2020年、NTTコム、オンラインNPSベンチマーク調査では、管理会社契約の区分所有者に対してのアンケートで、これまでのマンション生活で住民間トラブルの経験についてもが報告されています。
マンション管理士のサポート業務のひとつにマンション内の住民間トラブル問題があります。
私自身が長くマンション管理員の経験者であり、現場を知る一人として興味をがある調査結果です。
レポートからマンション内で起こる住民間トラブルについて考えます。
1、マンション内の住民間トラブルとは何か?
NPSベンチマーク調査では、マンション住民の42.7%が1回以上住民間トラブルを経験しています。
また、トラブルの種類としては生活音や騒音がもっとも多く、ベランダの用法、駐車場・駐輪場の使い方、ごみの捨て方と続きます。


挙げられたトラブルの内容はあくまでも住民間で発生したトラブルに絞っているため「区分所有法等の法律問題」「管理組合・標準管理規約」の問題は含まれません。
規約に規定されている違反であれば住民間トラブルではなく、規約違反となり管理組合が是正を指示できます。
当サイトではトラブルが発生している場所に注目します。
ベランダ、駐車場・駐輪場、共用施設・廊下はいすれも規約に指定されています。これに対して騒音・生活音・ごみの捨て方、ペット関連は専有部で発生します。
例えばペットが他の居住者に吠える等を行った場合は規約違反になるため管理組合は所有者に是正を勧告できます。このような共用部内で起きたトラブルは含まないと考えます。
右表がトラブルが発生した場所別の結果になります。
管理員の経験から得た体験等を踏まえて専有部で発生するトラブルから考えましょう。

1-1、騒音問題
騒音問題についての詳細は別章で説明しますが、生活を営んでいれば生活音は必ず発生します。
そのため各マンションでは規約内に床材の防音機能の最低値が明記され対策はされいます。(L値、あるいは材質指定など)
また、マンション設備(エレベーターや排水管を流れる音)から発生する音は構造配慮、材質等の改善により抑える施工方法が採用されています。この他にも壁の厚みや防音材の使用により騒音は特に配慮がされています。
しかし、専有部で発生する生活音の他の専有部への影響を100%廃除することはできません。
また、音は人によって感じ方も様々です。
子供の遊び声を好ましい音と感じる方もいれば、嫌な音と感じる方もいます。その上、精神状態やその時々の状況によっても感じ方は異なります。
もちろんを度を超えた宴会等の騒ぎや個人的な趣味による音楽等は誰が聞いても迷惑行為になりますが、多くの住民の方は大きな音が迷惑行為になることに一定の配慮をしながら生活していることも事実です。


管理員の経験では深夜の洗濯機、掃除機の使用、テレビ等の音を伴う娯楽や子供の床を跳ね回る振動音はもっとも住民間のトラブルの発生原因です。
どの家庭でも一定の配慮により音の発生を最小限にする努力はされています。互いに気を付けること以外にこれと言った解決策がないのが現状ではないでしょうか。
1-2、ごみ問題
次にごみの捨て方で住民間トラブルに発展するケースですが、ゴミ置場内は管理員が管理していることもあり住民間トラブルになることはありません。恐らく、ここで挙げられている問題はベランダや玄関脇へのゴミの放置による異臭や汚れと考えられます。

当事者はちょっと間だけ、あるいは後で持っていこうと思っていたのを忘れただけと悪気はありませんが、お隣に住む方にとっては大変迷惑です。
美観的にも衛生的にも決して良いものではありません。
気が知れた方であればちょっと注意するぐらいはできるかもしれませんが、全く交流がない場合には、今後の関係性もありも大きなトラブルになることは避けたい気持ちが働き直接苦情を伝えることも容易ではありません。このような場合は管理員などを通して注意をすることはよくあることです。
また、このような状態が長期間続くと床の防水シートが変色したりすることもあります。
大抵、このようなことを繰返す方は限定されることも事実あり、掲示等による注意喚起等を促すまでには至らないと思いますが、管理員が巡回時にチェックし、見つけた場合は声掛けなどを行い改善するを促す方法が一般的です。
1-3、ペット問題
次はペット問題です。ペットの飼育は多くの分譲マンションで認めていることですが、賃貸マンションでは1割程度しかなく、皆さんが感じているより多くはありません。増加しない理由としてペットの鳴き声、臭いなど管理のむずかしさにあります。
現代ではペットは家族の一員と考える方も多く大切にされる存在です。しかし、個人的な好き嫌いや体質的に受け入れない方、鳴き声、糞尿の不始末など飼育者には十分な周辺への気遣いが必要になります。
標準管理規約でもペットの飼育には種類、大きさの規制を設けることを示しています。また届出制を標準としています。
入居時は、ペットの届出も行われるようですが、死亡や再購入、追加購入まできちんと管理している組合は少ないのではないでしょうか。
管理会社も理事会に制度の徹底をお願いしますが、各戸を訪問して確認することはなく、組合員の良識に任せています。
共用部で起きることについては管理員がその都度対応するため住民間のトラブルになることは多くはありませんが、中にはエレベーターや廊下に糞尿をしたまま放置する方もいます。ペットにクレームは言えませんから最後は飼い主のモラルにお願いする以外にありません。
住民間のトラブルにまで発展するペット問題は鳴き声とベランダ(1階の場合は専有庭)の使用方法になります。鳴き声は騒音と同じ内容です。犬や猫の鳴き声は制御することはできません。その意味では赤ちゃんの鳴き声も同じですが赤ちゃんの泣き声は他の方も寛容になれるようですが、犬や猫の場合はそれもできません。犬のしつけをお願いするなど管理員が行える注意も限界があります。
もうひとつ、ベランダで糞尿を自由にさせている場合には衛生上大問題です。
この場合はマンション内の大きな問題として管理組合が乗り出す事態になることもあります。
ペットの飼育は許可された権利ではありますが、それに併せて周辺住民への配慮をする義務があることを忘れるべきではありません。

規約等によるペットの飼育の変更
分譲時にペット飼育がOKなマンションでもあまりにも買主が無秩序な飼育を繰返す場合、管理組合はペットの飼育を禁止することも制度上は可能です。
この場合、規約の変更になるため議決権の3/4以上の賛成が必要になります。また、この時理事会の判断で飼い主に反対意見を述べる機会を与えることはできます。飼い主は区分所有者以外にも賃借人も含まれます。しかし、ペットの飼育は「区分所有者に特別の影響を及ぼすもの」に当らず承諾を必要としません。
違法ペットの飼育の確認
ペット飼育不可のマンションで隠れてペットを飼っている場合、理事等は専有部分に入りその存在を確認する権利はありません。(意外ですよね)
ペット飼育は規約や細則等で禁止できるか?
皆さんはどう思いますか?
これまでにこの件については裁判で一定の結論が出されています。一律的なペット飼育禁止の規約を有効としてペット飼育の差し止めを認めています。(東京高判/平成6年8月4日/平成8年7月5日)
飼い主のモラルは向上したの?
ペットを散歩する姿はどこでも見かける光景です。路上に排便を放置したままにする方は減りましたが、マンション敷地内の花壇にはそのまま放置する方もいます。また、最近は飼い主の方も犬のマーキング行為には気を使っている様で水を撒く方も多くなっていますが、あれって効果あるのでしょうかね。アレルギーなどの持病を持つ方には心配ですよね。いずれにしてもマーキング行為は躾でしなくなると聞いたことがあります。自分の所有物に尿を掛けられるのは誰だって嫌ですよね。
そう言えば、野良犬や猫の姿も少なくなりました。(下町では猫の姿は見かけますけど)私が勤務していたマンションには猫が住み着いていましたね。
1-4、ベランダの使い方問題
ベランダの問題で一番多いのは喫煙です(ホタル族と言われる人たちです)。ご家族から喫煙を嫌がられ専有部内で吸うことが出来ずベランダで喫煙を強いられる方はそれなりにいます。タバコは煙だけでなく臭いも嫌がられることが多く、隣接する部屋や上階の部屋とのトラブルは管理員に持ち込まれます。ただし、解決はそれ程難しいことではありません。
ベランダは共用部であり、規約に禁煙を指定すれば解決できます。
先ほどのペットの糞尿以外にベランダで問題になることは、私物の放置です。ベランダに観葉植物や棚などを設置されるケースがあります。ベランダが共用部に指定されている理由は避難路の確保のためです。火災や地震などの災害が発生した時に居住者が避難を迅速にできるために簡単に蹴破ることが出来る仕切り板が設置されています。また、ベランダの床に避難口が設置されている場合もありますが、いずれの場合も普段から利用が出来る状態に保全する必要があります。このような状況が確認された場合は、管理組合は是正を求めることができます。



ただし、ベランダは外部から死角になっていることが多く管理員は普段はまったく管理が出来ません。大抵はお隣の通報により事態がわかるケースが多く、その場合、その後の住民関係に遺恨を残す場合もあります。日頃から注意喚起等を行う以外に解決する方法はありません。
最近多いクレームにベランダに設置するアンテナの設置があります。BS、CS放送用のアンテナです。これについては落下による事故の防止や美観の問題で管理組合として規約や使用細則に規定する管理組合も多くなりました。同時にケーブルテレビ等をマンション全体に供給するシステムの導入も進められています。
1-5、駐車場・駐輪場の使い方問題
車と自転車ではトラブルの内容が違いますが共通して起きるトラブルに違法駐車、違法駐輪があります。
買物後にちょっと部屋まで運ぶ間だけとか、友人が来たから少しだけなどの理由はいろいろありますが5分~10分程度なら大丈夫と思ってしまう感覚が起こす問題です。このような場合、住民の方から通行の邪魔、なんであの人たちはあそこに止めていいの?と言った不公平感などから管理員に改善を求めるケースです。
また、自転車の場合、子供成長に合わせた買替や台数の増加により駐輪場不足による違法駐輪も目立ちます。一般に自転車の登録、契約制を導入、登録シールを用いて管理します。しかし未登録のまま利用している住民はたくさんいます。
一般に規約や使用細則に違法駐車や駐輪を記載することはなく、住民にモラルがあることを前提に管理運営は行われます。しかし、このような違法駐車や駐輪を行う人たちのほとんどは所定の場所に置くのが面倒、登録が面倒と言う自分勝手な理由です。
このような場合は管理員は状況を把握するため、違法な駐車や駐輪を繰返す車両の特定を行います。これを契約番号に照らし合わせ個別に注意を行い、それでも繰返すような時は管理組合が是正を要請します。それでも改善が見られない場合は駐車場、駐輪場の契約の更新を拒絶する取決めを管理組合として行います。
違法駐車や違法駐輪を無くすには管理組合として駐輪場の規約や使用細則等のルールの改正などでマンション全体で対応する必要があります。
これ以外にも駐車場特有の問題として起きるトラブルにバックヤードに荷物を置く行為や指定区画ぎりぎりのサイズの車体を選択した場合に起きる乗降時のドアの開閉問題があります。また駐輪場では子供の自転車、三輪車の置場問題、自転車の大型化によるスペースの問題などが住民間トラブルになるケースも多くなってきました。
1-6、共用施設、廊下の使い方問題
共用施設、廊下でもっとも多いクレームは私物の放置や常設があります。
自転車、ベビーカー、段ボール、宅配用スチールボックス、植木鉢など様々です。マンションによってはエアコン用の熱交換器の設置は認めているケースはありますが、共用廊下は消防法上、避難経路の確保のため幅を60cm以上と規定があります。
これに違反した場合は改善勧告を受けます。
さらに近年ではバリアフリー化が進み、また住民の高齢化等による車椅子の利用者も増える傾向にあり共用廊下への私物の放置は邪魔になるとクレームが増加しています。
移動の邪魔になるような私物の放置は、法令を遵守した上でマンションとして共通のルールを作る必要があります。
これ以外には屋上への無断侵入や共用部敷地内でのボール遊び、共用部内での自転車の利用など細かなトラブルは日々発生しています。

各項目について管理員としての経験から実例を含めて説明をしましたが、管理組合が規約や使用細則としてルール作りをする必要がある内容も含みますが住民間トラブルの多くは住民のモラルによるものです。
2、平成18年調査との比較
NPSベンチマーク調査は2020年に実施された調査ですが、2006年(平成18年)に国土交通省も同様の調査を実施しています。両者のアンケートを比較することで15年でマンションのトラブルはどのように変わったのかを知ることが出来ます。
国土交通省のデータは見易さに多少の難があるため発生したトラブルを改めて表に編集しました。
NPSベンチマーク調査と同様に発生場所別に仕分け、住民が関係する項目について発生場所別に専有部、共用部で発生するトラブルを抽出しました。



2006年(平成18年)に実施された結果と2020年の結果で順位の変動はありましたが、内容にほとんど違いがないことがわかります。
ペット関連のトラブルは住民意識の浸透による影響が大きく、犬のしつけなどNPOの存在や情報の充実化がなされた結果のように感じます。
生活音・騒音についてはこの頃からトラブルの上位であり、あまり改善はされていないこともわかります。
では、このようなトラブルはどのように解決を行っているのでしょうか。
3、住民トラブルの解決方法は何か?
NPSベンチマーク調査では、トラブル経験者に対して対処を依頼した相手についてもアンケートを行っています。


解決を依頼した相手は管理員がもっとも多く46.3%です。トラブルの説明でもお判り頂けたと思いますがほとんどの場合、管理員が直接の対処を行いますが、管理員は勝手にトラブルの対処を判断をする立場にはありません。(ただし、緊急性が高い場合を除く)これにはルールがあります。
1、過去に他のマンションを含めて同様のトラブルの経験があり、管理会社からマニュアル等の指導を受けている場合
2、管理組合から事前に対処方法の連絡を受けている場合
3、規約・使用細則に明らかに違反している、あるいは違反となる可能性が高い場合
4、法的に問題があると判断できる場合
これ以外のトラブルの相談を受けた場合は、管理会社に連絡、管理会社が理事会に報告、指示を受けた後に対応する業務フローは守られます。
共用部で起きたトラブルは管理員レベルで対応できることが多く、当事者への注意や行為の停止をお願いします。これは管理委託契約内の迷惑行為への中止を執行する契約に基づきます。


管理員は、専有部で起きる騒音等は慎重な対応を指導されています。
居住者からのクレーム等の通報が無ければ積極的に防止行動は行いません。
また、クレームがあっても宴会による騒音やピアノ等の騒音源が明確な場合以外は、後日、理事会に注意喚起の掲示を行う約束をする程度の対処を行い、直接、専有部のお部屋を訪問しクレームを伝えることはありません。
管理員と管理会社を区別して集計している理由は、恐らく、管理員の駐在時間や直接トラブルを伝えたか、投書等によって解決を依頼した違い程度で、全体の75%以上が管理会社に解決を依頼していることがわかります。
もう一点、注意すべき項目は何もしない、我慢をした方が20%強(正確な数値は読み取れません)いることです。
それ以外に住民同士の話し合いで解決する方法が20%弱(正確な数値は読み取れません)の結果が示されています。
本来、専有部で発生するトラブル(特に騒音)は区分所有者同士で解決することが望ましく、管理会社は共用部の管理業務、管理組合は共用部の管理を行うことが目的ですが、住環境の確保の意味では一定の関与は必要になりがその効果は限定的になります。
そのため、騒音が長年にわたりトラブルの主要な原因になっていると推測できます。
4、なぜ、管理員や管理会社に頼むのか?
トラブルは住民間の話合いで解決できれば良いのですが、なかな当事者同士で話合うことに抵抗感を持つ区分所有者の方は多いようです。
また、当事者同士はどうしても感情的になりやすく、その後の関係に支障をきたすことにもなりかねません。
住民であれば近隣関係は良好に保ちたいと思うのは当然な感情です。
そこに管理会社がいれば解決をお願いすることになります。
理事会も管理会社も匿名による通報等は原則、無視します。これを認めると誹謗・中傷や通報の乱発につながり、様々な弊害が発生するためです。

原則、理事会から全組合員(居住者全員)に周知する必要があります。
トラブルやクレームは基本的に管理員、あるいは管理会社を通し、理事長に伝わります。
理事長は理事会として判断する必要があれば通報者を知らせずに議題に取り上げ結論を出します。
このように最大限、個人情報を保護しながらマンション内の住環境を守ります。
5、NPSレポートの結論からの考察
NPSベンチマーク調査からマンション内で起こる住民間のトラブルについて知ることが出来ました。
また、過去に実施された国土交通省のアンケートから昔から騒音や共用部の使い方、ペットに関するトラブルはあり、現在でもその内容にそれ程の違いがないことがわかりました。
トラブルの解決は、現場の管理員と管理会社が中心になって行われ、その処理はサポートサイクルフローで実施される為、経験、実績、知識など管理会社のスキルによっても解決方法は様々なようです。
特に共用部の使い方を原因とするトラブルは、その多くが居住者のモラルの欠損により起こることであり、管理組合、理事会、管理会社に出来ることにも限界があり、最終的には住民の質で決まってしまうのかもしれません。
好ましい住環境を作るために用意された管理規約も管理方法や各施設の用法等を規定するだけであり、本当の意味の好ましい住環境を手に入れるためには、マンション全体で住民のモラルの向上を行うような機能を管理組合が探す必要があるのかもしれません。
今回、NPS無料レポートの結果の利用については、NTTコム オンライン様の承諾を得て使用しております。
今回の特集はNPS無料レポートを題材にマンションの現状をいろいろ考えました。
皆さんの管理組合の運営に参考になれば幸いです。
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