令和4年に施行される予定の「管理計画認定制度」について、現在まで明らかになっている中身について説明をします。

管理計画認定制度については、これまで国土交通省が専門家による検討会を5回実施しています。

各検討会の内容は、議事録と資料が公開されています。

資料によると管理認定制度は3つの大きな項目に認定基準を設定することを目的としています。

「修繕の管理計画」「修繕の資金計画」「管理組合の運営状況」です。

特に重きを置いている点は大規模修繕計画の適性な立案とそれに伴う資金計画でしょう。要は、いくら立派な計画を立てていてもそれを実施できる資金計画が無ければ、絵に描いた餅であり、実効性がないため認定しませんと言うことでしょう。

また、管理組合の運用は、理事長(管理者)、監事の存在、総会の定期的な開催を基本として区分所有者名簿だけでなく、災害や治安などを目的に住民全員の名簿の作成も認定基準として盛り込まれています。

これらの認定制度は、原則市区単位に任せるようですが、不十分な対応であると判断された市区では国が直接に指導や勧告ができるシステムになるようです。市区によってはすべての分譲マンション(区分所有法3条で規定する組合があるマンション)を対象する意思をすでに発表している自治体もあります。

国土交通省は、築年年数が長いマンションだけではなく、新築マンションに対してもこのルールを定着させることで、老朽化が避けられないマンションの管理と修繕を将来に渡って安定的な住居にする目的があるようです。

それでは各項目を詳しく確認します。

1、修繕の管理計画

修繕の管理計画の認定基準は4項目が案に含まれています。

1-1、修繕計画の議決

マンション管理組合の基本は集会による議決で意思決定を行うことです。

修繕計画も理事会が勝手に決定した案や組合員が了承していない案は認められず、必ず普通議決(議決権の半数以上)で承認された計画を所有していることが認定基準としています。

修繕工事は毎月組合員が積立てた資金を使用する訳ですから、当然と言えば当然ですよね。

修繕計画が立案されていない組合は少なく、国土交通省の調査では組合数全体の9割以上は作成しているとアンケートに答えています。(承認済みかどうかは定かではありません。)

1-2、計画立案期間が7年に変更

案では従来5年以内に一度の見直しを推奨していましたが、これが7年以内に変更になります。建設材料の性能向上や工法の技術発展により耐久性が伸びていることが背景です。

組合にとってはうれしい改善点です。5年に一度経費計上していた計画見直し費用が7年になります。

1-3、30年以上、2回以上の修繕工事が基本

この内容は従来と変わりませんが、認定基準とされました。国土交通省のガイドラインに即した計画立案が認定要因になります。

マンションの躯体自体の耐久性は適切な修繕により100年以上あると言われています。そこで修繕工事は耐久性に問題がある外壁、塗装、電気系統、給排水設備などに限定されます。

特に外部から工事が出来にくい給排水設備は、躯体の設計上修繕が難しく、築年数が40年以上になると費用を考えた時に建て直しも検討のひとつになります。(要除去認定では1970年代以前に実施された施工方式でスラブ下配管については、改修に多大な費用が必要である、あるいは構造的に建築基準法の基準をクリアーできないなどが認定要因になっています。)

ここ40~50年以前に着工しているマンションでは、修繕工事を考慮し給排水設備の配置やメンテナンスの位置やメンテナンスのし易さを重視した躯体も増えていますが、現在で築50年を経過するマンションではそれぞれのケースを専門家に判断してもらう必要があると言えます。

1-4、長期修繕計画の仕様を示す

管理計画認定制度の認定基準は国土交通省の大規模修繕ガイドラインで示された3つの仕様形式を持ちることになります。(一部資料については準拠とされていますが、大きな変更は難しいと思われます。)

3つの仕様は国土交通省が公表している「長期修繕計画標準様式」で公開されている資料に含まれます。

  • (様式第4号-1)長期修繕計画総括表(P16)
  • (様式第4号-2)収支計画(P17)
  • (様式第4号-3)長期修繕計画表(P18)

せっかめメモに長期修繕計画標準様式から抜粋した各表を掲載します。

多くの管理組合では管理会社がこの様式に則って作成しているはずです。

*2021年11月最新発表により一部変更

仕様書の内容が改定されました。国土交通省は必要事項が記載されていれば書式に拘る必要はないと言う見解だと関係者から聞いています。

1-5、長期修繕計画の工事項目を示す

修繕部位ごとに工事項目が掲載されていることが認定基準になります。

工事部位は仮設(修繕のための足場など)、建物、設備、外構等の4部分が指定され、それぞれに屋根防水、躯体防水など詳細部位が設定され、工事区分(工法)も選択するように作成します。

長期修繕計画表の一部を抜粋します。

組合によっては該当する設備がない場合もありますが、その際は「該当設備なし」と記載する必要があります。

ここまで国土交通省が細かく指導する理由は、竣工時に作成された修繕計画が雑な計画であったり、長い期間、おざなりに計画の見直しを実施した組合が多数存在してたため、今後のすべてのマンションでは一定以上の精度がある計画に基づいた運営が必要と判断したためと思われます。

1-6、修繕工事の時期と費用額の明記

修繕工事の時期や費用額は算出根拠が求められます。使用する材料の種類(ランク)と使用枚数や工事面積等のデータから費用算出が行われます。

この算出の基礎になる情報は竣工図にあります。標準管理規約で建築会社、あるいは分譲会社は分譲後6か月以内にマンション管理組合に竣工図の提出を義務づけています。

竣工図は各箇所の使用材料の仕様、使用枚数(個数、重量、面積等)が記載されています。設計士や建築士はこのデータを基に回収時の材料費と工数(人数と日にち)を導き、それぞれの単価から概ねの費用を概算します。

当然ですが、修繕計画の精度は算出根拠に依存しますが、これ以外にも材料費、人件費が景気により左右される為に一定の幅があると考えます。

資金計画は別に管理計画認定制度の基準項目として詳細が示されています。

2、修繕の資金計画

修繕計画を実施するためには費用が必要です。管理計画認定制度では修繕計画に即した資金計画と積立実績を求めています。

2-1、修繕計画に必要費用が掲載されている

先に説明した1-6は修繕工事内容から必要金額の概算を求めました。

これに対して資金計画は現在の修繕積立金の負担額をベースに算出します。

国土交通省が公開している「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の算出方法はせっかめメモを参照してください。

国土交通省が多くのマンションの修繕工事の実績から算出している修繕積立金の額を公表しています。所謂、各組合の目安になる金額です。

マンションの3LDK(ファミリータイプ)の平均専有部面積が70㎡程度でしょう。

7階建て部屋数30専有部と想定すると30×70=2100㎡が総専有床面積になります。

修繕積立金月額は、218円×70㎡=15,260円と算出されます。

この算出方法はあくまでも国土交通省が全国平均として算出して各マンションの事情によりかなりの幅がありますが、概ねこの額を逸脱した報告は聞いたことがありません。一定の信頼のある参考値として考えるべきです。

管理計画認定制度ではこの専有床単位面積当たりの金額が算出されていることを認定基準としています。

*2021年11月最新発表により一部変更

これまでの金額が大きく変わりました。タワーマンション、小規模マンションの修繕積立金/床面積・月額が大幅にアップされました。

これにより当初現状で4割程度は認定されると見られていましたが、1割も認定を受けることができないという見方が広がっているようです。

これについては追加章で詳しく説明します。

2-2、実行が可能な修繕積立金である

2-1では専有床単位面積当たりの金額が記載されていることが認定基準でしたが、その金額があまりにも国土交通省が示す金額とかけ離れた場合に問題があるとなります。

そこで認定基準では、国土交通省が示した適正値範囲内であるとしています。また著しく低額である場合(包含で示された枠を下回っている場合)はその理由を明記することが必要になるとしています。

ここで示されている著しくとは明確な金額の枠を示しているわけではなく、専門家が理由を説明していることを条件としています。

2-3、一時徴収を計画に含まないこと

毎月の修繕積立金の額を出来るだけ少額に済ませ、修繕工事時に各区分所有者が不足分を出す一時徴収方式は管理計画認定制度では認めないとしています。

おそらく、このような計画は実行性に乏しいと考えているのでしょう。

各家庭で修繕金を積立てるのであれば、組合で積立てても同じであり、家庭内で他に事情が生じ流用するような事態を防止する意味も大きいと思われます。

裕福な区分所有者がすべての組合で修繕時に一括で支払うことに合意していたとしても何十年もその状態が維持される保証はないため、現実性を重視したと言えます。

注意事項として、新築後初年度の一時金の徴収は認めるとしています。

2-4、増額前提の場合はその時期と金額を明記

修繕積立金の方式には「均等積立方式」と「階段積立方式」がありますが、「階段積立方式」を選択している組合では、増額の時期と金額を明記することが必要になります。

国土交通省は均等積立方式を推奨していますが、意に反して多くの組合は階段積立方式を選択しています。階段積立方式は数年単位(5年程度)毎に修繕積立金の値上げを前提とする方式ですが、計画では増加額を織り込んでいるが値上げが出来ず、修繕積立金が不足する組合が多く報告されていることを受けて設置された基準項目でしょう。

修繕積立金の値上げは集会(総会)の普通議決(議決権の半数以上)が必要になりますが、値上げに賛成する区分所有者が少ない場合、合意を得られず結果として修繕工事が出来ずに老朽化に困っている組合があります。

これを未然に防ぐために、5年に一度の更新義務を持つ管理計画認定制度で一定の監視ができるシステムになります。国土交通省の本気度がわかりますよね。

2-5、借入金が前提の場合は返済計画も含まれている

修繕積立金が不足する場合は、借入金で補うことを標準管理規約上認めています。

管理計画認定制度でも借入は認めていますが、ただし、借入金の完済までの修繕期間を明示する必要があるとしています。

例えば返済期間が20年を予定していれば、返済予定後の20年間の長期修繕計画が必要になります。当然ですが、これまで述べた認定基準をクリアーした内容で立案されていることになります。

借りたお金は返済する必要があり、借入金をした組合は、返済額にプラス次回の修繕工事に向けた積立も同時に行う必要があります。(会計上、修繕費の借入金は修繕積立金の会計で処理します。)組合員の毎月の負担が大きくなることは明白です。

国土交通省は修繕工事は一度だけではなく、生涯にわたって負担する必要があり、借入金は認めるが、その額が大きすぎると将来の生活を圧迫する可能性があるため、平素の積立を大切に考え、実行してくださいと組合員に示していると考えるべきでしょう。

2-6、区分経理の実施

マンション管理組合の経理は、管理費と修繕積立金を別勘定で管理する必要があります。基本になります。これがクリアー出来ない組合はごく一部でしょう。

機械駐車場のような日々のメンテナンスが多額になる場合は、管理費と修繕積立金以外の勘定で管理することも認めています。

2-7、流用の監視

一般的な管理組合は管理費は予算額を前提に徴収額を決める方法が採用されています。そのため、年度末には会計上、予備費程度を残し支出されているのではないでしょうか。潤沢な管理費を保有している組合もありますが、これは例外的でしょう。

これに対して修繕積立金はそれなりの額を毎月積立てます。例えば毎月20,000円の修繕積立金、20戸のマンションでは1年間に480万円が貯蓄されます。これが10年とすると4800万円になります。

管理上で急な支出が必要になった時、あるいは管理費が不足した時に修繕金を流用できれば急場はしのげます。しかし、これは絶対に行ってはいけません。

修繕積立金は目的があった積立てているお金です。流用は厳禁です。

これも管理計画認定制度の認定基準になります。

2-8、滞納者への対応

管理計画認定制度では、修繕費の滞納率が1割以下であることが認定条件になります。(ただし、滞納の定義は3か月以上とする。1~2カ月滞納者はカウントしない。)

先ほどの例を用いると毎月20,000円の修繕積立金、20戸のマンションでは1年間に480万円の積立額になります。その1割以下です。48万円以下の滞納金額であれば認定条件をクリアーします。戸数で考えても1戸が1年間の滞納となります。

1割を上限にしている理由は、金融機関の融資条件にあります。

住宅金融支援機構のマンション管理組合への融資条件は、修繕積立金の滞納割合が10%超20%以内である管理組合が借りる場合には、一定の条件を満たす必要があるとしています。

管理計画で認定計画では一定の条件なしに融資が可能であることが認定基準になります。

2021年11月最新発表により一部変更

滞納額を確認するためには、認定申請前月時の滞納者リストが必要になりますが、この情報には個人名が記載されています。

これについては、申請時に個人名を黒塗りする等の方法で保護することが認められているとのコメントを国土交通省から得ていると関係者から聞いています。

管理組合の運用状況

区分所有法、標準管理規約に記載されているルールを守っているかどうかを確認する項目になります。また、検討会資料から最後まで賛否があったのかもしれないと思われる住民名簿が最終案に掲載されました。

3-1、管理者(理事会、理事長)等の権限者の存在

管理者制度、理事会制度のいずれでも可能ですがマンション管理組合の管理権限者が決まっていることが認定要件になります。

これは理事長でも管理会社を管理者に任命していても認定されます。

また、複数の理事長、複数の管理者がいる場合も認定対象になります。

3-2、監事の設置

監事の任命は法人管理組合では必須ですが、それ以外の組合でも区分所有法では設置が義務化されていますが、組合によっては監事を設置していない組合もあります。

今回の管理計画認定制度では監事の設置が認定基準になります。

3-3、集会の開催(定期総会)

区分所有法で定められている1年に一度の集会の実施義務が認定基準になります。

管理者や理事長を設置していない組合は、元々3-1で基準に達していませんので集会の開催の有無に関わらず認定対象にはなりません。

ほとんどの組合は年に1度は定期総会を開催しています。この点は問題ないでしょう。

ただし、注意が必要なことは総会が成立していることです。成立条件は議決権の半数の参加です。(書面でも代理人でも定数を超えていれば問題ありません。)

3-4、住民名簿の常設、更新

区分所有法では区分所有者名簿の常設と随時更新が義務とされています。

多くの管理組合では区分所有者名簿は賃借人を含めて管理され、随時更新がされているはずですが、今回の管理計画認定制度では名簿の書類を「組合員及び居住者」としています。これはマンションに住むすべての人の名簿の常設と随時更新を意味しています。

その上、年1回以上、集会への出席、書面による行使により組合員の照合と表札等で住民と照合を行っていることを認定基準としています。

この背景には外国人を届出なしに住ませる行為や社宅としながら短期の貸アパート(民泊も含む)として利用するケースが増えている点、また子供の出産、成長による世帯分け、死亡に伴う人員の把握が難しく、孤独になる高齢者を見守る体制を整えるためにも重要な情報であると考えていることがあります。

これ以外にも災害時の安全確認や災害物資の備蓄など今後の自然災害に対応する意味でも住民の把握は必要ではないでしょうか。

*2021年11月最新発表により一部変更

最新発表でも明確な名簿の内容については公表がありませんでした。

すべての住人情報を網羅することが求められるわけでも無いようです。特にワンルームタイプのマンションは、住民の個人的な入退が激しく、その度に名簿提出を求めることは困難な状況があると言われています。

今後、どこまでの必要とされるかは不明ですが、少なくとも区分所有者名簿と賃貸借契約者の名簿については必要であると考えられます。

3-5、規約の定め

管理計画認定制度では規約中の3ポイントをチェックすることになります。

いずれも災害や売買時の情報として必要な項目が標準管理規約に準じた内容で掲載されていることが認定基準になります。

3-5-1、専有部の立ち入り

専有部への立ち入りは、管理上、あるいは災害、事故等の緊急時に理事長(管理者)に認められた権利です。標準管理規約では23条(必要箇所への立入)に定められています。(条文を抜粋します、関係する条文を黒太字で示します。)

第23条(必要箇所への立入り)
第23条 前2条により管理を行う者は、管理を行うために必要な範囲内において、他の者が管理する専有部分又は専用使用部分への立入りを請求することができる。
2 前項により立入りを請求された者は、正当な理由がなければこれを拒否してはならない。
3 前項の場合において、正当な理由なく立入りを拒否した者は、その結果生じた損害を賠償しなければならない。
4 前3項の規定にかかわらず、理事長は、災害、事故等が発生した場合であって、緊急に立ち入らないと共用部分等又は他の専有部分に対して物理的に又は機能上重大な影響を与えるおそれがあるときは、専有部分又は専用使用部分に自ら立ち入り、又は委任した者に立ち入らせることができる。
5 立入りをした者は、速やかに立入りをした箇所を原状に復さなければな
らない。

管理上で理事長(管理者)が必要と判断した時は、専有部、専用使用部に立入ることが出来、正当な理由なく拒否はできない。もし、正当な理由なく拒否した結果、損害が発生した時は賠償を負いますと言う内容です。

災害や事故等により躯体や機能上重要な影響を与える時は、理事長、あるいは委任した者に立入りをさせる権利があると定めています。

当然ですが、原状復帰の義務も有しています。

近年の自然災害の多発により躯体への障害も以前に比べ増える傾向にあり、特に老朽化が進んだマンションでは上記のような状況が発生する可能性が高いと考えての基準項目だと考えています。

この内容に準じた内容が皆さんの管理規約に定められているかが認定基準になります。

3-5-2、修繕履歴の管理

管理計画認定制度は老朽化するマンションの修繕を適切に行う管理組合の運営を促すための制度です。標準管理規約ではこれに関する定めが第32条(管理組合の業務)と第64条(帳簿類等の作成、保管)に示されています。(条文を抜粋します、関係する条文を黒太字で示します。)

(業務)
第32条 管理組合は、建物並びにその敷地及び附属施設の管理のため、次の各号に掲げる業務を行う。
一 管理組合が管理する敷地及び共用部分等(以下本条及び第48条において「組合管理部分」という。)の保安、保全、保守、清掃、消毒及びごみ処理
二 組合管理部分の修繕
三 長期修繕計画の作成又は変更に関する業務及び長期修繕計画書の管理
四 建替え等に係る合意形成に必要となる事項の調査に関する業務
五 適正化法第103条第1項に定める、宅地建物取引業者から交付を受けた設計図書の管理
六 修繕等の履歴情報の整理及び管理等
七 共用部分等に係る火災保険、地震保険その他の損害保険に関する業務
八 区分所有者が管理する専用使用部分について管理組合が行うことが適当であると認められる管理行為
九 敷地及び共用部分等の変更及び運営
十 修繕積立金の運

(帳票類等の作成、保管)
第64条 理事長は、会計帳簿、什器備品台帳、組合員名簿及びその他の帳票類を作成して保管し、組合員又は利害関係人の理由を付した書面による請求があったときは、これらを閲覧させなければならない。この場合において、閲覧につき、相当の日時、場所等を指定することができる。
2 理事長は、第32条第三号の長期修繕計画書、同条第五号の設計図書及び同条第六号の修繕等の履歴情報を保管し、組合員又は利害関係人の理由を付した書面による請求があったときは、これらを閲覧させなければならない。この場合において、閲覧につき、相当の日時、場所等を指定することができる。
3 理事長は、第49条第3項(第53条第4項において準用される場合を含む。)、本条第1項及び第2項並びに第72条第2項及び第4項の規定により閲覧の対象とされる管理組合の財務・管理に関する情報については、組合員又は利害関係人の理由を付した書面による請求に基づき、当該請求をした者が求める情報を記入した書面を交付することができる。この場合において、理事長は、交付の相手方にその費用を負担させることができる。

理事会(管理者)の業務に指定されている修繕履歴ですが第64条でわざわざ、組合員又は利害関係人の理由を付した書面請求を規定しています。利害関係人とは物件の仲介を行う不動産会社、あるいは修繕等の目的履歴を確認した業者等が想定されます。

この業務は管理委託契約により運営している組合では管理会社が担当しますが、普段、理事等が資料を確認する機会はなく、本当に履歴管理が出来ているかを確認すべきでしょう。(まともな管理会社であれば履歴管理は重要な業務と考えています。)

いずれにしてもこの内容に準じた内容が皆さんの管理規約に定められているかが認定基準になります。

管理計画認定制度で認定に際し履歴資料をどこまで確認して認定するかはわかりませんが事前に確認しておくべきでしょう。

3-5-3、管理情報の書面提供

修繕履歴と同様に管理情報についても組合員、又は利害関係人からの閲覧請求を第64条3項で定めています。(条文を抜粋します、関係する条文を黒太字で示します。)

(帳票類等の作成、保管)
第64条 理事長は、会計帳簿、什器備品台帳、組合員名簿及びその他の帳票類を作成して保管し、組合員又は利害関係人の理由を付した書面による請求があったときは、これらを閲覧させなければならない。この場合において、閲覧につき、相当の日時、場所等を指定することができる。
2 理事長は、第32条第三号の長期修繕計画書、同条第五号の設計図書及び同条第六号の修繕等の履歴情報を保管し、組合員又は利害関係人の理由を付した書面による請求があったときは、これらを閲覧させなければならない。この場合において、閲覧につき、相当の日時、場所等を指定することができる。
3 理事長は、第49条第3項(第53条第4項において準用される場合を含む。)、本条第1項及び第2項並びに第72条第2項及び第4項の規定により閲覧の対象とされる管理組合の財務・管理に関する情報については、組合員又は利害関係人の理由を付した書面による請求に基づき、当該請求をした者が求める情報を記入した書面を交付することができる。この場合において、理事長は、交付の相手方にその費用を負担させることができる。

条文中の財務・管理に関する情報は理事会、総会議事録を含む会計帳簿、什器備品台帳、組合員名簿及びその他の帳票類のことを示します。

ただし、修繕履歴とは異なり閲覧義務はなく、理事長の判断で提出させることができると定めている点は注意してください。

管理計画認定制度について

以上が国土交通省が最終案で示した管理計画認定制度です。

区分所有法、標準管理規約、大規模修繕ガイドラインから修繕工事を中心に認定基準が設定されていることがお分かり頂けたと思います。

ここ30年ぐらいの間に分譲されたマンションの多くは、マンション管理の法整備がほぼ整った状況で運営され、管理会社のサポートも充実している環境であり認定制度をクリアーできるはずです。

今回の制度でもっとも重要な国土交通省の目的は老朽化が進んでいるにも関わらず、何も実施しない組合を炙り出し、行政指導を行うことにあります。

もうひとつの目的として現在は順調に運営されている管理組合が将来に渡り、健全な運営を続けていくことを確認することにあります。

どのマンションも老朽化は必ず起きる宿命です。しかし、その速度を出来る限り遅らせ、常に良好な生活環境と資産保全を維持する制度を創設したと言えるでしょう。

また、今回の制度で大規模修繕が難しい組合も浮き彫りになると思われ、これに対応すべく「マンション要除去認定制度」も同時に施行が予定されています。

この制度についても来月以降、特集で扱う予定です。

修繕計画は誰が主導で立案?

理事の中には管理会社と答える方も多いようですが法的に決まっているわけではありません。もちろん、標準管理規約でも修繕計画の作成は契約外としています。

「えっ管理会社のサービスじゃないの?」と思われた方は認知を改めてください。あくまでも組合が費用をかけて作成する計画です。

市区によって対応はそれぞれ

東京都と神戸市の例を紹介します。

東京都(特集紹介ページで紹介しました)では昭和58(1983)年12月31日以前に新築されたマンションのうち、居住の用に供する独立部分が6以上であるものについて管理状況提出制度を導入しました。各区でも同様の制度が実施されています。管理計画認定制度については、対象をどこまで広げるかはまだ公表されていません。

神戸市は管理計画認定制度が公表された後に、市内の全管理組合を対象にする実施ことを報道発表しています。恐らく神戸市は震災を経験していることもありマンション躯体の安全性を担保したいと考えているのでしょう。

このように市区レベルで今後どのようにこの制度を利用するかはまだわかりませんが、不十分な対応では国から勧告等を受けることが明らかな以上、安易な政策はできないと思われます。

30年以上、2回以上とは?

新築時(組合設立時)に30年間以上の修繕計画が立案されていることが基本になります。

基本計画後、7年、あるいは部分的な修繕、大規模修繕前後に実施される修繕計画から更新を重ね、最低でも7年間に一度最新の修繕計画を組合として承認していることが求められます。

修繕計画期間は30年以上です。

長期修繕計画総括表とは?

横項目が築年数(あるいは計画年数)、縦項目に修繕工事部位になります。

収支計画とは?

縦軸に積立金額(予定と実績)、横軸が経過年数になります。

過去も掲載し、消費実績と累積残高を掲載するのが一般的です。

竣工図はありますか?

竣工図とは皆さんのマンションの実際の設計図のことです。工事着工前の図面を設計図と言いますが、工事中に仕様変更や計画時の寸法と異なることは良くあることで実際に完成した図面とは違います。

竣工図は分譲会社を通して管理組合に半年以内に譲渡されることが法律で定められています。今では当たり前ですが一昔前はこのような決まりはなく、築年数が古いマンションでは設計図や竣工図がない場合もあります。その場合は修繕工事時に新しく作成することになります。

最近では製本ではなく電子媒体で保存するケースも多くなっています。

修繕工事の建築資材の算出方法

タイルやサイディング材を始めとする材料は枚数計算ではなくほとんどケース、施工面積や重量(材料)で算出されます。

修繕積立金の算出ガイドライン

国土交通省のガイドラインより抜粋

修繕計画の見直し時点での積立金の残金と次回修繕までに積み立てられる予想総額と施設利用料の総額が分子になります。

この金額をマンション全体の総専有部面積と次回修繕実施までの期間(月数)の積が分母になります。

この結果から専有部単位面積当たりの修繕積立金を求めます。

包含される幅とは何か?

修繕積立金の額は個々のマンションで修繕状況の事情が異なるため、あくまでも目安であり、平均値からズレていても一定の幅(3分の2以内)であれば問題視されるレベルではないと解釈してください。

平均額より高額だからと言って現在の修繕積立金額を値下げしたり、逆に低額を理由に値上げの目安にすべきではないと言うことです。

専門家とは誰?

現在の認定制度案では特に資格が明記されていませんが、マンション管理士や設計士(建築士)を示していると考えられます。

ただし、マンション管理士の資格があるから適正額を評価できるか?と言えば疑問が残ります。マンション管理士協会の適性な指導を受けた認定者が対象であるべきでしょう。

誰が認定を承認するのか?

基本案の資料では「指定認定事務支援法人への認定事務の委託の活用や利益相反も想定した適切な監督が必要。」と示されています。

市区が主導する管理計画認定制度ですが、認定の実施には国が認めた第三者機関が実施する見込みです。

一時金は危険です

本文中で示した70㎡、3LDK、総専有面積2100㎡を例に説明します。

毎月の修繕積立金は15,260円、年間で183,120円になります。これを大規模修繕の周期である12年とすると何と!!一時金の額は219万円になります。

組合の皆さん来期、大規模修繕を行います。219万円の一時金を徴収します。宜しくお願いします。と組合から通知があった時にどれだけの組合員が対応できるでしょうか。

積立方式により徴収額は変わらない

均等方式であろうと階段方式であろうと必要な総修繕額に変わりはありません。

5年に一度値上げを前提にしている階段方式は年を取れば年収も自然と上昇して差額を吸収できると判断して階段方式を選択している組合が多いようですが、そこまで賃金の上昇は見込める時代ではありません。

購入した時から一定であれば、家計のやりくりも安心なんですけどね。

分譲会社にも責任がある

分譲会社は売ることが重要です。何せ売れ残れば自らが区分所有者になる可能性もあります。そのため購入者に出来るだけ楽に資金計画ができるように勧めます。

管理費も修繕費も負担が多いより少ない方が購入者は喜びます。将来の増額の話は「マンションが手に入る」喜びに比べればそれ程、購入意欲にブレーキを掛けることもありません。

その上、購入時の一金はローンに組込むことが出来ます。結果として将来に大きな負担を見込んだ販売を行っている分譲会社が多数いることも事実です。

2~3倍はよくあることです

修繕積立金の値上げはよく聞きます。理由は新築時の修繕積立金額が安く設定されていることにあります。実際にそのギャップに気づくのは管理組合が安定的な運営に入る3~5年でしょうか。委託契約する管理会社の資質にもよりますが、酷い場合10~15年後にいきなり2倍、3倍になることもよくあります。

4倍以上もそれ程珍しい話ではありません。

滞納割合の考え方

住宅金融支援機構の資料から抜粋します。滞納割合には2つの考え方があります。

1、決算書による確認方法1

分子に累積未徴収額(期を跨いで累積)として分母に決算上の1期中に徴収する予定額修繕積立金としてその比率で表します。

ポイントは期の初めで計算します。

2、決算書による確認方法2

分子に直近1年間の未徴収額として、分母に直近1年間の徴収予定額としてその比率で表します。(分母が徴収予定額としているのは滞納が無かった場合との額になります。)

この算出方法は期中に計算する場合に適用します。一般的には融資申し込むの前月、前々月を起点に過去1年間で算出します。

監事の役目を再確認

理事は集会(総会)で決定します。理事会では決定できません。(注意してください。)

監事は理事会が日々の運営をルールに従い実施しているかを監視する役目があり、理事長と同等の権利が与えられます。

理事長、役員に理事会、集会(臨時総会)の開催を要請する権利、自ら集会を開催する権限もあります。

また、理事長が利益相反関係の契約の当事者になった場合、監事が代表者になり契約を締結します。

監事は年度末の総会で組合会計が報告通りであることを確認する役目があります。

名簿にはどんな項目が必要?

一般的な区分所有者名簿の項目は氏名、住所(集会開催の案内通知先)、緊急連絡先、勤務先、家族構成です。

個人情報が厳しく法律化されています。管理は非常に重要になり、管理会社も管理員を含め社員教育を徹底しています。

住民名簿は必要か?

「必須ですか?」と聞かれると悩みますが、管理が厳格であれば管理上重要な情報になります。

大規模なマンションでは知らない間に高齢者の一人暮らしになるケースも多くあり、自然死なども報告されています。長い生活の中で住民間では人間関係は形成されますが、すべての住人の詳細な情報を知っているわけではありません。

管理員の立場で考えると誰が住んでいるのかを確認できる資料は非常に便利です。

また、各戸の家族構成、勤務先を把握することでマンション内でのトラブルを解決する重要な資料になるケースもあります。

規約の改定方法

皆さんのマンション内の生活のルールですかた規約の改定は簡単にはできません。

理事会が規約の改定案を作成します。と言っても理事会だけで決定することは稀で、組合員へのアンケート等を取り組合員の合意形成を判断するケースもあります。承認が出来ると判断すれば、最終案の作成はマンション管理士や管理会社に依頼することが多いでしょうね。

作成した改定案を理事会の過半数で承認後、理事長は臨時(定期でも大丈夫です。)の総会の開催日を決定します。通知と併せて改定案の内容を組合員に通知します。

この時、出来るだけ多くの組合員に参加を求めるため、当日出席できない人の数も調べる必要があります。また、議決権行使書を同封し書面による参加も求めます。

当日は議事進行に従い総会を行い区分所有者数、および議決数の3/4以上の承認を受け改定案は決定されます。

大変そうに思えますが、実務を行うのは管理会社になります。(ただし、管理委託契約を締結していればです。)

改定規約の保存方法

承認が得られた規約を保存する方法は次のようになります。

規約原本は公正証書として作成されていますが改定案を公正証書にする必要はありません。

通常の総会通りに議事録を作成し理事長が記名押印、参加した組合員2名が記名押印します。これは保管されます。

これとは別に理事長が1通の書面に「第〇〇総会第××号議案として可決された総会議事録と相違ありません。」と記載し、署名した上で、この書面を保管することで完了します。

規約原本を変更する必要も組合員に配布する必要も特に必要とは標準規約には記載されていません。

修繕履歴について

修繕履歴は国土交通省の修繕計画に則って整理すべきでしょう。まず、分類としては建物と設備に区分されます。建物は屋上、外壁、防水等があります。(国土交通省の大規模修繕、様式第4号-3が参考になります。)

マンションの共用部の設備の一般的にエレベーター、給水設備、排水設備、電気設備などに分類されます。どの設備も定期点検や

個々の設備をエクセル等で整理すると良いでしょう。(機種、型番、メンテナンス会社等の情報を施設ごとにまとめる)

一般には管理会社のシステムで管理されていると思いますが、管理会社の変更等があると書式が変わり大変です。汎用性の高いデータで保管すべきでしょう。

利害関係者の定義

組合員の中には親兄弟は利害関係者と思われえている方がいますが、親兄弟だから利害関係者とは定義されません。

言葉通りに利害関係がある人のことで、親兄弟でも相続問題が発生中の関係者であれば利害関係者になりますが、日常では兄弟だから利害があるとは判断されません。

マンション内の事故等の情報

例えば設備事故や火災と言った情報を知りたいと訪ねてきた場合です。(人が亡くなると言った事故です。)

不動産関係に売買の仲介を頼むケースではあることですが、このような情報は住民から周辺に広がります。(近所付き合いがあれば当然です。)

どうしてもネガティブな情報が多いですね。

この場合、理事長の判断(理事会の判断も含む)で情報を公開するかどうかは決定します。

管理会社が勝手に伝えるようなことはありません。

什器備品台帳って何?

集会場やマンション内に設置したあるソファー、備え付けの棚などが該当します。備品は装飾品も含めて常設してある家具類を示すと思えば良いでしょう。

認定制度は必要か?

専門家の中でも賛否が分かれているようですが、東京都では令和2年4月から条例により管理状況届出制度を行いましたが、東京都の発表では対象となるマンションは14,000棟に対して届出があったのは6,300棟で届出率は45%程度でした。

また、25年以上の長期修繕計画を立ている組合は6,301棟中、50.3%に留まっていることが発表されています。

届出対象の昭和58年以前に建てられたマンションの中で耐震検査を済ませている組合が4,495棟中、31.8%、耐震改修を実施済みの組合が10.1%でした。(東京都資料より)

首都圏直下型地震を始めとする巨大地震の確率が高くなる中、倒壊の危機があるマンションがこれだけ存在している状況を考えると精度の中身にはいろいろな問題があるかもしれませんが、制度そのものを否定することはできないと考えています。

皆さんはどう思いますか?

ちなみに政策指針(目標)は2025年(令和7年)までに25年以上の超区修繕計画を立案しそれに則って積立を行う組合数を70%まで向上させるとしています。

マンション管理適正評価制度が始めるらしいです

国や市区が勧める認定制度は合否になると考えていますが、これとかなり似た制度が民間でも2022年4月から開始されます。

運営はマンション管理業協会です。

組合がお金を払って毎年、専門家の評価を受け、5段階にランク分けされます。

この情報が市場で公開され売買価格等に利用しようと言う制度です。(詳細は別の章で説明します。)



次章では皆さんの組合が管理計画認定制度に認められるためのチェックポイントと準備についてお話しします。

➡ 2章、管理計画認定制度に備えるに続く


目次(追加分を含む目次)

1章 管理計画認定制度の中身

2章 管理計画認定制度に備える

3章 マンション管理適正評価制度とは?

4章、管理計画認定制度が公開 2021年10月追記

5章、管理計画認定制度ガイドライン公開1 (修繕積立金の基準値変更)2021年12月6日追記

6章、管理計画認定制度ガイドライン公開2 (管理計画認定制度の申込方法)2021年12月6日追記

7章、管理計画認定制度の現状 (管理計画認定制度の申込方法)2021年12月6日追記


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