分譲マンションは戸建て住宅と全く違った考え方に基づき運営されます。

はじめて分譲マンションに住む方はそのことを理解する必要があります。

戸建ては所有する土地(敷地)内であれば所有者が自由に改良、増築、増設等の様々なことができます。(建築基準法の基準内に限る)

しかし、マンションは例え購入した居住範囲内であっても出来ないことがあります。

事前に理解しておかないと思わぬ制限の中で生活を強いられることのもなります。

1、区分所有法

分譲マンションの基本

分譲マンションは区分所有法と言う法律によって所有者の義務と権利、運用ルールが定められています。

区分所有法は、マンション用に作られた法律ではありませんが専有部を所有する方が複数存在していて、建物を共同で所有する場合に適用される区分所有物件のひとつであるマンションも適用されます。

マンションにおいて区分所有法で定めた項目は民法に優先します。(定めがない項目は民法が適用されます。)

このことは今後の説明でも大切です。覚えておきましょう。

1-1、専有部分と共用部分を理解する

マンションの構造は敷地の上に大きな躯体(建物)があり、その中に皆さんが購入する専有部(玄関入口と壁で区分けされた区画)とそれを繋ぐ廊下、階段などの施設から構成されています。

区分所有法では皆さんが購入する目的物を専有部(居住する部分)と言います。

これに対してその他の部分を共用部と言います。マンションは専有部と共用部から構成されていることになります。(それ以外の部分は存在しません。)

例えば建物への入口にある玄関扉、塀、自動ドア、廊下、階段、エレベーター、屋根、壁もすべて共用部と言います。

これ以外にもマンション専用のゴミ室、駐車場、駐輪場も共用部になります。

皆さんは分譲マンションを購入すると専有部(玄関と壁で区分けされた区画)の所有権を得ますが、同時に共用部の使用権、土地の使用権を得ます。

共用部と土地の所有権も専有部占有率に応じて取得しますが特定の箇所の所有権ではなく、マンション共用部と敷地の使用権利を購入したと考える方が分かり易いと思います。

この所有権と使用権の関係は切ることが出来ず、特別な場合を除いて一緒に処分する必要があります。使用権だけを売却することはできません。また使用権を残して専有部を処分することもできません。それが分譲マンションの基本ルールになります。

区分所有法には、専有部と各使用権は必ず一体であることが定められ、共用部と敷地の使用権(所有権)だけを分割して売却することはできないと定められています。(但し、長屋マンション等の場合に例外があります。)

これを区分所有法では「分離処分の禁止」と言います。

専有部が所有者単独の財産になりますが、共用部は分譲マンション購入者である皆さんの共同の財産であり、日常の清掃や定期点検を始めとして所有者全員で管理することが基本になります。当然、共用部は他の所有者も使用するため、勝手に用法を変更したり、私物等を放置することはできません。

では、共用部の日々の管理はどのように行うのでしょうか。

1-2、マンション管理組合

区分所有法では分譲マンション購入者(以下区分所有者、あるいは組合員と言います)が決定した段階で、自然に管理組合が生じると定めています。


購入すると必ず入会する管理組合

例えば分譲会社が所有するマンションを販売している時、購入者がいない時は分譲会社が独占的に所有しているため組合は生じません。しかし、ひとりでも購入者ができた段階で、専有部の所有者は分譲会社と購入者の複数となり組合が自動的に成立します。分譲が進むにつれて組合員数は増え、部屋数の区分所有者がいる○○〇マンション管理組合が生まれます。

この組合は居住の有無に関わらず全員が加入します。

脱会するためには専有部を第三者に売却する以外に方法はありません。


マンション管理組合は共用部の保存と管理を行うための活動を行います。

しかし、見ず知らずの人が集まるマンションに自動的に組合が出来たとしても、すぐに意思疎通を取り合って共用部の管理等を行うことは容易ではありません。

そのため、分譲会社は購入した皆さんが運営に困らないように、分譲前に管理会社を決め共用部の管理を任せる契約(管理委託契約)を結ぶ方法が一般的です。(契約期間は分譲開始時から1年程度が一般的で翌年から再契約、あるいは更新となります。)これについては後述します。

これにより新築マンションであっても購入・入居後にすぐに快適な生活ができる環境が整えられています。

中古マンションを購入する方は、すでにマンション管理組合が管理を行い、管理会社が委託契約により実務を担当しているマンションに入居することになります。


自主管理をする管理組合

管理組合の中には管理組合の実務を組合員だけで行うマンション管理組合があります。これを「自主管理組合」と言います。管理会社に委託する場合は「委託管理」言います。また、管理組合の実務の一部を管理会社に委託する「一部委託管理」もあります。

一般的に自主管理は煩雑な業務を組合員が行うため個々の組合員の負担が大きいと言われています。また、運営に不慣れな方が行うため、新築後には苦労された話はよく聞きます。

中古マンションを購入する時は、事前に購入するマンションがどのタイプの管理体制を採用しているかを確認することが重要です。自主管理が採用されるマンションに入居する場合は、一定の負担があることを覚悟して購入する必要があります。


マンション管理組合の活動内容は、共用部の保存と管理を行うことが目的です。

新築直後のマンション管理組合は初対面の組合員が法律によって形成される管理組合に強制的に入会することになるため、意思の疎通も希薄で、またすべての区画が完売するまでには一定の時間がかかることもあり、その間の管理組合の運営に不安があります。

そこで、分譲会社が事前に管理会社と契約し一定期間(概ね1年程度)の管理業務を委任することが一般的です。

*自主管理は1年後に契約を解除した上で自分達で管理を行うことを決めた、あるいは分譲会社が管理会社を用意せずに仕方なく、自分たちで管理を試行錯誤により立ち上げた組合となります。

分譲開始後一定期間内に管理会社が主導しながら管理組合の機能を立ち上げることになります。

中古マンションを購入を検討される方は、管理組合が適正かどうかはわかりませんが、管理運営を何年も経験した人たちが運営する管理組合に入会することになります。

1-3、管理者・理事会制

では、次に管理組合の運営方法についてお話しします。

管理組合の運営について区分所有法は、管理者を置くことが出来ると定めています。(管理者を置かないことも可能ですが、実際問題としては無理です。)*管理人さんのことではありません。

管理者とはマンション管理組合の代表者と考えると分かり易いと思います。

組合員の中から選ばれるのが一般的ですが、法人、個人に関わらず第三者に依頼することもできます。

しかし、マンション管理は業務量が多く、特定の個人(組合員)に負担が集中することは好ましくありません。あくまでも自宅を購入する目的でマンションを購入しただけであり、日常には仕事があり、とてもそんな負担をひとりに負わせることは出来ません。

また、マンション管理組合は管理費や修繕積立金と言う大きなお金を保管する組合でもあり、ひとりにマンション管理のすべてを任せることには不安もあります。

そこでマンション管理組合の意思決定機関として理事会制を導入することで、組合員の意志を集約する方法を取入れ、煩雑な実務は管理会社に委託する方法が一般的に導入されています。

理事会は組合員の代表者から構成され、理事は立候補や他薦により選ばれます。概ね10~15戸につき1名選出、最低3名程度、最高20名程度、という人数が目安です。(標準管理規約コメントより)ただし、特に決まったルールはありません。


標準管理規約って何?

区分所有法は法律ですが、標準管理規約は国土交通省がマンション管理組合の運営について指針として公開したルールブックの例です。

多くの方が共同生活を行う上で、快適に生活するためには一定の運営ルールが必要になります。しかし、マンションを始めて購入する人たちだけでルールを作ると不備も多く発生することが予想できます。また、管理会社が自分たちに優位な方向に組合員たちを誘導することもあります。そこで国が示す標準ルールとしえて標準管理規約が公開されました。

購入を検討した時に売手(不動産会社、あるいは売主)から「○○マンション管理規約」の写しを提供されたはずです。これが標準管理規約を見本に作成された管理規約であり、マンション管理組合のルールブックになります。


選出された理事から代表者である理事長、副理事長、会計担当などを互選により選び、理事長を中心とした管理組合の執行部を形成します。

理事会は意思決定機関としてマンション管理組合の運営方針を決め、それに基づき期ごと(一年を一期)に運営を行います。

理事会は一定期間(1~2ヵ月)毎に理事会を開催し、運営状況を確認すると共にマンション内で発生する様々な問題について話し合い、方針を決定します。また、定期点検等の必要な業務を確認し発注を決定します。その結果は理事会後、議事録として組合員に公開されることが一般的であり、組合員は方針や決定内容へ質問することも可能です。

また、理事会は年に一度、組合員に対して業務報告を行う集会を開くことが義務付けられています。これを総会、定期総会と言います。

一般的に理事は隔年、あるいは毎年交代します。ひとりでも多くの組合員にマンション管理を経験する機会を与えるためです。また、理事の選任は輪番制を採用する組合が多くあります。


各役員は互いに監視する役目もある

理事以外に監事を配置する管理組合もあります。(法人管理組合では監事の存在は必須ですが、それ以外の管理組合は任命義務はありません。)

監事の役目は理事会がきちんと機能しているか?不正をしている理事等はいないか?と言った理事会全体をチェックする役目があり、不正があった場合には臨時総会等を開催し、組合員に不正等を報告することが出来ます。

また、各理事は管理業務の執行者でもありますが互いの理事に不正がないかを監視する役目もあり、不正があれば理事長や監事に報告することができます。


理事長は、マンション管理組合の代表者であり対外的な窓口になるとともに、各種契約の代表者となり管理費等の出納指示、業務指示を行います。実務は管理会社に委任され管理会社が行いますが、管理会社への指示は理事長が行います。

このようにして理事会がマンション管理組合の運営を行います。

しかし、マンション内のすべての決定事項を理事会任せにすることは、理事会(理事長)の暴走等の危険性があるため、区分所有法では区分所有者に大きな影響を与える決定事項については組合員の多数決、あるいは一定数以上の合意を得ることが定められています。

1-4、議決権について

マンション内の多くのことは理事会に任せています。

例えば、エレベーターが故障すれば修理は当然です。しかし、これを組合員全員に確認していては、煩雑になり時間もかかります。このように管理規約で理事会(理事長)に委任する内容を事前に決めています。(任せる内容は組合員が決めることができますが、この辺は今は理解する必要はありません。)

しかし、理事会に任せることが出来ない問題が発生した時は、組合員の皆さんの意見を聞き、同意を得る必要があります。

一般的には定期総会で組合員が集まる機会に合わせて採択を行いますが、緊急性がある時は臨時総会を招集した上で採択を行います。

総会の開催ルール等については区分所有法で決められ、管理規約にも定められています。概ね総会開催2週間前までに開催を連絡、総会で採択する内容も事前に通知、組合員の皆さんに考える期間を与えます。

総会開催までに議決権行使書、代理人申請、委任申請などで事前に投票することもできますが、総会に参加して賛否の意志を表明することもできます。

これを議決権と言い、投票することを議決権の行使と言います。

区分所有法では、組合の賛成反対の可決・否決の判断は組合員の賛成と反対の割合で採決を判断しますが、審議する内容によって可決する割合が異なっています。

また、議決権には員数と専有部の総面積に占める占有率(割合)が同時に成立することが必要と定めています。

員数とは組合員の数で、所有する専有部の面積に由らずひとり一票と計算します。これに対して専有部の総面積に占める割合とは、マンションが1000㎡の総床面積の場合、70㎡の専有部の所有者は70/1000の権利があると計算されます。

この両方が一定の割合以上になった時、議題は可決されることになります。

1-5、議決権の考え方

なぜ、このような考え方をする必要性があるかを考えてみましょう。

せっかめマンションは10戸の専有部があり、総床面積は440㎡、A氏は30㎡の部屋を8戸(占有率:30×8/440)を所有、B氏、C氏D氏が50㎡(占有率:50/400)の部屋をそれぞれ1戸を所有しています。B氏、C氏、D氏が規約の一部改正を求め、総会が開催されました。

規約の改正は特別議決になり、3/4以上の賛成が規約の改正は認められることになります。

B氏、C氏、D氏が賛成に投票した場合、単純に員数だけの関係では議案は可決されます。

マンションの専有部の半分以上を所有しているA氏としては納得がいきません。

しかし、同時成立が可決要件になっている議決権(占有率)では、A氏は240/440を所有しているため、B氏、C氏、D氏の合計数(150/440)では3/4を超えないため議案は否決されます。

このようにマンションの権利は専有部の占有率を無視すると不公平が発生する可能性が大きく、専有部の占有率(議決権)も同時に3/4以上の賛成が成立条件になっています。

このような関係では、特に組合員の権利に大きく影響を与える特別議決では効力を発揮します。

例えばA氏だけでは議決権(占有率)は3/4を超えません。

必ず重要な議案を可決させるためにはA氏ともう一名の賛成が必要になります。

員数と議決権の同時成立によって住民の員数勢力と議決権の均衡が保たれることになります。

議決権の考え方、議決が過半数で決まる議案と3/4以上、4/5以上で決まる議案があることを理解しましたか。

これから新築マンション、中古マンションの購入を検討されている方は、マンション管理組合の運営の仕組みをしっかりと理解した上で組合員として活動に参加することもあると言うことを踏まえた上で購入を検討してください。

ちなみに町会も組合のひとつですが、マンション管理組合は一人一人が持つ権利と義務が全く違い、とても重要な構成員だと理解してください。


1つの専有部を区分所有権を複数で所有する場合の扱い

マンションを購入した時、ご夫婦で所有権を折半する例はたくさんあります。(登記の所有権にはそれぞれの比率が掲載されますよね。)

この場合の区分所有権の取扱いについては、区分所有法では管理組合に代表者を届けることとしています。

ご夫婦で意見が分かれたからと言って総会で1/2票ずつ投票はできません。

事前に共同所有者で話合い賛否を決めておく必要があります。


2、管理費について

区分所有法ではマンション管理組合の組合員は運営に必要な費用として管理費を支払うことを定めています。

管理費は日常の共用部の管理に必要なすべての経費に充てられます。

管理費の内訳は共用部に使用する光熱費、管理人や清掃担当者を雇用する費用、掃除用具、電話代等の通信費、火災保険(地震保険を含む)、損害保険、共用施設の定期点検費用などです。

一般的には区分所有者になった当月から銀行口座引落により徴収する方法が普及していますが、現在でも現金による支払いを行っている管理組合もあります。

中古マンション購入者は「区分所有者変更届」を提出した翌月から徴収されます。

組合員から現金を徴収する以上、出納については厳正な管理が求められ、いつでも使途の確認が出来る必要があり、出納の管理も管理組合(理事会)の重要な役目になります。

大規模マンションでは月に数百万円の収入があり、管理費の管理は重要な仕事のひとつになります。

多くの組合では月1回程度の理事会を開催し、管理費の運用状況を確認しています。また、組合員を始めとする利害関係者はそれら資料を理事会に閲覧を求める権利もあり、理事会は正当な理由が無い限りそれを拒むことができません。

多くの管理組合は管理業務の事務処理を含む実務を管理会社に委託しています。この場合、管理費のほとんどは管理会社の委託費用に使用されます。

管理会社は管理費の徴収から各業務の手配、必要な人材(管理人、清掃員)の提供、設備等の点検を含めた管理委託契約を締結します。これにより理事会(理事長、役員)が行うべき煩雑な業務を行うことなくマンション管理が行われます。

2-1、管理費の管理と算出方法

管理組合は1年間毎に管理業務を決算する制度を採用しています。

これは理事長が1年ごとに交代することとも関係していますが、単年で不正が無いことを確認する意味合いもあります。

理事会は各期末後、2カ月以内に組合員に対して1年間の管理組合の運営を報告する総会を開催する義務があり、その中で会計についても報告を行います。

管理費はマンション内で大きなイベント等が無い限り、前年の実績から算出された額を基本に来期の必要費を算出する予算制度が採用されます。

万が一に備え一定額の予備費分を計上し、年間で必要な総額を算出します。これを基に専有部割合により各組合員に管理費負担額を決め、毎月決まった日に銀行口座から引き落とす方式を用いています。

各年度末に余った管理費は、余剰金として管理組合の資産として保管します。

2-2、マンション管理適正化法による規制

多額な管理費の管理を管理会社に委託することになるため、管理会社の不正には十分注意する必要があります。

これについて、国土交通省は「マンション管理適正化法」と言う法律で現金管理の方法を細かく指示しています。

これにより管理会社の不正を防止し、健全な管理費の管理を管理監督しています。

現在でも管理会社が管理組合の資産を着服する等の事故はありますが、その度に国土交通省は違反行為として免許取消、勧告等を行い、会社名と事故内容を公開しています。(会社ぐるみでの事故はありませんが、管理業主任者が横領する事故は後を絶たない現実があります。)

理事会も毎月管理会社から報告される月次報告で管理費の残金を始め、支払等の使途を確認することで管理会社を監視することも重要な業務になります。

2-3、管理費の支払義務

管理費はマンション共用部を住みやすい住環境に維持するために必要な費用で各組合員が所有する専有部面積に応じて負担する義務があります。

管理費の支払義務

しかし、光熱費や通信費の様に未払いで使用が制限されることはなく、口座から引落になるため残高不足による滞納になる方が度々発生します。次毎に管理会社は理事会に滞納者を報告しますが、3か月を目途に督促されます。

マンション管理組合の滞納者はほとんどのマンションで一定数存在する悲しいデータが国土交通省から公開されています。

滞納者が多くなれば管理費が枯渇し、予定していた清掃や点検業務が実施できない事態になり共用部の管理が疎かになります。

特に戸数の少ない管理組合では、ひとりの滞納が財政を圧迫する事態にもなりやすく、理事会も滞納に対しては強い態度で臨む理事長が多くなっています。

マンション購入を考えている方は、管理費はマンション管理組合の一員になった以上、毎月支払いを続ける必要があります。また、物価の上昇等の外的要因により値上げを強いられるケースも多々あり、住宅ローンの支払、子供の教育費、老後資金など日々の生計の中で毎月一定額を生涯にわたり捻出することを維持できるのかを十分に検討することをお勧めします。


滞納者への厳しい請求

管理費等(管理費、修繕積立金、設備使用料の合計)を滞納すると管理組合から督促が始まります。

一般的には3か月滞納で内容証明による督促、4~6か月で少額訴訟と手続きが進みます。

一昔前は、同じマンションの住民同士と言う関係から滞納を放置するケースも多くありましたが、現在は厳しい姿勢で臨む必要があり、関係性に係らず滞納期間により事務的に督促行為が行われています。

事情によって多少の猶予期間が認められることがあっても1年以内には法的訴訟に進むことは間違いないと考えてください。


3、修繕積立金について

マンションは管理費以外に修繕積立金を毎月支払う必要があります。

修繕積立金は建物の老朽化を防止するための工事費を事前に準備する目的で徴収されます。

建物は経年により徐々に劣化しますが、これはマンションに限った話ではなく、戸建てでも同様な劣化は起きています。

そのため建物を所有する方は一定期間ごとに大規模な修繕工事を行うことで老朽化する速度を遅らせ、資産の保全を行います。

マンションではこの工事のことを「大規模修繕工事」と言い、費用を毎月積立てる方法により準備します。

この積立金のことを「修繕積立金」と言います。負担額は規約に記載されています。

中古マンションを購入する時は、修繕工事の実績を調べ、管理組合の修繕資金の総額等についても評価しないと、後々、多額な負担金を負うことにもなります。

3-1、修繕積立金の積立方法

修繕積立金の方法には、目標金額を毎月均等に負担する均等方式と入居後は負担を少なく抑え、10年後以降から段階的に値上げを行う階段増額方式があります。

国土交通省資料より

国土交通省は均等方式を推奨していますが実際は階段方式を採用する組合が多く、これは新築分譲時の分譲会社の考え方で決められれることが多く、購入者の購入後の支払負担が少なくなるように巧妙に計算されたためと言われています。

しかし、どちらの積立方式を選択しても必要になる金額は同じであり、近年問題になっている階段増額方式を採用した管理組合では入居後、10年~20年後に積立金の値上げが行われ、初期の3~5倍は一般的で10倍になるケースも珍しくありません。

また積立金の不足により組合員が一時金を支出する、あるいは金融機関からの借入で対応するケースもあります。

それでも修繕工事を実施できている管理組合は優秀で最悪なケースは修繕工事を行えずに建物の老朽化が進み、資産価値も低下、各施設にも支障を来し住むことが出来ずに廃墟化するマンションもあります。

このように修繕積立金は居住後、10年先の修繕工事のために積立てる大切な管理組合の資産であり、この資産を適切に修繕に用いることで50年以上も快適な住環境を提供してくれる終の棲家にすることができます。

ただし、注意すべきことは、管理費と同様に組合員である限り、修繕積立金の積立義務は続き、経年数が長くなるにつれて大きな修繕工事費が必要になり、積立金の負担が増加する可能性があることは覚えておきましょう。

3-2、修繕積立金の負担額

マンションの修繕工事は部位単位(外壁、防水などの施設単位)で概ねの耐久年数がこれまでの経験値からデータが公開されています。

12~15年程度の一度の頻度で大規模修繕工事を行う計画を立てることを国土交通省は推奨しています。しかし、各マンションの立地状況や自然環境、使用状況により老朽化の度合いも異なるため各マンションが自分たちに合った計画を自主的に立てています。

また、マンションの大きさ、高さによって必要な修繕額も変わります。

一般的には工事面積が広い程、工事単価は割安になると言われますが、工事費総額は多額になります。

そこで国土交通省より、共用部面積単位の修繕積立金の最低ラインが公開されていますが、多くの管理組合は基準値を満たさない状況にあると言われています。(左表を参照)

中古マンションを購入する時は、購入する希望のマンションの修繕積立金の総額と修繕積立金の㎡単位金額を確認することを忘れずに行ってください。

もしかすると数年後、修繕積立金が現在額の5倍、10倍に値上げする可能性があるかもしれません。

3-3、修繕積立金の義務

目的は異なりますが管理費と同じように修繕積立金もマンションを維持するために必要なお金です。

老朽化が進んだマンション

中古マンションを購入する場合も売主がこれまで積立てた金額も含めて権利を継承することになり、売主が希望するマンション売却価格には、それまでに積立てた修繕積立金の金額も上乗せされた額になり、専有部、敷地、共用部に関する価格に管理組合が保有する財産の占有割合分が含まれています。

*専有部の滅失(建物が災害等でなくなった場合など)により管理組合が解散する時は、管理費と修繕積立金の残余財産は専有部の割合により還付されることよりも管理組合が保有する財産は区分所有者の共用財産であり、専有部の売却時の価格に上乗せできると考えます。

新しく組合員になった場合も修繕積立金の支払義務は継承されます。組合員内に未払いの方がいると修繕積立金が不足する事態に陥り、予定通り修繕が出来ないことにより、建物の老朽化が進み資産価値が目減りすることにつながります。

また、不足分を他の方で補充する事態になれば、安穏と無責任に住み続ける人の債務を背負うことにもなります。

管理費と同様に修繕積立金もマンション管理組合に所属する限り支払い続ける必要があることを忘れずにマンション購入を考える必要があります。


管理費・修繕積立金の未払いも継承される

マンション売買で時々起きることに売主に管理費等(管理費、修繕積立金、施設使用料)の未払金があることを知らずに購入することがあります。

売主が伝えるべき事実ですが、買主も未払金がないことを購入前に必ず調査、確認することが必要です。

確認方法は売主に尋ねる方法以外に仲介業者に聞くこともできます。仲介業者は売主の代理人(利害関係者)として管理組合に問合わせることが出来、管理組合は利害関係者からの問合せがあった場合、正当な理由が無い場合を除き回答する義務があります。

管理組合自体が債権者(借金と取り立てる権利がある人)です、区分所有者が変更されれば新しい区分所有者へ請求を行うことになり、債権を回収できるのであれば積極的に答えてくれます。

未払金を知らずに売買が成立した場合、契約を解除することも可能ですが、不動産会社も仲介するため面倒になります。

未払金があることを事前に判れば、売買価格からその分を減額することもできます。(その上で買主が支払う)あるいは、未払金を清算した上で売買契約を締結する方法もあります。決してやってはいけないこととして、売買代金を支払った後に売主が支払う約束の元に契約することです。売主が清算を履行しないケースも多くあり、必ず、未払金の無い状態で売買契約を成立させてください。


区分所有変更届を出した翌月から修繕積立金を納付する義務が発生します。

3-4、施設使用料の管理

駐車場や駐輪場等の共用設備があるマンション、あるいは専用使用権(1階の庭など)があるマンションでは、利用者から使用料を徴収する方式を採用している管理組合が多くあります。

使用料等の収入はその設備の維持費に使用しますが、余った場合は修繕積立金として後の大規模修繕費に充当します。

施設使用料も管理組合の重要な資金源になります。

駐車場や駐輪場が組合員全員分の台数がある場合は、周辺の相場よりかなり安い利用料で使用できるメリットがあります。また駐車場が慢性的に空いている状態であれば組合員以外の第三者に貸出し、収益を上げる方法もあります。

施設使用料も使用料の未払いがないようにしなければいけません。

4、新築・中古マンション購入者の方へ

マンションの購入を検討されている方にマンション管理組合の仕組みについて説明しました。

分譲マンションは「区分所有法」により定められた規則に基づき存在していること、管理組合は自動的に発生する組合組織であり、マンション所有者(区分所有者)は居住の有無に関わらず入会義務があること、管理組合は区分所有者の共用財産である共用部の保存・管理を行うために存在すること、管理組合の運営は国土交通省の「標準管理規約」に基づき運営されることがお分かり頂けたと思います。

また、管理組合の事務処理等の実務は管理会社に委託される方式を取る組合が多く、管理会社は「マンション管理適正化法」により管理組合の資金管理に関する規制の中で運用を行う必要があることも理解してください。

管理組合の運営に必要な費用は組合員が専有する床面積の割合いよって決まられた負担額を毎月納めることで運営しています。

管理費は組合員である限り支払い続ける必要があり、滞納することは管理組合の運営を悪化させる原因になり、良好な住環境の維持ができなくなります。

同様に修繕積立金、施設使用料はマンション建物の老朽化を遅らせるために定期的に行う修繕工事等の費用を事前に積立ててること。老朽化を遅らせることでマンションの資産価値を維持することが出来、それ以外に良好な住環境も確保するためにも必要であることをりかいしてください。

修繕積立金も管理費と同様に支払い続ける必要な費用であり、滞納することは老朽化を進めることになり、マンションの資産価値を低下させることにもつながり、生活環境の悪化も伴う可能性が高いことを理解してください。

このようにマンションは住むだけではなく、法律等で規制され、守られた自治管理組合が運営することで成立しています。

マンションを購入するとは組合に入会すると当時に自治管理の一員として責任の一端を担う存在になることを忘れないでください。


次章ではマンション管理組合のルールである管理規約について説明します。

目次

1章 分譲マンション管理組合の仕組みを知る

2章 規約はマンションのルール

3章 マンション管理組合の内情を確認する

4章 購入マンションの設備を確認する

5章 大規模修繕工事と積立金について

6章 その他、購入前に確認すべきことと


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