管理規約の重要性は理解して頂けましたね。管理規約を守ることに同意したことも再確認して頂きましたね。

この章では、管理組合が行う事務管理を確認します。管理委託契約書とも関りが大きな内容です。是非、理解してください。

事務管理は皆さんの「共同利益の増進」「良好な住環境の保全」のために規定されていることを忘れずにお読みください。

1、管理業務の中身とは何?

管理組合が行うべき管理業務とは具体的にはどのような仕事でしょうか?

管理規約には管理業務そのもの具体的な方法は記載されていません。

管理組合が管理業務の事務を行うことを想定していないと考えられます。

これを裏付ける事実として、標準管理規約は、標準管理委託契約書と同じ時期(1982~)に作成され公開されています。

元々国土交通省は、マンション区分所有者が管理実務を自分たちだけで行うことは難しいと考え、管理実務(事務管理)を委託することを前提にマンション管理を考えていたようです。

そのため、マンション管理組合が行うべき管理業務の中身はマンション管理委託契約書に具体的な事務管理の内容が記載されています。この中身を確認すれば管理業務の具体的な内容を確認できます。

そこで、各分譲会社が管理委託契約書を締結する際の指針とした国土交通省が公開している標準管理委託契約書を用いて契約の中身を確認します。

1-1、「マンション標準管理委託契約書」の契約項目

管理委託契約の契約項目は4つの業務についてです。

  • 事務管理業務
  • 管理員業務
  • 清掃業務
  • 建物・設備管理業務

事務管理業は、基幹業務と基幹業以外に分類されます。

事務管理業務以外は言葉から何となく想像できますよね。

管理員業務は、皆さんの身近な存在である管理人さんが担当する仕事です。受付やゴミ出しを担当する管理員に関する契約です。

清掃業務は、年に何度か行われる共用部の定期清掃に関する契約です。日々の清掃契約も含める場合がありますが、日々の清掃は管理員業務の範囲になります。注意してください。

管理委託契約の項目の構造

建物・設備管理業務は、マンション内にあるエレベーター施設や消防設備など国や地方自治体が定めた検査を行う業務に関する契約です。

イメージがわかない業務が事務管理業務です。それでは事務管理業務をもう少し詳しく確認しましょう。

1-2、事務管理業務とは何か?

事務管理業務は基幹業務と基幹業務以外の業務に分かれます。

標準委託契約書には、各項目別に詳細な内容が設定されています。

以下、標準管理委託契約書では次の項目になります。解説を赤太字で追加してます。

1、基幹業務

(1)管理組合の会計の収入および支出の調停

① 収支予算案の素案の作成

1年間で毎月これだけの管理費等が集まり、この用途にこの金額を使う予定ですが、「区分所有者の皆さんは納得して頂けますか?」と確認して貰うための資料を作成します。

② 収支決算案の素案の作成

予算に対して実際はこんな結果になりましたが、「区分所有者の皆さんは納得して頂けますか?」と確認して貰うための資料を作成します。

③ 収支状況の報告

毎月、予算に対する進捗を示す報告を作成します。

(2)出納(原則方式による場合)

① 甲の組合員が甲に納入する管理費、修繕積立、専用使用料その他の金銭(以下「管理費等」という。)の収納

区分所有者が支払う管理費、修繕積立費を徴収する業務とそれ以外で発生する使用料を徴収する業務を行います。

② 管理費等滞納者に対する催促

お金を支払わない区分所有者等に催促をする業務を行います。

③ 通帳等の保管

繰越金、保険証書、有価証券等のマンション管理組合の財産を預かります。

④ 甲の経費の支払い

管理業務で使用した経費等の支払い業務を行います。

⑤ 甲の会計に係る通帳等の管理

管理費と修繕積立金の通帳を保管すると同時に④の経費の出納が確認できるように帳簿の作成・管理を行います。

(3)本マンション(専有部を除く。以下同じ。)の維持又は修繕に関する企画又は実施の調整

国等が義務化している検査やその他の設備等のメンテナンス、修理などの実施に関する提案を行い日程調整、立会、検収を行います。

基幹業務の(1)(2)が管理組合の会計に関する業務の契約であることがわかります。(3)は設備関係の業務に関する契約です。

2、基幹業務以外の事務管理業務

(1)理事会支援業務

① 管理組合等の名簿の整理

区分所有者の名簿、賃借人の名簿を作成、更新を行います。

② 理事会の開催、運営業務

理事会の開催と関連する業務(月次報告書等、議事録等の作成)を行います。

③ 甲の契約事項の処理

甲が第三者と行う契約に関する事務処理を行います。

(2)総会の支援業務

総会を開催するために必要な仕事を支援します。

(3)その他

① 各種点検、検査等に基づく助言等

法定点検、自主点検についての点検時期、日程調整、作業員の受入れ、立会、検収を行う作業を行います。また、報告書や検査結果の保管を行います。

② 甲の各種検査等の報告、届出

法定点検等の外部機関へ報告、届出が必要な場合は、作業を行います。

③ 図書の管理

施工時に分譲会社から管理組合に譲渡された竣工図や管理業務で発生した資料を保全します。

管理組合が行う業務の膨大な量がわかります。以下、わかりやすくまとめると次の図になります。

管理業務の事務管理業務

事務管理業務は、「会計業務」「支援(保全)業務」「設備業務」から構成されていることがわかります。

1-2-1、基幹業務とは何か?

「基幹業務」の定義は国土交通省が定め、次の3つの業務です。

  1. 管理組合の会計の収入及び支出の調定
  2. 出納
  3. マンション(専有部分は除く。)の維持又は修繕に関する企画又は実施の調整

基幹業務は「会計業務」と「設備業務」の一部業務のことです。

国土交通省は3つの基幹業務のすべてを他の会社に再委託すること禁止しています。契約当事者が基幹業務のすべてを他社に任せるべきではないと判断しているようです。

管理契約締結時点で委託先がわかっている場合は、管理組合の承認を受けた上、その会社名等を契約書に記載することも必要になります。

1-2-2、基幹業務の重要性

区分所有者(組合員)が支払う管理費の会計業務を含む重要な業務であることがわかります。

委任者(組合員)の資金を預かる業務については資金の流失に配慮した方法を別途、マンション管理適正化法に定めています。

徴収した管理費等は収納口座で管理され、日々の経費と管理会社への報酬に充てられ、残金は累積余剰金として管理組合の資産(保存口座)にプールされます。

日々の経費に関する出納は、年度開始時に承認される収支予算計画に基づき行われ、日々の経費は管理会社が帳簿簿記を行い、定期に進捗状況が報告されこれにより監視することできます。

これ以外に組合員の日々の良好な住環境の維持と資産であるマンションの保全として修繕業務が基幹業になります。

組合員の資金と不動産を守るための業務でありいずれの業務も非常に重要であることがわかります。

各業務の詳細は特集2020年9月号 管理委託契約を知る「 2章 標準管理委託契約を知る -基幹業務ー」を参照してください。

1-2-3、基幹業務以外の管理業務とは何か?

基幹業務以外の業務とは「支援業務」と「設備業務」の一部業務のことです。

主に理事会、総会の支援を行い円滑な管理組合の運営をサポートします。

また、設備業務は基幹業務に含まれる設備(保全)業務とは異なり、法律で定められた点検とそれ以外の自主点検を行い、各省庁への報告、届出義務、竣工図等の保管業務になります。

各業務の詳細は特集2020年9月号 管理委託契約を知る「3章 標準管理委託契約を知る -基幹業務以外の業務ー」を参照してください。

1-2-4、事務管理業務のポイント

事務管理業務は基幹業務とそれ以外の業務に契約上分かれ特に基幹業務が重要な資金担保と資産保全に関する項目です。

事務管理業務は「会計業務」「支援(保全)業務」「設備業務」にも分けられることもわかりました。

各業務を確認すると業務には特徴があって、「会計業務」や「設備(保全)業務の一部」は目的(成果物)を明確に示していますが「支援業務」と「設備(保全)業務の一部」にはサポートや助言と言う明確性に欠け、契約者同士の要求内容に齟齬(そご)が発生する可能性を含む業務があることもわかりました。

この点は特に重要でマンション管理業の評価に大きく影響します。(覚えておいてください。)

1-3、その他の管理業務とは何か?

事務管理業務以外に「管理員業務」「清掃業務」「建物・設備管理業務」を規定しています。

1-3-1、管理員業務とは

マンション内の維持管理は現地に管理員を駐在させ、必要な事務(申請など)、日常清掃、記録管理を担当します。

マンション管理業の現場担当者になります。いろいろな業務に関わる大変な仕事です。

管理員業務の管理委託契約への記載方法は、詳細な実施内容を記載している例が多く、出勤時間、勤務日数、休日の指定、日常清掃の箇所、受付業務の種類、点検業務の内容、立会業務の内容、報告連絡業務の内容などが取決められています。

各業務の詳細は特集2020年9月号 管理委託契約を知る「4章 標準管理委託契約を知る -管理員業務ー」を参照してください。

1-3-2、清掃業務とは

共用部の清掃を定期的に専門業者が行う業務になります。

清掃業務の管理委託契約への記載方法は、実施日、実施する時間帯、清掃箇所(建物周辺、建物内部)、作業内容についてはゴミ拾い、掃き掃除、拭き掃除の週の実施回数までも記載されています。

ここまで詳細に記載する理由は、日々皆さんが生活する中で実施され、その上、現地担当者が単独で業務をすべて行い管理会社担当者(責任者)が仕上等の確認をしないことが原因のひとつと考えられます。

掃除等の業務は成果物が明確でないため、行った事実が重要となり結果として利用者が清潔に保たれていると感じることで業務が履行されたと判断されます。言い換えると利用者からのクレームがあった時に最低限、掃除の回数や方法の取決めがないと管理会社は対抗できないためです。

このような契約方法は委託契約ではよくある記載方式です。

各業務の詳細は特集2020年9月号 管理委託契約を知る「5章 標準管理委託契約を知る -清掃業務ー」を参照してください。

1-3-3、建物・設備管理業務とは

マンション内の建物、設備については、法的検査は基幹業務、その他の設備等については日程調整、立会、記録等を業務に含めることでマンション内の修繕記録を保全します。これにより、マンション内の劣化等の情報を管理会社に一元化することが出来、修繕への助言を得ることで良好な住環境の維持を可能にできる契約になっています。

各業務の詳細は特集2020年9月号 管理委託契約を知る「6章 標準管理委託契約を知る -建物・設備管理業務ー」を参照してください。

2、それぞれの法律との関係は?

管理事務の契約内容と各業務イメージはご理解頂けたと思います。

マンションの管理については「区分所有法」「標準管理規約」「マンション管理適正化法」により規定されています。管理委託契約(管理組合の実務)がこの法律とどのように関係しているかを考えます。

管理事務は、「区分所有法」では管理者が行うとしています。

しかし、これを実際に行うと区分所有者の一人への負担が大きなり、また他の組合員の意見集約がやり難い問題点があります。

そこで「標準管理規約」で管理者を理事会制に置き換え多くの組合員の意見を反映できる制度を導入、対外的な代表者として理事長がこれらの業務を行うことに規定しました。

しかし実際にマンション管理の実務を行うと理事長、理事会も管理者同様に大きな負担を負うことになります。

そこで管理業務を管理会社に委託することで負担軽減をした上でマンション管理を行う方法を指針として示しました。これが管理委託契約になります。

委託先の管理会社には「マンション管理適正化法」で委任者(区分所有者)の資金、資産を保全する様々な仕組みを設け、管理会社に義務付けています。

この関係は次のような図に示すことが出来ます。

マンション管理の法律と指針の関係

区分所有法が区分所有者の権利や義務、共用部の管理方法を決め、標準管理規約が理事会制を採用する方法を示しています。

理事長、理事会の実務である管理事務を管理会社へ委託する際の法整備をマンション管理適正化法で行い、その契約書の例を標準管理委託契約書で示しています。

3、分譲直後の管理業務の委託は?

区分所有法、マンション適正化法、標準管理規約、標準管理委託契約の関係はご理解頂けたと思います。

管理委託はほとんどのマンションで分譲直後から提供されるサービス(契約)です。

土地開発会社や分譲会社が管理会社に委託した状況を皆さんは受入れます。あるいは、はじめての総会が実施されるまでの間、あるいは一定期間の条件を付けた管理委託契約を受入れます。

皆さんの手元にある管理規約の附則、経過措置の項目に記載があります。この状態を図に示すと次のような関係が成立しています。

分譲直後の管理委託状態

この状態のことを全部委託管理方式と言います。

この後、はじめての総会が管理会社主導で実施されます。区分所有者の皆さんは総会を開催した経験がまったくありませんから管理会社が正しく導くことが求められます。

総会が開催され理事、監事を選出し理事会制度が発足します。

この時から区分所有者による自主管理が始まりますが、ほとんどの理事は初めての経験になります。管理規約を読むだけで管理業務が行えるわけはありません。当然に管理会社が主導的な立場で補助する必要があります。

これに合わせて、管理委託契約の再契約や更新が行われるのが一般的ですが、管理会社の善し悪し等を判断する知識を区分所有者の方が持っているわけもありません。一般的には管理会社との再契約、更新がスムーズに行われます。

3ー1、管理委託契約の分岐点

管理委託契約の契約期間は1~2年程度の自動更新としている契約が多いようですが、マンション生活にも慣れ、理事等の管理の仕事を少しずつ理解し始めます。また居住者も共用部を使う中で改善点や変更して欲しい内容も実感します。

中には「今の管理会社はどうなの?」「何か管理会社って何もやってない割に管理費高く感じる」「管理員の態度がわるいんだけど」「掃除してるの?」など様々な不満です。この期間は早ければ3~5年程度でしょうか。長い場合は10年以上の場合もあります。

このような感覚がマンション内に生まれるタイミングで行動力のある理事、理事長が就任すると一気にことは動き始めます。(これが実はとても重要なことになります。)

管理会社の変更はそれなりに時間も必要になり、理事会だけで事を進めるには相当の労力が必要になります。この件については別章で詳しく解説します。

この流れで管理会社の変更や値下げ交渉などが行われる管理組合は全体で3割程度あるようです。

その結果、管理会社への管理委託業務内容を限定する方法やすべて自主的に行う管理組合も少数ですがあるようです。

3-2、一部委託、自主管理

業務の全部を委託する全部委託管理以外に一部委託と自主管理があります。

一部委託管理は、必要な業務だけを管理会社に委託し、それ以外の業務を理事会が行う方法です。

例えば、管理員は理事会が雇用するケース、清掃業者は理事会が直接契約をするなど決まったパターンはありません。設備等の修繕保全は管理組合が直接に業者に依頼することで管理費の低減を行うなど各管理組合で自分たちに適した方法で管理を行う場合もあります。

全部委託より手間はかかりますが、経費を削減できることもあり、高齢者になった区分所有者が組合員のために行っているケースはよく聞きます。

自主管理は、管理会社と管理委託契約をせずに区分所有者が管理のすべてを行っている組合です。

理事会の強力な推進力が必要になります。マンションの受付や清掃なども管理員と雇用契約を結び、マンション管理士などの第三者を理事に加えるなど工夫をしている管理組合が多いようです。

自主管理ができる組合は住民の結束が強く、運営が上手くいっていることが多いのですが理事の負担が大きいこと、一度体制が崩れると再結束が難しいなどの問題もあります。

ほとんどの管理組合はこのいずれかの方法でマンション管理を行い、「共同利益の増進」と「良好な住環境の保全」を行っています。

4、まとめ

第4章では、マンション管理の具体的な内容を確認するため国土交通省が指針として公開している「標準委託契約書」から管理業務を確認しました。

管理業務は煩雑な作業が多く、理事会だけで運営することにはかなりの労力が必要になり、専門家である管理会社に委託することは必要なであることも確認しました。

管理会社への委託契約は「マンション管理適正化法」により資産の分別管理が義務化され、区分所有者の資産の保全を行う制度により担保されていることも確認しました。

このように国は「区分所有法」「マンション管理適正化法」「標準管理規約」「標準管理委託契約」によってマンション共用部の区分所有者等の利益の増進と良好な住環境を確保する制度が確立させていることはお分かりいただけたと思います。

しかし、いくら制度が整っていてもあくまでも制度はルールです。運用時には様々な問題が発生します。事実、分譲後に契約した管理会社の一定数は再契約が出来ず、他社に契約を変更されています。

なぜ、そのような事態が起こるのか?何が原因で起こるのか?次回の特集ではこの点について様々な調査報告書のデータから考えてみます。

せっかめメモ
不動産、マンション豆知識

マンション管理業って何?

分譲マンションの管理者が行うべきマンション管理業務を委託契約で行うことです。

区分所有者が自身で行うマンション管理はマンション管理業には該当しません。

有償、無償に関わりません。もともと委任契約(委託契約)は無報酬が原則です。契約書に別途、報酬を記載することで有償で行うことが出来ます。

マンション管理業は国の登録制度が導入されています。これは2000年に施行された「マンション適正化の推進に関する法律」(略してマンション適正化法)によって規定されました。

「マンション適正化の推進に関する法律」はなぜ出来たのか?

この法律が整備される前に起きた事件があります。あるマンションの管理業者が倒産しました。当然、契約していたマンション区分所有者は管財人に管理費、修繕積立金の返還を要求しましたが、自己財産と分別せずに保管していたため、すべて債権者に支払われ後であり、区分所有者は修繕積立金等のすべてを失う事態が発生しました。

これ以外にも悪質な管理会社が自己資産との分別管理が義務化されていないことを利用して、管理組合の監理費、修繕積立金を着服した事件も幾つか起きていました。

これらの件を受けて国土交通省は法整備を行い、「マンション適正化の推進に関する法律」が施行されました。

これ以降、修繕積立金を失うような悲惨な事態はなくなりました。

マンション管理適正化法ってどんなことを決めているの?

自己資産と預かり資産の分別管理を基本とする運用マニュアルを作成し、毎年、国土交通省に財務を報告させることを義務化しました。

この法律でマンション管理業が登録制に変更し、次の項目を登録要件にしました。

 ● 登録の義務づけ
 ● 管理業務主任者の設置
 ● 業務規制(重要事項説明、委託契約書面交付義務、修繕積立金等の分別管理)
 ● 情報開示(管理実績 、財務諸表等)

それまではマンション管理業は登録制度はなく、自由に誰でもなれました。

これ以外にマンション管理士を国家資格(それまでは民間資格)に昇格させ、理事会のコンサルティングができる能力がある者と定めました。

これ以外にもマンション管理のサポート役に国、地方自治体の役目を明記し、国としてマンション管理をサポートする体制づくりをしました。

管理業務主任者とマンション管理士の違いは何?

いずれの資格も国家資格です。管理業務主任者は管理業社が業務を行う際に配置することが義務付けられています。また、管理業務主任者はマンション管理組合との委託契約の責任者になります。

そのため、管理委託契約を締結する前に、委任者(組合員)に対して重要事項説明書への記名押印、説明責任があります。

よく勘違いをされている方がいますが、管理業務主任者に管理業の実務を行う義務はありません。あくまでも契約内容を約束し、説明する役目になります。立場的には管理会社と雇用関係にあります。

これに対してマンション管理士は管理組合をサポートする業務です。管理会社と協力する場合も対峙する場合もあります。

立場的には管理組合と契約関係にあります。

管理会社の顧問役として契約しているマンション管理士もいますが、マンション管理士は中立の立場であり管理会社サイドで業務に従事するべきことに違和感は感じる方々がいます。しかし、コンサルタントとして管理会社を導く意味では法的に問題はありません。

管理費等の管理方法は大丈夫なの?

国土交通省は管理費、修繕積立金の分別管理を明確にするため管理の具体的な方法を3種類提示し、どの方法を選択するかを明確に開示することを求めています。

以下具体的な方法です。

管理組合、管理会社が徴収に使用する「収納口座」と「保管口座」を法律に規定しました。

収納口座:マンションの区分所有者等から徴収された修繕積立金等金銭又は第1項に規定する財産(管理費用に充当する金銭)を預入し、一時的に預貯金として管理するための口座をいう。

保管口座:マンションの区分所有者等から徴収された修繕積立金を預入し、又は修繕積立金等金銭若しくは第1項に規定する財産の残額(第2項第1号イ若しくはロに規定するものをいう )を収納口座か 若しくは第1項に規定する財産の残額(第2項第1号イ若しくはロに規定するものをいう。)を収納口座から移し換え、これらを預貯金として管理するための口座であって、管理組合等を名義人とするものをいう。

収納・保管口座:マンションの区分所有者等から徴収された修繕積立金等金銭を預入し、預貯金として管理するための口座であって、管理組合等を名義人とするものをいう。

非常に分かりにくいですよね。簡単に説明すると日々の管理費を管理する収納口座、修繕積立金を管理する保管口座、収納と修繕積立金を同一に管理する口座を定義しています。

その上でキャッシュフローを3方式に取決めました。

皆さんが基幹業務の会計業務を契約している管理委託契約書には必ず(イ)(ロ)(ハ)の方法が明記されています。

第87条第2項第1号 イ の方法

国土交通省資料より出典

この方法は、収納口座に管理費と修繕積立金を一括して徴収します。その後、必要経費を収納口座から支払います。

翌月末に口座残高を保管口座に移管します。これを毎月繰返します。

管理会社が引出せる収納口座の最大残高は1カ月分の管理費と修繕積立金になります。この金額を管理会社は保証として保険会社等と契約します。

これで皆さんの資産は守られる仕組みです。

第87条第2項第1号 ロ の方法

国土交通省資料より出典

この方法は、収納口座に管理費と修繕積立金は別々に徴収します。管理費は収納口座、修繕積立金は保管口座に徴収します。

収納口座から当月の支払いを行い、残高は翌月末に保管口座に移管します。これを毎月繰返します。

管理会社が引出せる収納口座の最大残高は1カ月分の管理費になります。この金額を管理会社は保証として保険会社等と契約します。

これで皆さんの資産は守られる仕組みです。

(イ)とは保証額が異なりますが、別々の口座に引き落す必要があり作業は煩雑になります。

第87条第2項第1号 ハ の方法

国土交通省資料より出典

収納口座と保管口座を区別しない方法ですべてを1つの口座で管理します。管理費と修繕積立金は一括して徴収します。

毎月の経費もこの口座から行います。そのため月の残高はそのまま貯蓄されます。毎月残高が増加するため、管理会社の保証額もそれに合わせる必要がありますが、その費用だけで大変になります。

そこで、管理会社が自由に口座から現金を引き出すことが出来ない仕組みとして、管理会社に通帳と印鑑のいずれも預けることを禁止しています。

これで皆さんの資産は守られる仕組みです。

この方法は、経費の支払に遅れが発生する可能性があります。

管理組合の保全について

理事の中に悪事を働く人がいるとは思いたくありませんが、制度上安全な仕組みづくりは必要です。

お金に困ると何をやるかわからないってこともあります。

そこで、管理組合も印鑑と通帳を理事長と他の理事に分けて保管することが必要です。また、毎月の収支報告書の確認は必要です。

それでも悪事は起きる!

皆さんの資産が保全される仕組みは理解しましたか?しかし、悪事を働く人はいます。

理事長が勝手に書類を偽造、通帳の再発行を行い、管理費等を着服した事件が起きたことがあります。

印鑑とキャッシュカードが禁止

修繕積立金を保管する保管口座、収納・保管口座については、管理会社が印鑑とキャッシュカードなどの現金を単独で引き出すことができる証明を預かることを禁止しています。

重要な出金指示書!!

収納口座からお金を引出すには理事長の承認が必要になります。一般的な方法としては管理会社の担当者が領収書ごとに理事長に対して収納口座からの出金を認める「出金指示書」を発行します。これに理事長が記名押印を行い返却します。

担当者は「出金指示書」を金融機関で処理します。この記録を簿記に記録することで出納を行います。

重要な口座残高の確認

年度末に収納口座、保管口座、収納保管口座等の管理に使っている口座の残高証明を理事会に提出します。簿記の記録、会計帳簿の記録との整合性の確認を行うことで会計管理の保証を担保します。

1円でも差異があれば大変な事態になります。

出納って何?

金銭、物の出し入れのことでマンション管理組合では支出と収入のことです。

マンション管理組合の収入は、管理費、施設使用料、利息が主になります。

支出は、共用部光熱費、管理報酬、修繕費、備品購入、清掃費などマンション共用部管理に支払った金額です。

出納業務は、支出と収入を現金、通帳などで管理する業務になります。この中に出納帳簿の管理も含まれ、収入と支出の記録方法が簿記です。

簿記って何?

長年の商業の中で生まれた取引に伴う品物や現金の流れを記録するための手法です。一般には企業や事業主の資産・負債・純資産の増減を管理するために用いられます。

特に何か理論があるわけではなく、帳簿の書き方のルールです。そのため、慣れないとなかなか内容が理解できないかも・・。

「仕訳」「仕分け」とか聞いたことありますよね。あれです。マンション管理に用いられる簿記は4級程度のもっとも簡単な書き方のルールです。商業系の高校生が授業の一環として受けるのかも。

法定点検って何?

車に車検があるようにマンションにも国(法律で決められている)や自治体が定めた点検義務があります。

表にすると次の項目になります。

点検名内容法律
特殊建築物定期調査3年に1回建築基準法
建築設備定期検査1年に1回建築基準法
昇降機定期検査1年に1回建築基準法
消防用設備点検機器点検:
6カ月に1回
総合点検:
1年に1回
消防法
法定点検

これ以外にマンション内にタンク等を用いた給水設備があれば水道法で決められた点検があります。汚水処理槽、ディスポーザー処理槽、自家発電装置(50W以上)が設置されていれば定期点検と報告義務があります。

特殊建築物って何?

マンションは特殊なの?って思いますよね。これは建築基準法(国土交通省管轄)が建物の用途別区分に使用している名称です。

マンションは共同住宅に分類され、3階建て以上、300㎡以上の建物が指定されます。そのためほとんどのマンションは特殊建築物です。

類似した名称に特定建築物があります。これは衛生上の観点から指定される名称でマンションは含まれません。不特定多数の人が利用するトイレがある3000㎡以上の床面積以上の建物です。デパート、店舗、図書館、劇場などです。

メンテナンスとは違うの?

メンテンアスは任意点検と言われます。故障や破損が起きないようにすること、性能を初期の状態に維持することを目的に行われる作業です。

自動ドアは動かなくなると非常に不便です。そのため一定期間ごとに部品の交換を含めて状態を確認する必要があります。

設置された設備にはメンテナンス契約が導入時から契約されているケースもあります。

修繕って何?修理と何が違うの?

同じ意味です。壊れたり性能が落ちた設備類を初期の状態に戻すこと。ここで重要なことは初期の状態に戻すことです。

初期の状態ではないけど動くようにすることは補修と言い区別しています。ついでに、改修は初期以上の性能まで価値が向上することです。

マンション管理では区別して使うことが多いので覚えておくと便利です。

マンションの大規模修繕工事は初期の状態に戻す工事になりますが、マンション住民の同意があれば価値を向上させる改修工事も行うことが出来ます。

管理組合員等の名簿って何?

管理業務で示しているマンション管理組合員等の名簿とは区分所有者の名簿と賃借人の名簿のことです。一般的には区分所有者名簿と賃借人名簿は別に管理しているケースが多いようです。

これとは別に居住者名簿を作成している管理組合もあります。区分所有者の方は個人保護法を気にされて居住者名簿に協力的でない方も多いようですが、管理員の立場で言うとあると非常に安心できます。

例えば、災害等があった時の確認に必要です。また日々の管理でもマンションキーを忘れてマンション内に入れないお子さんは結構います。その時にお部屋番号とお名前を確認できるとこちらも安心して保護できます。

管理会社は個人情報保護法の対象なの?

個人情報保護法は改定前は情報保管件数により対象事業所を指定していましたが、改正により件数ではなく個人情報が名簿に整理されている事業団体は規制対象になる変更が行われました。

管理会社は個人情報保護法の規制団体に含まれます。そのため、名簿の管理については管理員を含めて全社内で社員教育を重ねています。

ショップのメンバー登録は簡単に行う方もマンション名簿とかには神経質になっている感覚が不思議に感じます。

管理会社って幾つぐらいあるの?

平成27年年度末、国土交通省の調査では2,185社と発表されています。また、全国のマンションストック数は665万戸(令和元年調査)と発表されています。管理会社1社あたり単純に300管理組合程度の管理業務を請負っている計算になりますが、実際の受託組合数は毎年公表されています。

会社名受託管理組合数
日本ハウズイング8,466
大京アステージ7,626
長谷工コミュニティ3,613
東急コミュニティー5,198
三菱地所コミュニティ4,350
大和ライフネクスト3,916
合人社計画研究所4,164
三井不動産レジデンシャルサービス
2,391
住友不動産建物サービス1,879
2020年受託戸数ランキング

*受託戸数ランキングより管理組合数を掲載

上位にランキングする管理会社の受託管理組合数に驚きますよね。

管理費って相場はあるの?

難しい質問ですが、統計で算出された相場はあります。なぜ、難しいかと言うと管理組合ごとにマンション内の設備が異なります。例えば住民専用のスポーツ施設や談話室があるなど、また空間にゆとりがある設計であれば共用部の光熱費等も高くなります。一概に同じ規模(戸数)の管理組合でも同じとは言えません。そのため平均値にあまり意味があるとは思えません。

平成30年、国土交通省の調査では以下のような調査報告があります。

駐車場使用料等からの充当額を除く月/戸当たりの管理費の額の平均は 10,862 円である。形態別では、平均は、単棟型が 10,970 円、団地型が 10,419 円となっている。

団地型は複数の棟の管理組合があり、各管理組合の区分所有者が同じ団地敷地を共有しているケースが該当します。

皆さんが毎月支払っている管理費と比較していかがですか?先ほども述べましたが単純に比較しても意味はありませんが、相場観としての目安程度にはなるはずです。

委託契約はどの方法が多いの?

全部委託が多いですね。

やっぱり皆さんは管理業務に時間を費やすことを嫌うようです。お金で済むならそれで良いと思われているのかな~。でもその気持ちはわかります。

だからこそ、管理費のコストには敏感になりますね。


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