1、新築マンションの組合員の経済事情

マンション取得年齢は、一次取得、二次取得を含めた世帯主の年齢は42.7歳であり、居住人数は3名、取得者の世帯年収は840万円、購入価格が4,581万円、自己資金平均1,261万円と国土交通省の調査結果があります。

また、取得者の7割以上がローンによる購入でした。購入価格と自己資金の差額3,320万円をローン返済することになります。年間返済額は平均で130.9万円、返済期間が33.7年でした。単純に75歳前後までの支払いが続くことになります。

新しいマンションの住民の年齢も若く子供が小さい、住宅ローンを組めるだけの収入と社会的な地位があり、働き盛りの世代が多いのではないしょうか。

分譲マンションの購入層は、マンションによって違いますが同じマンションを購入する人たちは求める間取り、居住環境、通勤範囲などが共通認識があり同等の生活レベルにあると言われています。

皆さんのマンションはどうでしょうか。

不動産会社が「あなたがマイホーム購入を検討したきっかけは何ですか。」と調査した結果では、結婚や出産、こどもの進学などが上位の理由に挙げられています。(マイホームマガジンより)

このことより、分譲終了後のマンションの年齢構成は子育て世代が中心であり、お子様の年齢も小さい世帯が多いことが推測され、同世代の組合員が集まれば、経済的な環境も一定の傾向があり、購入から15年程度は子育て中心の生活を行う方が多い世代です。

分譲直後は、躯体、設備、施設のすべてが新しくこれから1回目の小規模な鉄部の塗装工事が実施されるまで修繕もなく過ごすことになります。

マンション管理は分譲時に決まった管理会社が中心となり1回目の総会が開催されるまで、管理者制度の元で実施されます。

管理費も購入時に説明があり、入居時一時金を原資として、毎月支払うことになります。

ここまでは、多くの組合員が経験されていることでしょう。では各家庭の家計状況はどうでしょうか。

マンションを購入した平均43歳の年収が840万円だったのに対して、全国平均では男性が558万円、女性で399万円との調査結果があります。(doda『年代別・年齢別 平均年収情報』)単純にボーナス年4カ月として16カ月と仮定すると月収は34.8万円(男性)、24.9万円(女性)と算出できます。分譲マンション取得者がかなり高額であることがわかります。ちなみに、年収840万円は、16カ月計算すると月収は52.5万円になります。

総務省の家計調査(2020年、コロナの影響がない年)では次のような家計収支構成が発表されています。

世帯合計

非消費支出は直接税や社会保険料など、消費を目的としない支出です。また住宅(8.2%)で修繕費等の費用になります。

このデータは持家、賃貸を含めた全世帯の平均であり、分譲マンション取得者の世帯より低い月収ですが、年収に換算すると583万円となります。

毎月の黒字額は19.2万円あり、この中から貯蓄、教育資金の積立、老後資金の積立が行われます。

余談になりますが、子供一人を大学を卒業するまでの資金は平均で1,000万円とも言われ、幼稚園から私立に通わせると総額2,500万円が必要になると調査結果があります。

いずれのデータもマンション購入者の年収(840万円)を考えると毎月の住宅ローンを支払っても高い生活レベルを維持できることがわかります。

2、ライフイベントと管理組合

管理費と何が関係するのか?と思われるでしょうが大きく関係します。

入居時、3歳のお子さんが居たと仮定した場合の結果です。シミュレーションの時間軸は数年の幅があると考えてください。

お子さんが大学卒業をするまでの間は子育て中心に生活スタイルは進みます。お子さんが就職する61歳前後でやっと一息つけることになりますが社会的責任は大きく、まだまだ働き盛りです。この頃は定年後、嘱託勤務などまだまだ働くことを選択される方も多いと思います。一般的には老後資金を確保する時期と考えられます。完全に仕事を離れるのは70歳を過ぎてからでしょうか。年金生活がスタートします。ご夫婦で趣味や旅行など余暇を楽しむ時期になります。

「子育て中心期」「老後準備期」「老後期」と大きくライフタイルを3つに分け、それぞれの期間でマンション管理組合に求めることを考えてみます。

2-1、子育て中心期に管理に求めること

この頃は、お母さんの移動手段は自転車や車になります。大都市部のマンションでは各戸に駐車場を完備しているマンションはほとんどありません。多くの家庭では自転車中心に生活されているのではないでしょうか。駐輪場についても戸数分を用意されているマンションは少なく、抽選などにより運用しているマンションが多いと思います。

幼少期のお子さんがいるご家庭では、電動アシスト付き大型自転車を購入される方が増えました。もともと駐輪場の区画規格はなく、概ね長さ2m、幅50~60㎝で区画分けされています。これはママチャリを基に作られた区画です。そのため、大型自転車が増えると近隣区画とのトラブルが多く発生します。最近ではラック型が主流になりましたが、大型自転車は入出庫が不便などいろいろな問題を含んでいます。

子供がいる家庭では三輪車から始まり、小学生程度になると各自の子供用自転車が必要になります。さらに中学、高校になると通学用や外出用への買換えが必要になります。マンション全体で保有する自転車は増加するため駐輪場は常に満車の状態になります。このような駐輪場不足は、放置自転車を増やします。また、玄関脇に駐車する共用部駐輪が多くなります。

台数が増え、不足が目立と組合員には不公平感も発生します。そのため、駐輪場使用料や契約台数別加算方式など様々な方法が議論され採用されています。

管理組合にはこの事態に対応することが求められます。

これ以外にも館内の騒音も大きな問題です。小さなお子さんは大声で騒ぐことが仕事のような一面もあります。

しかし、一方で勉強を行う環境の整備も求められます。特に中学、高校、大学受験を控える時期は出来るだけ静かな環境で過ごさせたいと思うのは親であれば当然の配慮です。以前は小さなお子さんが多いマンションでは、近隣の図書館や学習塾を利用する受験生は多くいましたが、コロナの影響で閉鎖や時間短縮など増々環境は悪くなる傾向にあります。

さらにオンライン学習やテレワークにより静かな環境は今後も求められる傾向は増加すると考えるべきでしょう。

最近は、子供の習い事、学習塾、クラブ活動など子供たちの時間帯も大きく変わりました。そのため、夜間の防犯にも注意が必要です。ほとんどのマンションでは防犯カメラが設置されていますがマンション全体で対策を考えておくべきです。

このように子育て中心のご家庭が多いマンションでは、子供が育つ環境ならではの問題があり、個々の家庭の枠を超えてマンション管理組合が機能することが求められます。

もう一つ、この頃の特徴は家計です。教育費は幾らあっても多いと言うことはなく、入学金、制服、定期代、書籍、PC、ネット環境、携帯料金、習い事、学習塾など様々な支出があり、少しでも余計な支出は避けたい時期です。管理費や修繕積立金も出来る限り圧縮した金額に設定して欲しいと思う方も多いのではないでしょうか。

幸い、この時期はマンションも新築されたばかりで修繕が発生することは多くありません。修繕積立金は12~15年で実施される1回目の大規模修繕を前提に算出されるので明確な目標値があり節約することはできません。一方、管理費は一定の余剰金を生むために高めに設定されていることが多い時期です。(この訳については後述します。)一定の余剰金の意味を組合員が理解した上で、工夫することで管理費の圧縮を検討すべき時期だと言えます。

2-2、老後準備期

子育ても一段落つきほっとできる時期です。しかし、仕事では責任のある地位にもあり、違う意味での責任が大きくのしかかる時期でもあり、また定年もそろそろ頭をよぎる頃です。

各ご家庭では、これまでの教育費中心から老後資金の貯蓄を考え、生命保険の見直しなど家計の方針も大きく変わる時期でもあります。これから退職までの間に出来るだけの老後資金を蓄えることが中心になります。

マンション管理組合は売買により一部組合員が変わることはあるでしょうが、マンション全体ではお子さんの数も少なくなり、初々しい若者の姿を多く見ることが多くなります。

建築から20年近く経ち、外壁以外(1回目修繕工事済み)のいろいろな箇所に問題が発生する頃になります。2回目の大規模修繕時期に向け準備も考えられます。マンションによっては修繕積立金額の不足が明確になる時期でもあります。2回目、3回目の大規模修繕は修繕箇所が増え、修繕費も多くかかることが一般的です。そのため、階段式積立方式を採用した組合では大幅な増額が必要になる頃でもあります。

管理費は組合運営も20年前後繰返しているとほぼ、毎年一定額で推移します。ただし、修繕費は徐々に増加する傾向はありますが、老朽化が進む以上仕方ない面があります。

出来ればこの時期に管理組合には今後のマンションの維持について方針を持つことをお勧めします。コンクリートの耐久性は100年以上と言われています。マンションの躯体そのものは適切な修繕を行うことで維持することは難しいことではありません。また、築40年を超えたマンションでも正しく修繕を実施しているマンションは快適な住環境を提供しています。

今後必要になる厄介な修繕工事は給排水設備です。給水配管、排水管が地中に埋蔵されているマンションでは簡単な工事では修繕は出来ず、最悪の場合には建替えと同等の費用が必要になる場合もあります。(3回目大規模修繕工事、30~40年)事前に給排水設備や電気設備の交換に関する費用の概算を工事別に作成することで明確な修繕目標を組合員全体で意識することが重要です。

その結果を基に各組合員の負担額が今後どのように推移するかを事前に提起すれば、それぞれの家庭も家計計画を検討しやすくなります。

2-3、老後期

マンションに住み始めて30年が経過する頃には、会社も退職し、長かったローンも完済し、ご夫婦でのんびり過ごされる期間です。ご結婚されたお子様がお孫さんを連れてが遊びに来る時期でもあります。あくせく働いた時代を懐かしみながら旅行や趣味に多くの時間を自由に使える時期でもあります。

体の衰えも感じ始め、病気が見つかることが多くなるのもこの時期です。

収入は減りますが、支出項目も減り、貯蓄と年金が生活費の中心になります。この時期の特徴は専有部分のリフォームをされるご家庭が増えることです。子どもがいた頃は狭かった部屋が妙に広く感じたり、キッチンや風呂周りの老朽化も進み、そろそろ老後生活を意識した生活スタイルに変える準備が行われる頃です。

この頃の管理組合には多くの問題が発生する可能性があります。

高齢化に伴う理事の成りて不足はよく言われることです。収入の減少による管理費、修繕積立金の滞納者も増加する傾向もあります。長年一緒にマンションに暮らした人に滞納請求する側、される側も複雑な思いです。

これ以外にも館内の車いすの使用や痴呆、認知症と言った高齢者問題、一人住まいの見守りサービス、葬儀や香典等の支出など組合全体として対応を迫られる事態があります。事前に規約や使用細則で住民間の意志を確認しておくことで安心を提供できる準備をすべき時期です。

また、遺産としてのマンションをどう考えるかをそれぞれの家庭で話合う時期でもあります。この時期になるとお子さんがご自宅を取得されます。同居を勧めされることもあるでしょう。また、2世帯住宅なども検討されるご家庭もあります。老後にはどうしても考える必要に迫られる問題は相続ですね。一見このような問題は、各家庭の事情により決定され管理組合と無関係なようですが、組合員の継承者は相続人になると推定されます。管理費や修繕積立金を引継ぐわけですから個人の相続も結果として管理組合にも影響します。

特に修繕費が嵩むこの時期は、資産価値から現金化する相続者も多く、賃貸会社へ売却されれば違う意味で管理運営に影響を及ぼします。

それ以前に現在のマンションの価値が相続したいと思われる資産価値を維持できているのか?売却ができる物件なのか?賃貸に転用できる物件なのか?などマンションの維持状況が個々の家庭に事情にも大きく関わります。

価値がないマンションになると空き家問題や賃貸物件の増加など個々の専有部の処分に影響を与えます。管理組合としては、これらの事態に事前に対応するだけの知識や実績を持った者により正しい助言を求める必要がある時期です。

2-4、各時期で管理に求めるものは変わる

ライフイベントと管理組合の運営方針について説明しました。住民の年齢層が同じであることを想定したモデルですが、実際の年齢層はもっと複雑で、家族構成もバラバラです。しかし、4LDkタイプが中心のマンションは子供が2名以上、3LDKでは1~2名、2LDKでは1名が多いのも事実です。少なからず組合員の管理組合に求めるニーズは同じ傾向にあると言えます。

これまでの説明をまとめた図を示しますが、マンションの各家庭の事情によりマンション管理に求めるニーズが変わることがわかります。

しかし、このような意識をもった管理組合の運営を目にすることはあまりありません。

問題が表面化してから解決に追われる管理組合がほとんどです。

管理会社も積極的に提案を行うことはせず、事後処理を前提とした管理を行っています。管理会社は作成する管理計画等の方針に所有者であり住民である組合員の要求を反映すべきであり、生活しやすい環境を形成するために管理組合の方針は作成し、管理費もその方針にそって決定されます。

本来、管理会社はもっと積極的な提案型の管理を行うべきです。その上で組合員同士で話合い管理組合は運営されるべきなのではないしょうか。

どちらに責任があるとかではなく、余計なことを嫌う管理会社、任せることに慣らされる管理組合の両者の都合の良いバランスが成立しているが最大の問題であると考えています。

では、今回の特集のテーマである管理費の話を勧めることにします。まず、購入直後の管理費額から考えましょう。

3、管理費の初期設定額のからくり

入居直後の組合員の家族構成や経済的な背景はおおよそわかりました。

入居時の管理費や修繕積立金の額は第三者(土地開発会社、分譲会社)が一定の仮定を基に算出した額です。一般的には入居時に管理費と修繕積立金と一時金として徴収、毎月の管理費に余裕ができた段階で残金を修繕積立基金として蓄える方法です。

この方法は管理会社がセットになって提供されることが一般的です。

マンション建設は完成時からメンテナンスが同時に発生します。土地開発会社、分譲会社から皆さんに譲渡されるまでの間もメンテナンスを行う必要があります。館内を清潔に維持し、各設備が正常に作動している確認等を行う作業です。

皆さんが管理会社から受けるサービスと同じですが、大きく違うことは管理組合に関係する仕事が発生しないことです。(管理組合は区分所有者が決まって初めて自然発生します)

土地開発会社、分譲会社と管理会社は管理委託契約を結びますが、皆さんが契約する内容とは異なり、委託金額も違います。

清掃、設備メンテナンスに特化した契約を行い、その間に管理組合発生後に発生する業務を含めた管理組合向け管理委託契約を作成します。

分譲時に皆さんが記名押印した管理規約では、区分所有法の管理者に管理会社が就任しているケースが多いと思いますが、理事長、理事会の役目を管理会社に任せ、土地開発会社、分譲会社は各マンションの現場から完全に撤退します。

完璧な業務担当者の交代が行われます。この方法にはメリットがあり、不慣れな組合員を管理会社がまとめることで管理組合の初期の立上げを円滑に行うことが出来ます。

一定期間(一般には初年度)後に、管理者(管理会社)の地位を組合員代表である理事会、理事長に交代することで委託契約に特化した通常のマンション管理組合が代表者になります。

一方、皆さんにとってのデメリットは管理会社が、自らの査定で作成した管理委託契約書を作成し、契約金額を一方的に設定することができる点です。(標準管理規約や標準管理委託契約書が作成された経緯は、自らの査定があまりにも管理会社側に優位になることを禁止するため行われている点を考えれば理解できます。)

経費節約や組合員の経済性を配慮するより自社の利益を優先する傾向があり、高く設定されると言われています。受入れる購入者側にも数千万円の物件価格を購入した高揚感、成功者のプライドと言った要素も多分にあるようです。

以上が一般的な管理費の金額設定のプロセスになります。

また、分譲マンションの売買ならではの事情があります。

管理費や修繕積立金の金額設定は、土地開発会社、分譲会社によって大きく考え方が異なります。そこには、販売側(土地開発会社、分譲会社)にも早く完売しないと損をする事情があることに原因があります。

分譲マンションは建物の完成段階で不動産取得税の対象になり、建築年度(1月1日)を超えると固定資産税等の課税対象になります。固定資産税等については販売価格に転嫁する方法や別途請求することも可能ですが、納税義務があるためいち早く売却することが求められます。

元々、分譲マンションの建築は金融機関からの融資を前提に行われる為、売れ残りは借入金返済を遅らせ、利息額を増やします。

その上、入居が始まれば、管理組合は自然発生します。管理費、修繕積立金の支払い義務も発生することになります。これを防止するために各管理規約には「免責事項」つぃて売れ残り物件の扱いが書かれていることが普通です。

資金力がない土地開発会社や分譲会社にはそんな事情があるため、顧客(マンション購入者)の経済的な状況など気にしていられないわけで、「管理費」「修繕積立金」を安くする傾向もあります。そのような場合、管理組合設立後、数カ月で管理費が枯渇するため、すぐに値上げをせざる得ないケースも報告されています。

一方、資金力に余裕がある大手デベロッパーは、管理費を高めに設定する傾向があります。

土地開発会社、分譲会社は、管理費が枯渇する事態を避けるため高めの設定を行います。入居後すぐに不足が発生し管理費した事態は会社の信用に関わります。また、顧客の経済状況も関連する金融機関が厳しく査定するため高い管理費であっても購入に影響しないことを知っています。

管理会社は決算が赤字になる見込みになればすぐに値上げの提案を行います。組合員の皆さんは値上げに敏感で管理会社の責任ではと思う方も多くいます。そのような事態にならないように高めに設定にされやすい特徴があります。

あるいはサービス等の付加価値を付けることで高めに設定する場合もあります。

このような売る側の事情によって、管理費や修繕積立金の設定額は大きな影響を受けている可能性があることを理解してください。

いずれにしても、誰も住んだことのない物件の管理費を正確に予測することはできません。特に購入者(組合員)は土地開発会社や分譲会社から提示されればそれで大丈夫と信用する以外に方法はありません。

その点を見込んで販売条件(購入率を上げる)目的で安値に設定する会社と信用度を重んじて高値に設定する会社に分かれています。

最悪の場合、管理会社との契約や管理費、修繕積立金などの設定を行わずに売買を行うケースもあります。

あまりにも安価な管理費の場合、購入側も十分注意することが必要です。

しかし、初期に提示された管理費が適正かどうかは1~2年間、決算期を繰返すとわかります。安値に設定された組合は値上げをしなけれないけにことになります。

これが、分譲後の管理費の金額設定のからくになります。


せっかめメモ
不動産、マンション豆知識

土地開発会社、分譲会社からマンション一棟買いした不慣れな販売会社が起こした管理費未払い事件

不動産業界への参入は多く、中にはマンション管理を理解せずに土地開発会社や分譲会社が建てた物件を一棟買いして一攫千金を狙う人たちがいます。異業種からの参入が多いようです。資本金が1,000万円程度で会社設立が浅い特徴があります。区分所有法も理解していないため、管理規約を作成せずに販売を開始しますが、なかなか売れず数個の空き室を保有したままの状態が続き、管理組合から管理費の未納請求を受けるケースです。管理組合は購入者が発生した時点で自然発生します。このため、販売会社はひとりに売った時点で組合員の責任が発生します。他の購入者たちが管理組合の設立、規約の作成をすれば、当然管理費の支払い義務が発生します。この負担金の請求を受けたわけです。販売会社側は、規約への承認をしていないと反論しましたが、区分所有法で認められている権利です。裁判では支払い請求が認められました。

不慣れで未熟な販売会社はいろいろな問題が起きやすく、いずれも発足して間もない管理組合が解決にあたる必要があり、組合員の負担が増えることになります。


4、数年でわかる適正な管理費額

様々な事情を受けて提示される管理費ですが、不足すれば共用部分の管理に支障をきたします。この場合は、値上げが必須になることは仕方ありません。初期設定に問題があったと「土地開発会社、分譲会社が酷かった」と諦めて値上げを実施します。

ほとんどの管理組合では数年すると運営も軌道に乗り適正な管理費額がわかります。適正とは不足しないことが大前提ですがあまり過剰にならないことです。

過剰に高く設定された管理費は大きな余剰金を生みます。しかし、この余剰金は投資目的に運用されることはなく、元本保証を原則に低金利の金融債に変換されることが一般的です。

10年程度、余剰金が溜まると緊急事態にも対応できる程度の資産が形成されます。この資産額については管理組合として一定の意志を示すことも重要です。多ければ多い程安心と言った性質の資金ではありません。

組合員の方に「この資金の目的は?」と尋ねると「いや、何かあった時に使うためですよね。」とほとんどの方は答えますが、明確な答えを聞いたことはありません。購入時に提示された管理費を納め、予備費的な感覚をお持ちの方が多いようですね。

実はこれが管理費を高く感じる原因のひとつです。目的意識を共有していれば不平不満はでません。何のための余剰金なのかをはっきりしていないために無駄なお金を納めていると感じてしまいます。

例えば、大規模修繕費が不足した際の資金として、あるいは20年後、30年後の大規模修繕に使用する目的など組合員の総意があっての貯蓄であれば意義もありますが、漠然と貯めていることは決して組合員の利益になるとは考えられません。また、それであれば修繕積立金を値上げすべきです。

また、皆さんが何らかの事情でマンションを手放す際には、納めたお金は返済はされません。売買価格に上乗せすることも出来ません。もちろん、安定した経営基盤がある管理組合が運営するマンションとして評価されますが、金額的に見合うものではありません。

これ以外にも組合員は安定な生活を望みますが、購入時の思惑とは異なり不幸にも生活が急変する方もいます。また、病気やケガなどにより人生が急変する方もいます。元々、適正な管理費であっても様々な要因で家計状況が悪化する人が一定割合(統計的に0~2%程度)が発生します。

毎月500円でも安価であれば、年間で6,000円、10年で6万円です。ファイナンシャルでは、お金の価値は時間の要因(現在価値と将来価値と言います)を含むと言われます。10年後の100万円と現在の100万円の価値は同じではないと言う意味です。実際、不動産評価にも用いられる方法のひとつです。

受取りは早く貰い、支払は遅くすることで時間的価値を利用します。至極当たり前の話ですが今100万円を受取るケースと10年後に100万円受取るケースでは金利を考えれば今貰う100万円に価値があると言うことです。

余剰金の返却がない以上、支払は出来るだけ遅くすべきです。管理費の余剰金は出来るだけ少なくし、各自がその額を貯蓄する方が組合員の役に立ちます。また先に示したライフイベントを考えた時、入居時は「子育て時代」で教育費もかかる時です。誕生から独立まで平均で1,000万円、私立では2,000万円とも言われます。教育費が不足したから管理費の貯蓄を一時貸してくださいと言っても通用しません。同じ貯蓄をするのであれば個人が自由にできるお金として貯蓄することも考えるべきです。

管理会社は余剰金が発生しても余剰分の管理費の値下げの提案は行いません。皆さんが支払う管理費は、管理会社に支払う委託管理費の権利分を負担した額額ですが、余剰金が増えても管理会社の儲けには関係しないため「余剰金分を値下げしても良いのではありませんか?」と提案があっても良いはずですが、実際は行われることはありません。

この理由は簡単です。定期委託管理費は確実に必要になる金額ですが、管理業務のすべてを網羅しているわけではありません。設備が壊れれば修理費や交換費用は別途発生します。また、修繕計画の見直し費や大規模修繕工事前の検査などの費用も発生する可能性があります。アクシデントが起きてから費用を別途集めていてはタイムリーな処理はできません。そのために一定の費用を予備費として準備することは重要です。(これについてもほとんどの管理組合では毎年の収支計画に予備を計上しているため、余剰金はそれを超えて場合に使用することになります。)

予備費が多額であれば、後処理を行う管理会社は安心です。その上、余剰金額を知っていればどこまでなら支出が可能かを知った上で修繕や工事の提案をすることができます。これほど安心なことはありません。

さらに、管理会社が提出する提案は、ほぼ価格交渉することなく了承されるシステム(慣例)が出来上がっています。

このような背景があるため、管理会社はどれほど余剰金額が大きく膨れても管理費を減額する提案には消極的です。

一方、多額な管理余剰金が組合員に「安心感」を与えてることも事実です。何かあった時は安心と思えることは大切です。しかし、これらすべての事情を理解した上で組合員の合意があればと言う前提が抜けています。多額なの余剰金のすべてを否定はしませんが、合意形成されていない余剰金を無制限に集めることには組合員への不利益を与える可能性があることも事実です。

この事実を理解した上でも「安心感」を優先することを選択するのも管理組合の自由です。

これまでお話したように管理会社は管理費の値下げには消極的で特に明確な理由を提示せずに「何かあった時の蓄え」を強調する方法は、組合員に管理費の割高感を生むことにつながります。

管理会社が組合員のことを考えているならば余剰金の役割や目的をしっかりと住民合意を行うべきです。

5、ブラックボックスを開ける

管理会社は、マンション管理組合の経済基盤が安定化すれば、運営を円滑に行うことが可能になります。また、安定した運営は組合員の信頼を得やすく、初期に契約した内容の維持すれば、利益確保がしやすいメリットがあります。なぜなら、初めから自社に優位な契約が出来、組合員の経済的状況を管理する立場です。これほど安心なことはありません。

このような状況にある管理会社は、管理費の値上げはすぐに提案しますが、値下げについては消極的です。特に自主的に管理委託更新の時に値下げを提案する会社は聞いたことがありません。しかし、管理組合がリプレースを行う素振りを見せると急に値下げした例はたくさん知っています。そのため、管理組合はリプレースが管理費の引き下げに有効であると勘違いをしてしまいます。

自らの努力に予冷管理費の削減に成功した例として一部委託契約への変更があります。

もともと成果物を目的としない委託契約は、値段設定が難しく委任者の満足度に依存する傾向はあります。この傾向を最大限、上手く利用している会社が管理会社です。委託契約はその意味では組合にとってはブラックボックスに近い契約です。

しかし、そのような管理委託契約の業務にも成果物(検査を行い結果を得ること)が伴う検査業務などの委託費用がはっきりとわかる契約も含まれます。例えば法定検査業務です。国や自治体が法令に基づき検査頻度と検査内容を厳格に指定しています。検査業者は複数あり会社によって価格に幅があります。どの会社を選択する権利を管理会社に任せる方法が委託契約です。もし、この業務を組合が行うと価格を重視した会社を選択でき、経費の削減ができます。このような業務は契約内には他にもあります。

この契約の特徴を理解した管理組合は、すべての業務を委託する全部委託契約から直接値段交渉や業者選択を行える業務を切り離し、管理組合が直接交渉を行う部分委託契約に変更して管理費の削減に成功している組合です。

また、マンション管理士などと委託契約を結び、定期委託以外の費用をすべてチェックする管理組合もあります。

これ以外にも管理費を値下げするには幾つかの方法があります。管理委託契約の内容を減らす方法、ひとつひとつの科目を精査し実費の見直しを行い減額する方法、共用部の光熱費を削減する方法、管理会社の報酬の減額を要求する方法が一般的です。また、屋上などに通信基地を誘致し収益を上げる方法もあります。

いずれの方法も組合が関与する部分を増やすことで納得感を得ていることがポイントになり、「納得できる価格であれば必要な支出は行う」、言い換えれば「不明瞭な支出は避けたい」と言う意志表示になります。管理費を下げるには従来の管理会社にすべてを任せるのではなく、マンション管理に積極的に参加する姿勢が必要です。

これを行わない限り管理費を割高に感じる気持ちを解消をすることは出来ません。



6、まとめ

「管理費が高い!」「他のマンションの管理費は幾ら?」「何か管理費が高く感じてしまう」など今までいろいろな理事長や役員に聞かれてた質問ですが、少しはその訳がわかったでしょうか。

一度、管理会社と価格交渉をした組合やリプレースを行った管理組合では管理費の価格への割高感はなくなると言われる理由もわかりますよね。

元々、管理委託契約は、不正防止や資産の安全性は管理業務主任者が重要事項説明において行いますが、詳細な中身の十分な理解をしない状態で契約を結ぶことがなく、与えられた契約のイメージがあります。そのため、「こんなもんなんだ」「これでいいんじゃない」と思ってしまいます。

その後、生活も安定し、特に大きな問題もなく日常を過ごすうちに、この状態が普通であり、当たり前に感じてしまうように慣らされてしまいます。

何か大きな問題が起きて気づく方が多く、いざ検証すると管理費の減額ができることがわかった管理組合はたくさんあります。これは、自分で確かめ納得していた管理費だから妥当に思えるのです。

管理会社の変更だけではなく、管理会社に見直しを依頼するだけでも納得感をえることは可能です。納得して支払う管理費と言われたから支払う管理費では組合員の受けるイメージも全く違います。結果、管理費等の滞納者を減らすことにつながります。

是非、管理組合として一度検討をされるべきと提案します。

ただし、注意としては中途半端な気持ちでは価格交渉やリプレースは行うべきではありません、また出来ません。

交渉相手はマンション管理のプロです。これまで同じようなケースを何度も経験して成長した相手です。

管理組合側も腹を据えて交渉する必要があります。管理組合の総意として交渉を行うことが重要です。


せっかめメモ
不動産、マンション豆知識

少しだけやる気になるデータをひとつ。

毎月500円、管理費を減額すると10年で60,000円、20年で120,000円、30年で180,000円です。組合員50名では管理組合全体として900万円の管理費を減らすことになります。

現在の全国平均額は16,213円でしたね。一割の減額出来れば1,621円、30年後には一人583,560円、組合員50名では2,917万円にも達します。

もし、これを修繕積立金にすれば、老後に余計な出費を最小限に抑え、マンションの資産価値も維持でき、若い頃の何倍もの価値を生み出します。

過剰な管理費の余剰金は管理会社に優位に働く可能性がありますが、修繕積立金は管理会社が決して自由にならない聖域のお金です。この違いが判れば管理費は積極的に節約に徹し、修繕積立金は将来への投資と考え増額することを選択すべきと思えませんか。

皆さんの管理費はマンションに住み続ける限り支払う義務があるお金です。1円でも無駄にしない気持ちを持つことはとても重要なことです。


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