いろいろなリサーチ会社が管理会社の評価をはじめています。
区分所有者へのアンケートを集計、レポートやランキング形式で公表されています。ネットで簡単に探すことができます。
データの詳細は高額で売買され、当事務所のような個人事務所ではとてもすべてのデータを入手することは無理、その中で無料の範囲で取得しデータ掲載にもご協力頂けた会社のデータを用いてその傾向を確認したいと思います。
国土交通省が公開した「マンションの管理の現状」は平成19年度の資料でしたが、それから15年後に区分所有者の皆さんは管理会社をどの観点から評価されているのでしょうか?
15年の間にマンションの数も管理会社の数もかなり増加しましたが、マンション管理に必要な機能に変化はあったのでしょうか?
現在、区分所有者の皆さんが感じている管理会社への印象と違いはあるのでしょうか?
それぞれの興味で読んで頂ければと思います。
1、興味あるアンケート調査
分譲マンションの住民への管理事務のアンケートは毎年、幾つかの会社が調査を行い公開しています。代表的な調査はご存じの方も多いと思いますが、「分譲マンション管理会社顧客満足度ランキング」です。
今回注目した調査報告は、「NTTコム オンライン NPSベンチマーク調査 2020」です。このレポートは他のレポートと大きく異なり調査対象が大手9社の管理委託を受けている区分所有者に限定していること。(修繕工事までも含めてグループ、あるいは社内で実施が可能な会社です。)
住友不動産建物サービス、大京アステージ、大和ライフネクスト、東急コミュニティ―、日本ハウズイング、野村不動産パートナーズ、長谷工コミュニティ、三井不動産レジデンシャルサービス、三菱地所コミュニティ(有効回答2272人)
どの会社も一度は名前を聞いたことがありますよね。それでは具体的に調査結果から読み取れることは何かを考えることにしましょう。
今回のテーマに使用させて頂いたデータの調査概要は次の通りです。


2、評価要因は6つの意識につながる
NPSレポートの注目点は、調査の目的を次の項目を導くために設定されていることです。
- マンション管理会社の連続利用意向の理由は何ですか?(なぜ、管理会社の更新を継続しているのですか?)
- マンション管理会社の変更をしたことがありますか?(その時の理由はなんですか?)
- マンション内でトラブルが発生したことはありますか?(どのように対処しましたか?)
理由の項目に挙げた要素項目は18個あり、右図にまとめました。
要素項目は「管理会社(総合力)」「フロント(担当者)」「管理員、清掃員」の3つの項目に絞っています。
それぞれの業務の何に満足しているか?重要と考えているか?など工夫を凝らせています。
例えば、他のアンケートでは「管理員の対応が良い」?などの漠然とした選択肢に対して、今回のアンケートでは管理人のどの点が良いのか選択できる項目が準備されています。
フロントについても同様です。フロントの何が気に入って他人に勧めるのか?あるいは契約を継続するのか、理由が明確にできる点で優れており、興味深いアンケート調査になっています。
もちろん、管理会社の契約件数も多いため規模もマンション購入価格も様々ですが、大手の管理会社と契約している方々の傾向は確認できます。
さらに、査対象の年齢、性別、年収、地域も属性として加味された評価を行っている点も面白いと思います。特に年収は生活レベルと比例関係であり、管理の内容よりコストを重視する管理組合についても一定に考慮されているはずです。(仮定としてのは生データの確認は出来ません)
18個の選択肢は1つ1つに意味があります。
例えば選択肢要素5を選んだ方はマンション内の設備や施設は使用できて当たり前と考えています。故障が多発するよう設備にはストレスを感じます。(図を参照)
最終的に管理会社に「ストレスのない住環境」を維持、管理することを求めていることになります。



同様に汚れた館内は生活レベルの低下を感じます。マンションは区分所有者にとって自宅です。自宅で避けたいのはストレスです。18個の選択要素は区分所有者がマンション生活に何を求めているかを知るための重要な項目になっています。
このように選択要素を再編集すると今回のアンケート調査は、18個の要素から6項目に集約することができます。

3、実務サイクルとサポートサイクルとの関係
管理会社が提供するサービスは2つの大きな業務の流れに集約されることはお話ししました。詳細は7章 標準管理委託契約を知る ーここがポイントー(特集2020年9月号 管理委託契約を知る)を参照してください。

実務サイクルの概要です。
実務サイクルは管理委託契約の基幹業務を中心とした成果物の作成を実務として実行する業務方法です。実務サイクルには管理員の常駐、清掃員、法定点検など予算計画に計上されている項目を執行するための業務方法です。
実務サイクルの実務者は、フロント(担当)、管理員です。
フロントは月に1回理事会の出席します。管理員は日々、区分所有者と直接コンタクトがあります。
この両者を支えるのが管理会社でありバックアップの体制です。

次にサポートサイクルの概要です。
サポートサイクルは管理委託契約の支援業務を中心としたイレギュラーに発生する案件、問題に対応する業務方法です。住民からのクレームや住民間トラブル、設備の故障に伴う設備の交換提案など様々です。
サポートサイクルの実務者は、フロント(担当)、管理員です。
窓口は管理員になることが多く、管理員が直接対応することがほとんどですが、連絡を受けたフロントが指示、支援を行います。
対応には一定以上のスキルが必要になり管理会社ごとに個性(実力)が出る業務と考えられます。
実務サイクルとサポートサイクルは管理組合の指示を中心に展開されます。マンション内で問題や案件が発生しなければ、日々の業務は実務サイクルで運用されます。しかし、アクシデントやトラブルの発生した時、実務サイクルとは別にサポートサイクルが動き始めます。
サポートサイクルは現場の管理員のスキル、フロントのスキル、さらに会社の支援体制により各管理会社で対応が異なり、速やかに解決できれば住民からは高く評価されますが、無用に時間ばかりかかり解決できなければ住民から不信感や信頼を失うことになります。
その意味でも管理会社の評価のポイントになる業務として重要であることはこれまでの特集記事で説明しました。
では、実務サイクルとサポートサイクルの要素をアンケート要素項目に「区分所有者の要求」「評価対象」「業務フロー」を追加します。

6項目に集約した管理会社への要求項目、対象となる部署、業務フローの種類を追加した当サイトが考える要素は次に様になります。

4、区分所有者が重要と考える要素は何か?
NPSアンケートでは18要素の重要度の点数を評価しています。区分所有者がどの項目を重要と考えているかを示す数値になります。上記表を重要度順位に並び替えた結果が次の表になります。

上位3位までに注目すると重要視している評価対象は「フロント」「総合力」であり、管理員が意外にも含まれていないことがわかりました。
もっとも重要と感じているのは共用部がいつでも日常を維持していることであり、これは標準管理規約の目的である良好な住環境の維持に一致していることで標準管理規約の目的が住民に認識されているためとも言えるでしょう。
2位はコストです。自宅は手に入れたが維持管理費が高額では困るという思いが強くコストに重きを置いている区分所有者が多いことがはっきりとアンケート結果にも表れていることがわかります。
3位は同点で会社への信頼感、資産を保全する長期修繕積立金の適正と資産の保全も重要と捉えていることがわかりました。
良好な住環境の維持は安心できる会社に任せたいと思うのは当然です。修繕積立金も持家でも屋根や外壁の補修、修繕費は必要になります。特にマンションの場合は区分所有者内に未納者がいることは全体の負担にもなります。安心な積立は将来の資産価値の保全からも関心があって当然と思います。
1~3位までは何かに特化しているわけではなく、区分所有者が自宅としての良好な住環境、資産保全の安心感、コストをバランスよく考えていることがわかり納得しました。
これ以外に上位ランクで目立つのは災害への備え、共用部のトラブルへの対応を重重要と捉えていること。
特にマンション内でトラブル等が起きた時に管理員が適切に対応する能力が必要だと感じているようです。これは自然災害への意識にも表れている様で管理会社にも求めています。
フロントや管理員の日々の管理業務の主役へは要求項目ではあるが、マンション全体の管理が満たされた上での要求であり、マストではなくベターと感じているようです。その結果が管理員や清掃員の態度や丁寧さなど現場スタッフの要求となります。

区分所有者の皆さんはブランドイメージや管理会社内部の事情には興味はなく、実感できる結果を求めているようです。重要度がもっとも低かった付加価値サービスですが、管理会社から提供されるサービスより家族単位で選択できるサービスを優先するのは当然であり、管理会社が契約時に付加価値の優位性をアピールしても管理会社を選択する時はあまり影響をしないことがわかりました。
5、各担当への要求とは何か?
次に各担当への要求を総合力(管理会社)、フロント、管理員別に区分所有者が重要と評価している項目を考えます。

総合力(管理会社)へ求められることは全体でも上位を占めたコストパフォーマンス、長期修繕積立計画への要求です。
管理会社に対して具体的な業務フローよりは、災害等の有事への体制の充実化やフロント、管理員への教育等などを含む信頼性の確保であり、企業ブランドの向上やマンション住民への固有のサービスなどはそれ程望んではいないことがわかります。

フロントに求めることは、全体でも1位だった共用部の維持管理を適切に行うことです。
理事会運営へのサポートは必要だかが、提案よりも運営の支援を重要と考え、住民ルールに快適さを求めることにも積極的に希望していないようです。住民への注意喚起を含めたことも必要最低限な情報で十分だと思っているような結果になりました。
区分所有者への積極的なアプローチをするフロントより必要なことをしっかり実施してくれるフロントを望んでいるようです。

管理員にもっとも求まられていることは、緊急時や困った時に適切に対応することです。マンション住民が求める時に必要なサービスを提供してくれる管理員を望んでいることがわかります。また、共用部の清潔感、挨拶、対応時の接客態度など管理員の基本的な姿勢も重要に考えているようです。必要以上のサービスはフロントと同様に管理員にもそれ程は求めていないようです。
以上がNPSレポートからオ当サイトが考察を加えた結果になります。かなり明確に区分所有者が望む管理会社の形が見えてきました。

区分所有者はマンションの維持管理を5つのポイントに着眼しています。
特に何かに特化しているわけではなく5つのいずれのも重要であると考えているようです。
管理会社を選ぶ、あるいは契約の更新を行う時も5つのポイントのバランスが取れた管理会社を選ぶ傾向にあります。
管理会社へは過剰なサービスを求める要望は低く、あくまでも良好な住環境の維持管理を重視していると言えるでしょう。
日常の管理業務についても過度なサービスに魅力はなく、快適に安心して生活するための維持を求めているが、いったん何か困ったことや緊急なことが発生した時には適切に対応できるフロント、管理員の存在は要望しています。
さらに災害等の有事が発生した時には管理会社の支援体制にも強く期待てしていることがわかりました。
6、NPSレポートの結論からの考察
NPSレポート(無料版)には区分所有者が管理会社に求める要望に対して実際に感じている程度を「顧客満足度}とし、その差が小さければ高い満足度、大きければ低い満足度と評価しています。(右図参照)
その結果、今回調査対象にした9社の管理会社のユーザーは、重要度が高いにもかかわらず満足度が伸びなかった(重要度と満足度のギャップが最も大きかった)項目に「管理会社へ支払う費用が適正
である」を選択しました。次いで「管理会社の誠実な対応・意欲」 、「管理会社の策定する長期修
繕計画および修繕積立金が適正」、「有事に備えた体制が整っている」となったとまとめています。
この結果は次のような状況にあることを示しています。

各要素とも一定の割合で不満を人がいることは理解できますが、重要度が高い要素だけに無視するわけにはいかない割合だと思います。
皆さんはこの結果を見てどう思われたでしょうか?
以上がNPS無料レポートの結果を考察したレポートのなります。

尚、今回、NPS無料レポートの結果の利用については、NTTコム オンライン様の承諾を得て使用しております。
「区分所有者が評価する管理業務とは何か?」をテーマに考えましたが、今回のレポートにはもうひとつ「リプレース」についてのアンケート結果も報告がありました。「区分所有者が評価する管理業務とは何か?」の考察を踏まえた上で結果を確認してみましょう。