コロナ禍になり管理費等の滞納者が急増しています。

その影響で当事務所にも多くの理事会から滞納者への滞納についてご質問が寄せられています。

そこで近年、管理費等の滞納者への有効な方法として少額訴訟が用いられています。

弁護士に委任することなく、理事長(主に)が直接訴訟でき、費用が安価で裁判の期間も短期間で済むことがその理由です。

この章では、少額訴訟の方法と実用性について説明します。

少額訴訟は。60万円以下の債務について債権者であれば誰でも訴訟を起こすことが出来ますが、マンション管理組合の場合は規約を確認する必要があります。

1、管理規約を見直す

3章で理事会(理事長)の判断で管理費等の訴追を決定するための管理規約の変更点についてお話ししました。

これを設定することで滞納を法的に回収しようとした時に円滑な訴追を可能にします。

確認も含めてもう一度整理します。

標準管理規約が公開された後に、管理規約を採用している組合では規定されていますが、高齢者が多くなっている築年数が長い組合では記載がない例も多く、必ず確認してください。

1-1、理事会に権限を与える

支払督促も含めた裁判所への法的請求は、集会(総会)の普通議決が必要になります。

しかし、標準管理規約ではこれを理事会でも行うことが出来ると規定することもできるとしています。

組合員の代表者に委任することもできるとしていますが、ただし、管理規約への記載が必要になります。具体的には次のように標準管理規約5節、54条に記載されています。

★標準管理規約から抜粋

(議決事項)
第54条 理事会は、この規約に別に定めるもののほか、次の各号に掲げる事項を決議する。

第60条第3項に定める未納の管理費等及び使用料の請求に関する訴訟その他法的措置の追行

第60条3項に定めたのは管理費等の徴収についてです。

管理費等の徴収については、皆さんの現在のマンションを購入した時に管理規約の内容に承認することに同意し、記名押印した承認書が効果を持ちます。

この承認書は売買や相続等により権利を継承した者にも有効です。

この規定を記載することで、訴訟等の措置の判断を理事会に委任ができます。

法人化していない管理組合では管理組合が訴追者になることはできません。

そこで7節、60条で理事長に代表者になる権利を与えています。 (次の項目で確認できます。)

1-2、遅延損害金、違約金を設定

次に滞納金への遅延損害金と違約金の設定を行います。

この項目は標準管理規約では会計の章に記載されています。

皆さんの規約も会計をチェックしてください。(標準管理規約では7節、60条に記載されています。)

★標準管理規約から抜粋

(管理費等の徴収)
2 組合員が前項の期日までに納付すべき金額を納付しない場合には、管理組合は、その未払金額について、年利○%の遅延損害金と、違約金としての弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用を加算して、その組合員に対して請求することができる
理事長は、未納の管理費等及び使用料の請求に関して、理事会の決議により、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行することができる。理事長に権限を与えている部分です。)
4 第2項に基づき請求した遅延損害金、弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用に相当する収納金は、第27条に定める費用に充当する。

遅延損害金と違約金を別に規定していますが、この違いについてせっかめお役立ち情報(右フレーム)で確認してください。

遅延損害金は規約に記載が無い場合でも一般的に法定金利を基準に裁判で認められるケースが多いようですが、弁護士費用等の違約金の項目は規約への明文化が重要になります。

1-3、所轄の裁判所を指定する

債務者(滞納者)がマンション在住の組合員であるとは限りません。

遠方に住んでいる場合、離れた場所の裁判所で審理が行われると出廷するだけでも大変になります。

また、万が一、弁護士に依頼する場合でも地域が離れていると意思疎通がしにくく、場合によっては出張費なども加算されることもあります。

これらの懸念を無くすために管理規約には合意管轄裁判所について明記されていることを確認してください。

この記載があれば、皆さんの管理規約に署名、押印した組合員は指定された裁判所に申立てを行うことになります。

標準管理規約では8節、68条に記載されています。

★標準管理規約から抜粋

(合意管轄裁判所)
第68条 この規約に関する管理組合と組合員間の訴訟については、対象物件所在地を管轄する○○地方(簡易)裁判所をもって、第一審管轄裁判所とする。
2 第48条第十号に関する訴訟についても、前項と同様とする。

以上3点が皆さんの組合が円滑な滞納者への法的措置を行うために必要なマンション管理規約に定めるべき最低限のチェックポイントです。(3章の内容と同じです。)

*歴史的な背景

1982年(昭和57年)に国土交通省が標準管理規約を公開しました。これ以降に設立された管理組合の規約は標準管理規約に準じているケースが多くなります。築年数で言うと39~40年より新しいマンションになります。この場合、滞納者への法的措置に対応していると考えられますが、管理組合、あるいは分譲会社、管理会社次第で異なります。特に築年数が40年を超える場合は、管理規約を確認してください。

規約の見直しは訴訟後でも可能

遅延損害金や違約金の規定がない場合でも訴追後に規約に設定すれば請求することもできます。

また、 遅延損害金については規約に明文化されていなくても法定金利は認められる判例は多くあります。

訴訟における理事会と理事長の役目

理事会は訴追の判断を行い、訴追を決定する役目を持ち、理事長は組合の代表者として訴追人になることができるようになります。

また、理事長以外の組合員から代表者を選定することもできますが、この場合は総会での議決が必要になります。事前に規約に理事長以外の人を指定することも出来ますが、その場合は規約の改定が必要になります。

法人化された管理組合であれば、法人が訴追者になります。

理事長に限定されるのか?

1-2に記載した60条3項に「理事長」と規定した場合は理事長に限定されます。

理事長は役職であり、任期があります。そのため理事長は一定期間で変わるのが一般的です。そこで役職を指定」することで個人が変わっても規約を変更する必要がありません。

規約の条文を「理事長、もしくは副理事長」と規定すればどちらでも可能になります。

遅延損害金の利率について

特に利率の制限はありませんが、あまり高利になる利率の設定は裁判で認められないケースが多くあり、近年は法定金利をベースに最大でも20%程度を上限に設定されているケースが多いようです。

違約金は約束違反への懲罰的要素

滞納しても遅延損害金を加算して支払えば組合は実損はありません。その意味で遅延損害金はもし、約束通り支払われていた時と仮定した時の実費損失を相手に請求する意味になります。

これに対して弁護士費用やその他の徴収にかかった費用は、債務者が支払いを行わないことにより、債権者(管理組合)が余計な費用と時間を使い発生した実害であり、管理規約で契約した内容に違反した結果、発生します。この約束違反に対するペナルティーとして規約に掲載します。ペナルティーと覚えておくと良いでしょう。(損害賠償とは違います。)

回収できた管理費等の会計処理

滞納した管理費、修繕積立金、施設使用料はそれぞれの会計に補充されます。これ以外に弁護士費用等の違約金、遅延損害金は管理費に充当します。

標準管理規約は常にチェックする

標準管理規約は国土交通省が社会情勢によって改定を行っています。昨年からのコロナ流行により、理事会や総会の開催を延期、中止される事態が受け、今年、リモート開催を標準化できる規定、「ITを活用した理事会、総会について」を追加しています。

また、これ以外に「置き配を認める際の留意点」「専有部分配管の工事を共用部分配管と一体的に行う際の修繕積立金からの工事費の拠出について」等を追加しています。

このような情報は、国土交通省から発信されていますがなかなか個人の組合員が速やかに入手する出来ない状況にあります。

管理会社や顧問マンション管理士などが積極的に広報することでより良い住環境の整備を進めるべきでしょう。

2、滞納回収のマニュアル作成

マンション管理組合で滞納者への回収マニュアルを整備している組合は少なく、組合員は管理費等の滞納をしないと言う性善説によって運営されています。

しかし、管理費等の滞納は本人の意志とは無関係に日々の生活の中で誰にでも起こり得る事態です。また、一度発生すると、滞納の解消は当事者に委ねられ、組合が解決に踏み切る時には事態は解決が難しい状況になっているケースが多くあります。

その上、滞納の解決は理事会、特に理事長に労力の負担を強いる結果になり、理事長の考え方次第でその対処方法には差が生じます。

そこで、滞納に対する対応マニュアルを組合として事前に準備することで、管理費等の滞納処理を組合員で合意することにより、管理費等の重要性、解決法の共通認識と理事長の負担軽減を実現できます。

マニュアルは使用細則として、あるいは組合管理規約として決定することをお勧めします。(滞納者対応細則とでもすれば良いでしょう。)

2-1、時期別督促方法を決定する

マンション管理運営で管理費等の滞納への督促方法はある程度、書物やサイト情報として整理されていますが、どれも一般論であり、いざ管理組合が督促を行うとなると理事長の主観や管理会社のアドバイスにより意思決定がされているのではないでしょうか。

どの程度なら猶予を認めるのか?どんな事情であれば認めるか?などその意志決定には個人のプライバシーにも大きく関わる部分を含んでおり、不確定要素が多い中決定されます。

一般的な管理費等の時期別督促方法は概ね次のようになります。

各督促・回収時期は各組合で異なると思いますが、理事会の姿勢に依存しているのではないしょうか。

2-2、滞納月毎に対応内容を明文化

マニュアルではこの時期を明確にします。滞納者の状況に関わらず、次のように理事会は実施します。

2-2-1、滞納月数1~2か月

管理会社から支払い督促の送付、訪問、電話などにより支払いをお願いします。これは管理委託契約範囲内であり、理事会は報告を受け対応を判断することになります。

滞納者の事情により、この期間は一定(3か月)程度の猶予期間は理事会の判断に委ねられることも明文化すると良いでしょう。猶予期間の記載がないと無制限の猶予につながります。滞納理由や事情によらず3か月を目途に次の行動に移行することも記載すべきです。

これ以降、毎月開催する定期理事会で督促状況の報告を受け、議事録に記録することもマニュアルに記載します。

また、遅延損害金は多くの組合は、裁判になるまで求めていないようです。

3か月以内に支払ったからそこまでは求めないと言う理事がほとんどです。

一定月数以内であれば、理事長や理事会の裁量で免責することもできると記載しても良いでしょうが、実際、1カ月でも遅れたら延滞損害金を請求することも可能であり、これによりうっかり滞納を防止する効果も期待できます。

2-2-2、滞納月数3か月

滞納月数が3カ月を超えた場合、理事会が当事者から事情を直接聴取する必要があります。管理会社からの間接的な報告では明確ではない点もあります。

ただし、この際は、理事会のような複数の前に呼び出すべきではなく、理事長、副理事長や会計担当など少数で個別に話を聞く方が良いと思います。

ここで重要なことは、滞納事情に関わらず理事会はマニュアルに従い督促行為を進めすことを相手に伝えることです。

2-2-3、滞納月4カ月

滞納月数が4カ月を超えた場合は、内容証明による督促と資産調査を行います。

内容証明には4カ月分の遅延延滞金を計上します。

資産調査は区分所有物件(住所と所有者が明確である)について調査します。

調査結果は理事会内で情報を保有し、組合員に公開すべきではありません。

また、併せて区分所有物件の市場価格を調査します。これについてはせっかめのお役立ち情報を参照してください。

内容証明は、1カ月の支払い猶予期間と期間を過ぎた場合、法的措置に移行することを明記します。併せて理事会は少額訴訟の準備を行います。

少額訴訟の準備は訴状の作成と添付資料ですが、訴状はそれ程難しくありません。サイトで調べれば雛形を含めて多数の作成例が見つかります。

添付資料として必要になるのは次の3つです。

  • マンション管理規約の原本のコピー
  • 内容証明のコピー
  • 督促行為を記録した理事会議事録
2-2-4、滞納月5か月

少額訴訟に移行します。規約に指定した所轄の簡易裁判所で手続きを行います。

簡易裁判所へは理事長が行くことになります。日当や交通費の支給をマニュアルに記載します。

準備した書類のチェックを受け、手続きが終了します。後日、原告(理事長)と被告(滞納者)に裁判の日程が通知されます。

ただし、書類に不備があればもう一度、行くことになりますが、書類のチェックはかなり親切に教えてくれます。(一番最初に行う理事長が苦労しますが、その後の理事長はこれをまねるだけです。)

裁判は原則、1回です。

通知された裁判日で終了します。受理されてから1ヵ月程度で結審することが想定されます。

滞納者が「異議申立て」を行った場合は普通訴訟に変更になります。

この時点で弁護士を探す必要があります。管理会社やマンション管理士に紹介を受けると良いでしょう。マニュアルに特定の弁護士を指定する必要はなく、あくまで紹介を受け、弁護士に委託契約を行う準備を進めると記載します。

2-2-5、滞納月6か月

少額訴訟が実施される月になります。

滞納者の対応は幾つかに分かれます。

支払能力がある滞納者は、この段階で支払いを履行するケースも多くあります。(他の金融機関などで工面しても支払うケースも含めます。)

この場合、提出した裁判所に少額訴訟の取下げ請求を提出します。これで管理費等の滞納は解決します。

滞納者が分割支払いを含めた話し合いを求める場合もありますが、これは裁判の場で行うべきです。

第三者の立会いなしに理事会と当事者間で取決め、文章として残すことはお勧めしません。(法的な契約書と成立はしますが法的効力が弱い)

もし、当事者間で行うのであれば執行承諾付公正証書として残すべきです。(債務名義が得られ、差押え請求が容易)

*裁判官から和解の提案が行われることもあります。その場合は和解文が判決文と同じ効果を持ち、時効もこの和解日から発生します。また和解内容を履行しない場合は強制執行ができます。

相手が普通訴訟で争うことを求めた場合は、弁護士との委託契約を行います。裁判の期間も1年程度は見込む必要があります。

2-2-6、支払う能力がないと判明した時

少額訴訟で滞納者が支払い能力がないと判明した時は、管理組合は2つの選択肢から選ぶことになります。

競売まで進めて管理費等の回収を目指す

この場合は組合が主体となり競売の準備を進めますが、これには管理費等の滞納が管理規約66条規定に定めた「区分所有者の共同の利益に反する行為」に適応することを全体集会において議決権の3/4以上の同意を得る必要があります。

しかし、実際には競売の主体は抵当権者が行い、管理組合は配当金により管理費等を回収することになります。そのため、この状態になった時は、抵当権者(金融機関、あるいは保証会社)に債権を有していることを連絡します。

管理組合が先取特権等の他の法的措置を行っても結局、競売による配当金は抵当権者には優先しません。結果として競売後の配当金に残金があれば回収できますが競売価格がローン残高に満たない場合、次の区分所有者に請求することになります。

このような理由からマンション管理組合が管理費等の回収を目的に競売まで行うことは現実性がないと考えられています。

権利承継者への請求に備える

明らかに競売でも債務の回収が出来ないと判っていれば、余計な労力は使うべきではありません。

この場合は、抵当権者、および競売を行う裁判所にこの物件には管理費等の滞納金があることを上申します。

落札者が「知らなかった」と言う事態を避けるためにも必要な行為です。

また、法的措置中に滞納者が自主売却を行う場合も想定すべきですが、宅建法には、売買契約時の重要事項説明にマンション管理費等の債務についても報告義務があります。宅建業者からの問合せに対応できるように滞納に関する資料を準備しておくべきです。また売買契約終了後、区分所有者の届出があった時に請求することを伝えます。

いつ競売手続きが始めるかを知るには?

抵当権者が「抵当権の実行手続き」に入ると登記に「差押」が追加されます。また、公告により一般に公開されます。所轄裁判所は競売物件の所在地の所轄裁判所になります。手間ですが公告を日々チェックする。あるいは登記を一定期間ごとに確認する必要があります。また、抵当権者に連絡を取り知らせてもらうことも可能です。

これ以外にも全国の競売物件を検索できるサイトがあります。これを利用することも出来ます。

マニュアルの効果

組合として滞納者へのマニュアルを設定することは組合全体に緊張感を与えます。特に「少額訴訟」で解決すること、普通訴訟も辞さない態度を示すことは非常に重要です。

マニュアルの合意は意外にスムーズ

合意には普通議決で制定が可能な使用細則として決めることをお勧めします。

規約として決めても良いですが、特別議決が必要になります。

誰も自身が滞納者になることは想定していません。

また、管理費等の滞納は組合の運営や資産維持に悪影響を及ぼすことは承知しています。

滞納問題を管理組合で抱えることは決してプラスにはなりません。

そのため、適切な処理に反対する組合員は少なく、使用細則、あるいは規約に規定することに反対する人はほとんどいません。

使用細則は普通議決で大丈夫?

規約は特別議決により改定を行うことが決まられています。しかし、使用細則は内容によって普通議決、特別議決による議決とされていますが、その境界線の定めはなく、滞納者への対応マニュアルは、区分所有法でも定められた権利です。普通議決で十分と考えます。もし、不安があれば特別議決で規定すべきです。その場合は、規約に追加する方が良いでしょうね。どちらでも先に述べた理由により苦労せずに規定はできるはずです。

物件の市場調査

物件の市場調査は不動産会社に問合せします。例えば自分の物件(マンション)を売買した時、幾らで売れるかを聞くことです。

皆さんのマンションにもポストに不動産売買の広告が投函されていると思いますがその会社に聞けばおおよその売却価格を知ることが出来ます。

また、管理会社に調査をお願いすることも良い方法です。多くの管理会社はグループ内、あるいは他部署に不動産部門を所有しています。その関係者を通して調査を依頼します。

間取りのタイプや角部屋等で価格が異なるため、滞納者のマンションタイプ(間取り、専有部面積)は規約で確認できます。

抵当権と売却価格の関係を推測

滞納者の現在のローン残高を正確にすることは金融機関関係者でなければわかりませんが、一定の仮定を想定することで推測することはできます。

マンションを購入した時、住宅ローン会社(金融機関を含めて)が抵当権を設定しますが、その金額は登記されます。

この金額を基本とします。仮定するのはローン契約年数と金利です。金利は固定、変動によって異なりますが、推測する上で重要になるのはローン契約年数でしょう。30年、35年など様々です。

抵当権の設定日がローン開始年度となり、現在までの年数から、ローン残高がどの程度あるかを推測します。

簡単な見方としては30年ローンであれば15年で概ね半分が返済されていると言うことでしょう。これは元利均等、元金均等でも同じです。

新築マンションから入居している場合は、築年数と支払い年数が同じになります。

あくまで推測ですが、ローン残高と売却価格の関係から法的措置の有効性を判断する基準になります。

少額訴訟の訴状の書き方

マンション管理費等の未払いは金銭の未払いに相当します。決まった書式はなく、必要な項目の記載があれば訴状として成立します。

  • 原告(申請者)
  • 被告(滞納者)
  • 請求の趣旨(請求金額、違反金)
  • 紛争の要点
  • 添付資料(証拠)

管理費等の滞納請求では紛争の要点がありません。区分所有法に明記され、管理規約を滞納者は承認、あるいは承継している義務に伴う不履行となります。

訴訟時に現金と印鑑を忘れずに!

少額訴訟の申立てに来たことを窓口で話すと担当者へ案内してくれます。

準備した書類を全部見せ、チェックを受けます。細かい点を指摘されます。最悪もう一度出直す必要があるケースもあります。

また、印鑑が必要になります。理事長印、個人の印鑑を持っていきましょう。切手購入も必要になります。組合から仮払い、あるいは立替現金を数万円準備します。

年度予算に弁護士費等費用を計上

毎年滞納の事態が起きるとは思いませんが、滞納はいつ起きるかわかりません。

いざ事態が起きてから支出のために臨時総会を開催するのは面倒です。

そのため、予備費とは別に弁護士費等の費用を計上しておくことをお勧めします。

裁判で認められれば滞納者から回収されますが、期を跨ぐこともあります。

30万円程度の額を毎年計上すると良いでしょう。

異議申立てを行う理由

管理費等の未納に異議申し立てを行うケースは限られています。

滞納月数や請求金額(遅延損害金、違約金を含めた)に納得がいかない場合です。

滞納者(被告)としては少しでも支払額を少なくしたいと思って行うのでしょうが、弁護士費など余計に経費が掛かるケースが多くなります。

管理費等の支払い義務を争点にする場合は稀です。

執行承諾付公正証書とは何?

公正証書で作成時に債務不履行になった場合を想定して、不履行時に差押え等の強制執行に合意する趣旨を文章内に明文化した公正証書になります。

裁判所への上申書とは

裁判所に要望がある時に提出する書類です。

書式に決まりはなく、Word等で作成するのが一般的です。いろいろなサイトで公開しています。上申書は競売を行う所轄裁判所に提出します。

滞納月数別、督促行為(例)

一例をフローにすると下記の様になります。

当サイトでは滞納対策を使用細則としてまとめたマニュアルを作成中です。

完成次第、皆さんに公開したいと考えています。

以上がマニュアルに記載すべきことです。

次に少額訴訟の有効性です。

3、少額訴訟の有効性

内容証明で解決しない場合の法的措置でももっとも有効性が高い方法です。

ポイントになる点は、

1、弁護士に依頼する必要がなく費用が安価に済む

2、裁判の判決が原則、一日で終了するため短期間に解決できる

3、回収の見込みを短期間に見極められ、自主売却へ進みやすい

4、差押え等への移行が出来る

5、支払うつもりがない者を見極まることが出来る

6、一度経験すればマニュアル化でき、理事長が変わってもスムーズな回収が可能になる

裁判所からの支払督促、先物特権、民事訴訟よりも簡素な方法で、債務者へのプレッシャーも大きい上に、弁護士費用が必要なく、短期間で解決、あるいは今後の方針を明確に出来ることが最大の有効性と言えるでしょう。

4、管理人から見た滞納問題

最後に管理人の経験談として読んで頂きたいことをまとめました。

管理人を長く務めていると様々な滞納の実情を知る機会がありますが、そのすべては滞納の事実が発覚した後になり、事前にその兆候を知ることはできません。

管理人は滞納者へ通知をメールボックスに投函したり、専有部を訪問して「督促状」を渡す機会で初めて認識します。(役員が他の組合員に口外することはありません。)

当然、相手も管理員が滞納者である組合員を把握していること知っています。そうなると館内で会ってもどこか気まずい空気になります。

幸い、内容証明以上の措置を超えたケースを管理員として経験することはありませんでした。

余談ですが、管理員として勤務していた当時の話になりますが、管理会社に承諾を貰い、所有する国家資格をマンション組合員に伝えたことがありました。(不動産売買の相談でしたが、租税公課の相談だったためファイナンシャルプランナー有資格であることも伝えました。)

この情報が住民間で広がることは想定していましたが、その後、マンションの住民の皆さんから年金の相談、保険の相談など務めていた期間、何かあれば相談をされた経験があります。(質問に答える程度は無料で対応していました。)

結果として住民には「何かわからないことがあれば管理人に聞けば良い」と言う雰囲気が共有されてしまいました。

その中には、家計のやりくり、離婚相談まであってなかなか苦労したことも覚えています。

結果として、管理会社の判断で勤務先を変えることになりましたが、その時、マンション住民の皆さんが社会制度、租税公課、支援制度等について知りたい欲求を持っていることを実感しましたね。

実際、この期間に数件の家計の見直しを実施したこともあります。(有償です。)保険、携帯契約、ローンの乗り換えなどで月3万円強、年間で40万円の経費カットにつながり、中には管理費等の滞納や住宅の買換えをせずに窮地を乗り越えたケースもありました。

早期に相談されれば解決の糸が見つかると実感した体験です・

3-1、滞納になる前の相談

管理組合が組合員のために家計を含めた相談窓口を設置する必要はないと思いますが、滞納に陥る前に解決できる方法があることを住民に周知しても良いのではないかと考えるようになった背景にはこのような経験があるからです。

管理費等の滞納は、少額であり家計内の見直しによる無駄、過剰な支払いをなくすだけでも解決できる可能性がありますが、事前に家計を俯瞰で捉え、危機を出来るだけ早めに察知する必要があります。

管理費等の滞納原因に関するアンケートは知りませんが、経験則として家族の病気や怪我、不況による収入の大幅減少が多いと感じます。

どれも人生設計ではアクシデントです。誰にでも起こり得る事態です。このような時に安易な明るい未来を期待するのではなく、最悪のケースを想定して早めに手を打つべきです。一時しのぎの借金は、時に自転車操業へつながり、後戻りできない状態になります。

このような人を一人でも発生させないために、マンション全体で何かあった時に気軽に相談できる方と連携することが滞納者の発生を防ぐ策のひとつと考えています。

3-2、有資格者との連携

組合がファイナンシャルプランナーと連携を持つと言うと顧問契約を想像されると思いますが、決して契約まで締結する必要はありません。

また、個人レベルの問題を組合に持込むことに違和感を持たれる方が少なからずいることは承知しています。しかし、一旦滞納問題が起きると個人問題が組合全体に波及する可能性があることも事実です。

あくまでも個人の家計問題を相談する訳ですから、費用が発生した場合には自己負担が原則です。(顧問契約の場合に管理費からの支出は組合の合意があれば可能)

では、どのような方法で連携するのか?

方法は至ってシンプルです。1年に1回、もしくは半年に1回程度の無料相談会を企画することです。コロナ禍以前は各地でFPになる無料相談会は実施されていましたが、最近はネットで開催される程度に縮小されています。

3-3、「自分達ではどうなの?」

これだけネット上に社会制度等の情報があれば、わざわざ相談の機会を設ける必要はないのではと思われる方も多いでしょう。

社会制度、補助金などの情報は種類も多く、また複雑で「自分達ではどうなの?」(自分が当てはまるかを知りたい!)かを的確に見極めることが難しい点です。

また、これらの制度は原則、申請による給付であり、知らなければ給付申請は出来ません。そのため、正しく適用条件を理解する必要があります。

その上、国や自治体が積極的に広報活動を行っているとは言えない状況です。

これまでに年金、老後資金、生命保険などの保険などたくさんのご質問に答えてきましたが、「制度を知らなかった」「サイトでは調べたけど、自分に当てはまるの?」「自分の場合はどうなの?」と思いつつも確証が持てずに行動に移さないケースを見てきました。

もちろん、各自治体には相談窓口は設置されています。しかし、「違ったらどうしよう」高齢な方ほど援助や保護の給付に躊躇いを感じる方も多くいらっしゃいます。

その点、FP等の資格者は気軽に聞ける安心感があります。「今さらこんなこと聞けない」と思うようなことでも自分を例に説明を受けることができます。

管理費等の滞納に陥ることは誰にでもあり得ることです。そのためにもマンション管理組合が一定のセーフティー機能を提供することは滞納を防ぐためのひとつの方法です。

幾つかの督促の際に注意すること

不特定多数が目にする場所に個人名や部屋番後を記載した情報を掲示することは名誉棄損になるケースがあります。注意しましょう。

また、滞納者に他から借入れで支払うことを促す行為も違反行為になります。借入の紹介先を含めて決して行うべきではありません。

管理費等の支払を後にする理由

本文中に書きましたが、一番の理由は実害を感じ難い必要費だという点です。

次に遅れても利息を請求されない点もあります。電気やガス代などは支払期日を遅れると延滞金が発生しますが、管理費等は規約に遅延損害金の記載はあっても、3か月以内、あるいは理事会の裁量で免除しています。

1カ月でも遅れた時は遅延損害金の請求をすることでうっかりミスによる滞納を減らす効果があるかもしれません。

FPは投資コンサルではない

FPに投資の質問をされるケースが多くあります。特に老後資金についてはどの商品が良いのか?利回りはどれが良いなど。

しかし、FPは個々の金融商品を勧める資格はなく、各商品の仕組みを説明する役目を担います。

例えば、個人年金の代表格であるイデコ(iDeCo)ですが、制度の説明は出来ますが〇〇銀行の××商品がお勧めです。と言った勧誘行為は禁止されています。

FPはランクがある

FPには3級、2級、1級、AFP、CFPなど多くのランクがあります。2、3級は高校生でも勉強すれば受かるレベルで、他者からの相談を受けるレベルはありません。

相談が出来るレベルはAFP、1級、CFPに限定されます。CFPは金融機関でも優遇されるレベルです。

サイトで相談を受けている方のほとんどはAFP以上の資格者です。

AFPとCFPは更新義務がある

社会制度や税制制度などは日々、追加、改定されています。そのため、FPで相談を受ける立場の資格者はいつでも最新の情報を習得する必要があります。

しかし、1,2,3級については資格取得後、更新義務はなく、知識の更新が本人に依存されますが、AFP、CFPは一定期間中に試験や課題を習得する義務があり、それを怠ると資格を失う厳しい資格です。

資格発行元がしっかりと教育を監視する制度が確立されているため安心感があります。

FPへの相談料

個人的相談料は、弁護士等と同様な時間制を導入しています。事務所により違いますが概ね2,000円/時間程度です。

事前準備をすることが重要

FP相談は、家計調査に時間がかかる傾向があり、事前に出来るだけご自身の家計簿を整理しておくと相談もスムーズに、かつ安価に済ませることができます。

光熱費、教育費、ローン返済金、生命保険等の保険料、食費、通信費については数カ月分はあると良いでしょう。また、ローン返済計画書、保険証書、固定資産税も手元に用意する必要があります。


この章では管理費等の滞納に対してマンション管理組合が準備すべきことをお話ししました。

特に少額訴訟を原則とした規約の見直し、法的措置に関する細則の設定の重要性、作成時のポイントを理解して頂ければ幸いです。

➡ 特集記事一覧

目次

1章 管理費等の滞納者とは

2章 滞納者(債務不履行者)への督促

3章 滞納者(債務不履行者)への法的手段

4章 マンション管理組合の滞納への準備

5章 少額訴訟の実施方法と有効性