にそれぞれを個別に記載することを求めていますが、記載方法は個別表示以外に報酬を含めた方法で掲載することも認めています。

注目する点は、実費(必要経費)と管理会社に支払う明確に分かれていることでしょう。
実費について考えてみましょう。
4項目の中で「事務管理業務費」「建物・設備管理業務費」はマンションの規模に関わらず発生する費用です。マンションによっては自主清掃や管理員を常駐させない組合もあります。この場合は、「清掃業務費」「管理員業務費」は発生しません。
「事務管理業務費」は徴収、出納を含みますが、事務処理は管理会社のシステムを利用する点では同じであり、システム使用料は一定費用が発生します。基本料金と言える料金です。これに加算要因としてマンションの戸数が多くなれば業務処理量が増えるため戸数やマンションの規模によって比例的に増加します。
「建物・設備管理業務費」はマンションの基本設備(エレベーター、給排水設備、電気空調設備)は大小で設置個数や設備の規模は変わりますが、設置が必ず必要になるため一定の費用はすべてのマンションで発生します。これも基本料金と考えられます。

どのようなマンションであろうと管理委託契約をする以上、システム使用料と基本的設備の管理費は発生することがわかります。これに住居戸数や敷地面積、構造的要素、施設要素が加味されます。
例として「建物・設備管理業務費」は20階以下のマンションを想していることは、建築基準法を見れば明らかで20階以上の高層マンションでは設備が複雑化、最新の技術が使用される為、基本的な料金が高くなります。
「清掃業務費」は共用部分の面積、実施回数、清掃内容に比例します。「管理員業務費」は駐在時間と時間帯により決定されます。
これに各マンションが契約で付加するオプションが加算されます。

事実、国土交通省や各調査会社が公表している管理費のデータは、総戸数による管理費の影響も記載されており総戸数が20戸以下のマンションは約1.9万円と高いことが示されています。
戸数が少ないマンションでは基本料金を少人数で負担するため、割高になります。
それ以外にも20階以上のマンション(タワーマンション)は約2.5万円と高い管理費です。設備の複雑化、最新設備の導入が要因です。
また、同じ40㎡のマンションでも、販売価格が億ションと地方の3,000万円台のマンションでは管理費が大きく違います。これは、高級なマンションでは管理にも求めるオプションが増え、高額になるためと理解できます。
このような考え方は、マンション管理で指導的立場のマンション管理業協会が公開している「マンション管理業共用見積書式」を見ると納得できます。
実費(必要経費)は各管理会社で「基本料金」や「処理量」の加算係数、「オプション単価」が異なり各社の価格帯が決まります。
これに対して管理会社の報酬は全く別な考え方で算出されます。各社の収益になる部分です。
管理会社の人件費や収益体制、会社組織など様々な要素により管理会社が出す収益率が大きく影響します。
報酬については、国土交通省が公開している「標準管理委託契約書」では、報酬額を単独で公開すること示していますが、各費用に加算する方法も認めています。そのため、報酬が一体化され不明瞭になっている場合、管理費のコストを正しく評価できず管理費を割高に感じる方もいるのは事実です。
今まで述べてきたように、全国平均1万6,213円と自分が支払う管理費を比較しても意味がないと言えます。
2、では、なぜ管理費を高く感じるのか?
管理費は、年間の収支計画により算出される総額を基に徴収されることが基本です。余った余剰金は翌期に繰越、余剰金として管理組合が保管します。
不足した場合は借入は出来ず、一時金の徴収や値上げにより補填することになります。
国土交通省の平成25年度マンション総合調査結果(平成26年4月23日公表)には次のデータが掲載されています。

多くの組合員は現在の管理費額を妥当と考えていることは非常に安心できるデータでもありますが、約10%の組合で管理費を徴収しすぎと感じている皆さんがいることがわかります。基本的に一度徴収した管理費を組合員に再分配する制度はなくマンションに不慮の事態が起きた時の準備金として貯蓄されている現状があります。当然、行き過ぎた貯蓄は組合員に管理費の割高感を生みます。「もっと安くすべき」と思う組合員がいても当然です。
また、どの組合員も管理費を安くできるなら安くしたいと希望される方は多いはずです。
管理費の徴収額の設定に法的にルールや指針はありません。また、総会の議決で変更することも認められています。では、徴収しすぎと感じる人たちは値下げ案を提出し決定しないのでしょうか。
よく聞く話として「住民の管理への意識が薄い」「総意を求める手間などの法律システムが悪い」と言う意見があります。これも事実でしょう。
理事などの役員になることにも積極的ではない組合員に多くを期待することは難しい現実があることも理解しています。また、臨時総会の開催の手間暇や平穏な生活の中「管理費の値下げ」と言った声を挙げることの難しさもわかります。
特に貯蓄は美徳と考えがちな私たちでは「妥当である」と言う意見が多い中「値下げ!!」と言うにはかなりのパワーが必要になります。
もともと標準管理規約では管理会社の提案を受け、理事会、組合員が判断することを前提にしています。理事会や組合員の自主提案を前提としていないことが問題です。もちろん、理事会や組合員の積極的な関与については制度的に担保はされていますが、実際問題、これを実施するためには強力な理事長などの存在が無ければできず、義務的に務める理事では難しい現状があります。
このような環境の中で管理費は皆さんが同時に徴収される修繕積立金と違い設定値(目標額)はありません。そのため、収支計画により算出される額を基に算出されますが、収支計画は本来毎年変わるはずですが、物価や消費税の値上げに伴い管理費を値上げすることは良く聞きますが、値下げには聞きません。
その理由は至って簡単です。収支計画の基本案を誰が作成しているのでしょうか。管理委託契約書の基幹業務に「収支計画案の立案業務」と記載されています。管理会社が行うとしています。

管理会社は組合員の皆さんよりもマンション管理組合の財政状況を把握している存在です。そのため、不足する局面では積極的に、容易に管理費の値上げ案を作成し理事会に提案します。一方、どんなに潤沢な管理費があっても値下げに対しては消極的です。まして自ら「値下げしては如何ですか?」と言った提案をしたことは聞いたことがありません。
管理会社が作成することに間違いはない、日常が平穏であれば変える必要はないと言って管理会社に任せることに慣れてしまい、管理会社が提案しないことは不必要であると思い込んでいる節があります。
その結果、「管理会社への依存が強すぎる状態」になり、勝手に決められる管理費をどこか高く感じてしまいます。
では、なぜこのような事態になるのでしょうか。
管理費の初期額を組合員の皆さんはどう決められましたか?「いえいえ、決めていません。購入時に決まっていました。」と答えられる方がほとんどではありませんか?
そうです。分譲時には土地開発会社や分譲会社が委託契約の契約内容を決め、購入を決めた段階ですでに決まっているケースがほとんどです。これ自体はマンション管理に不慣れな組合員を主導する役目として管理会社の役割は重要です。
初年度の収支計画は、経験と実績に基づき土地開発会社や分譲会社が作成したものです。それなりの信頼性はありますが、コスト面ではどうでしょうか?土地開発会社や分譲会社は販売後、管理会社にすべてを任せますが、どの会社も設定した管理費を自らが支払う立場にはありません。多少高くても確実性を求める、あるいは自社のグループ内に仕事を依頼するシステムを導入するケースもあります。
組合員の皆さんは初期の収支計画はコストを考えていない条件で作成されている可能性があることを知る必要があります。知った上で、その管理費を受入れるのであれば不満は発生しません。
知らずにそのまま受け入れ慣れてしまっていることが問題になります。
皆さんが車や家具、電化製品を購入する際、どこが安い、機能はどうだ、あれこれ検討され、最終的に何を買うかを決定されますが、管理費の値段設定は検討を自ら行っていないことが費用の割高感を生んでいる原因です。
何も検討せず定員さんに勧められるままに購入することは楽ですが、買った後に不満を持つことは日常でよくあることですよね。
自分が納得して算出された価格であれば、文句や苦情は言えません。失敗したと後悔することもあるでしょうがその経験が次に生きることは十分に皆さんも知っているはずです。
管理費を高く感じる理由は、自分で管理費の決定に参加していないこと、管理費の内訳を精査せずに受け入れていることが原因であると言えます。
3、管理会社の思惑
昔からマンション管理会社業界全体には「事なかれ主義」があると言われています。波風を立てず契約更新を繰返し利益を確保する風潮です。
管理会社は管理委託契約を通じてマンション管理の多くの実務を行います。併せてサポートする役割を持ちます。
実務については契約書に記載された内容に実施になりますが、サポートはどうでしょうか。
本来であれば良きパートナーとして適正なアドバイスや提案を行い、組合員の生活環境の維持、資産の維持を実施するべきです。
例えば、管理費ですが、余剰が多くなった場合、良きパートナーであれば、理事会に減額提案もあって良いと思いませんか?
毎年、収支計画を作成し、マンション管理組合の会計をすべて把握している当事者です。
先程と重複しますが、どんなに潤沢な管理費があっても値下げに対しては消極的です。まして自ら「値下げしては如何ですか?」と言った提案をしたことは聞いたことがありません。
先程と重複しますが、どんなに潤沢な管理費があっても値下げに対しては消極的です。まして自ら「値下げしては如何ですか?」と言った提案をしたことは聞いたことがありません。

ではなぜ、提案しないのでしょうか。管理費が減ると管理会社は何か困るのでしょうか。考えてみましょう。
管理費の内訳を思い出してください。管理費には管理会社に支払う報酬が含まれています。
管理費を減額すると「報酬」を維持する前提で考えると実費部分の削減が必要になります。各実費は収支計画に基づいて算出されているため、減額は管理会社側の社内で行う実務費用の削減を行うことと同じになります。
例えば、修繕会社の変更、清掃会社の変更など管理会社の負担を強いる作業です。それ自体が自らの取り分(収益)に影響するなら企業努力を積極的に行うこともあり得ますが、組合から支払われる額に変動があっても収益には影響しません。
そんな状態で、管理費の減額提案を行うでしょうか。
下手に管理費の減額提案を行い「管理報酬」の減額を請求されたら大変です。
この基本的な考え方が「事なかれ主義」の土壌と言われる所以です。
そのため管理費の減額を考える時は管理会社に依頼するべきではなく、自主的に管理組合全体として取組む必要があります。しかし、何度か指摘したように理事会が自主的に減額提案を依頼する体質が育成される土壌をマンション管理適正化法や区分所有法は与えていない現状があります。これが制度上の欠陥を指摘する人の意見です。
もう少し具体的にお話しします。実費部分の節約は、共用部の光熱費の軽減や空き駐車場の効果的利用、屋上の賃貸契約、消耗品の見直し、管理員の常駐時間の短縮化、定期清掃の内容の見直しなど管理組合が検討すべきことです。
理事会が自ら管理会社に実費の節約を依頼しなければ、管理費は安くなりません。
管理会社を変更(リプレースと言います)すると「管理費が安くなった」、「管理費に納得できた」という話はよく聞きます。これは管理会社の報酬が安くなったと勘違いされている方が多くいますが、これは本質を理解していません。
「管理費が安くなった」、「管理費に納得できた」と思う理由は、初期の管理費の内訳を厳しく精査する機会を得たためであり、契約内容を自分で判断して決めたことが最大の理由です。
リプレースの経験がないマンション管理士は、このあたりを理解できず、リプレースすれば必ず管理費を値下げできるような表示をしているケースがありますが、管理会社の変更ばかりに気を取られ管理費のコストダウンの意味をしっかりと分かった者に依頼しないと思ったような結果が得られないこともあります。
特に何でもかんでも管理会社が悪く、管理会社を変えればすべてが良くなるような言い方をすべきではありません。管理会社に要求すること、自身の努力で改善できることを明確に分けてコンサルできるマンション管理士を選択してください。
4、管理会社への評価とは何?
管理会社の思惑も理解できたと思います。
管理会社の報酬基準は各会社で決まったルールであり、デベロッパー系の管理会社ほど高いと言われています。大手管理会社の名前を見れば何となく納得できる会社名がたくさんあります。
これに対して、管理費の低価格をコンセプトに売りにしている管理会社もあります。この両者のサービス内容を比較しても意味はありません。大衆食堂と高級レストランを比較して味や接客、食材の良し悪しを比較する人がいないことでも理解できると思います。
大衆食堂であれば、その枠内で価格やサービスを比較して選択すべきであり、高級レストランは予算的に無理と判断すべきです。
多くのサービスは望まず管理費を安価に請負う会社で満足するのか?あるいは値段は高いがサービスも良い会社を選択するのかは、マンション全体の総意であるべきであり、その総意は、マンションに住む組合員で決めるべきです。
もう少し管理会社のことを考えてみましょう。
マンション管理については毎年「顧客満足度ランキング」が住まいサーフィンサイトから公開されています。ご存じの方も多いのはありませんか?
著作権の関係からデータをアップすることはできませんが、ネットで検索して頂ければすぐに見つかります。
次のデータは公開されているデータをマンション管理士の観点でまとめ直した結果の一部です。

この調査の優れている点は、質問の対象が明確に区分けされていることで、とても参考になるデータです。
各質問のN数がどのような方式で算出されているか明確な説明はありませんがN=2266とありました。恐らく一定の評価を得た投票数をポイントに換算したものと予測されます。
残念ながらサンプルには、大規模、小規模、販売価格、地域性は考慮されていません。また、どちらかと言うとデベロッパー系の管理会社に管理委託を依頼している住民を対象に実施されている傾向があるようです。(住まいサーフィンサイトの会員の構成から推測)
それでも、マンション住民が管理会社のどのようなサービスに満足度を感じるのかを知るには十分な内容です。それぞれの値は質問対象に対するマンション住民の重要度合い、関心度に置き換えられる判断できるでしょう。言い方を変えれば「満足度を得るために重要と考えているポイント」になります。
如何ですか?
皆さんが今の管理会社に臨むことと一致しているでしょうか。
対象別に分けた結果のN値を数値の大きな値順に並べ直すと顧客満足度を与える要素をはっきりと確認できます。

分譲マンションの区分所有者は管理会社の業務遂行能力を最も重要考えていることがわかります。
業務遂行とは「事務管理業務」「建物・設備管理業務」「清掃業務」を示し、管理委託契約に具体的な内容が書かれています。
特に「事務管理業務」の基幹業務はマンション管理適正化法で業務の実施方法が明確に示されているため、正しく行われていることが必要であり、管理会社の規模や経営方針などとは無関係に法律で定められた方法で実施される定期業務になります。
この業務を当事務所では実務サイクルと呼び、管理会社間で優劣は発生しにくい業務になると理解しています。(詳細は後述)
「基幹業務以外の業務」は総会や理事会の支援業務が含まれます。この業務は定期業務とは異なり、問題解決能力と考えています。
マンション内で発生するアクシデントやトラブルをスムーズに解決することの能力です。
この業務を当事務所ではサポートサイクルと呼び、管理会社間で大きな差があり、理事会や住民の期待への満足度によって評価されると理解しています。(詳細は後述)
管理委託契約で組合員が管理会社にもっとも求めていることは、この2つの業務と「建物・設備管理業務」「清掃業務」の遂行であると言えます。
次に管理員の勤務が重要な評価項目として挙げられています。
顧客満足度への関与度は管理員への要求が上位を占めることよりもその存在がマンション管理で重要なポジションであることが理解できます。
管理員の業務遂行とは理事等以外にも住民が直接接する窓口としての役目があり、住民がもっとも接する機会が多い存在です。理事等への対応、住民への対応など館内で起こる管理業務の実務者であり、管理会社との連絡役です。その業務遂行は担当者(管理業務主任者)のサポート役だけではなく、マンション内の事務管理の中心的存在です。
ちなみにホスピタリティーとは、相手を喜ばせようとする奉仕的なサービスのことでサービス業の基本精神とも言えます。管理員はサービスマンとしての側面もあることがわかります。
住民と接する機会が多いため、言葉使いや対応の速さなど誠実さや人間性も評価対象になっています。
意外なことに、管理会社のフロント(担当者・管理業務主任者)の対応、提案、誠実さよりも生活サービスを高く評価していることもわかりました。住民の皆さんは、普段接することのないフロントよりも生活への影響が大きいサービスの重要性を求めていることは当然と言えば当然なのかもしれません。

その結果としてフロントの評価よりも管理員の評価が上位を占め、次に生活に直結する生活サービスを挙げていると考えれば理解できます。
ここで示されている生活サービスとは共用施設の利用や宅配便の預かりやコンシェルジュ(クリーニングなど)などが考えられますが、専有部分についてのサービス(電球の交換や家具類の組立、介護補助など)も含まれると想定しています。
コスト面はそれ程、管理会社の評価対象としては高くないこともわかります。コストでも修繕積立金への不安が多く、管理費へのコストパフォーマンスは感じていないとも読み取れますが一部には管理会社のコストパフォーマンスへの不満を持つ方がいることもわかります。
この結果は国土交通省の管理費の価格が妥当と考えている組合員が多かった結果に一致しています。
これについては異なる調査でも同様の結果を示すレポートがあります。特集2021年3月号 住民が管理会社に求めるマンション管理とは何か?で取上げ、レポートを作成、公開しています。
5、実務サイクルとサポートサイクルの違い
このテーマはこれまでの特集で何度も扱ったテーマです。理解されている方は読む必要はありません。

実務サイクルのイメージ図です。
「事務管理業務」「建物・設備管理業務」「清掃業務」が中心で、毎期毎に決定される収支計画により発生する業務を行います。
「徴収」「会計」「出納」「法定検査を含む定期検査」「メンテナンス」「定期清掃」などの手配(日程調整、開催お知らせ、発注)、検収(立会い、結果・記録の受領)、保管(徴収記録、出納記録、納品書、受領書、領収書、作業報告、検査結果)、報告(行政への報告、理事会への報告)などの業務が含まれます。
業務の指示は理事長(理事会)の決定により実施され、毎月定期、あるいは計画で決まった実施時期に行われます。
担当者(管理業務主任者)、あるいは管理員が中心に行われます。
業務の方法は、決められており、ルールを逸脱した方法での管理はできません。
実務サイクルの特徴は業務の結果に成果物(書類や記録)が発生することは大きな特徴です。
システム的な公開性や共用性、理事会への報告の迅速性などに違いはありますが、本質的な業務フローは各社間で差はない業務になります。
正しく運用されているかが判断基準となるため、どの会社も業務遂行の満足度に差が出来にくい業務です。

サポートサイクルのイメージ図です。
マンション内でトラブルやアクシデントが発生した時に機能する業務になります。
実務サイクルと同様に担当者(管理業務主任者)、あるいは管理員が中心に行われます。
設備故障、共用部の破損などのハード面、滞納者、規約・使用細則違反、住民間トラブルなどソフト面に分けることが出来、多岐に渡る問題を解決する、あるいは解決を補助する業務になります。
また、管理費等の値上げや規約・使用細則の改定等時の住民の意識調査やアンケートなどもこの業務に含まれます。
サポートサイクルの特徴は、特定の成果物を得るための業務ではないことで実務サイクルを実施する上で理事会が意志や方針を決定するための情報や助言を与えるコンサルティング業務であることです。そのためマニュアルで解決できない例も多く、担当者(管理業務主任者)、あるいは管理員のスキルと共に管理会社の総合力、底力が求められる業務になります。
この2つの業務は、理事会を中心として運営されます。

両者の関係のイメージ図です。
日常では実務サイクルで業務は遂行されます。トラブルやアクシデントが発生すると理事会が解決する上で必要な情報を求める業務であるサポートサイクルが実施されます。
管理委託契約上で「理事会への支援業務」「総会への支援業務」で表現されている部分です。また設備トラブル等は「助言」と表現される業務がこれに当ります。
管理会社は状況を確認、対応策の案を理事会に上程します。この案を基に理事会は意思決定を行い管理会社が実務を遂行します。
両者の関係がお分かり頂けたと思います。
サポートサイクルは、担当者や管理員のスキルに依存する面が多く、同じ管理会社内でもスキルの優劣があり、どの担当者が担当するかは組合にとっては運と言えます。
元々、管理業主任者は管理委託契約を行うための資格であり、マンション管理を行うために資格ではありません。マンション管理適正化法や標準管理規約、標準管理委託契約など法律や指針の知識はありますが、コンサルティングの能力とはまったく異なる能力です。
管理費の減額提案などもサポートサイクルと言えます。
もっと詳しく知りたい方は特集2020年9月号 管理委託契約を知る 7章 標準管理委託契約を知る ーここがポイントーを参照してください。
4、顧客満足度と2つのサイクルの関係
顧客満足度でもっとも重要視された業務の遂行は実務サイクルとサポートサイクルから構成されています。
2つのサイクルの顧客満足度の評価は、全く異なる側面があります。
実務サイクルは成果物が伴い過程より結果を重視されます。「正しく行われること」が評価になります。これ以外は法定にも違法行為になり管理会社は最悪の場合、登録の抹消処分を受けます。そのため、業務遂行の判断を下しやすいと言えます。
サポートサイクルは実務サイクルの過程で発生する場合と単独で発生する場合がありますが、何かの成果物を得ることを目的としてはいません。理事会が望む支援・助言を行うことが出来るかによって評価されます。
1章では「マンション管理費を決める要素」をテーマにお話ししました。
分譲直後の管理費が引き継がれる理由、マンション管理組合の自主性を育む土壌の欠如、管理会社の体質、理事等経験者の貴重な意見、管理業務を構成する2つの業務など様々な要素が影響していることがお分かり頂けたと思います。
皆さんの管理費を適正と思われている方、高いと思われている方で思った方、それぞれで記事への感想はお持ちのことと思いますが、マンション管理費を考え直す機会になれば幸いです。
次章では、管理費が入居後にどのような意味を持つかを考えてみましょう。
➡ 2章 マンション管理費を高く感じる訳に続く