マンション標準管理委託契約と長期修繕計画について考えます。

契約上の長期修繕計画はどのように示されているかを確認します。

1、標準管理委託契約と長期修繕計画の立案

標準管理委託契約書では長期修繕計画の立案業務については、契約本文に記載はありません。

長期修繕計画については基幹業務の別表に次のように記載されているだけです。

別表第1 事務管理業務

一 乙は、甲の長期修繕計画の見直しのため、管理事務を実施する上で把握した本マンションの劣化等の状況に基づき、当該計画の修繕工事の内容、実施予定時期、工事の概算費用等に、改善の必要があると判断した場合には、書面をもって甲に助言する。

二 長期修繕計画案の作成業務及び建物・設備の劣化状況などを把握するための調査・診断を実施し、その結果に基づき行う当該計画の見直し業務を実施する場合は、本契約とは別個の契約とする。

標準管理委託契約書では長期修繕計画の立案業務を対象外とし修繕実施時期、箇所、概算費用は報告するが、長期計画については別の契約になるとしています。

次に国土交通省から公表されている「標準管理委託契約書コメント」では次のように記載しています。

25 別表第1 1(3)関係
① 長期修繕計画案の作成及び見直しは、長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン、長期修繕計画作成ガイドラインコメント(平成 20 年6月国土交通省公表)を参考にして作成することが望ましい。

② 長期修繕計画案の作成業務(長期修繕計画案の作成のための建物等劣化診断業務を含む。)以外にも、必要な年度に特別に行われ、業務内容の独立性が高いという業務の性格から、以下の業務をマンション管理業者に委託するときは、本契約とは別個の契約にすることが望ましい。

一 修繕工事の前提としての建物等劣化診断業務
二 大規模修繕工事実施設計及び工事監理業務
三 マンション建替え支援業務

③ 1(3)三の「本マンションの維持又は修繕(大規模修繕を除く修繕又は保守点検等)を外注により乙以外の業者に行わせる場合」とは、(略)。

④ 1(3)三の「大規模修繕」とは、建物の全体又は複数の部位について、修繕積立金を充当して行う計画的な修繕又は特別な事情により必要となる修繕等をいう。

⑤ 1(3)三の「実施の確認」とは、(略)。

何とも曖昧で含みを持たせた表現です。

恐らく、国土交通省は日々の管理業務の中で修繕箇所をもっとも把握することが出来るのは管理会社であり、その情報は組合に提出しなさい。組合はその結果を元に劣化診断を行い、修繕施工会社を選択してください。

修繕に必要な情報提供までは管理業務に含むが、それ以降を管理会社に任せる場合は別契約になります。更に、大規模修繕の診断、修繕(建替えを含む)業務を管理会社に任せる場合はそれぞれ個別に契約することが望ましいです。

と言うことでしょう。

2、管理業務と長期修繕の関係

契約のすみわけはわかりましたが、次に管理業務が日々行う業務の中で修繕に関係する仕事について考えてみましょう。

業務内内容手配・日程調整立会い記録保全
日常巡回
不具合・故障等への対応
メンテナンス業務
法的定期検査
契約内にある修繕・保全業務

管理会社はマンション内で起きる修繕等のすべての情報を記録、保全する義務があり、この情報から劣化の箇所や状況を理事会に助言することが基幹業務に含まれています。

また、長期修繕計画作成ガイドラインでは、修繕の対象箇所を細かく示しています。その対象箇所の劣化状況を日々、あるいは一定期間ごとに確認すればいち早く、理事会に情報を伝達できるはずです。

そこで、国土交通省が示す修繕箇所と管理委託契約の内容を照合するために次の3つケースを当てはめ表にカラーリングしました。

建物(部位等)設備名(部位等)
屋根防水
①屋上防水(保護)
②屋上防水(露出)
③傾斜屋根
④庇・笠木等防水
給水設備①給水管
②貯水槽
③給水ポンプ
床防水①バルコニー床防水
②開放廊下・階段等床防水
排水設備①排水管
②排水ポンプ
外壁塗装等①コンクリート補修
②外壁塗装
③軒天塗装
④タイル張補修
⑤シーリング
ガス設備①ガス管
鉄部塗装等①鉄部塗装(雨掛かり部分)
②鉄部塗装(非雨掛かり部分)
③非鉄部塗装
空調・換気設備①空調設備
②換気設備
建具・金物等①建具関係
②手すり
③屋外鉄骨階段
④金物類(集合郵便受等)
電灯設備等①電灯設備
②配電盤類
③幹線設備
④避雷針設備
⑤自家発電設備
共用内部①共用内部情報・通信設備①電話設備
②テレビ共聴設備
③インターネット設備
④インターホン設備等
消防用設備
①屋内消火栓設備
②自動火災報知設備
③連結送水管設備
外構・附属施設①外構
②附属施設
昇降機設備①昇降機
立体駐車場設備①自走式駐車場
②機械式駐車場
長期修繕計画作成ガイドラインに示された修繕部位(建物、設備、外構)

ほぼ、すべての修繕箇所が管理業務契約内で実施されている作業で確認することができます。これらの調査結果や修繕記録が組合員の皆さんにとって修繕時期、箇所を決定するために重要な情報であることがわかります。

当然に重要な情報は、組合員の誰が見ても分かりやすく整理されているべきであり、管理員室に保管するべきです。

整理の仕方は各管理会社によって異なるでしょうが、少なくてとも次の要件は満たしている必要があります。

1、修繕箇所別に分類されていること

2、時系列に発生日時、発生原因と対処方法等の修繕履歴

3、対応した業者名、費用

事実、国土交通省、長期修繕計画作成ガイドラインには次のような表による整理方法の例を示しています。

(5) 維持管理の状況

①法定点検等の実施

点検等実施年月点検等の結果の要点
年 月
年 月

②調査・診断の実施

点検等実施年月点検等の結果の要点
年 月
年 月

③主な修繕工事の実施

箇 所実施年月修繕工事の概要
年 月
年 月

④長期修繕計画の見直し

時期実施年月修繕工事の概要
年 月
年 月

管理業務と長期修繕は密接な関係があり、皆さんの資産を守るためにも重要であることをわかって頂けたと思います。

3、長期修繕計画の入手・立案方法

マンション管理組合が長期修繕計画の入手・立案する方法は大きく3つ方法があります。

3-1、分譲時に分譲会社から引継ぐ方法

一般のマンション管理組合はこの方法になります。

新築マンション当時に作成された長期修繕計画は、土地活用会社や分譲会社が用意します。この計画にはそれぞれの修繕部位に必要な金額が記載されています。(お手元に長期修繕計画を確認してください。)

この金額は何を根拠に算出されているのでしょうか?

その答えは、国土交通省が示す「長期修繕計画標準仕様書」「長期修繕計画作成ガイドライン」に記載されています。

【新築マンションの場合】
・設計図書、工事請負契約による請負代金内訳書、数量計算書等を参考として、「建築数量積算基準」等に準拠して、長期修繕計画用に算出しています。
【既存マンションの場合】
・現状の長期修繕計画を踏まえ、保管している設計図書、数量計算書、修繕等の履歴、現状の調査・診断の結果等を参考として、「建築数量積算基準」等に準拠して、長期修繕計画用に算出しています。

新築マンションの場合は計画が立案方法のイメージは次の図のようになります。

設計図書には仕様書があり見積書に当ります。この見積もりは建築数量積算基準に机上で計算されます。これに対して竣工図は完成したマンションの実寸を正確に図面にした図書です。

使用された材料等も設計図に比べ、精度も高く実用性のある数値になります。

この資料を基に30年間の修繕計画を立案します。かなり長期間の計画になりますが、その間に物価の変動、建築材料の性能の向上、人件費(工費)も変わる可能性がありますがこの要素は取入れません。

また、大前提として修繕の基本は新品と同程度の性能を維持することです。原則として新築当時材料を基準にします。

各箇所、材料別に国土交通省が示している耐久年数(交換、あるいは修繕時期)毎に発生する修繕必要額を毎年積算することで各年度年度別必要修繕費が算出されます。

各部位ごとに国土交通省はガイドラインの中で修繕周期を示しています。

修繕周期修繕部位
5年~6年鉄部塗装(手摺など)
10年~12年外壁(塗装系)
12年~15年外壁(タイル系)屋上・共用廊下(開放系)、バルコニー床
15年~20年照明設備
20年~25年敷地内舗装、給水施設、エレベーター、ガス施設
国土交通省のガイドラインで示された修繕サイクル

ただし、この修繕周期は目安であり、マンションの立地条件や施工状況、各設備の稼働状況やメンテナンス状況で変化します。

長期修繕計画標準書式では、(様式第3-2号) 推定修繕工事項目、修繕周期等の設定内容に関する資料があります。

1、修繕部位ごとに推定修繕工事項目、修繕周期等の設定をします。(様式第3-2号)

2、次に、修繕部位ごとに工事内訳書を設定します。(様式4-4号)

いつ、どこを、どのように修繕、その費用の概算額が算出されます。

例えば、外装にタイルを使用している場合、タイルの単価@とすると㎡当たりのタイル枚数と壁面使用タイル数から材料費、それに足場代、作業費の総額が外装修繕費用になります。

算出結果を時系列に表にした各年度ごとの修繕費と修繕積立額の累計をまとめた長期修繕計画総括表(様式4-1号)と収支計画グラフが作成されます。

参考までに国土交通省が公開している長期修繕計画標準仕様書を示します。

30年間の必要な総額を算出、毎月(30カ月×12カ月=360カ月)の積立額を算出します。各区分所有者の負担額を持ち分比率から算出した金額が規約等に記載される修繕積立額です。

これを基に不足しないように専有部の負担割合で修繕積立金が算出され、長期修繕費積立計画が立案されます。

各年度ごとの累積積算計画が長期修繕積立計画として皆さんに提供され、これが分譲時に分譲会社から引継ぐ方法です。

これが各分譲マンションが自分たちが住むマンションの実態にあった長期修繕計画の立案方法であり、分譲マンションを販売するまでに携わった会社が提供する長期修繕計画、長期修繕積立計画です。

長期修繕費積立計画の積立方式は「均等積立方式」と「階段増額積立方式」があります。(せっかめメモで説明しています。)

3-2、国土交通省のガイドラインを利用する方法

国土交通省は、平成23年に修繕積立金の額の目安を示した「修繕積立金に関するガイドライン」を策定しています。

簡単に言えば、長期修繕計画を所有していない管理組合は修繕計画は国土交通省が「修繕積立金に関するガイドライン」で作成したのでそれを参考に修繕積立を行ってくださいと広く公開しました。

このガイドラインは、3-1で示した各自のマンションの事情を一切反映させていません。

国土交通省が示したガイドラインの作成方法の概要は次のようになります。

国土交通省が独自の長期修繕計画を作成している質の良い事例(84事例)を収集・分析して修繕積立金の目安を算出しました。一定の幅はあるがその範囲で積立を実行してください。

国土交通省の示したモデルケースは単棟マンション、機械駐車場を所有していないマンションで、均等積立方式で行うことになります。

そのため、スポーツ施設やスパ施設など特別な共用施設があるマンションでは使用できない可能性があります。

平均値はかなりの幅を持った値であることはわかりますね。あくまでも事例を基に求められた値であり、各マンションの固有の事情は一切加味していませんが、まったく積立を行わない管理組合にも役立つと考えて作成されていることを忘れないでください。立案のイメージは次のようになります。

特に低めに積立金を設定する場合は、将来不足する可能性もあります。出来れば平均以上に設定することです。

新築時に分譲会社等がこの数値を利用するケースもありますが、この数値の意味を購入者に説明しているかどうかは定かではありません。(ガイドラインをアレンジする方法にイメージを掲載、参照)

*国土交通省はきちんと説明しなさい!!とコメントしています

3-3、管理組合が自主作成する方法

分譲時に長期修繕計画を引継がないマンション管理組合は、国土交通省が策定したガイドラインに従い修繕積立をアレンジして使用する場合がありますが、もうひとつ自主作成する方法があります。

3-3-1、ガイドラインをアレンジする方法

国土交通省が示している方法は、積立金額の目安(幅)と積立方式です。これを自分たちのマンションに併せてアレンジする方法です。

一般的に購入直後から管理費は日々発生します。そのため、購入時に一時金を徴収します。この一時金の一部を修繕積立金に振り分け修繕積立基金にする方法です。この時、積立方式は段階増額方式を採用する管理組合が多いようで、実はこの方法がもっとも多く採用されています。

分譲会社等もこの方法で分譲時の修繕計画を立案し提供しています。

3-3-2、竣工図から作成する方法

この方法は、本来、分譲時に引継ぐ修繕計画がない場合に出来るだけ精度の良い修繕計画を管理組合が作成する方法です。

平成13年8月1日施行以降はマンション管理適正化法で分譲会社からの譲渡が義務になっていますが、それ以前に建てられたマンションや何らかの事情で紛失した組合もあります。必ず、竣工図があることを確認してください。

万一、引渡しが行われていない場合は必ず請求してください。

分譲会社は長期修繕計画を作成し、管理組合に引渡す義務はありません。少数ですが竣工図だけがあり、長期修繕計画を所有していない組合もあります。

分譲直後から5年以内ぐらいであれば有効的な方式ですが、ほとんど実践する管理組合はありません。

3-3-3、その他

竣工図等の資料が整っていればその情報を基に長期修繕計画は、組合の合意があればいつでも作成できます。問題となるケースは竣工図等の図書管理が一切ない場合です。その場合、外壁、共用廊下、バルコニー等の工法や施工面積などの情報が必要になります。専門家に現地調査を依頼、併せて現在の劣化の状況を調査した上で修繕計画を立案する必要があり高額になります。

このような管理組合は修繕の必要に迫られた時にはじめて現地捜査を行うことが多く、組合員への一時金等の多額な徴収や金融機関から借入金を受ける事態になるケースです。

最悪な事態を避けるためにも分譲後の数年の間に国土交通省策定のガイドライン等から算出できる積立総額をしっかり把握すべきです。(組合員に認識させることが重要)

4、長期修繕計画の見直し

長期修繕計画は概ね5年ごと劣化診断を行い見直すべきとされています。実際、5年ごとに診断を行う組合は少なく、日々のメンテナンスや定期点検、巡回等の保守業務で修繕の必要を確認しています。

5年は恐らく、鉄部塗装の修繕周期に合わせていると思われます。(2021年、管理計画認定制度により期間を7年に変更す案が出ていますがまだ、確定していません。執筆当時)

国土交通省が示す長期修繕計画の見直し業務のイメージは次のようになります。

既存マンションについては立案期間は25年間以上です。

見直しを行う理由は、物価等変動により修繕時に積立金額が不足する事態にならないためです。

この業務は管理委託契約の対象外で、管理会社に依頼すると別途費用が発生する場合があります。

管理会社が毎年総会で説明している長期修繕計画は、年度内に行われた修繕等の情報を反映させる業務と積立の累積額を追加分を加えたデータを掲載しています。見直し業務ではありません。

5、大規模修繕前後の長期修繕計画

大規模修繕は12~15年程度周期で行うことが一般的とされていますが、各マンションにより状況が異なるため見極めが非常に重要になります。

一般的には、修繕時期が近付いたと判断すると理事会内に専門委員会を設置しますが、大規模修繕が修繕積立金から支出する重要な業務になるため、最終的な決定は総会議決が必要になり、そのため、期ごと業務を分けて行います。(臨時総会で決定する場合もあります。)

全体的な大規模修繕の業務フローは次のようになります。(規模により同一期内で行うことも可)

5-1、大規模修繕時期の見極め

修繕履歴、概ね5年ごとに実施する建物等劣化診断結果より、大規模修繕時期を見極めます。

(東京都財務局が公開している資料より)

5年ごとにすべて行う必要はなく、国土交通省の修繕周期に合わせて対象を絞って依頼します。

建物等劣化診断結果では、次のような調査報告書が提出されます。その結果から判断します。

対象部位ごとに詳細な調査が行われ、劣化レベルが決定され次のような次のような判定が行われます。

建築では「ランクb」が部分的な修繕、「ランクc」で全面修繕、設備では「ランクb」は近い将来、性能低下が起こる恐れ、「ランクc」は性能が低下しているとしています。

「ランクc」が結果にある場合は、大規模修繕の実施時期であると判断できます。

5-2、修繕計画の検討

大規模修繕の必要性が確認されると次期決算期間に専門委員会の設置を提案します。当期で設置をすることもできますが、専門委員会には外部から建築の専門家を依頼する必要があり、経費の支払いが発生するため時期収支予算計画に盛り込みます。(組合員だけの専門委員会を立上ても構いませんが、専門家がいないと進まないことが多い)

5-2-1、専門委員会の設置

専門員会には理事を含め、外部の専門家(建築士、設計士、マンション管理士等)を加えます。建物等劣化診断や修繕履歴を参考にどのような修繕方式で行うかを決定する役目を担います。

大規模修繕工事を行うには3つのステップがあります。「診断」「設計」「工事」です。ここで示す「診断」は建物等劣化診断とは違い、工事の内容、規模を明確にする事前調査、事前診断などと言われ区別します。

専門委員会の役目は「診断」「設計」「工事」の方式(進め方)を決めることです。この方式は代表的な3つの方式があります。それぞれメリット、デメリットがあり修繕費にも大きく関わるため慎重に検討すべきです。

方式内容メリットデメリット
事業者発注方式
(責任施工方式)
施工会社に診断から設計、工事までを一任する方式施工会社を選択することが出来、費用交渉を行うことが出来る。短期間で終了できる。単独で施工会社を選定するため正しい判断ができないケースがある
管理会社主導方式管理会社が主体となって劣化から設計、
工事まで進める方式
管理会社に一任するため負担が理事会の少ない管理会社に任せるため、高額になりやすい傾向がある
設計管理方式設計事務所やコンサルタントが、診断・設計を行い、工事の段階では監理者として携わる方式中立な専門家の意見を受けることができ、工事中の監理を委託することもできるコンサルティング費用、監理費が発生する
修繕工事の主な方式

よく見かけるケースとしては、方式を決定するまでの期間、マンション管理士とアドバイザー契約を締結、その後、施工会社選定を行う方法です。

5-2-2、修繕工事方式の決定

マンション管理士等の専門家から修繕工事の方式について細かな説明を受け、建物等劣化診断結果、修繕履歴、修繕積立金の積立実績を考慮した上で、自分たちにあった方式を修繕委員会として決定します。決定された案は理事会に上程され採決を受けます。

手間暇が必要でも主導権を持ちたければ「事業者発注方式」、逆に手間暇をかけずに行いたければ「管理会社主導方式」、手間暇が必要だが費用を押さえながら主導権は持ちたい「設計監理方式」から選択します。

「事業者発注方式」は建築に素人集団では難しく、標準費用のわからないためあまり選択されることはありません。(組合員に建築士がいるなどの特別なケースではあります。)一般的は費用のリスクはありますが手間暇をかけない「管理会社主導方式」、あるいは費用を押さえたい「設計監理方式」のいずれかを選択する管理会社が多いようです。

「管理会社主導方式」を選択する管理組合は、管理会社への信頼が高いとも言えますね。

方式が理事会で承認されれば、修繕委員会は次の業務に進みます。

5-2-3、コンサルティング事務所、修繕施工会社の選定

コンサルティング事務所、修繕工事施工会社の選定です。「管理会社主導方式」を選択した場合は管理会社が施工会社の選定を行います。

5-2-3-1、事業者発注方式(責任施工方式)

修繕員会が施工会社の選定を行います。業界新聞や雑誌で期限を決め公告・広告を出します。参加の意思を示した会社に修繕工事コンペ説明会を行い、現場の確認も行います。その上で見積り、プレゼンを実施し、会社の規模、実績、得意工法などの要素を検討し最終決定を行います。

これ以降、すべてを修繕工事施工会社に委託するため「診断」「設計」「工事」のすべてのステップを任せます。大規模修繕計画案の提出を受け、理事会が承認すれば総会議決になります。

5-2-3-2、管理会社主導方式

管理会社が施工会社の選定を行います。すべてを管理会社に委託するため「診断」「設計」「工事」のすべてのステップを任せます。大規模修繕計画案の提出を受け、理事会が承認すれば総会議決になります。

5-2-3-3、設計監視方式

建築の専門家とコンサルティング契約します。業界向けの新聞で募集を行う方法やマンション管理士、管理会社から紹介を受けるなど様々です。最近では一般社団法人マンション管理士協会、一般社団法人マンション管理業協会なども独自に調査診断を実施しています。また、自治体によっては相談窓口を準備している場合もあります。

設計士は1、2級建築士の資格者です。建物等劣化診断結果から事前調査を行い改修設計を行います。

この修繕設計を基に修繕施工会社を選定します。選定は設計士の紹介も可能ですが、リベートを約束した修繕施工会社を紹介する悪質な設計士の報告もあります。出来るだけ業界新聞などで公募を行い、複数の会社から事前に修繕工事のプレゼン等を受け選定します。事業者発注方式(責任施工方式)の選定方法と同じです。

5-2-4、修繕工事は出来るだけまとめて行う

建物等劣化診断と事前診断は趣旨が異なります。建物等劣化診断は皆さんが毎年、あるいは一定年ごとに受けられる健康診断です。体に異常がないことを確認する検査です。事前診断は、病気が見つかった時に専門医で行う検査と考えてください。病状を確認して治療方法(修繕方法)を決定するための検査です。修繕が必要な箇所だけに行う精密な検査になります。

建物等劣化診断結果では「ランクc」は修繕対象とすべきですが、「ランクb」は要注意、経過観察としています。近い将来修繕の可能性がある部分です。近々(数年以内に)修繕が必要な工事は出来るだけまとめて行い、一回の修繕で不安要素は取除くようにします。

特に大掛かりになる工事は同時に行うことで足場工事などをまとめることもでき、経済的に有利に働くことが多く、住民生活への影響を短期間に済ませることが出来ます。設計士事務所や管理会社、修繕施工会社と相談をしながら修繕範囲を決定します。

また、修繕施工会社は修繕設計から工事日程、仕様書(見積書)を提示します。

5-2-4、住民の意見集約

修繕設計に広く住民の意見を聞くことも重要です。日常管理や法定検査では確認できない建物内にある問題点を出来るだけ集約します。また、共用部への希望があれば聞くことも必要です。ただし、専有部への修繕は対象外になります注意してください。

アンケート結果は理事会と修繕施工会社が相談により実施内容を検討します。+αの工事費用の見積もりを確認しながら最終的に実施するかどうかを決定します。

検討結果は住民にも報告します。建材のカラーリングに選択肢がある場合はサンプルを入手し、住民から意見を聞くことも重要です。どのような修繕方式を選択しても住民の意見を大切にしてくれるように理事会は契約時にお願いすることも重要なことです。

住民アンケートはアンケート案は設計事務所などの修繕設計を担当する会社が実施します。アンケートの配布や回収は管理会社を通して理事会が行います。

5-2-5、機能アップと費用のバランス

建築材料も日々向上しています。耐久年数も材料のランクで大きく異なる場合があります。大規模修繕は1回では終わらず、十数年後にまた必要になる工事ですが、出来るだけ耐久年数が長く、良い建材を使用することを検討してください。また、設備等の交換では、機能アップも考えるべきです。

ただし、修繕費とのバランスが大切です。

修繕積立金の予算を超えることは避けるべきです。あくまも予算内で行うことを原則にします。特に修繕工事後の修繕金の不足を招く可能性がある費用の支出には注意してください。

修繕後の維持管理費を含めたコストパフォーマンスを丁寧に説明してくれる修繕設計を行う会社を選択することが重要になります。

5-2-4、修繕費用の工面(資金計画)

修繕積立金に余裕がある場合は問題ありませんが、見積りに対して不足する場合には金融機関からの借入金が必要になります。

資金計画は設計事務所、管理会社に相談できます。マンション管理士も対応できるケースがあります。ほとんど場合は政府系金融機関や銀行系の融資を受けます。各金融機関とも大規模修繕向けの商品を準備しています。その中から出来るだけ金利や安く固定金利を選択してください。

ファイナンシャルプランナーや土地活用プランナーなどの実務経験者に相談することも良いと思います。

出来るだけ短期間に返済すれば利息の支払い額が少なくなります。

5-2-7、修繕計画書案の完成

修繕箇所、修繕設計、修繕施工会社、資金計画が決まると修繕委員会は最終案として「修繕計画書案」を作成し理事会に説明します。理事会で承認されれば、理事会は総会に準備を行います。一般的には年度末に合わせて定期総会で「修繕計画書案」の議決を受け修繕工事委託契約書が交わされる流れになります。

5-4、重要な住民説明会

修繕工事委託契約書の締結後、住民向けに修繕会社が工事の説明会を開催します。(主催は理事会になります。)

工事中の日程説明、資材置き場の位置、工事中の足場の設置、騒音、振動、臭気への注意、共用部の使用制限、トイレの設置など住民生活に影響する内容を説明します。説明会には質疑応答があり住民の不安の解消に努めます。

特に現場の責任者の明確化は必要です。住民からのクレームがあった場合の窓口(施行責任者)、連絡先の明記、周辺住民への配慮なども重要な項目になります。

管理会社、管理員にも同席を求め、日々のクレームや連絡役など役割を説明します。

理事会は修繕工事の説明会の開催を告知し一人でも多くの人に納得の上、工事に協力を要請する必要があります。

5-5、監理者

監理者は修繕工事中に理事会の立場で工事全般を監理する人で修繕設計通りに実施されているかを確認する役目を担います。また、設計段階に算出した建材数が正しく使用されているかなど細かなチェックを行います。修繕工事中に行われる検査にも立会います。

一般的に修繕設計を委託した設計士事務所に依頼します。注意する点としては、設計士事務所との委託契約は修繕設計までとしているケースが多く、監理者を委任する場合はそれを含めた契約が必要になります。

事業者発注方式(責任施工方式)、管理会社主導方式は監理者はいません。そのため工事が設計通りに実施されているかは報告書で確認する以外に方法がない問題点があります。

コンサルティングで契約した設計事務所は修繕設計の立案者です。

工事の内容をもっとも詳しく知っています。監理者を選択するなら当然、設計士事務所になりますよね。

修繕工事の仕様書には工法の他、使用する建材の品番、数量まで記載されています。監理者は、納品されている商品が品番と一致しているか、納品数量と使用数量が一致しているかも確認します。

そこまで行う理由は、悪質な施工業者は見た目が同じデザインでランクを落とした建材やセメントなどの使用量を少なくして材料費を抑え収益を少しでも得ようとすることが一時多く報告されました。そのようなことが起きないように防止します。

5-3、大規模修繕工事後の長期修繕計画

大規模修繕工事が終了後、工事を反映させた長期修繕計画に改定します。

修繕工事後は工事個所の次回修繕周期が記載されます。しかし、積立計画が変更になるわけではありません。

修繕積立金残高が減少するだけです。

修繕積立計画はマンションが存在する限り続けなければいけません。

せっかめメモ
不動産、マンション豆知識

住宅は消耗品?

家屋は消耗品です。建てた時から劣化がはじめるとされています。雨風に晒されるわけですから傷むのもわかりますよね。まったく手をかけずに放置すれば朽ち果て廃墟になります。

家屋は構造によって法定耐久年数が定められています。

構造・用途法定耐用
年数
木骨モルタルの住宅20年
金属造、鉄骨の肉厚が3mm以下19年
木造・合成樹脂造22年
金属造、鉄骨の肉厚が3〜4mm以下27年
金属造、鉄骨の肉厚が4mm超34年
鉄骨鉄筋コンクリート造47年
給排水・ガス・照明設備15年
個別冷・暖房機器6年
家屋の法定耐久年数

細かく設定されています。これは資産用評価用に設定されています。

別に使用耐久年数もありますが、環境や用途による影響が大きく、また適時、修繕を行うことで耐久年数は大きく変わります。

土地は消耗品?

土地は原則、消耗しません。

ちなみに農地を放置して荒地になっても土地そのもの価値が減ったりしませんよね。

建物等劣化診断って何?

建物等劣化診断はよくマンションの健康診断と呼ばれています。

建物本体(躯体(くたい))と設備(電気系、機械系)に分かれます。

躯体では外壁、防水加工、設備で給排水設備、電気設備、空調設備などを中心に行われます。

各検査は目視による確認や過去の修繕記録確認などを中心に行う1次診断、簡易検査器具を使った2次診断、各部位ごとの専用検査機器を使った3次診断に分かれ、各ステップごとに報告が行われ、必要な場合に限り次のステップに進む方式で行われます。

建物等劣化診断はどこで頼めるの?

・一般社団法人 マンション管理業協会
・一般社団法人 建物診断協会
・一般社団法人 日本建築士事務所協会連合会
・公益財団法人 マンション管理センター

などで扱っています。いずれも各業界の団体です。

劣化診断の費用は?

いろいろな会社が行っています。価格も様々です。マンションの規模や設備数などで変わりますが事前に見積りを取り比較して決定すべきです。

劣化診断費は修繕積立金、管理費のいずれからでも支出することができます。

ただし、修繕工事を前提に行う事前調査は修繕積立金からの支出が原則になります。

劣化診断と前提(事前)調査って違うの?

国土交通省のコメントでは区別した扱いとしています。

劣化診断は、修繕計画の見直しのためであり、前提調査は修繕工事の工事内容、工事規模を確定するための調査と区別しています。

修繕に関する費用は借入できる

管理費が不足しても借入は認められません。そのため、一時徴収が必要になりますが、修繕費については金融機関等からの借入ができます。

よく利用される融資は住宅融資支援機構です。法人でない管理組合も利用でき、金利も固定金利で低金利です。

ただし、修繕積立金の徴収実績が1年以上、滞納者割合が1割以下である必要があります。

屋根の防水って何?

雨漏りの防止のため屋上は一般的に防水処理をします。一見、コンクリート露出しているように見えるビルの屋上ですが数メートル間隔で表面が区画されている場合はコンクリートの下に防水シートやアスファルト層が敷かれています。他にもいろいろな方法があります。

シーリングって何?

床や壁材に使用されるタイルとタイルのすき間からの水の侵入を防ぐ工法のことの総称です。

黒カビや汚れが発生しやすい場所でもありますね。

防水を目的にした工法はたくさんあります。メンブレン方式、シート方式とか、日々技術は進歩しています。

傾斜屋根って何?

三角屋根のことですね。屋根に傾斜をつけることで雨水を下に流すことができます。最近は都内では少なくなっているのかな~。

軒天塗装って何?

軒天(のきてん)と呼びます。躯体より突き出している屋根の部分のことです。軒先はわかりますよね。軒先部分の天井のことです。マンションのバルコニーの天井も軒天です。雨の吹き込みや日差しを防いでいますよね。

意外に見上げてみることはない部分です。あの部分も塗装の修繕箇所になります。

コンクリート補修って何?

コンクリートは固まる時に収縮します。乾燥が進むと表面にひび割れが発生する可能性があります。表面にひびがあるとコンクリートの中に沁み込みます。これを防ぐためにコンクリート表面は一般的に防水塗装をします。コンクリートの中には鉄骨や鉄筋があり強度を高めています。材料が鉄で出来ているため雨が沁み込むと錆びを発生して脆くなり、コンクリート全体の強度を低下させます。

ひびが入る原因は、乾燥以外に構造的負荷や不純物の混入などいろいろあります。

この状態が長く続くと錆びた鉄水が染み出し、コンクリート表面が茶色になったり、コンクリートの成分が溶け出し表面が白く汚れたり、さらに酷くなると部分的な欠落が起きます。このような状態を目視で発見して補修する工事になります。

昇降機って何?

エレベーター、エスカレーターのことです。建築用語かな~?法律用語かな~?

自走式駐車場って何?

駐車する車を駐車所内を運転して駐車する方式のことを自走式と言います。敷地に余裕がある場合に採用されます。メンテナンスが楽で安価な利点があります。最近は機械式駐車場も増えました。

建具って何のこと?

玄関ドア、網戸、サッシなどのことです。専有部内のふすまや障子も建具になります。都内には建具屋さんは結構ありますよ。

玄関ドアやサッシ、網戸の交換は修繕に含まれるの?

修繕計画がないマンションがあるの?

購入時から長期修繕計画がある組合員の方には当然な質問です。

マンション建設の初期の頃(今から30年以上前)は長期修繕計画がないマンション管理組合は普通にありました。その後、国土交通省の指導等により作成するマンション管理組合は増えましたが、その状態のまま今でも作成をしていないマンション管理組合も一定の割合で存在します。

また、最近でも小規模な工務店が建築を請負ったマンションや分譲マンション販売経験が少ない土地開発会社が建設したマンションも長期修繕計画の作成がされていない場合があります。

修繕計画がない場合はどうするの?

早めに計画の作成をすべきです。ただし、計画作成には一定の費用が必要になり事前に収支予算計画に組込むことが必要です。(いきなり組合員に通知、議決を行ってもなかなか合意形成は得られません。)

まずは、自治体や業界団体に相談してください。契約している管理会社に相談する方法もありますが、その前に公共性の高い組織に相談をすべきです。

また、国土交通種は長期修繕計画を所有していない組合に対して修繕積立金の額の目安を示した「修繕積立金に関するガイドライン」を公開しています。

この値を参考にすることで修繕計画を入手することもできます。

事前調査と劣化診断は違うことを理解する

国土交通省は支払う原資(管理費、あるいは修繕積立金)を区別するとしている話をしました。

修繕計画が健康診断(法定点検等)の結果に基づいた日々の修繕・保全計画です。修繕区工事事前調査は修繕の実施が決定する時に行う精密検査と考えてください。劣化の度合いを測り、どの範囲をどの程度に修繕するかを決める調査です。

自分のマンションを知ること

マンションにもいろいろな形状があります。コ字型やL型、1階に駐車場がピロティー型、共用廊下は開放型、階段は内階段、外階段など様々です。

各特有の構造にはメリット、デメリットがあります。例えばL型であれば、一棟構造なのか、2棟構造を共有廊下で連結しているエクスパンション方式なのか、これにより耐震性に大きな違いが発生します。

また、建築材料に何を使用しているのか?特に外壁はタイル、サイディング(パネル)、コンクリートへの吹付塗装、室内壁や共有廊下の表面はどんな工法で仕上げられているか。少しの知識で修繕や清掃方法まで変わります。

修繕と改修の違いは何?

修繕は導入時の性能に戻す、あるいは維持することです。改修は、性能等を向上させることです。

大規模修繕で改修工事はできないの?

いいえ、可能です。組合の合意があれば共用部の性能を向上させる目的で行うことができます。

設備の交換等の場合にはグレードアップしたいですよね。

ただし、専有部の工事を修繕積立金を使用した工事に含めることは出来ません。もし専有部の工事を一斉に行う場合はその費用については実費請求をする必要があります。

しかし、2021年、施行予定の「管理計画認定制度」で専有部の排水管については、集会の議決があれば修繕積立金からの支出を認めることが検討されていいます。

外壁は大きく4つの材質に分かれる

街を散歩すると色々なマンションが建っていますよね。最初にイメージは外観全体の色合いやエントランスの雰囲気で好みが分かれるのではありませんか?レンガ風の外壁、淡いクリーム色、スタイリッシュな金属系などそれぞれのマンションの個性があって楽しいくなります。

外壁に使用される材料は工法にも大きく関わります。

耐久性(機能)やデザイン性も様々な種類がありますが、工法によっては建設設会に得意、不得意もあります。

  • サイディング
  • モルタル
  • タイル
  • ALC材

どの工法も一見、見ただけではわかりにくい程、仕上げがきれいです。最近の主流は事前に工場で加工を行ったパネルを張り付けるサイディングです。

高級感を持たせたい場合にはタイル材が使用されています。

建設費用と分譲価格の関係

マンション管理の資格者ではなかなか知らない情報ですが、プランナーの資格者であれば基本知識です。

一般的分譲総額の20%が粗利益、純利益は5%と言われます。

分譲総額が10億円のマンションでは土地代と総建築費の合計が8億と概ね想定して考えることが出来ます。

マンションの分厚いパンフレッドですべての分譲価格を計算、その土地の販売平均価格が判れば総工費(総建築費)は大体予想できます。

材料でそんなに違うの?

例えば大規模修繕の対象箇所でもある外壁を例に違いを説明します。次の表は材質別コストとメンテナンス時期年数(修繕周期)を比較した例です。

材料工費単価
(¥/㎡)
メンテナンス時期
モルタル2,000~8,00010年程度
窯業系サイディング3,000円~15,0007〜8年程度
金属系サイディング5,000~8,50010〜15年程度
ALCパネル5,500円~10,0005~10年程度
外壁材料と単価、メンテナンス期間の比較

使用する材料によってメンテナンス時期に大きな幅があることがわかります。また工事単価もかなり違います。

土地開発会社は売るまでが仕事で売れる商品を作ります。デザイン性が高く、工事費が購入者希望価格であることを考えますが、分譲後のメンテナンス性について重要視されることはあまりありません。

外壁の材料の変更を伴う修繕は可能なの?

可能な場合もあります。モルタルをサイディングに変更する修繕はよく見かけます。

出来ないケースもありますが躯体側の工法によって決まるためリフォームの専門家や修繕工事会社に竣工図を持参して相談してください。

大規模修繕の際に検討課題で取入れても良いでしょう。

修繕工事は必要になってからでは遅い

大規模修繕工事は良好な住環境の継続と資産の保全のために行う事前保守(予防保全)です。

問題が表面化してから修繕を行う工事ではありません。事後保全(修理)です。

最悪な事態として躯体が第三者に何らかの被害を及ぼすと所有者義務により損害賠償責任を負います。

それ以外にも外観の劣化は資産価値の低下につながり、売買価格に大きく影響します。

モルタル外壁に雨水排水口を壁に設置しているマンションを見かけますが、水垢や泥が流れた痕跡はあまり良い印象を与えないですよね。

法定検査を実施しないとどうなるの?

法律に決まった検査ですから罰則があります。建築基準法に定めた検査を指導されたのにも関わらず報告しない場合、虚偽の報告をした場合は管理者(マンションでは理事長になります)が100万円以下の罰金です。

これとは別に消防法に規定されている法定点検については30万円以下の罰金です。

均等積立方式って何?

国土交通省が示しイメージです。

修繕が必要な年度と概ねの概算額は計画からわかります。この額が不足しないように毎年同じ額を積立てる方式です。

これに対して階段増額式積立方式はあります。

分譲時に一定額を一時金として徴収、その後一定期間(例では5年)は定額、6年目に増額を繰返す方法です。

どっちの積立方式が良いの?

良い悪いはありません。どちらでも結果は同じですが、均等方式は毎月定額で家計的な安心感があります。これに対して階段増額積立方式は5年ごとに値上げがあります。皆さんの5年後の収入は今より増えていますか?家計の状態はどうですか?わかりませんよね。不安要素が大きいため国土交通省は均等方式を推奨しています。

どっちの積立方式が多いの?

圧倒的に階段増額積立方式を採用する組合が多いようです。将来への安心感より目先の現金を優先しているわけではないしょうが国土交通省は均等方式を推奨は無視しているようですね。

なぜ修繕計画は5年ごとの見直しなの?

鉄部塗装の修繕サイクルは5年です。必ずではありませんが、またその5年後に外壁塗装の可能性があります。

足場設置工事が費用負担になる

街中で建物の周りを網状に覆っている現場を見ませんか?あの工事のほとんどが大規模修繕工事の外壁塗装の修繕作業を行っています。分譲マンションだけでなく賃貸マンションでもオフィスビルでも一定期間ごとに行う必要があります。

足場の材料は使いまわします。そのため面積が足場建設費は広くなれば値段は高くなります。特に高層(15階以上)では高くなります。

外壁修繕はどのぐらいの期間がかかるの?

マンションの大きさにもよりますが、1カ月~6カ月程度です。必ず工事現場には工事の詳細の看板(法定掲示板)があります。期間も掲載されています。

工期が長い時は外壁以外に他の部位の工事も同時期に行っている可能性が高いですね。建築工事と比べると振動や騒音は少ない工事です。

竣工図って何?

竣工図は「竣工図一式」で建築会社から受取ります。意匠図、構造図、設備図に分類されます。

構造図、設備図は何となくイメージできますが、意匠図って何?と思いますよね。

建物全体の形態や、間取りなどの意匠・仕様を伝える図面のことで平面図、立面図、断面図などで建築物の平面や立面の形、各部屋の配置などるデザイン(意匠)を示した図面です。

構造図は基礎の杭の設置場所、本数も含め、標準図・伏せ図・軸組図・詳細図があります。

設備図は電気系統、機械系統の図面類です。

竣工図はマンション管理適正化法で管理組合に引き渡すことが義務になっています。(平成13年8月1日施行)

管理会社に長期修繕計画をお願いすることもできるの?

はい、できます。ただし、管理委託契約業務外になるため、別途費用が発生します。多くの管理会社は修繕部門を持っていて、長期修繕計画も竣工図があれば制作してくれます。

管理業務主任者は、修繕の知識はありますが、計画立案についてはほとんど持っていません。必ず建築の資格者に依頼してください。

長期修繕計画用のソフトはないの?

ありますが、高価です。管理組合で購入する必要はありません。各社独自のソフトを構築しています。また会社向けに販売しています。

実際、竣工図の内容を読みとれればエクセル等の集計ソフトでも作成はできます。国土交通省の標準書式もエクセルで提供されています。

計画の見直しは絶対必要なの?

絶対ではありません。将来の修繕金の不足を回避するために行うべきと定めているだけです。

修繕積立金の変更はどうやるの?

理事会からの議決案が出されます。総会を開き1/2以上の賛成(普通議決)により変更することが出来ます。

ただし、規約に修繕積立金で定められている場合は、規約の変更になるため、総会を開き3/4以上の賛成(普通議決)により変更することが出来ます。

十分に注意してください。

修繕積立金って引下げはないの?

経験上ありませんが禁止されているわけではないのできっとあると思いますが、ほとんどないのでは?と思います。

一度引き下げた後に社会情勢が変わり引上げする時に組合員の合意を得るのは大変です。

朗報としては、現在まで修繕積立金については組合への返却は認められていませんでしたが、現在の管理計画認定制度の導入で返済を認める条文を加えることについて検討されています。

マンションを売る時に修繕積立金は返却されないの?

されません。マンションの共用部を維持するための費用で支払った時点で管理組合の財産になります。売買価格には積立分も上乗せして価格にしていると考えてください。

実際、修繕積立金が不足する管理組合の物件は売却価格が安くなります。

タイルの劣化試験はどうやるの?

目視による確認作業を中心に行います。その他、手の届く範囲で打音試験、赤外線を用いた試験もあります。タイル自体が劣化することはほとんどなく、剥がれや破損(割れ)を確認する検査です。

塗装の劣化試験はどうやるの?

塗装は基材との密着性に問題がある場合と塗膜層の変質による劣化があり、それぞれ別々な現象が確認できます。

基本は目視で塗装状態の確認を行います。塗装は基材(コンクリート、金属など)表面に行います。表面に剥がれ、浮き、ひび割れや汚れ(錆や変色など)が見つかった場合、劣化が進んでいる可能性があります。

密着性はテープによる剥離テストや専用の測定器を用います。変性は表面を手で触ると白い粉が付着する場合は劣化が進んでいることがわかります。

防水の劣化試験はどうやるの?

防水はシート防水、アスファルト防水、塗膜防水などがあり、塗膜防水は塗装に含まれます。それぞれの防水箇所は形状や歩行など使用環境により選択されます。

修繕箇所は屋上に施工される屋上防水、ベランダや開放共用廊下、階段などの床防水、廊下に設置される雨水排水路の塗布防水など限定されます。

目視が基本になります。屋上の場合、雑草などの植物が生育していれば防水層が裂けている現象になります。変色やしわ、ひび割れ、破損など様々な現象から判断できます。

修繕委員会のことを管理会社に相談できないの?

日々の共用部の保全を行っています。修繕履歴の保管もマンション内の状況も把握しています。その意味でも当然相談はできます。また、管理会社は多数の大規模修繕工事の経験があります。修繕方式に関わらず初期の時期の見極めなどは相談と言うよりは提案すべき立場にいます。

ただし、担当者(管理業務主任者等)と管理員のスキルも重要です。時期だけで劣化調査を行うのではなく、マンションの状況を自分の目で見て管理会社に所属する専門家を含めた提案ができる程度のスキルは理事会として望みたいはずです。理事会が終わるとすぐに帰るような担当者には注意ですね。

専門委員会の設置は誰が設置するの?

理事会で決定します。理事会は独自に専門委員会を設置することができますが、多大な費用(予算化されていない費用)が発生する場合は総会の議決が必要になります。

費用の発生が必要ない例えば「駐輪場の検討委員会」などは総会の議決なしで設置することが出来ます。委員会の報告は理事会で行われます。(総会に報告する必要はありません。)

修繕委員会は外部から専門家に加わってもらう必要があり、費用が発生するため総会の議決が必要になります。

なぜ「管理会社主導方式」は修繕費用が高くなるのか?

管理会社が施工会社を決定する時に過程に問題があると言われます。デベロッパー系、独立系管理会社のどちらも建設会社との関連は強くあります。グループ内に修繕会社がある場合、独立系でも初期段階で分譲会社から委託を受ける関係でつながりは強くあります。そうなるとどうしても値段交渉が出来にくいため、あるいはグループ内であれば高めの価格設定にされることが多々あるようです。

第三者の立場で価格の正当性をチェックできない欠点があり、一般的に高いコストになると言われます。

「事業者発注方式」はなぜ理事会だけでは決定できないと言われるの?

複数の修繕施工会社に建物等劣化診断結果を送り、修繕見積りを依頼して比較する方法ですが、工事内容と見積金額を適正に判断するには専門的な知識が必要になります。

価格優先で選定すれば、自分たちの希望に相反する工事(品質、仕様、材料費など)や修繕方法になる可能性もあります。また、工事の説明を聞いてもそれを正しく判断できないため、意に反する結果の工事が施工されてしまう可能性もあります。

これを防ぐために考えられた方式が「設計監理方式」です。建築の専門家である設計士等を理事会の立場で監理をお願いすることができます。

「設計監理方式」は安心なんだね

残念ながら完全ではありません。平成29年に国土交通省は修繕工事の相談窓口の設置を設置しました。

監理者に選任したコンサルティング会社が修繕施工会社と関係があり、バックマージンを約束した上で選定作業を行い、中立性が保たれない業務を行う事例が多く確認されたためです。

まったく、酷い話です。

これを防止するためにも修繕委員会はコンサルティング会社を決定する際にも十分注意する必要があります。また修繕施工会社を公告などで募集する方法も有効です。

紹介者責任の可能性がある

マンション管理士が設計事務所を紹介する場合も紹介者責任があります。道義的には当然ですが、実害を受けた場合は損害賠償請求の対象になるケースもあります。

そのため、マンション管理士にも保証制度があります。マンション管理士業務上の過失等で責任がある時に損賠賠償を保証する保険制度です。(すべてのマンション管理士が契約しているわけではありません。)コンサルティング契約時に確認してください。

マンション修繕維持技術者とは何?

マンション維持修繕技術者とは、マンションの維持・修繕に関して一定水準の知識と技術を有していることを審査・認定することにより、マンション建物・設備の維持保全に関する知識・技術及び対応力の向上を図り、もって円滑な共同居住に関する社会的な要請に応えることを目的とした当協会の認定資格です。(一般社団法人マンション管理業協会)

修繕施工会社の選定ポイントー1

修繕施工会社の選定には幾つのポイントがあります。

大手ゼネコン系だから安心と思われる方も多いようですが、確かに社会的信用も高く絶対的な技術力がありますが、大手だからと言っても工事規模が小さいな修繕工事は契約を締結しても実際に行う会社は下請けの下請けなどの孫、ひ孫の会社です。

途中に会社が多く存在すればマージンが高くなり工事費が高くなる傾向があります。

修繕施工会社の選定ポイントー2

修繕施工会社にも得意、不得意分野があります。

例えばモルタル系の外壁は、職人の腕で仕上がりに大きな違いが生まれます。これは塗膜防水などでも同じことが言えます。

過去の工事実績の提出を依頼し、同じ規模、同じ工法のマンションを多く修繕した実績を重視すべきです。

修繕施工会社の選定ポイントー3

新築住宅や注文住宅を行う請負契約(受託契約は、請負う会社に債務不履行による損賠賠償を保証する制度への加入、あるいは一定金額の保険契約が法律で義務化されています。

これに対して修繕施工会社が行う請負工事には義務はなく、国土交通省も保証制度への加入を推奨していますが義務化はされていません。

設定する際に請負工事への保証制度の加入状態は確認すべき事項です。

修繕施工会社の選定ポイントー4

修繕施行会社が修繕設計に従い作業を行っているかを監理する役目があります。

工法、建材、材料の品番、納品数量、使用数量、作業員の数、警備配置など細かく確認します。

各行程中に行われる検査にも立会い、報告書を確認します。また設計に示されて工法以外の方法や使用量の不正も確認、発覚した場合は注意を行います。

改善がない場合は書面で理事会に報告します。

工事終了後も最終検査に同行、作業終了後に理事会に対して報告書を提出します。

修繕施工会社の選定ポイントー5

地域性も選定ポイントです。

修繕施工会社があまりにも遠方にある場合は、工事現場で何か問題が発生した際に緊急対応が出来ない場合があります。特に地震や台風など近年の異常気象を考えると選定する時に考慮すべき項目です。

台風などの強風で現場の足場が崩れた事故は幾つか報告されています。大きな事故が起きた場合、躯体への損傷の可能性もあります。

業界の新聞って何になるの?

日刊産業新聞や住宅リフォーム新聞などたくさんあります。ネットで広告申込を探せばすぐに見つかります。

修繕方式はどんどん多様化

責任施工方式、管理会社主導方式、設計監理方式は説明しましたが、これ以外に設計士事務所の役割を行うコンサルティング会社があったり、方式は多様化しています。独自に名称を付けた方式で差別化を図る会社もあります。

修繕工事は不動産建物の宿命で必ず周期的に行う必要があり、新築住宅建設より需要は多く、特にマンションの修繕は国も後押ししている関係で多数の会社が乱立しています。

今後、新築マンションの建設は頭打ちになっていますが、修繕件数は増加します。そのため、各修繕施工会社もあの手、この手で顧客獲得を模索しています。

工事監理者と施行責任者は違います

工事監理者が理事会と契約しています。建築の専門家として第三者の立場で工事を監理します。修繕設計と異なる工事や違法な工事が行われて入れば理事会に報告、改善を指導します。これに対して施行責任者(工事監理者)は修繕施工会社の人です。修繕現場の作業指示をすべて管理し、現場で起きることのすべての責任者になります。

左官は差が出る技能職です

モルタルや防水塗膜の施工は左官職人などの職人さんが行います。職人の技量によって仕上がり状態が全く違います。表面の状態もきれいです。また修繕工事後のクレームとして多いの雑なマスキングで発生する汚れや境界線を越えた塗布により見栄えの悪さです。

また、日々の工事終了後の清掃状態や整理整頓にも違いがあります。しっかりした修繕施工会社は、日々の仕事後の清掃や整理整頓がきちんと出来ています。

修繕工事に使用する水道費や電気代は管理組合が負担するの?

請負契約で負担者を決めることが出来ます。一般的に施工会社が負担する場合、実際の使用料金より多くなる傾向にあります。実際の金額が不透明なため損失は出さないように高めに見積もります。これに電気や水道の引込工事の費用も掛かります。

そのため、管理組合負担にすることをお勧めします。実費で負担でき管理費から支出するため、修繕費の負担を少なくできます。

中間検査も重要です

各検査は監理者に任せますが、一度は理事長など限られた人は作業現場を確認しておくと良いでしょう。

ただし、現場は危険も伴います。ヘルメットを着用の上、施行責任者の指示に従う必要があります。

重要な最終検査

修繕工事の検収は工事終了後の最終検査で終わります。

最終検査は、理事長、修繕委員会メンバー、マンション管理士などが立会いの下で行われます。

最終検査で指摘事項があれば、再検査になります。検収の最終決定者は理事長ですが、その前に設計事務所、監理者から報告書を受けることが一般的です。

修繕費用は前払いですか?

一般的には契約金が請負契約時に支払われます。修繕工事が終了後、検査を経て終了後、残金を支払います。

契約金額に決まりはありません。恐らく総工事費の10%程度でしょう。交渉次第ですね。

借入金で修繕を行う場合は、借入金を行う時期は支払い時に合わせて借入れてください。1カ月でも利息の支払い額は少ない方が管理組合には得です。

大規模修繕の時に理事にはなりたくない

確かにそう思われる方がほとんどでしょう。特に理事長になった方は大変です。でも、組合員の誰かがやらないとだめなことです。

手間だけを考えれば。管理会社主導方式は管理会社に丸投げできる方法ですが、管理会社は組合の財政状況をすべて把握している立場です。裕福な管理組合であれば足元を見るケースもあります。

事業者発注方式(責任施工方式)は業者の選定までにそれなりの手間は必要です。

「大規模修繕の適正価格ってどれぐらいなの?」と聞かれますが、個々のマンションによって決まる物であり適正な価格はありません。

設計監理方式も手間の点で比較すれば事業者発注方式(責任施工方式)と同じ以上です。

どうせ手間がかかるなら、納得にいく工事を行うべきで、そのためにもマンション管理士等の専門家を上手に利用することも重要です。


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