3章では総会議事録、理事会議事録がマンション管理組合、マンション運営状況を知る上で重要な資料であることを説明しました。
次はマンション共用部にある設備とメンテナンスの重要性についてお話しします。
水道水は全国どこでも蛇口を開ければ使いことが出来ます。
これは当たり前のことですが蛇口まで水を運ぶ方法は戸建て、マンションでは大きく異なっていることをご存じでしょうか。
戸建ての多くは水道管(本管)から枝管によって各家庭の水道につながります。
水道本管内部はかなり高圧になっているため枝管の端末でも3階程度の高さであればそのままの圧力で使用することできます。
一方マンション等の3階以上の建物では、枝管で水を引き込むのは同じですが、そのままの圧力では高い階に行くほど水の出が悪くなる傾向があり、それを改善するためにいろいろな方法で高層階でも不自由なく水量が得られるような方法が開発、使用されています。

最近のマンションは直結増圧方式が主流ですが、一昔前は高置水槽方式に代表されるマンション内に大きなタンクを設置し、そこからポンプで上層階に運び上げる方法が主流でした。
今でも賃貸物件を選ぶときにシャワーの水流をチェックする方が多いと思いますが、このような現象は給水システムによって決定されます。
中古マンションを選択する時に水流をチェックする方は多いと思いますが、方式まで気にされる方は多くありません。
しかし、分譲タイプのマンションの場合は購入後の維持費に大きく関わってきます。
このような例は給水システムだけではなく、排水システム、ディスポーザーの有無、電気供給システム、空調システムなど様々な設備に該当します。
その結果としてメンテナンス費用を含む維持管理費に大きな違いを生みます。

購入しようとするマンションの設備について知ることは、購入後の維持管理費(管理費、修繕積立金)に影響することを知っていれば将来発生するであろう費用を予想することができます。
また、中古マンションは設備のメンテンス状況が個々の組合で異なります。
メンテナンスを熱心に取り込む組合は、建物や設備の老朽化を遅らせることができ、結果として大規模修繕の時期を遅らせることでより効率的な修繕工事を行うことが出来ます。
逆に日々のメンテナンスを疎かにする組合は、老朽化を遅らせることが出来ず突発的な故障や交換を強いられ計画的な修繕を行うことが出来ず、より規模の大きな修繕工事を行う必要になる可能性が大きいと言えます。
この章では設備とメンテナンスを知ることで購入するマンションの将来を予測することを目的に説明します。
1、法定検査を知る
マンションに設置されている設備(建物そのものを含む)の中には、法律で定められた周期、資格者が行い、行政機関や自治体に報告する義務がある点検があり、これを法定点検と言います。
法定点検が必要な設備の一覧を示します。
法定点検 | 規制する法律 | 周期 | 対象 | |
特殊建築物定期調査 | 建築基準法 | 3年に1回 | すべてのマンション | 建物と敷地 |
建築設備定期検査 | 建築基準法 | 1年に1回 | すべてのマンション | 非常用照明装置など |
昇降機定期検査 | 建築基準法 | 1年に1回以上 | エレベーターがあるマンション | 昇降機 |
消防用設備点検 | 消防法 | 6か月ごとに点検 1年に1回以上定期点検 | すべてのマンション | 法律で義務化された設備 |
汚水処理槽点検 | 1年ごとに1回 | 敷地内に処理槽があるマンション ディスポーザーを含む | 自治体の下水処理に よって | |
簡易専用水道管理状況検査 | 水道法 | 1年ごとに1回 | 水槽式供給システムのマンション | 高置水槽方式 ポンプ直送方式 |
自家用電気工作物定期点検 | 電気法 | 毎月点検、年次点検 | 屋外型の高圧受電設備の設置があるマンション | 高圧受電設備 (キューピクル) |
マンションの躯体そのもの検査を含め、どの検査も法律で定められています。
エレベーターや汚水処理槽が設置されているマンション、給水システムに水槽式給水システムを採用しているマンションでは法定検査が増えることになります。
どれも日々の安全にかかわる検査です。
設置されている設備を購入前に確認することでこれから住むマンションの法定検査を知ることが出来、管理費に計上される予算目になります。
検査は国や自治体が認可した業者が行いますが、いずれも報告義務があり法定検査を実施しないマンションはありません。
検査費用については業者によって費用差はありますが、多くの場合、委託契約管理会社に任せています。
2、自主検査の重要性
法定検査に対してマンション内に設置された設備のメーカーが推奨する定期検査があります。
この点検を自主点検と言います。
各設備にもメーカーが公表している推定寿命があり、長年稼働すると故障が多くなり、最終的には交換が必要になります。
メンテナンスを含む自主検査は義務ではなくあくまもで設備を正常に稼働させること、設備の延命を目的とした検査であり保守点検に含まれます。
各マンションには、自動ドア、エレベーターなどの多くの機械が設置されており、日々の生活が不自由なく、安全に送れるように設計段階から考えられ、マンション完成時に導入したメーカーが保証期間を経た後に定期点検を含むメンテナンスサービスの提案を行います。
管理組合もその提案を受け、管理会社に日々の点検(日常の巡回等での点検)と併せて維持管理を委託します。
しかし、自主点検は義務ではないことから、その後の管理組合の運営方針にってはメンテナンスをせずに壊れるまでは放置する組合と日頃からメンテナンス契約を結び維持管理に努める組合があります。
規約でも説明しましたが、管理組合は良好な住環境を維持するために共用部分の維持管理を目的に活動します。
管理費を安くするためなどの財政的な理由や滞納者が多くいることで財政不足になると維持管理費用を賄えずに放置することになります。
結果として壊れてから多額な費用で交換に迫られる組合もあり、その際は組合員から一時金を徴収することになります。
設備のメンテナンスの状況を知ることは管理組合が適切な管理を実施していることを購入前にすることが出来る非常に重要な項目です。
そのことを踏まえた上で、中古マンションを購入する時に事前にメンテナンス等について知っておきたいことについて説明します。

エレベーターは法定点検以外に
マンションにエレベーターの設置義務はありませんが、ほとんどのマンションにエレベーターは設置されていますよね。エレベーターは昇降機と言われ法定点検の対象です。しかし、実際にはこれだけでは不十分でほとんどのマンションでは1~2ヵ月に1回の定期点検を行っています。
稼働率が高く現在のマンションでは必要不可欠な設備のひとつです。
エレベーターには大きく2つのメンテナンス方法があり、消耗品の補充を中心とするPOG方式(パーツ・オイル・グリースの略)と故障や部品交換を含むFM方式(フルメンテナンスの略)に分類されます。
どちらの契約も保守・点検が含まれますが費用が安いPOG方式を採用する管理組合が多いと思います。
3、確認すべきポイント
法定点検は法律で決められた検査であり、これを実施していないマンション管理組合は購入する価値が無いと判断すべきです。
法定点検の実施状況を確認する方法は、総会議事録に添付される総会資料の設備点検計画表を確認すればどの時期にどの法定検査を行う、あるいは実施したかを確認することが出来ます。
是非、この点は確認してください。
3-1、耐震基準を確認する
日本は地震大国でこれまでに大きな震災は発生していますが、その度に建築基準法が改定されています。
特に大きな変更としては耐震基準の改定です。
1981年6月1日以降に建築確認申請(構造等の基本構造を行政に確認を求めること)を受けた建物を新耐震と呼び、それ以前の建物を旧耐震と言います。
旧耐震建物の場合は、構造上に現在の耐震基準に達していないため耐震補強の必要があります。
築年数で考えると築40年前後のマンションがこれに相当します。
このようなマンションを購入する場合には旧耐震、新耐震を必ず確認し、旧耐震の場合は耐震補強が済んでいることを確認することが必要になります。
耐震基準については仲介業者に確認すればすぐに回答が得られます。
3-2、アスベストの有無を確認する
肺がんや悪性中皮種の原因となるアスベストは法律で厳しく使用が制限されています。
しかし、中古マンションの場合は築年数に十分注意する必要があります。
アスベストの使用規制は1975年(昭和50年)「特定化学物質等障害予防規則」改正され使用が禁止されましたが、アスベスト含有量が重量の5%を超える吹き付け作業が禁じられました。
5%以下であれば使用されていたと言うことです。
そのため、築年数が46年を超えるマンションの場合は規制前に建築されたマンションです。
次の規制は1995年(平成7年)「労働安全衛生法施行令」「特定化学物質等障害予防規則」改正です。
労働安全衛生法施行令、特定化学物質等障害予防規則では、クロシドライト(青石綿)およびアモサイト(茶石綿)の製造・輸入・譲渡・提供・使用は全面的に禁止、アスベスト含有量が重量の1%超となる吹き付け作業も禁止となりました。
ここでやっと現在の内容が制定されました。
築27年~25年のマンションでは、アスベスト含有量が重量の5%以下であれば使用されていた可能性があることになります。
幸い、中古物件の売買で仲介業者を介する場合は、売買契約前の重要事項節目に「アスベスト使用の有無」が含まれています。
十分な確認する必要があることを頭に入れておきましょう。
3-3、給水システムを確認する
冒頭でも書きましたが、水道水を供給するシステムは複数あります。
どのシステムにもメリット、デメリットがあります。
特に停電時の給水、維持管理費は各システムで大きく異なります。
購入するマンションの給水システムを確認することで購入後に起こり得ることを知っておくべきです。
細かなシステムを知る必要はありませんが、次の点は確認しておくことをお勧めします。
チェックポイント | 特徴 | 法定点検の必要性 | ポンプの交換 | 停電時 |
貯水槽付きシステム | 一度、水道管から敷地内のタンクに貯水する方式 高層階に送水するためにポンプを使う *屋上に貯水槽を設置して自然落下で供給する方式もある | 〇 | 数年ごとに必要 | タンク内を消費するまで使用できる |
水道管直結システム | 水道管から各戸に直接供給する方式 高層階に送水するためにポンプを使う | × | 数年ごとに必要 | 断水する |
内見の際に敷地に貯水槽があるかどうかを確認することでご自身で確認できます。
裏手にあって確認できない場合もあるため、仲介業者に確認すると調査してくれるはずです。
水道管直結システムが多くなっていることは事実です。
また、住民の感想としては直結システムの方が「水がおいしい」と言う意見を多く聞きます。
衛生面、メンテナンス面でも水道管直結システムが優位だと思います。
3-4、排水システムを確認する
近年、排水管から水漏れ等が起きる高経年マンションが多く報告されています。
元々築年数で30~35年以上を経過すると排水管の老朽化により交換時期に相当します。
ただし、毎年、排水管の洗浄を実施している組合では老朽化を遅らせることが出来、交換する時期を延ばすことが出来ます。
しかし、永遠に使用できるわけではありません。必ず交換の時期は来ます。
そのために日々、管理組合は大規模修繕に備え修繕積立金を組合員から徴収しています。
ここで注意する点は、排水システムの配置が古いマンションでは旧式の建築様式が用いられていることがあります。
この方式を床スラブ貫通方式(床スラブ下配管)と言い、図2に示すように床スラブを貫通し下階の天井裏に配管されている構造です。

リフォームマンション推進協議会HPより

リフォームマンション推進協議会HPより
近年のマンションは床スラブ上配管が一般的で専有部分の床スラブと床材の間に給排水管が配置されています。(図1)
この場合、交換工事を行う時も専有部分内で作業ができるため、下の階に迷惑をかけることはありません。
これに対して旧式の配管は、専有部分のスラブ床を貫通して下の階の天井裏に配管されています。これでは専有部分の排水管交換を行う場合、下の階の天井を剥がして工事する必要があります。あるいは床スラブを壊す必要があります。そのため、工事規模が大きくなり費用もより高額になります。

なぜこの配置になったのか?
はっきりとした理由はわかりませんが、木造住宅で行われていた配管を踏襲したためなのかな~とせっかめは理解しています。(あくまでも想像で正解かどうかわかりません。)
建築技術も向上して、修繕工事のやり易さ等を考えた設計士が今の方法に変更したのでしょう。今ではすべてのマンションでスラブ床上方式が採用されています。
このように中古マンションを購入する時は、①排水管の配置を確認すること、②排水管の清掃の間隔を確認することが重要になります。
万が一、スラブ床貫通方式のマンションであれば、購入後に排水管の交換工事がある時は、多額な費用が必要なマンションだと割り切る必要があります。
また、排水管の定期的な清掃を実施していない組合が管理するマンションであり、交換時期が早期になる可能性が高いマンションであることを覚悟する必要があります。
3-5、エレベータの型式を確認する
2009年9月の建築基準法の改正により2つの機能が設置するエレベータに義務化されました。
戸開走行保護装置の設置義務
エレベーターの駆動装置や制御器に故障が生じ、エレベーターの扉が開いたままかごが動き出してしまった時に、自動的にかごを制止するシステムを設置することが義務化されました。
地震時管制運転装置の設置義務
地震等が発生した際に、揺れを検知して自動的にかごを最寄階に停止させることができる安全装置の設置が義務化されました。
しかし、それまでに設置されているエレベーターは交換時に義務化されそのままの状態で運行されています。(同じ機能を付加する設備を設置するエレベータもあります。)
改正された年度から築13年未満のマンションにあるエレベーターは2つの防止機能が無い可能性があります。
各メーカーも既設エレベーターに付加装置を付けることで一定の機能は担保していますが、この点は仲介業者や管理会社に事前に確認しておくことも忘れないでください。
以上5つの確認すべき耐震、設備について説明しました。
不動産会社のチラシや内見だけではなかなか見えない部分です。
5章では大規模修繕工事の時期と修繕積立金について説明します。
目次
せっかめブログ