分譲マンションを購入すると共用部の保全、維持管理のために管理費を支払う必要があります。

管理費の支払い義務は、区分所有法に定められ、各マンション管理組合は管理規約内に支払い義務を明記し、分譲時に記名押印により承諾をしています。

管理費以外にもマンションの建物や設備の劣化に備え、修繕積立金、共用施設使用料などの支払義務が管理規約で定められています。

この支払義務を怠る人を滞納者と言います。(一般的に3か月以上滞納をしている人)

一般的には管理費の滞納者は、修繕積立金も未納であることが多いため、管理費等と一括で話を進めます。

また、中古物件購入者は区分所有者の移転届出で全所有者の権利を譲渡したことを管理組合に提出、その書類内で管理費等の支払い義務を承諾しています。

この点は皆さんも十分に納得している点でしょう。

最近の管理費等の徴収方法は日時を指定した銀行口座からの引落が一般的です。

昔のように現金を管理員に収めるような組合はほとんどなくなりました。

このような背景の中、一概に管理費等の滞納者と言っても幾つかのタイプに分類することができます。

1、管理費等の滞納者

管理費の滞納は3つのタイプに分かれます。

ひとつはうっかりタイプです。

このタイプの方は引落口座の残高不足で当月の引落がされず、未払いを指摘すると翌月には入金されます。

管理費等への意識が低く、モラル的にも自分に寛容な方が多いようです。

お金がないわけではないため、組合としても問題視されることはありませんが、数カ月間支払がないと理事会として対応が必要になります。

管理員を経験した方はわかると思いますが、日常がだらしない生活態度の人となぜかうっかり滞納する人が一致する傾向にあります。(あくまでも私見です)

次は、経済的に困窮してしまった場合です。

困窮理由も以前は離婚問題、リストラ、病気など限定的したが最近は高齢化による収入のコロナによる収入の減少が多くなっています。

一度、滞納すると連続して発生する特徴があります。自由業などの収入が安定しない場合にも同様の傾向はあります。

このタイプには事情を聞き、その内容によっては一定期間(半年~1年程度)は理事会も配慮をすべきでしょう。ただし、あまり長期化すると債務額が大きくなり、両者に良いことはありません。

特に近年、高齢化した区分所有者による案件が増加しています。高齢者は、年金給与に依存しているため、収入の増加は見込めないケースが多く、また再就職も難しく生活を維持できず、管理費等の滞納につながっています。

いずれにしても個々で事情が大きく異なり、細かなフォローアップをすべきですが、理事会も管理会社もこのようなケースに対応スキルがなく、結局、当事者任せになり、弁護士による法的請求まで進むことが多い傾向にあります。

最後は確信犯タイプです。

もっとも厄介な存在です。経済的には支払い能力があるにも関わらず様々な理由を付けて管理費等の支払いを拒む人です。

管理費等の意味を理解できず支払いに応じない人や理事会の運営方針に不満がある方に多く、他のタイプには対処法もありますが、確信犯タイプは最終的に裁判に持ち込まれるケースも多くあり、もっとも厄介なタイプになります。

2、管理費等の徴収表に見る滞納タイプ

理事会は管理会社から毎月の滞納者の連絡を受けることが一般的です。

月次報告時点での滞納期間と金額が報告されます。

先ほど説明した滞納のタイプにはパターンがあり、これは徴収リストを作成することではっきり傾向を掴むことが出来ます。

この方法は、賃貸マンションオーナーも使用する方法で契約者の性格(生真面目さ)を知る意味でも非常に分かり易い方法になります。

左図に代表的な徴収表ですが、各月毎の各組合員の未納発生(滞納)状況を示しています。

この表は、管理会社は把握しているはずです。提出を依頼すればすぐに入手できます。具体的に説明します。

先程説明した「うっかりタイプ」は性格的な問題で滞納が発生するため不定期ですが何か月かに一度は滞納してしまう特徴があります。

このタイプは連絡するとすぐに改善され、経済的な困窮が理由ではないため、それほど管理組合も気にすることはありませんが、この手の組合員はズボラな性格で周囲とのトラブルを起こしやすい傾向にあることが多く、その意味では要注意として扱うべきです。

理事会は事前にこのタイプの組合員を把握することで、早めに支払い催促を行い、毎月事前に準備することの重要性を啓蒙することが必要になります。

次は「家計困窮タイプ」です。

生真面目でこれまで一度も滞納をしたことがない人が突然、滞納を始めた時は要チェックが必要になります。

性格的に真面目な人が多いため、お金があれば何を置いても支払うことを優先させる傾向にあり、引落が出来ない時点で本人も家計をはっきり把握している状況に陥っていることが多いようです。

ただし、滞納していることに負い目を感じるタイプで、本人に連絡しても「もう少し待ってください。」と支払う意志を示すことが多く、理事長や管理員もこれまでの徴収実績を知っているだけにあまり強く請求ができない面もあります。

しかし、実際はお金を他から工面してでも支払うタイプで、このような人が滞納になる時にはすでに自分では手段が尽きていることが多く、早めに専門家に相談するべきです。

特に管理費等の債務には賃貸物件における保証人制度はありません。

いったん支払いが出来なくなるとその時点で他で借入金の限度額まで借入れていることが一般的です。

さらに、理事長や理事会は取立てのプロではありません。

また、同じマンションに長年一緒に暮らしている情もあり、なかなか強く請求できない面もあります。こんな時は弁護士に相談する前にファイナンシャルプランナーなどの家計の専門家を紹介などを行い、本人の債務状況を出来るだけ早く把握して手を貸すことが良いと思います。

また、自由業のように収入が比較的不安定な人は、売掛金と支払い時期のずれにより滞納が起きることがあります。

理事会は早急に個人の事情を把握することで一定の猶予期間を設定できます。売掛金の支払いは原則、1ヵ月、3カ月であり6か月は余程の大手の会社との取引でなければありません。

このように理事長や管理会社は、管理費等の滞納を事前に把握できる重要な情報を持っていますが、それを十分に利用出来ていないと言えます。

この話をすると個人情報保護の観点から理事会はそこまでする必要があるのかと言われることがあります。管理会社が単独でこのような情報を収集していれば問題でしょう。しかし、皆さんは共用財産の保有者です。管理費等が一定期間以上支払われない時にはその物件を部分を売却する権利も有している立場です。

組合員が目的を定め了承の上、収集する分には問題になることはありません。

滞納者のタイプを事前に把握しておくと、次への対応がスムーズに進めることが出来る利点があります。


賃貸物件のコンサルをする機会が多い当事務所でも賃料滞納は日々で発生します。ほとんどの契約者は生活の拠点である賃料は支払いの最優先に考えていますが、最近は少し傾向が変わっているようです。

年齢が若い人ほど支払いの優先順位の一番が携帯電話になり、賃料より優先している方が多くなりました。携帯がないと仕事も見つけられないと平気で言い訳をする方がいますね。確かに仕事が無ければ賃料の支払いが出来ないのも判りますが、生活設計が脆弱と言うか、後先を考えていない人が増えたように思えます。

それでも賃貸契約には賃料保証会社や保証人が原則います。3カ月以上の滞納があればすぐに連絡をします。大家さんは店子(借主)にはそれなりに情を持っている方が昔は多くいましたが、今はドライと言うか。投資の一環として運営されている方がほとんどなのでシビアです。

賃貸者の生活環境はコンサルは知る由もありませんが、賃料の回収会社は生活環境のチェックします。特にライフライン(電気、ガス、水道)は各部屋ごとにメータが設置されています。その中でも電気メーターは冷蔵庫が24時間使用しているため常時動いています。ライフラインが停止されている(電気代を滞納して止められている時はすぐに外部から確認できます。)とメーターは動きません。このような状態になると保証会社は法的な解決を選択するようです。

区分所有者物件でもライフラインのメーターは外部から確認できます。実際、賃貸物件に利用されている場合には所有者からキーを借りて生活状況を確認することも行います。その意味では管理費等の滞納が続く専有部で生活確認も訪問などで知ることができます。


3、管理費等への認識の違い

管理費等は分譲マンションの管理運営には必要な費用です。管理費は良好な住環境を維持するために必要な費用です。

施設使用費は施設の維持管理には不可欠な費用です。

修繕積立金は皆さんの財産であるマンションの資産維持に必要な費用です。どの費用も不足すれば目的を達成できません。

このことを理解していれば管理費等の支払いを忘れるような事態は発生しないはずです。

しかし、実態はまったく異なっています。国土交通省の調査では管理費等の滞納がないマンション管理組合は調査対象の55~78%であり、多くの組合では滞納者の存在が課題になっていることがわかります。

築年数が古い程、この傾向は顕著になります。

特に管理全体の10%以上の滞納者(3か月以上)がいる組合数は、築年数の浅いマンションでも12.9%もあり、これは管理費の算出方法から想定しても組合員の10%が滞納している、あるいは特定の複数の組合員が長期に滞納していることが推測できます。

滞納の理由については、高齢化による収入の減少や管理費等への認識の希薄化が主な原因と考えられますが、マンションの所有者である以上、負担する義務があります。

管理費に限定しても玄関、エントランス、マンション玄関ドア、掲示板、エレベーターの保守など日々の生活で必ず使用している施設の維持管理に必要な費用であることへの認識不足が滞納を生むことになります。

経済的な理由で支払いが困難な場合でも、管理費の滞納を認めることは出来ません。もし、経済的な理由であれば生活レベルを下げ、最低限の義務として支払う必要があります。

このような滞納者の存在を許している背景には、理事会や管理会社の対応の不備もありますが、それ以前にマンション管理組合として滞納者に対する処分手順に関する明確な意思表示をしていないことも大きな原因です。

どの程度の滞納時点で督促を開始し、内容証明の発送時期、少額裁判への移行時期を使用細則などで明文化されていないため、理事会の判断に依存している現状を解決しなければ、組合員の管理費等への意識も薄れ、滞納がマンション全体に広がることになります。

管理費等への認識は、理事会や管理会社が住民に対して周知することが非常に重要になります。

4、もっとも厄介な確信犯タイプ

たまにいます。

支払い請求に対しても「あっ忘れてました」「今手持ちがなくて」「来月には支払う」「管理組合に不満がある」「今の管理には納得できないから支払わない」「相続物件なので知らない」など様々な理由で支払いを履行しない人です。

当事者は真っ当な意見だと思っていますが、管理費等の支払いはどんな事情あろうと支払い義務がある債務です。

例えば国の政策に納得できず税金の支払いを拒否すれば、脱税行為として処理されます。国税とは違いますが、支払うべき債務は支払い、その上で苦情やクレームを訴えるべきであり決して不払いで対抗すべきではありません。

このタイプには、事情や温情を考慮する必要はなく、厳格なルールを基づいて法的処理に移行すべきですが、マンション管理組合が弱腰で自分が理事の時に余計な争いを起こしたくないと言う思いもあってなかなか毅然とした態度で接することができない現状があります。

特に法的手続きには、それ相当の覚悟が必要と勘違いしている理事は非常に多いですね。

確信犯タイプにも「大丈夫、理事会は法的手続きはできない」と高を括っているタイプがいます。

内容証明程度ではびくともしませんが、裁判所から送達が贈られると途端に態度を軟化させる人も多いようです。

皆さんが裁判に移行する労力と同じで、あるいはそれ以上に相手にとっても負担が大きくのしかかります。

ビビる必要はありません。正当な権利を行使するだけです。

特に少額訴訟は、弁護士にお願いする必要はなく、管理組合の理事長が代表者として訴訟を起こせば一定の解決の道筋はつきます。

また、相手の本気度もわかります。

一般裁判で争うことが明確になってからでも弁護士に依頼することはできます。

5、管理費の滞納は得にならない

管理費等を滞納すると売却時にトラブルになることも多くあります。

マンション所有者が個人的に売却先を見つけることはかなり難しく、一般的には不動産会社を仲介に売却先を探します。

不動産会社は、売却希望者から規約や管理組合の運営状況を聞き取りますが、その際に管理費等の支払いについても質問します。また不動産会社は理事会に管理費等の支払い 状況を確認することも可能であり、理事会は未払いがあった場合、不動産会社に売主へ支払いを要請することも出来ます。

もし万一、不動産会社が管理費等の滞納の事実を知りながら、買主に説明せずに売却した場合は重要事項説明の違反になります。

宅建業法施行規則16条の2において、管理費や修繕積立金について重要事項説明書に記載することが媒介業者(仲介業)に義務づけられています。

違反した場合には、これを理由に買主は売買契約を解除することも可能です。(裁判例はたくさんあります。大抵は売主、不動産仲介会社が賠償金等を支払う形で和解で終わるケースが多いようです。)

また、売買契約の当事者で管理費清算金(滞納金)の債務についてどのような決定されていても、その内容は管理組合には無関係であり、債務は区分所有者に継承されます。

よく聞く話は、当事者から 管理費清算金(滞納金) は売買代金から売主が支払うと定めていたが、売主が履行せず、買主に請求がされるケースです。

このような場合にも裁判になることも多く、最悪、売買契約自体が無効になることもあります。

結局、管理費等を滞納している人に得はなく、賠償請求や延滞金など余計な金額を支払うことになります。

この事実をしっかり組合員に周知することも滞納者を減らす効果があります。

6、督促のむずかしさ

債務不履行者の共通な思いとして滞納した事実を恥ずかしいと感じ、出来ればこの事実を周囲には知られたくないと思っています。一昔前の取り立て屋はこの気持ちを利用して玄関に貼り紙をしたり、大きな声で「借金を返してください」と叫んだりしたと威圧的な行動を取っていましたが、今ではもちろん禁止行為です。

現在の債務取立ては厳しくルール化され、当事者と連絡が取れる場合には早朝や夜間の連絡、職場や親族への連絡も出来ません。また、生活を脅かすような行為も出来ない決まりになっています。

実際、管理費等の支払いは理事会が催促をします。しかし、役員も組合員も債権者、債務者への取立ての経験はほどんどありません。そのため、管理会社からの電話や訪問による督促、内容証明の発送など限られた行為に限定されています。また、管理会社も管理委託契約内で訪問や電話による督促は業務に含みますが、 内容証明の発送は別途、依頼事項としています。

特に理事会が個人に対して出来る督促には限界があり、同じ組合員であり、長く一緒に場所に住んでいる事情もあり、なかなか法的手続きに進めずに滞納期間だけが伸びてしまう実態があります。

理事等も出来るだけ穏便に自主的な債務の支払いを期待しますが、一度、家計が窮地に至ると自力でその状況を脱する例は少なく、何らかの支援がないと窮地を脱することは難しいのが現実です。

また、負い目を利用した督促として滞納者の氏名や住所をマンション内に掲示する方法もありますが、滞納者に子供がいる場合にはその影響は大きく、特に第三者が閲覧できる場所への掲示は例え、館内でも法的には認められない判例があり、あまりお勧めできる方法ではありません。

多くの滞納者には悪意はなく、生活状況の急変により支払いが出来なくなるケースであり、それぞれ個別の事情があります。その事情に対してマンション管理組合としてどこまで寛大になれるかを理事長に一任することもお勧めできません。理事長の負担にもなります。

滞納者の事務処理は、組合として組合員に事前にコンセンサス(同意)を確認しておく必要があります。

また、併せて滞納が発生する前に相談できる窓口を組合として用意する程度の準備は行っておくべきではないかと考えています。

長期の滞納はマンション管理組合にも負担になりますが、債務者にも決して良いことではなく、放置していても返済額が消えることはありません。

7、管理費の長期の滞納の影響

管理費は管理会社に支払う管理費の他、施設修理費、共用部で発生する備品等の費用に使用されます。

多くの組合では管理費に余裕がある設定にされていますが、長期に一定額の管理費の滞納が続くと不足する状況になりかねません。

その上、管理費は修繕積立金の転用、借入を原則禁止ているため、不足した場合には他の区分所有者が補充する必要があります。

このような滞納の長期化が長く続くと管理組合内にもいろいろな弊害が生じ始めます。

6-1、組合員の管理費等への意識が希薄になる

誰も支払う必要のない費用を無駄に払いたくはありません。必要がないのならローン返済、教育費、食費や家族にもっと美味しいものを食べさせたいと思うのは当然です。

管理費等の滞納が蔓延すると履行者は公平感を無くし、管理費への責任感を失わせるきっかけにもなります。

払わない人がいるのになぜ支払う必要があるの?なぜ、私が滞納者のしわ寄せを受ける必要があるの?

真面目に支払い人にとっては、滞納者は理由の如何に関わらず許せない存在です。

一定の温情は認めるにしても長期の滞納は、マンション内の不公平感を生み、この状況を放置する理事会への批判や不信感にもつながります。

特に組合員の10%以上が滞納者となれば管理費等の意味も希薄になります。

6-2、管理費等の値上げが出来にくくなる

管理費が不足すれば共用部分の環境も悪化します。管理会社に委託費を支払っている限りは一定の水準は保たれますが、それすら不足するとサービスの低下を招きます。

理事会も管理会社も当然、管理費の値上げを提案しますが、その前に滞納者の支払いを求める人がほとんどでしょう。結果として値上げはできない状況に陥ります。

ここまで事態が悪化するとマンション管理組と管理会社だけでは解決することは難しくなります。

剛腕のマンション管理士や弁護士に建てなおしを依頼する必要になり、結局、その費用も組合員が支出することになります。

このような事態になる前に適切な対処を行うことは、結果として経費を抑えることにもなり、マンション管理には必要な決断であることを忘れてはいけません。

6-3、滞納者の感覚が麻痺する

滞納者は負い目がありますが、逆に何も起きなければ「大丈夫なのか~?」と思うようになります。

理事会が軽んじられるわけです。

特にマンション内に複数人いることがわかると仲間意識さえ生まれ、「あの人より滞納期間が短いから大丈夫!」と思う人もいます。(実際、ヒアリングした時に言われたことが何度かあります。)

そんな滞納者が車を所有し、日々優雅な生活を他の組合員が目にした場合、どんな感情になるでしょうか。支払っていることが馬鹿らしくさえ思えてきます。

滞納者にとって債権者が何もしないことは、支払う義務への意識を希薄させ、負い目も麻痺します。

理事会が本気で解決する意思を示すだけでも、滞納者にとっては恐怖に近い感覚を与え、債務者である自覚を持たせる重要な行為になります。

事実、理事会が弁護士と顧問契約を結んだだけで、滞納者は減少、物件を売却する人も発生する事例は何度も経験しています。

結局、滞納者が多いマンションでは、滞納者が何不自由なく生活できる環境を提供していることにも問題があると言えます。

6-4、資産価値への影響

管理費は修繕積立金と同様に引落等で徴収されますが、管理費の支払いをしない場合、修繕費も未収になることがほとんどです。

修繕積立金は、積立額が大きく、長期に積立てるため、その途中の不足金が見逃されることが多く、いざ大規模修繕を行う段階で不足していることが表面化するケースも少なくありません。

マンション管理組合の設立目的は、共用部分の良好な住環境の提供と資産価値の維持です。

良好な住環境を保持するためにも修繕は必要であり、躯体の修繕もその一環として行われます。

また皆さんのマンションの資産価値は、土地と建物の2つの要素で構成されています。土地は公示価格(路線価も含む)により決定されますが建物は経過年数で価値が低下することが一般的です。これを防ぐためにも大規模修繕は重要です。(実際は大規模修繕を実施ているマンションでも経年による価格の低下に影響はない)

築年数が経っていても外観がきれいで、新築マンションと遜色ない状態を維持すれば当然不動産物流価値が維持されます。

不動産の査定でも築年数は重要な評価項目ですが、外観や共用部の環境は重要な評価項目の一つであることは忘れてはいけません。

併せてマンション管理組合の運営状況も査定項目の一つです。

管理費と修繕積立金の潤沢度合いは運営状況の目安になり、滞納者の存在自体がマイナス査定の要因になります。

また、大規模修繕が実施できなければ、老朽化は日々進み、資産価値は低下します。資産価値の低いマンションは商品価値の低下になり、円滑な売却ができなくなり、結果として空室率の増加や賃貸物件への提供件数の増加にもつながり、増々、マンション管理組合の運営をむずしくします。

このような事態を招かないようにするためにも滞納者を出来るだけ早く無くす努力を行うべきですが、現状を変えることが出来ずにいるマンション組合が多いのが現実です。

このような場合は、管理組合として毅然とした態度をすべきです。

一定の説得期間は必要ですが何もためらう必要なく支払い請求を時間軸に合わせて行うことが重要です。

理事会は内容証明までは行いますが、その後は早期に弁護士に委任することをお勧めします。

弁護士が前面に出ることは、理事会の本気度、相手へのプレッシャーも相当です。

ほとんどの滞納者は不払いに負い目があります。意外なほど短期間で解決する例も少なくありません。

もし相手に理由があるとしても、相手が裁判に訴えれば良いだけです。もちろん、理事長に負担はかかりますが、「ごねれば支払わなくても良い」と他の組合員に少しでも思われるようなことはマンション全体に悪影響を与えます。

また、規約等には明確に滞納について利息を明記し、各請求時に追加額をきっちり相手に認識させることで滞納は損になることを知らせることが重要です。

管理費等の支払い義務をもう一度確認します。区分所有者には管理費、修繕積立金を支払う義務を管理規約に定めています、皆さんはそれを購入時に承諾しています。(相続、中古物件の購入者もこの義務を継承しています。)何も臆することはありません。

7、時効は5年、60万円以下を目安にする

管理費等も債務になります。そのため管理費等にも時効があります。

時効の法的解釈は理事等は覚える必要はありません。

ただし、債務は発生した日(引落日)から5年間で時効の効果が生じることを覚えておきましょう。

毎月、滞納が発生していると時効の発生時期は一ヵ月ごとになります。

管理費の全国平均は12,000円程度です。これを単純に計算すると年間144,000円になり、4年で60万弱になります。

60万円の根拠は少額裁判の請求限度額になります。

少額訴訟については次章で説明しますが、ひとつの目安として覚えておきましょう。

少額訴訟は弁護士なしに理事長が裁判所に請求でき、短期間で滞納管理費を確定することができる方法です。

8、滞納者には法的請求がもっとも効果的

ファイナンシャルプランナーの仕事をしていると過去の高水準の生活レベルを維持するために、家計が破綻するケースに多く出会います。

もちろん、本人の浪費以外でもコロナのような回避できない社会情勢、病気や事故など理由は様々ですが、多くの方が現状維持にすがり、結果として大きな債務を抱える結果になります。

区分所有者も同じで、マンション購入時の将来の展望が明るい頃のイメージが捨てられず、無理をした結果、家計が破綻し、マンションを手放す結果に至るケースはたくさんあります。

毎月の限られた収入で、家計をやりくりする以外は方法はありません。無理は債務の増大を生み、結果的に何もかも失う結果につながります。

管理費等の支払いが出来なくなる時点で、半分以上の方は家計が破綻しかけていると言っても過言ではないでしょう。

滞納者は自分の事情を訴え、何とか譲歩を得たいと考えます。

理事会も出来る限り穏便に済ませたいと思っています。どちらも相互に甘えがあり、結果として組合全体の資産へのダメージを与えています。

マンション管理組合は、一定の温情は認めるとしても期間を決め、その後は法的な事務処理を進める以外に方法はありません。

法律の前では、温情は裁判所が判断します。和解案も提案してくれることもあります。

いずれにしても当事者間の甘えは消去できます。滞納者も人情に訴える相手は、理事長ではなく裁判長になります。自分に都合の良い言い訳が裁判所で通用するかを判断されます。

可哀そうと思う方は、貴方がその人の管理費を支払えば良いと思います。管理費が支払えないと言うことは管理規約に違反しています。であれば当然、マンション売却を含めて考え直す必要があることに気付くべきなのです。

これらの作業を円滑に進めるためにはマンション管理組合として、滞納者への対応マニュアルを住民の総意の基、準備しておくべきです。

誰も滞納者にはなりたくありません。購入時はそんな事態になることは想像もしていません。

しかし、一旦、滞納者になると管理組合にとっては負の存在になります。皆さんの財産を消費するパラサイトになります。

そのことを理解した上で、事前にルールを決めれば、マンション全体に毅然としたルールが出来、組合員が持つ甘えが許されない環境を生み出すこともできます。

また、理事等の負担、特に理事長の負担軽減が出来、理事会は事前に取決めたルールに基づき対応を行うだけです。

そこには私情も温情もなく、ルールがあるだけであり、誰が理事長になっても厳粛に実施するだけになります。


第1章では管理費等の滞納者の存在についてお話ししました。

滞納者はマンション所有者にとっては迷惑な存在であり、早めの対応が望ましいことは理解頂けたと思います。

また、温情も含め、組合員の誰でも滞納者になる可能性はゼロではありません。当事者の気持ちに寛大になることは本人の自由ですが、マンション管理組合としては毅然な態度が必要であり、それを執行する理事長や理事等のプレッシャーを少しでも少なくするためにもルール化は必要であることを理解頂ければ幸いです。

次章では、皆さんの管理組合が滞納者(債務不履行者)に持つ権利について説明します。


⇒ 2章 滞納者(債務不履行者)への督促に続く

目次

1章 管理費等の滞納者とは

2章 滞納者(債務不履行者)への督促

3章 滞納者(債務不履行者)への法的手段

4章 マンション管理組合の滞納への準備

5章 少額訴訟の実施方法と有効性

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