1章ではマンション管理組合の仕組みについて、2章では規約の重要性について説明しました。
中古マンションを購入する方にはまだまだ確認すべきことがあります。
何といっても人生で1度か2度あるかの高額な買い物です。
購入後の後悔は絶対にしたくありませんよね。
どんなに外観がきれいで立地条件が良くてもマンション生活の住環境の良し悪しは管理組合の運営状況によって変わります。
所詮、人が運用する管理組合です。規約をどれだけ整えても身が伴わなければ意味がありません。
しかし、これを外部から知るには数度の内見や現地を見るだけではわかりません。
そこで皆さんが購入を考えているマンションの管理組合の内情を知る方法について説明します。
1、総会議事録、理事会議事録、月間報告書
管理組合の運営の仕組みは理事長を代表者とする理事会制で運用されている組合がほとんどです。
事務や日常清掃や点検等の実務は、管理組合が委託契約を締結した管理会社に任せていることを説明しました。
この仕組みの中で理事会は、組合員に対して管理組合の運営状況を期ごとに報告する義務があることを管理規約(区分所有法でも定めています)に定めています。これを一般的に定期総会と言います。

そこで報告され話合われた内容は、理事長が「総会議事録」として保管する義務があります。(保管期限は5年)
また、総会議事録は組合員、利害関係者からの請求により閲覧に応じる義務が理事長にはあります。
次に理事会は1~2、あるいは3か月に一度、理事達が集まり理事会を開催します。
この時、同時に管理会社から月単位の管理組合の運用実績を月次報告として受けることが委託契約書に定めています。(報告期間については契約する管理組合と管理会社が協議の上で決定する)
理事会は総会同様に理事長が議事録を作成し保管することになります。
(注)理事会議事録には管理会社の報告内容を含むため、この章では理事会議事録には管理会社の月次報告書を含むと考えてください。
また、管理会社は期毎の総会終了後に1年間の出納や修繕等の記録を管理組合に提出することが決められています。
マンションによっては理事会の議事録のダイジェスト版を各組合員に配布する管理組合もありますが、これについては特に決まりはなく、管理組合の方針によって決定されています。(理事会議事録も組合員は閲覧請求ができる)
このようにマンション管理組合には管理の状況を記録に残すことが定められているわけです。
これらの記録はマンションを購入したいと希望すれば仲介業者(不動産会社)を通して売主から写しを取寄せることが出来ます。
管理規約には売主(組合員)の代理人である仲介業者から請求があった場合、管理規約、総会議事録、理事会議事録を閲覧させることが定められています。
2、財務状況を確認する
理事会議事録や総会議事録には各月毎の出納、定期点検・法定検査、滞納者数を始めとする管理組合の内情が赤裸々に記載されています。

特に総会議事録の資料として添付される決算報告書、賃借対照表、財産目録は管理組合の財務状況を知るための重要な情報になります。
多少の会計や簿記の知識が無いとなかなか財務状況を判断することはできませんが、簡単に議事録から何を評価する必要があるかについて説明します。
管理組合の会計は予算会計と言う方式で行われます。
2-1、管理組合の会計の仕組み
今年の実績を参考に来期の予算を立て、それに従って運営する方式です。マンション管理組合は組合員数、管理費が確定しており、施設使用料(駐車場や駐輪場料金等)に多少の変動はありますが、ほぼ毎月の収入が決まっています。

また、支出も毎年同じ内容を繰返すため、季節による光熱費の変動や突発的な設備の故障等に伴う修理費以外は決まった支出になります。
その上、管理業の実務は管理会社に委託契約により費用が確定しています。
突発的な費用発生についても予備費を計上することで一定の費用には対応できるように考えられています。
予算を通りに運営すれば黒字になる仕組みになっています。
2-2、収支が黒字を確認する
収支報告書は予算に対して実績の期毎に集めた管理費を1年間でどのように使ったかを知るための資料になります。

組合によって書式が異なる場合がありますが、表の構成は右図に示した内容になります。
収入の部と支出の部に分かれて科目ごとに金額の実績が記載されます。
ここで注目することは、収入と支出の差額の収支です。
この金額がプラスであれば予算内で運営されたことになります。
マンション管理組合では黒字運営が一般的です。
赤字になる要素としては、災害等による予備費を超える計画外の修理等による支出があった場合や管理費の滞納者が多く出たことによる管理費不足などが考えられます。
赤字になった場合には、繰越金等の貯蓄の取崩しや管理費の値上げ、組合員から一時金の徴収により赤字を解消する必要があります。

前期の収支報告書と現在の収支報告書(期中でも当期の現在の収支報告書は入手できます。)が必ず黒字で運営されていることを確認してください。
これから購入を考えているマンションの管理組合が赤字経営では、購入後に管理費等の負担が増える可能性が高いことを知ることは物件検討の重要な要素になります。

管理費は借入できない
管理費は金融機関から借入れることが原則禁止されています。
管理費が不足する場合は、管理費の値上げ、あるいは各組合員に共用部分の持ち分比率(議決権の比率)によって一時金を負担させることになります。
ちなみに修繕積立金を管理費に流用することも禁止されています。
2-2、借金の有無を確認する
1年間の収支が黒字でも管理組合の資産額がマイナスでは赤字組合と言うことになってしまいます。
収支報告書は単年の報告書になるため確認できません。そこで重要になる資料が賃借対照表です。

マンション管理組合の一例を右図に示します。
各項目(科目)の内容等は3章 マンション管理会計のチェックポイントはここで確認してください。
チェックするポイントは負債の項目に「借入金」がないことです。
あるいは、正味財産がプラス額になっていることです。
管理費を借入金で充当することはできないことはお話ししましたが、修繕費用が積立金だけでは不足する時には金融機関から借入れることは出来ます。
マンション管理組合として借入れた借入金は組合員全員で返済することになります。
負債の部には期末の借入金残高が計上され、正味財産がマイナスになります。

会計の世界では借金も資産になります。
慣れないと馴染めないかもしれませんが借金も資産に含まれます。そのためマイナスの財産もあり得ます。
借金大王ではありませんが、現金を1億円所持していても、借金が1億円なら資産総額はゼロ円です。借金が5億なら資産総額はマイナス4億円と計算します。
賃借対照表は個人資産でも用いられ方法でファイナンシャルプランの基本になります。例えば5,000万円の自宅を購入、ローン残高が3,000蔓延すると不動産資産は5,000万円、借入金3,000万円となり、総資産は預貯金等を加えた額になります。(総資産=5,000万+預貯金額-3,000万)
*例では不動産の価値が経年で変化することを考慮していません。
ローン残高が徐々に減ると総資産額は増加し、完済で負の資産が無くなることになります。
2-3、繰越金額を確認する
期毎に余った余剰金は、次期に繰越され「繰越金」として組合が管理します。収支報告書の差額が今期繰越金になります。(表1参照)
前期までに管理組合が繰越してきた「繰越金」(余剰金とも言います。)は賃借対照表の正味財産が決算時の組合の繰越金総額になります。(表2参照)
基本的にマンション管理組合の会計は、予算額の支出額を多めに見積もり、プラス予備費を計上するために毎期、少額の繰越金が積みあがります。この余剰金は滞納金を一時的に充当したり、災害等で大きな修繕が必要になった時に使用されます。
原則、余剰金を各組合に還付することはありません。(できない訳ではありませんが集会(総会)において承認が必要)
また、大規模修繕時の工事費に充当することもできます。
マンション購入者は賃借対照表から繰越金額を確認し、組合戸数で割ると一戸当たりの保有資産を大まかに推測することができます。
ただし、繰越金が多ければ良いと言うことはありません。(繰越金が多い場合は管理費が高すぎることにもなります。)一戸当たりの繰越金額は一概に言えませんが50~100万円/戸程度あれば安心できるのではないでしょうか。

繰越金は「へそくり」の感覚
管理費の繰越金は使用目的の自由度があります。これに対して修繕積立金は使途が限定されています。
あくまでも期末に残った額の繰越ですからそれほど大きな額にはなりませんが、大きな失費を伴う購入時に役立ちます。
2-4、修繕積立金のタイプを確認する
1章で説明しましたが、修繕積立金には、設定した目的額を毎月均等に徴収する均等積立方式と5年ごとに段階的に増額する階段増額方式があります。
国土交通省は均等積立方式を推奨していますが、購入時の負担金を少なくしたい購入者の思惑と負担が少ない印象を与えることで購入意欲につなげたい分譲会社の思惑が一致していることもあり、階段増額方式を選ぶケースが大半です。

修繕積立金の増額には総会での普通議決が必要になりますが、5年後の経済状況は各組合員で異なり、反対多数の場合は修繕積立金の増額ができず、結果として修繕工事ができない、あるいは遅れることで建物の劣化が進み、余計な出費につながるケースもあります。
修繕工事を行わなければ建物の老朽化は進行します。結果として外観の低下、各施設の機能不全等を起こし、良好な生活環境が保持できなくなります。
計画通りに実施出来れば、階段増額方式が悪いと言う訳ではありませんが、将来への不確定要素が大きいため均等積立方式を選択している組合を選ぶべきです。
階段増額方式でも計画通りに増額を行っていることは確認すべきです。
2-5、修繕計画の見直しの実施を確認する
修繕計画は竣工時(新築時)に分譲会社、あるいは管理会社が立案した計画です。計画期間は30年、竣工から12年程度で1回目の大規模修繕工事を予定し、その後12~15年周期で工事を繰返す計画が立案されています。(国土交通省が大規模修繕計画の指針を公開しており、各社これを参考に作成します。)

各時期的に実施する工事内容も詳細に示され、各マンションの構造(工事面積、階数など)と使用した材料のランクにから必要な修繕額を算出しています。これを基本に修繕積立金が算出されています。
しかし、計画年数が12年と長いため、物価、建築材料の技術進歩、人件費、社会情勢などによりブレ幅が大きく、概ね5年ほどで見直しを行うべきであるとされています。(国土交通省指針より)
最近の改定では、5年の期間は定期的見直しが行われ、より厳密な計画立案が求められています。
(改正により7年に一度の変更)
築年数が長くなると修繕箇所も増え、当初の計画に大きな変更を加える必要がある組合も多く、まったく修繕計画の見直しを行っていない管理組合では修繕工事の必要性に迫られた時、これまで貯蓄した修繕積立金との乖離が大きく、組合員に一時金を求めるケースもあります。
また、金融機関から借入金で賄うケースもあり、この場合、工事終了後には将来の工事のための修繕積立金に加え、借入金の返済が組合員に大きな負担になります。
このような状態に陥る可能性があるマンションは購入対象から外したいと考えるはずです。
そのために、購入前に修繕計画の見直しの時期を確認すべきです。
2-6、修繕積立金の積立金額を確認する
街を歩いていると足場を組んでマンション全体を布で覆う工事現場を目にすることがあると思いますが、あれは外壁のふき替え等の大規模修繕を行っているマンションになります。(オフィスビルでもやってます。)
期間は2~3か月が一般的ですが工事内容によっては半年以上の工事期間になることもあります。
あれだけ大規模な工事を行う訳ですから費用も大きくなります。
この費用は毎月組合員が修繕積立金で実施されます。
1章でも説明しましたが修繕積立金の適正な価格は各マンションの構造や付帯設備、立地条件等によって異なるため一概に比較することは出来ませんが、国土交通省が示したマンションの規模別修繕工事費実績から算出した参考値と比較することが良い方法です。

各マンションの管理規約内にはマンションの建設延べ床面積が記載されています。
購入したいマンションの建物延べ床面積が【地上20階未満】の横軸上のどの範囲に当るかを確認してください。
売主、あるいは仲介業者から月額の修繕積立金額と購入予定の専有部分の床面積情報を入手してください。
例えば月額24,000円、専有部分床面積72㎡とすると単位面積当たりの修繕積立金は333.3円になります。
グラフからマンションの規模に関わらず国土交通省が示している目安を超えていることがわかります。
購入検討者はこの数値を目安に判断することで管理組合の修繕積立金の適正を把握する材料になります。
*ただし、ガイドラインは均等積立方式を採用している場合に限定されます。階段増額方式では増額幅によって当てはまらない場合があります。

階段増額方式ではどう評価するか?
積立金の算出方法は簡単です。
現在の修繕積立金残金、次回修繕工事費、次回修繕工事までの月数から算出します。導き方は図1に示しました。

購入を検討するマンションの修繕積立金の現状と次回の大規模修繕工事予定年月がわかればご自身で計算できます。
少しでもこの金額を超えていればひとまずは健全な修繕積立金と言えるでしょう。
しかし、足りない場合は将来的に修繕積立金の値上げ、あるいは一時金の要求、最悪ローン負担が増えることを考慮しておく必要があります。
積立方式、見直しの実施、修繕金の計画対する実績の3ポイントは是非、購入前にチェックすべきです。
2-7、滞納額を確認する
管理費、修繕積立金、施設使用料の滞納額は各項目毎に「未収金」として記載されています。(表2参照)
滞納額は当期だけでなくこれまでに累積された滞納額が記載されています。
国土交通省の調査(平成30年マンション総合調査)では、全国の管理組合の35%以上の割合で管理費の滞納者が存在してすると言う報告があります。
この傾向はマンション管理組合の運営が長い程に滞納者が増える傾向にあり、中古物件で特に築年数が経ったマンションを購入する予定の方は十分に確認することが必要です。
滞納額は完済までの期間は繰越金で賄いますが、繰越金を超える滞納額になると管理費が枯渇することになります。

管理組合も滞納状態を容認しているわけではありませんが、長年一緒のマンションに住んだご近所感覚もあり法的措置のような強い督促に進めない組合もあります。この傾向の背景には、組合員の高齢化により収入減少に伴う生活費の不足があり、公共料金や携帯料金のように滞納が使用禁止に直結しないため、不便さを感じないため滞納を放置することも理由にあります。
滞納が慢性化してる組合は、管理組合自体の運営に根本的な問題を抱えている可能性もあると言えるでしょう。
管理費を滞納している場合は修繕積立金も滞納しています。修繕金未払いの人は工事費も負担せずに共用部分を使っていることになります。
当事者は負債の請求はされますが、逃げ回っていれば逃れられる、生活に不自由を感じないと様々な自分勝手なことを考えています。
このような人が複数いればマンションの雰囲気もモラルも何となく推測できるのではありませんか?
2-8、財産目録

財産目録は賃借対照表では現金・預貯に科目されますが、どの銀行に幾ら貯金されているかはわかりません。
各資産がどのように分散され保管されているかを一覧にした書類が財産目録になります。
中古マンションを購入する時点ではこの内容まで精査する必要はありませんが、預貯金以外にもスマイル債等の債権として保管している資産がわかれば、万が一、融資を受ける際に金利の融合を受けることも出来ると言うメッリトがあります。
3、管理会社の質、居住者のモラルを確認する
管理会社の質、居住者のモラルを事前に知るには、内見時に共用部の雰囲気を知ることが重要です。
特にゴミ収集所(ゴミ室)や共用廊下への私物の放置状態は管理会社の質、住民モラルを知る上で非常に参考になります。
マンション購入希望者の内見に同伴することはよくありますが、皆さん事前にネット等で勉強をされ、こちらが指摘する前にご自身で気づかれる方も多くなりました。
しかし、管理人経験者の目でチェックすると次のような部分を確認します。(一例です。チェック項目は20項目以上あります。)
チェックポイント | チェック内容 | 備考 |
共用廊下の放置物 | 自転車、段ボール、配送コンテナーの放置 | 管理組合の運営方針 住民のモラル |
腰壁の汚れ | 黒シミや泥痕の有無 | 管理会社の質がわかる |
資源ごみの仕分け | アルミ缶、金属缶の仕分けが出来ている | 住民のモラルが垣間見れる |
排水溝の汚れ | 共用廊下脇の排水路、排水溝の汚れ | 管理会社の質、あるいは管理人の質 |
掲示物の種類 | ペットの鳴き声等の騒音注意の掲示 | 館内で騒音問題がある証拠 |
また、これ以外に各議事録には住民からのクレームやマンション内で問題になっていることが記録されています。
違法駐車、違法駐輪、騒音問題、ゴミ問題など管理人に寄せられた様々なトラブルは、管理会社を通じて理事会に報告されます。
どのマンションにもひとりぐらいは厄介な方がいると言うのはマンション管理業に携わったこよがある人なら誰でも感じることです。
これは賃貸マンション、戸建てでも町内の問題としてどこにでもあることであり、マンションだけが特別とは言えることではありません。
特定な人を心配するよりは、管理会社の質や管理組合の運営を肌で感じることが重要になります。
4、住民間トラブルを確認する
住民間のトラブルは原則当事者間で話合い、解決することがマンションの基本ルールですが、時にマンション全体を巻き込んだ大問題になることもあります。
管理会社や理事会が調停に入ることもありますが、トラブルの多くは感情的な行き違いがほとんどです。しかし、解決を間違えると拗れてしまいマンション全体の雰囲気を悪化させることにもなります。

なかなか、住民間のトラブルを確認することは難しいことです。
特に管理人を始め、マンション関係者もマンションの評判を落とすようなことは言いません。
これは仲介不動産会社も同じで、事故物件以外の情報を提供する義務はないため、買主の購入意欲を削ぐようなことは伝えません。
マンション内のトラブルは、理事会で話合いが行われる段階まで進んでいる場合は深刻です。
理事会議事録を出来るだけ入手し、問題がないことは確認すべきですね。
アドバイザーは過去5年分の議事録は内容を精査し、過去にあったトラブル等を依頼者に報告することが一般的です。
このように総会議事録、理事会議事録にはマンション管理組合の運営状況や住民のモラルやトラブルを推測することが出来る情報が掲載されていることがお分かり頂けたでしょうか。
この情報は仲介業者や売主から入手することが出来ます。
ただし、情報を正しく理解するにはマンション管理組合の運営に精通した専門家に依頼することが必要です。
購入契約終了後、いざ入居して生活をしたら思った環境じゃなかったと後悔しても簡単に買い換えることは出来ません。
慎重の上に慎重に購入物件を調査、確認することが重要です。
4章ではマンションを購入する前に確認すべき設備についてお話します。
目次
せっかめブログ