リゾートマンションの鉄筋「爆裂」の記事を正しく理解しましょう(1)

Yahooニュースで報じられた「伊勢志摩のリゾートマンションで鉄筋「爆裂」現象続々、1・5kgのコンクリ落下も」ですが、マンションにお住いの方なら気になります。
最近、リゾートマンションの物件を扱う機会があり、興味を持ち読んできました。
記事の概要は1997年に建てられた(築26年)地方のリゾートマンションが建築時の施工不良(手抜き工事)が原因で天井などの躯体からコンクリート片が落下する事象が多発している。
マンションを施行した建築会社は、施工不良を認めて無償修繕を行って来たが、民法で定める損害賠償請求権の時効が20年であることから無償修繕を拒否しています。
概ね、概要はこのような内容です。
この記事からマンションに住む方が知っておくべき知識がたくさん含まれていると考え、問題点をまとめてみた。
1、これまでの経緯を整理
記事では「施工不良は分譲から4~5年後には明らかになった。」と書かれています。
施行会社は2009年に施工不良を認めて、無償で修理をしています。
20年頃から再び剥落が起きるようになり、無償修理の準備を進め、調査により数十か所の不具合を発見。
分かり易くするために時系列にまとめると次のようになります。

2002年頃に明らかなになってきた施行不良を認めるまで5~6年が必要だったことがわかります。
建設会社としても簡単に認めることはできなかったのでしょうが、かぶり厚さ不足をごまかすことはできません。
結果、2009年には瑕疵を認めて無償修繕に応じたようです。
その後、表面だった施工不良の影響は無かったようですが、2020年頃から天井の剥落が多発します。
組合としてはかぶり厚さの不良によるものとして2009年と同様の無償修繕を求め、建築会社の調査や修繕に応じる動きを見せていたらしいのですが、
損害賠償請求期間の時効が20年を理由に無償修繕を拒絶したと報道されています。
2、損害賠償請求権の時効
民法では不法行為(今回の件では施工不良)に基づく損害賠償請求権の時効を次のように定めています。
不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効(改正民法724条)
不法行為に基づく損害賠償請求権は、次に掲げる場合のいずれかに該当するときは、時効によって消滅します。
- 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。
- 不法行為の時から20年間行使しないとき。
竣工・分譲が1997年、そこを不法行為の開始時点とすれば損害賠償請求権の時効は2017年に成立しています。
これに基づき、建築会社は無償修繕を拒否したと考えたと記事では説明しています。
かぶり厚不足とは何か?その影響は?
コンクリートのかぶり厚の説明はnoteで行っています。
#35(仮) コンクリートの「かぶり」の考え方をマスターする|マンション管理士せっかめ|note
かぶり厚みとコンクリートの剥落の関係は次のプロセスになります。

かぶり厚さが不足すると中性化が進んだ時に鉄筋に錆が発生、これにより鉄筋は体積の膨張が起こりコンクリートが塊で剥落する(コンクリートのポップアップ現象と言います)可能性が高くなります。
かぶり厚さの不足は建築基準法の違反であることは確かですが、定めている最小かぶり厚さ以下だとしてもコンクリートの剥落等の事象が必ず発生するわけではありません。

外壁防水の劣化、粗悪なコンクリート材の使用、杜撰な施工など様々な要因によってコンクリートの中性化は起きます。
2009年に建設会社が認めた施工不良の内容をもっと正確に知らないとこの記事の本当の問題点はわかりません。
一般的にコンクリートの中性化の進捗は、住民が肉眼で見つけることは難しく、特にかぶり厚さの不良は、現象が確認された時点で初めて知ることになり、その時点でダメージがかなり進行していると言えます。
また、鉄筋の膨張があったとすれば事前に周辺にはクラック(ヒビ)や錆色の水が外壁に染み出る現象として確認されることが良くあります。
このような事象は、国が定める法定検査の建物の検査(3年に一度)やそれ以外でも自主点検として「目視外観点検」を行っていれば容易に見つけることができます。
2009年の施工不良が「かぶり厚さ不足」を認めた上での修繕工事であったのかは記事から読み取れませんが、建設会社が無償で修繕を行った事実から施工不良があったのは間違いないことだと推測できます。
3、品確法による瑕疵担保責任
新築建物には、建設会社が負うべき瑕疵担保責任があります。
平成12年4月1に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(品確法)では、新築住宅における以下の部位の瑕疵担保責任の期間を引き渡し時から10年間と定めました(品確法94、95条)。
対象となる部位は次の2つです。
①構造耐力上主要な部分(柱、梁、耐力壁、基礎、地盤、土台等の構造躯体)
②雨水の浸入を防止する部分(外壁や屋根の仕上、下地、開口部等)
分譲マンションは建設会社(デベロッパー)から分譲会社に売られた時が瑕疵担保責任が開始され、10年間継続されます。
1997年に引渡しが行われたと考えると品確法に定める瑕疵担保責任は2007年までです。

2002年の施工不良の部位が構造耐力上主要な部分であったとすれば、2009年の無償修繕は品確法の瑕疵担保責任として行われた可能性もあります。
施工後4~5年で中性化が進む?
施工後4~5年でコンクリートの中性化が鉄筋まで浸透するとは一般的には考えにくく、コンクリート自体の問題(粗悪なコンクリートの使用)や雑な打設処理によってコンクリートが予定の性能を持っていない可能性が高いと考えらえます。
その上、かぶり厚さ不足が重なり通常では考えられない竣工後、4~5年で発覚したのでしょう。
信じられないことです。
建築物を建てる際には事前の設計段階で建築確認を申請する必要があります。
当然、竣工済みと言うことは建築確認は受けているはずです。
建築中も中間検査、竣工直前の建築確認が行われているはずです。
また、コンクリートの打設時はスランプ試験、強度試験を行い、結果も残っているはずです。
#8 現場で行うコンクリートの試験は4つ|マンション管理士せっかめ|note
今回の問題が発生したマンションのすべてのコンクリートの打設が杜撰であったとは思いませんが、一部でもこのような事態が起きたことは躯体全体への信頼性に疑問符がつきます。
幸い、2009年に修繕工事を行い、その後11年間、不具合や剥落が起きていないとすれば、運が良かったと考えた方が良かったのかもしれません。
ひとつ疑問に思うことは、2009年に行われた修繕工事の契約内容です。
施工不良で無償対応による修繕工事を行ったと言うことです、その時点でこの修繕工事について、建設会社(分譲会社)とどのような契約を交わしたのでしょうか。
修繕箇所の瑕疵担保契約、躯体全体の安全性の保証、耐震性の確認などについて、建設会社(分譲会社)と今後起こり得る可能性を考慮した契約の締結は必至で、もし、何の契約(覚書でも可)を交わさずに施工不良の修繕工事を受入れたとすれば理事会の手落ちともいます。
もし、当事務所が顧問等の契約をしていたなら、弁護士と相談した上で、「施工不良の改修工事の関する覚書」などの今後起こり得る可能性についても保証をすことを契約書として残します。
11年後の事象は単純ではない
2009年に施工不良の修繕が終了して後、2020年まで住民から躯体の以上はなかったとすると、2020年に突然、躯体のいろいろな箇所で剥落等の事象が起き始めたことになります。
この11年間に何が起きたのでしょうか。
ベランダの天井が落ちたとは、参考写真を示しましたが、軒の天井部分のコンクリートが剥落したと言うことです。

ベランダの天井(一般的なベランダです。事故の物件とは無関係です)
一般的にマンションの外壁は防水層で覆われ、コンクリート表面から内部に二酸化炭素や水の侵入を防ぐ処置がされています。
この目的は、コンクリートの中性化による内部鉄骨の錆(腐食)の発生を防止するために行われます。
参考写真よりもわかるようにベランダの裏(天井)の防水の対象です。
防水層の耐久年数は12~15年程度で施工方法や建物の立地環境で変わります。
そこで、12~15年程度ごとに防水層の修繕工事を行います。
これが大規模修繕工事と言われています。

施工不良とほぼ同じころに行われているはずです。
この修繕を行わないとかぶり厚さの不足に関わらず、コンクリートの中性化が進む可能性が高くなります。
今回の記事を読む限り、建設会社や分譲会社の無責任さを強調するためなのでしょうが、大規模修繕の実施状況には一切、触れていません。
建設会社や分譲会社の施工不良は許されるものではありませんし、その後の事象の責任を擁護するわけではありませんが、無償修繕後11年が経過して発生した天井の剥落が直接的にかぶり厚み不足だけが原因とも言えないと考えられます。
また、2009年に実施された無償修繕時に施工不良の責任の所在、修繕後の瑕疵担保の相互の認識が記録にあれば良いのでしょうが、その点についても記事は何も触れていません。
(次回に続く)
マンション管理士として今回の記事から読み取れたことをまとめてみました。
一読すると悪徳建築会社・分譲会社Vs管理組合の構図で書かれている記事ですが、記事だけではわからないことがたくさんあります。
酷い会社だと非難することは簡単ですが、大手の建設会社や分譲会社が11年後の剥落事故の責任について、無償修繕を拒絶すればバッシングされることはわかっているはずです。
それでも拒絶した理由は何なのでしょうか。
次回考えてみたいと思います。
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