経費削減のためにいろいろな方法があることを説明しましたが、いずれも管理会社を巻きこんで行う必要があります。
そこで4章ではこれまで1~3章のまとめとして管理会社に要求したいことについてまとめました。
いずれも管理会社は拒否はできない内容です。ただし、別費用を請求されるケースもあると思いますが、管理会社の質を見極めるためにも良い機会と考え次回、管理委託契約時に契約項目に追加することを検討しては如何でしょうか。
1、マンション組合誌の発行要請
1点目の要求はマンション組合誌の発行を一新します。発行を実施ていない組合は発行をするべきです。
従来の管理会社の定型文の組合誌を辞め、独自の書式で住民へ周知することを目的にした内容に変更します。
そのためには管理会社の協力が必要になります。組合誌の例は1章にも示しましたが、重要な項目は、次の4点です。
1-1、組合の運営状況

管理費の使用状況、管理費等の滞納状況、賃貸者率、空室率を一目でわかるように掲載します。
これにより組合員はマンション全体の会計、議決権への影響を毎月確認することが出来るようなります。
管理費達成率が5%を超えた場合や修繕費滞納率が10%を超えた場合は、住民に対して警告を出し、併せて理事会として原因についてコメントを掲載します。
収支計画表を掲載しても良いとは思いますが、細かくチェックする方は一部の組合員に限られるますが、人目で判るようにすることで住民全体に健全な運営が行われていることを周知できます。また、滞納者にはそれなりの精神的なプレッシャーを与えることもできます。
1-2、検査日程などの周知項目
検査日程などの周知などは、掲示板やエレベーター内に掲示する方法が主流だと思いますが、検査日程等は各戸の在宅時に実施する必要がある検査もあります。(火災報知機や排水管の洗浄など)この日程を各戸に配布すると同時に未検査が起こす可能性がある事故や危険性を告知します。例えば、各戸で実施される排水管を未実行の住民がいた場合は、排水管の詰まりを起こし全館で漏水などの事故につながることとその場合は個人として賠償責任が発生することを明確にします。これにより、各戸の検査実行率を高める効果が期待できます。
また、各検査には結果があります。問題点や指摘された箇所についてはその都度、大きな見出しで住民に周知することもできます。
1-3、管理費等の引落日
管理費等の滞納の多くは「うっかりミス」です。うっかりミスで済んでいる間は大きな問題に発展することはありませんがうっかりミスと長期滞納は見極めることが出来にくため、「1カ月程度大丈夫かな~」と思う組合員も多くいます。しかし、多くに方はクレジットやローンの返済では管理費等以上に引落日に注意を払っているのではないでしょうか。管理費等もクレジットやローンの返済と同じ債務であり責任は同じです。その意識を住民の皆さんに周知することを目的に掲載します。
1-4、管理会社からのお知らせ
管理会社からのお知らせのほとんどは管理員からの注意喚起になります。夏場になればゴミ室は悪臭を放ち、コバエやゴキブリなどの発生が多くなります。各戸で生ごみを二重に包むなどの工夫をすることで回避できます。また、台風シーズンや梅雨の時期の大雨対策など記載することはたくさんあります。管理員からのお願いを含めて注意を周知するために掲載します。
以上示した4点を最低限として管理会社に依頼します。管理会社によっては多少の費用請求があるかもしれませんが、住民のモラルやトラブルがあった場合にもマンションで何が起きているかを共通認識として持つことが出来る点など利点は多くあります。
発行の主体性は理事会が持ちますが、手間がかかる業務については管理会社に依頼する方が良いでしょう。また、外部のマンション管理士などを上手く利用するなど理事会が工夫すれば方法はいろいろあります。
2、各経費の明細書の提出

次はマンション管理組合が毎月支払う光熱費や消耗品などの実費の明細の提出を管理会社に依頼します。
所謂、マンション管理組合の家計簿です。月毎の収支計画とは異なり、経費削減の可能性がある幾つかのターゲットに絞って各月の支払額の一覧表の提出を求めます。この依頼で別途費用が発生することはありません。一例ですが、2章で説明した表を掲載します。各組合で消耗品の項目は異なります。管理会社に使用料を毎月知りたいと説明すれば提出されます。
消耗品等の実費経費の削減の実施に関わらず基本データとして毎月報告を受けることをお勧めします。
マンション組合誌を発行してる組合では、組合誌に掲載する方法でも良いでしょう。これにより住民も消耗品に関心を持つ可能性もあり経費削減を進めるうえでプラスになるかもしれません。
特に管理員が日常使用する清掃用具等は、管理会社特定の業者を通すことで、納品までに時間がかかり、必要な時に手に入らず時期を逃すことが多々あります。また、年に数回しか使用しない用具もあります。その上、最近では100円ショップなどで簡単に安価に手に入る掃除道具は多数あります。管理会社のルールに従うのではなく、理事会として納期や価格を重視した消耗品の購入方法を考えることで大きな経費削減につながることが多々あります。
この依頼に関する理事会の負担は増えることはありません。提出後の経費削減の時に多少、実務は増えますが負担になるほどではないでしょう。
3、提案事項の方式

次は理事会が管理会社にサポートサイクルを依頼する時の提案に関する依頼です。
修繕・修理見積り、あるいは備品の購入など一定額(5万、あるいは10万円)以上の見積には必ず複数案の提出を依頼します。3章で説明した内容になります。
チェックする項目は右表に示しました。重要な点はコストだけではなく工事終了までの時間も含みます。共用部分の設備や施設が故障中が長く続くことは組合員の損失になり、経費削減以前の良好な住環境の維持が出来なくなるためです。
また、コスト以外にもデメリットを確認することが重要になります。機能が維持できなかったり、必要以上の機能を付加され全く使用しない機能に高いコストを支払う結果になります。
理事会は管理会社が提案した内容を十分に精査した上で修繕・修理、備品の購入などの指示を出します。
管理会社の安易な提案をそのまま承認するような状況は避けるべきです。受入れるにしても必ず理事等が納得の上指示する姿勢を見せることも重要です。
4、担当者のスキル
どんなに評判の良い管理会社でも担当者のスキルが未熟な場合、マンション管理業は上手くいきません。似たような国家資格に賃貸不動産経営管理士(2021年6月に国家資格になった)がありますが、その資格要件のひとつに力量を超える仕事を請負わないことと言う項目があります。管理業務主任者も力量を超える仕事を受ければ迷惑を受けるのは担当するマンション管理組合です。
マンション管理組合は担当者の力量を見極め、もし不満や不信感があれば管理会社に業務改善の要求や担当者の変更などを依頼すべきです。
管理会社は事前の連絡なく事項都合で担当者を変えることはよくあります。同様に皆さんにも依頼主として担当者が器量不足と判断すれば担当者の変更を考える要求すべきです。
担当者のスキルを見極めることは難しいことではありません。皆さんが感じる満足度によって判断すべきことです。以下、幾つかのスキルを見極める方法を記載します。参考にしてください。
4-1、担当者の管理業務実績を確認する
管理会社のリプレースを行う際に業者選択には管理委託費以外に過去の実績も重視します。同様に担当者にも実績を確認すべきです。

確認する内容は最低限4項目になります。(右図参照)
管理業務主任者としての経験と現在の担当組合数と専有部個数を確認します。
特に担当組合数と専有部個数は、管理業務主任者の忙しさのバロメーターになるため必須です。
一般的には15~20組合程度が多いようですが、理事会開催日を考えただけでも15組合でも一ヵ月で15日は理事会開催があることになります。理事会の事前資料(月次報告書)と議事録の作成だけを考えてもその忙しさが想像できます。
忙しくなれば事務処理時間に多くの時間を割かれ、一つの組合に欠ける時間もおのずと少なくなりきめ細かな対応が出来ない可能性が多くなります。
4-2、議事録等の提出期限の厳粛化
理事会や総会が実施された後、管理会社は議事録を作成して理事長に提出します。しかし、各議事録の納期(提出期限)に約束はなく、管理会社の都合でかなり遅れて作成されることも多々あります。(担当する組合数と大きく関係します。)
理事会が議事録の提出を催促する例はあまり聞いたことはなく、管理会社の裁量に委ねているのが現状ではありませんか。また、月1回の理事会毎に案件が進むことは管理組合にとっては何とも遅い気がします。後述しますが「時は金成」です。依頼したことは翌月まで待つのではなく、出来るだけ早く実施できるように依頼すべきです。そのためにも各依頼事項には納期を設けることを心がけます。
理事等が負担になることはありません。管理会社が納期に間に合うように業務を行うだけです。
4-3、連絡ノートの設置

管理組合の規模にもよりますが、管理員が日中在籍する規模の大きな管理組合では管理業務の中心は管理員です。このような場合、理事長と管理員が業務連絡のほとんどを行います。しかし、理事長のほとんどは日常仕事で不在にしていることが多く、連絡が希薄になるケースがあります。防止するためにも「連絡ノート」を設置することをお勧めします。
人間同士の連絡は、時にミスを招きます。言った言わないは不毛のやり取りになります。必ず連絡の履歴は残すことが必要です。
管理会社からの連絡は管理員を通して行い、管理員は理事長に連絡する時は「連絡ノート」に日付、要件を記載する。理事長は連絡ノートを確認、承認する場合は署名、押印を行い返却する方法です。連絡ノートは基本、メールボックスを介してやり取りします。
これにより業務の流れの履歴を残すことが出来ます。
4-4、時は金也を忘れない
マンション管理業務の進み方には時に歯がゆさを感じます。次回の理事会が進行速度になることが一般的です。
しかし、経費削減のような実質的な効果は目に見えませんが、適時に業務を行うことは管理組合、住民にとって重要事項のひとつです。理事会毎の進行ではなく理事会開催の間にも業務を進めることは可能です。
5、修繕積立金の積立状況の確認
ほとんどのマンション組合は、設立時から修繕積立金を行っていますが、毎月徴収される額は把握しているが全体の目標に対する意識が希薄になりがちです。
そのため、理事会から求められる額を支払うことで大規模修繕は行えるはずと思っている組合員が多く、突然、修繕積立金が不足することが明らかになり慌てて増額などの対応に迫られる組合を見てきました。
この原因は、理事会と管理会社にあり、いずれにも住民への周知が十分に行われなかったために発生します。
修繕積立金の貯蓄方法のポイントは2つあります。ひとつは正しい目標設定額に基づき行われていること。二つ目は積立方式として国土交通省が推奨する均等積立方式を採用していることです。
5-1、修繕積立金の目標額の設定
修繕積立金の目標額は、竣工時に建築会社が作成し計画に基づき実施されることがほとんどです。建築費を基準にした目標額になります。この額は5年ごとに建材費、人件費、物価などを考慮して変更することを国土交通省は推奨しています。
この見直し業務は、標準管理委託契約には含まれず、別途、管理会社と契約を締結するか、管理委託契約書に追加しなければ実施されません。
標準管理委託契約では、管理会社は徴収と積立額の報告のみが業務となります。
もし、現在の管理委託契約に含まれていない場合は、来期以降、大規模修繕工事費の見直し業務を含める契約に変更を行います。
修繕衝立金の見直しは今後7年に変更される予定であり、管理計画認定制度でも重要な項目になります。
5-2、積立金額の表示方法
現在修繕積立方法は、均等方式と階段増額方式があり、国土交通省の推奨とは異なる階段増額方式が主流になっています。どちらの方法を用いても大規模終戦工事の時期までに工事費が必要になることに違いはなく、どちらの方法も増額のリスクはありますが、階段増額方式がよりハイリスクな方式であることを認識していれば問題はありません。
大切なことはどちらでもリスクがある以上、現在の積立額が修繕工事費の目標額のどの程度まで積立が実行されているかを明確に住民に周知することです。多くの組合では年に一度、年度報告で修繕積立金の推移を表形式で表示、あるいは棒グラフや折線グラフで示しているようですが、この点は是非、改善すべきでしょう。
改善点としては一目で状況を把握でき、住民が日常でもいつでも意識できるようにすることです。そのためにはマンション管理組合誌を活用することをお勧めします。
重要になるのは近々迄に必要な修繕費と長期で必要になる修繕費を区別することです。竣工からマンションの老朽化は進み、その老朽速度を遅くなるための延命措置として修繕工事があります。大規模修繕工事の発生時期は竣工後50年として最低でも4~5回あります。修繕時期により必要な金額も異なります。
回数/時期 | 1回目大規模修繕 12~15年目 | 2回目大規模修繕 20~25年目 R6/11月予定 | 3回目大規模修繕 30~35年目 R16/11月予定 | 4回目大規模修繕 40~45年目 R26/11月予定 | 5回目大規模修繕 50~55年目 R36/11月予定 |
想定額 (各戸) | 120万円 | 150万円 | 200万円 | 250万円 | 400万円 |
累計想定額 (各戸) | 120万円 | 270万円 | 470万円 | 720万円 | 1120万円 |
次回修繕達成率 | 済み | 68.7 (▼47万円) | ー | ー | ー |
現在達成率 (%) | 済み | 68.7 | 21.9 | 14.3 | 9.2 |
現在積立額 (各戸) | 82万円 | 103万円 | ー | ー | ー |
現在累計積立額 (各戸) | 202万円 | 223万円 | ー | ー | ー |
国土交通省が示している階段増額方式を例に表にまとめた結果が左表です。
この管理組合は1回目の大規模修繕を済ませ、現在2回目の大規模修繕工事に向け積立を実施しています。
この表の特徴は、次回の専有部別負担額で工事費を算出している点です。特に老朽化が進むと工事間隔が短くなり、工費も高くなる傾向を示しています。
現段階でこのマンションの所有者は、生涯で1120万円を負担することが一目で分かります。
また、次回の修繕費が150万円必要になり、現在103万円の積立額があり、次回までの47万円を積立てる必要があることがわかります。
もし万一、すぐに修繕が必要になった時の一時金の想定額は47万円とわかります。また、売却時の売買格には、103万円の積立金額を上乗せ出来ることも瞬時に知ることができます。
マンション管理組合の組合員に修繕積立金計画の明細を見せても実感は湧きにくいですが、このような自分の負担額を明確にすることでより修繕積立金を身近に感じることが出来ます。
実際の専有部負担額は床面積棟で決定されていますが、ほとんどは幾つかの間取り別のタイプで大別できます。この表をタイプ別に掲載することで住民は自分の負担を知ることが出来ます。また、表全体を周知する必要はなく、次回の修繕工事の情報に限定して周知すれば効果は得られます。
この表の作成を管理会社に依頼します。エクセル等の表計算ソフトで一度作成すれば次回以降は入力だけで済みます。
修繕積立金には各マンションで方法は異なることは説明しましたが、積立金には先行逃切り型、平均ペース型、追込み型の3タイプがあり、国土交通省が推奨する均等積立方式が平均ペース型、多くの組合が利用している階段増額方式は追込み方式になります。一部、高級マンション等では購入時の一時金に均等方式を併用する方法があります。このあたりの事情については今後の特集で取扱う予定です。
もっとも多くの組合が利用する追込み方式は老後の生活とも大きく関わるためかなり苦戦をするケースが多く見かけます。
いずれにせよ、現状を正確に知っておくことが重要であり、管理会社に専有部別の表の作成を依頼し、マンション管理組合誌などで毎月、周知活動を行うことは長い目で見た時に非常に重要になります。
6、まとめ
今回の特集ではマンション管理組合が理事会を中心に行える経費削減についてお話ししました。ほとんどの組合は管理費の値上げは必要性を認めつつもなかなか納得できずに踏み切れない状況があります。その理由のひとつが支出の中身が不明瞭であることです。この構造は国が増税を求める時と似ています。収支報告を見る限り不足している現状は理解できるが、本当に必要な値上げなの、その前にもっと使い方を精査すべきではないのと思う気持ちは誰もが持っているはずです。管理組合も同様です。使い方に納得が出来れば値上げに反対する人はいません。
そのためにも理事会の努力と管理会社の協力が必要であることをご理解頂ければ幸いです。
特に管理会社には目先の金額ではなく、業務の充実化による住民の満足度の向上もひとつの経費削減と同じ効果があることを忘れないでください。
管理会社のリプレースや大掛かりな設備導入による経費削減も必要な組合はありますが、それだけが道ではありません。まずは現在の理事会を中心とした管理組合の支出の見直し、各決定事項への満足度の向上、住民への周知による意識効果を始めることが重要になります。
今月の特集は如何でしたか?
管理会社任せになりがちのマンション管理ですが理事会が動くことでやれることはたくさんあります。
そのことに気づかれて一人でも多くの理事の皆さんが積極的なマンション管理に意欲をもって頂ければ幸いです。
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