皆さんが専有部分内のリフォームを行う際のことを考えてみましょう。

幾つかの業者に連絡、プランナーから提案されるアイデアを家族で色々話合って決めことが一般的ではありませんか。

機能やデザイン、色の好みも反映させて快適な生活環境を得るために考えます。当然予算があるとは思いますが許される範囲で出来る限りの希望を叶えるためにあれこれ考え、それ自体が楽しみでもあります。

では共用部分の修繕はどうでしょうか。マンションの共用部分は専有部分と分離して処分が出来ない一体の資産です。共用部分の資産価値の低下は専有部分の資産価値と連動します。しかし、理事会に任せているのが現状ではありませんか。

では、理事会はどのような方法で共用部分で発生する修繕や修理を行っているのでしょうか。

自分の本意とは違う改修や修理が行われているかもしれません。「あの程度の修理にこんなにお金が必要なの?」「何かもっと綺麗にできないの?」と思う方がいても不思議ではありませんが、なぜか理事会が行ったことは正しい、あるいは仕方がないと諦めているかのように感じてしまいます。

共用部分で発生する修繕や修理に使われる管理費は皆さんの資産です。言わばお財布です。

大規模修繕工事のように組合員が発言する機会があれば別ですが、日々の修繕は皆さんの知らないところで決定され、貴重な資産から支出されます。

もう少し組合員は日々の修繕費についても関心を持つべきだと考えています。

この章では、理事会が管理会社から助言を受けて行う修繕等の決定過程から経費削減を考えます。

1、共用部分維持の基本は保守契約

共用部分の維持は設備や施設の年間保守契約を中心に行われ、それ以外に日々行われる管理員の巡回、住民からの通報により異変や故障が発見されます。

法定点検の対象になっているエレベーターが代表的な例です。エレベーターは毎月点検が普通であり、法定検査とは異なるメンテナンスを実施しています。

エレベーターの場合、日常点検であるメンテナンス契約は大きく消耗品を中心としたPOG(パーツ・オイル・グリース)方式とフルメンテナンス方式があります。また契約する会社も設備機器も提供するメーカー系と保守点検に特化した独立系のメンテナンス会社に分けることが出来、保守費や契約の内容も異なり、それぞれにメリット、デメリットがあります。各マンションは分譲前に建築会社等がメンテナンス契約を締結後の状態で売買される為、皆さんは契約の維持を行うだけになります。

他にも給排水設備や空調設備なども同様の保守契約がされています。排水管の洗浄などは皆さんが身近に感じる保守点検のひとつでしょう。

このような年間保守契約の見直しも経費削減方法のひとつになりますが3章ではこのテーマは除外します。このあたりの情報はネットで検索するといろいろな情報を見つけることが出来ます。ただし、どの会社もリプレースのコンサルティング業務の一環として扱っているため、理事会が独自に実施できるとは限らないことに注意してください。

設備系の助言行為は、新築直後には極めて少なく、導入されている機器類に問題が発生してもアフターサービスや保証期間で対応されます。とは言え長くて2年、一般的には1年間の保証期間でしょう。また、マンションの躯体自体は分譲会社へ引渡し後の構造的欠陥や雨漏りは住宅の瑕疵担保責任により10年間は保証の対象となります。

マンションも築10年を過ぎると色々なところに劣化を見ることが出来るようになります。また、それまで表面化していなかった支障が様々な形で現れ、単発的な修理や修繕工事が増える時期でもあります。

例えば躯体に発生する軽微なひび割れ、駐輪場のラックの破損や錆劣化による交換、駐輪場の屋根の破損など使用による経年劣化、また築15年過ぎると機能不足による住民からの要望も発生します。例えば、新築時のインターフォンも旧式になり、音声だけではなく訪問者の映像を確認した上でドアの開閉を決めるモニター付きインターフォンの交換を要請、防犯カメラの設置個所や解像度不足など技術の発達に伴う不便さの解消です。

このような案件が発生した時の管理会社の提案における経費削減が今回のテーマになります。提案業務については管理委託契約内で設備や施設の助言行為と記載され、設備・施設の修理や修繕が必要になった時にマンションにとって最適な住環境を維持するための提案を行う業務のことです。

2、業務はサポートサイクルで実施される

この業務についてはこれまでの特集記事で何度も取り上げてきたサポートサイクルで実施されます。

サポートサイクルとは、「案件が発生した時」「問題が発生した時」に管理会社を中心に行われる提案業務で、マンション内の要望、不満を解決する不定期業務です。収支計画案、出納蝶、理事会・総会の開催等の目に見える成果が伴う実務サイクルとは違い、理事会や住民の満足度を高めるサービス要素を含むことが特徴になります。

サポートサイクルの詳細は7章 標準管理委託契約を知る ーここがポイントーを参照

サポートサイクルと経費削減の関係は、管理会社の提案書がポイントになります。

例として野外に設置された駐輪場の屋根の一部が破損した時を例に紹介します。破損の原因は経年劣化でも住民が何かを落としたなど何でも構いませんが、早急な修理が必要になったケースです。

管理員は応急処置として破損地点の駐輪契約者に場所の異動をお願いします。その後、管理会社を通し理事会に破損を報告、修繕の必要性を伝えます。報告を受けた理事会は修繕の見積もりを依頼することになります。

管理会社は理事会からの要請を受け、修繕が出来る会社を選択し見積りを取り、結果を理事会に報告します。報告を受けた理事会は修繕の是非を含めて指示を出します。理事会の了承があれば管理会社は業者に修繕工事を発注(依頼者は組合)します。工事日程調整後、修繕工事が行われ検収を経て理事会に報告します。業者から請求書が届き理事長が記名押印を行い支払いが行われます。(全体の流れは左図に示しました。)

これが破損等の修繕の必要性がある業務の基本的な手順です。かなり細かく記載しましたが、経費削減のポイントとして取り上げるのは管理会社が提出する提案書です。

提案書には一般的に工事目的や修繕箇所、依頼業者、修繕費用(見積り)、選定理由(提案理由)が記載されます。

しかし、多くの修繕提案では依頼業者を管理会社が決めた一択であり、他社との相見積もりを取り比較することや修繕工事のメリット、デメリットを示すことなく決定されることが普通になっています。特に見積り書の添付もなく金額だけを提示する場合をあります。

一般に建築業界に位置するデベロッパー系の管理会社は、下請け、孫請けが慣例になっており、同じ工事を依頼しても費用が高くなる仕組みがあることは皆さんも周知のことですよね。もしかすると近所の工務店に依頼した方が安価に済むかもしれません。

理事会は管理会社の提案をそのまま受け入れる姿勢を見直すことが重要です。

このように理事会が管理会社の提案を精査せずに受け入れる背景には、管理組合が加入する住まいの保険等の損害保険があります。大抵のマンション内の破損等は保険請求でリカバーされる為、修繕費用は実損の発生がなく見逃されている可能性があります。しかし、保険会社に請求した額は次回以降の保険料に加味されるため実害がないわけではありません。

修繕・修理のケースで説明しましたが、このような提案業務は修繕や修理以外でも発生します。共用部分に設置されている机や椅子の買換え、コピー機の更新、インターフォンの交換など金額の大小はありますが、年間で相当数あります。

この業務の提案書を精査することも経費削減になることを覚えください。

では、管理会社から提出される提案書はどのように精査すべきなのでしょうか。

3、提案の基本は選択肢を与えること

恐らく、管理会社から提出される提案は、戸別な提案書としてではなく月次報告書内に記載されることが多く、経験では工事費〇〇〇円、見積書が添付されるケースを多く見ています。

管理会社から提出される提案(プラン)にそのまま適用はできないと思いますがプランナーの提案書の持つ意味をご紹介します。

ファイナンシャルプランナーや土地開発や賃貸住宅オーナー向けなど様々なプランを提案していますが、提案書の基本は決定権が相手にあることです。

プランナーは自身がもっとも適切であると考えるお勧めのプランは主張しますが、他に幾つかのプランも同時に提案します。各プランは根拠、メリット、デメリット(リスク)を提示し、十分に納得した上で最終決定は依頼主が行います。

プランナーの仕事をしていると「儲かるならどれでも良いよ」と言われるお客さんもたくさんいますが、必ずお客様が納得の上で判断を頂きます。どんなプランにもリスクはあります。リスクを理解しないで契約を結ぶと後々、思ったような収益が上がらないと「君が勧めたから決めたんだよ、責任を取れ!」と言われることが多くなります。これは土地の活用だけでなく、コンサルティングや投資商品を購入する時の基本です。

しかし、マンション管理ではこのようなプランの提案は管理会社は行はず、「私たちに任せてください。きっちり実施します。」と言う態度で管理会社が主導権を握った状態で修繕・修理は実施されてしまいます。その結果として管理会社の下請け会社等の関連会社が担当する結果になります。当然、費用はマージン等が加わり高めに設定されます。また、修繕・修理の提案に他の会社を選択するなどの余計な手間を掛けたくない本音があります。

このような方法は一般的である理由として理事会が他の選択肢を求めないことが原因のひとつです。

理事会は十分な説明を受けた上で決定をすると満足度や節約の効果は得られますが選択した責任が発生します。決定した会社が不履行や雑な修繕を行えば理事会の責任です。管理会社が一択で勧めた会社であれば何かトラブルがあった時には管理会社に責任追及が出来ます。輪番制で選ばれた各理事は少しでもリスクは当然負いたくありません。その結果、管理会社が勧める業者で決まり多少費用が高くなっても受け入れてしまいます。

しかし、これは皆さんが勝手に思っているだけのことで、管理会社が勧めた以外の業者を選択したとしても、不履行や雑な修繕が行われれば管理会社は業者に指導等を行い理事会をサポートする義務があります。「お勧めした業者以外だから私たちは関係ありません」とは決して言えません。

もっと理事会は、自分達の資産を大切に使うことに注意を払うべきです。

どのような修繕・修理の提案であろうと、お勧め以外の選択肢は何のか?これ以上費用を下げることは交渉できないかを確認すべきです。

そのためには管理会社から提案があった場合にチェックする項目があります。

1、工事実施会社はどこが行うのか

2、工事費用の値段交渉はできないのか?

3、担当業者と直接契約はできないのか?

これを事前に担当者に確認するだけでも経費削減の効果はあります。

昔は値段交渉することは恥ずかしい行為と思う方も多かったようですが、最近は値段交渉は当たり前のことです。例えば賃貸住宅の家賃も値段交渉は慣例化しつつあります。(関西の方が多く東京に住まわれることが多くなった影響とも言われます。)言われるままに受入れているだけでは経費削減はできません。「安くならない!!」は当然の行為と思って実践してください。

4、選択肢は幾つもあることを忘れない

以前勤めていたマンションで住民の過失により、マンションの外壁の損傷が発生したことがありました。修繕の必要があり管理会社主導の提案が行われ、結果として6か月以上経過後に管理会社が勧めた会社以外に会社によって修繕工事が実施された案件がありました。

6カ月経過後まで工事が行われなかった原因は管理会社が勧めた会社の日程にありました。近年は災害復旧、オリンピック、マンション建設等の様々な要因から塗装業は需要過多になり、業者が不足する傾向が続いていました。管理会社は通常通り関連会社の下請け業者を提案していましたが、先々の日程まで工事が決まっていた結果、工事の開始が6カ月先になってしまいました。

当時、専有部のリフォームを実施されていた組合員が工事担当者に事情を説明した結果、近隣の工務店がすぐにでも修繕工事ができることがわかり、理事会はその会社と直接交渉を行い工事が実施されました。また、工事費用の管理会社が提示していた見積額の2/3程度で済みました。

当然、理事会でも問題になり担当者が色々な言い訳をしましたが、結局、当時の担当者が通常通りの関連会社以外に問合わせをしなかったこと、日程調整もせずに放置していたことがわかり、担当者が交代される結果になりました。

このように管理会社は決まったルーティンで動き、融通が利かないことがあります。今回の件は担当者の努力、能力不足が原因でしたが理事会がアクションを起こさないと管理会社の都合によって不自由な状況を受入れている可能性があります。

修繕・修理が出来る会社は、一択ではありません。世の中にはたくさんの会社があり皆さんがそれを知る術を知らないだけのことが多いことを念頭に担当者に交渉する必要があります。

管理委託契約の目的のひとつは、良好な住環境を維持することです。時間的にルーズであることは住環境を維持する期間が減少することになり、それは管理組合として大きな損失になっていることも忘れてはいけません。担当者にとっては複数ある担当のひとつですが、皆さんは最良の結果を求める立場にいることを忘れないでください。

5、新規工事や減価償却品購入には比較表を準備させる

修繕・修理についてお話ししましたが、新規工事や減価償却品の購入には、管理会社に必ず比較表を用意させることを覚えてください。

マンション管理組合には減価償却の対象となる備品購入はありませんが、一般的には「耐用年数が1年以上かつ取得価格が10万円以上の資産」は減価償却の対象になります。これはひとつの目安ですが、理事会として購入価格が5万円、あるいは10万円以上の備品の購入については、複数メーカーの選択が出来る比較表の提出をお願いするように理事会の運営方針として取決めておくと良いでしょう。

例えば、皆さんが電化製品や家具を購入する時、量販店や家具屋で担当者にいろいろ説明を受けますよね。あれと同じことを管理会社の担当者にお願いすことです。

同様に新規工事の場合も一定額以上の工事については複数の会社から見積りを取り、理事会が比較検討できるような資料の提出を管理会社にお願いすることを事前に取決めておくことをお勧めします。

比較表には必ず次の項目の記載をお願いします。

恐らく、管理会社の担当者は業務が増えるため嫌がりますが、断ることはできないでしょう。また、比較表は簡単には作成できず、それなりに対象物のことを理解する必要があります。

管理会社の担当者の多くは管理業務主任者だと思いますが、管理業務主任者はマンション管理業のスペシャリストだと勘違いされている方がいると思いますが、管理業務主任者の資格は管理委託契約を説明、契約内容の保証する資格であり、有資格者がマンションの管理に関する実務の有識者とは認めていません。

長く管理業務主任者として、大規模修繕や修繕工事などの経験を積んでいる人、理事会からの様々な要望に対応できるだけのスキルを持ち合わせていますが、管理業務主任者を取得して間もない人は管理委託契約には詳しいですが修繕工事の実務やマンション内の設備系の知識はほとんどないと言っても過言ではありません。

例えば、特殊建築物の特定検査の項目を訪ねてみてください。すべて言える人はほとんどいないと思いますよ。管理業務主任者は検査の日程調整や検査終了後の検査結果を特定行政庁に報告することは知っていますが、その中身をひとつひとつ確認することは少なく、精々、指摘項目を理事会に報告する程度でしょう。これを複数年繰返すことでスキルがアップした主任者に成長します。

このように未熟な担当者では、マンション内に新規設備や何か購入品を検討する時の比較表の作成は、自分で調べる、あるいは会社内の修繕担当者や先輩に聞くなどして作成する必要があります。提出される比較表は担当者のスキルによってまったく異なる出来上がりになることは言うまでもありません。

6、担当者は有能ですか?

3章のテーマである「担当者は有能ですか?」の意味がお分かりになりましたか。

幾つかの例を用いて管理費の経費削減は修繕や修理と言った軽微な工事でも出来ることをお話ししましたが、いずれの場合も組合の担当者のスキルが大きく関わっています。

優秀な担当者であれば理事会の経費削減の意向さえわかれば、それなりに対応しますが、未熟であればそれができません。

未熟な担当者の場合、本来、管理会社が助言すべきことが逆に管理組合に不利益を与えている結果に成りかねません。その時は理事会が主導的な立場を取り、担当者を動かす必要があり、そのことで経費削減が出来た例はたくさんあります。

管理会社のマンション組合員の評価はネットで色々囁かれてますが、同じ管理会社でも評価が大きく分かれるケースも少なくありません。これは、担当者のスキルによって理事会、マンション管理組合への対応が大きく違っていることが原因です。

最近、マンション管理業は儲け幅が少ない仕事になりつつあり、余計な手間を出来るだけかけずに出来るだけ多くの管理組合と契約を結ぶことで利益を確保する会社が増える傾向にあります。その影響もあり担当者のスキルの未熟さが目立つようになっています。

管理会社にとって楽な顧客になることは決して管理組合のためになっているとは言えない状況が起きています。

手間のかかる顧客になることで経費削減が出来る可能性がたくさんあることを理解して頂ければと思います。

特に実務サイクルと異なり、成果物の発生が定められていないサポートサイクルは担当者のスキルに依存する業務であり、担当者のスキルがあれば皆さんの満足度も高くなり、経費削減などが可能な環境の形成に連動していることを覚えてください。


かなり細かな経費削減の方法について説明しましたが、実はこの方法はマンション管理の様々な場面で重要な役割となる理事会の機能になります。

マンション内のトラブルや住民間のトラブルでも解決する方法はサポートサイクル業務になり、理事会への提案のひとつです。また、大規模修繕工事の設計事務所や施工業者の選択時にも同じ方法が必要になります。

理事会の各役員は一度でも経験すれば次回以降、スムーズな業務を行うことも可能でその結果として自分たちの資産を大切に有効に効果的に使用する術を取得することが出来ます。

是非、組合員の皆さんには実践する勇気と覚悟を持っていただければと思います。

次章では、理事会として管理会社に求めることを経費削減の観点からまとめ資料を添付します。

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