2021年11月30日、国土交通省が「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」第5条の3に基づくマンションの缶入り計画認定制度に関する事務ガイドラインを公開をしました。

各地方自治体、マンション管理士会連合会(日管連)、マンション管理業協会、マンション管理組合の大きの皆さんが注目していましたが、制度の全容が明らかになった段階で各関係者の受け止め方も色々あるようです。

ガイドライン公開後、多くの方とこの話題を話し、関係するセミナー等にも参加した現在、感じたことをまとめます。

主観的な意見が多くなると思いますが、管理計画認定制度に期待しているマンション管理士の意見としてお読みください。

1、制度導入への意見は2極化

管理計画認定制度導入についてマンション管理組合の理事長や役員経験者の意見は大きく2つに分かれています。

管理に自信がある管理組合は、制度に問題はあると思いつつも管理を正しく評価してくれる制度導入は歓迎しています。一方、マンション管理はあくまでも最小限で済ませたいと考えているマンション管理組合の皆さんは興味なし、あるいは申請への意味を見つかられない意見が多く、全体としては後者が多かったと感じました。

管理計画認定制度は行政から指導・勧告ができる制度ですが、制度への申請は任意です。

敢えて指導や勧告を受ける可能性がある制度に積極的に申請するには管理見合いとして申請する動機が必要になることはわかります。

管理運営に自信がある管理組合は、日々努力をしていることへ組合員以外(住民)に評価をされる機会はありません。もちろん、誰かに褒められるために努力しているわけではなく、良好な住環境の維持、不動産資産の維持が目的です。

管理費、修繕積立金が将来的に枯渇せずに安定したマンションライフを送るために管理規約を厳守し、管理費や修繕費も受入れています。

しかし、その事実は住民になった初めて理解できることであり、対外的(不動産売買)で公開され、評価される機会はこれまでありませんでした。

中古マンション市場でも仲介する不動産会社は売買契約時に重要事項説明は行いますが、マンション管理については管理費、修繕積立金の月額を説明するだけで、管理組合の財政状況、修繕状況を説明する義務はなく、不動産売買のマンションの価値は、立地、築年数、間取りです。

昔から「マンションは管理を買え」と言われていますが、これに焦点を当てた不動産売買は行われていないのが事実です。

この制度が国土交通省が示す不動産価値につながるとすれば、認定を受けた管理組合のマンションは売買時に高く評価され、結果として子供たちが相続したい不動産になり、次世代、次々世代に引き継がれる不動産資産になり得ると思われます。その観点から管理計画認定制度に積極的に申請する気持ちも頷けます。

2、何のために申請するかが分からない

一方多くの管理組合の役員の皆さんの意見は「申請するメリットは何?」と言う素朴な疑問です。

多くの理事は輪番制の中で役職を受け義務感で引き受ける方がです。「何もわざわざ面倒なことをする必要があるの?」と思う気持ちを持った方が多かったことは納得できます。

さらに申請にはマンション管理士や日管連、マンション管理業協会から行う必要があり、有償です。

また5年ごとに更新が伴い同様の労力が必要になります。

今回の管理計画認定制度で認定を受けた管理組合は、(公財)マンション管理センターに認定マンションとして公開することができますが、そのによってインセンティブ(ご褒美的な特典)があるわけではありません。

マンション管理組合の役員や組合員でなければわざわざ検索してみることも期待できません。

国土交通省は将来的に不動産売買に有益な情報になり得るとしていますが、現状では確約されたものではなく、その上、マンション管理業協会が同時に開始する「マンション管理適正化評価制度」は、明確に不動産業界に評価結果の利用をつなげる活動を行っています。

また、インセンティブと言う面では、日管連が実施している「マンション適正化評価サービス」では損害保険の保険料の優遇を受けることができます。

結果として管理計画認定制度に申請する管理組合は一部に留まると考えている関係者が多いことを感じます。

メリットが明確にならない限り、積極的に制度に参加、申請を行う組合は限定的になると考えています。

3、そもそも売却を考える人は減少

不動産としてのマンションの価値を確立することは不動産売買上、非常に重要なことです。

特にマンションは「管理を買え」と昔から言われていますが、マンション管理はマンションの価値を決める大きな要素であるべきですが、それ自体が不動産業界に受入れられているかは疑問です。

今回の評価制度は売手側(区分所有者)が自分のマンションの管理状況を評価する制度です。

その結果を不動産会社が高く評価、買手がマンション管理の実情を評価して買手が付きやすいマンションになります。

売手には価値がありますが、売りつもりがない区分所有者にとってはメリットがありません。

(注)管理状況が健全でることを第三者が評価することには意味がありますが、その結果は組合員の安心感であり対外的に費用をかけてまで評価を受けることにメリットを感じずらいと言う意味です。

しかし、現在の区分所有者の半数以上は一度購入したマンションを終の棲家と考え、買い換えや不動産投資対象として購入する割合は減少していることは国土交通省の調査でも明らかになっています。(平成25年国土交通省調査、永住意識より)

認定制度が売手(区分所有者)にとってメリットがあるとしても管理組合では、半数以上の組合員が永住意識を持っていたとすれば、総会で制度への申請を了承する議決を得ることは難しいと言えるでしょう。

先程も記載しましたが、メリットだけで考えれば日管連が実施している「マンション管理適正化評価サービス」は無料で行うことができ、共用部の損害保険の保険料の優遇を受けることができる制度を利用したいと考えるのではないでしょうか。

確かに今回の管理計画制度との同時申請は可能ですが、両者を同時に受けるメリットが希薄であると言えるでしょう。

4、インセンティブの充実化が必要

現在公開されている情報からでは、管理計画認定制度は管理組合が費用を支払い、相当の労力を使う以上、対価となるインセンティブ(ご褒美)が無ければなかなか普及しないと思っています。

例えば、認定を受けると固定資産税や都市計画税の免税、火災保険等の保険料の優遇、修繕積立金の所得税控除など区分所有者に直接与えられるメリットがあれば積極的に認定制度の挑戦するはずです。

それ以外にも健全な管理は不動産資産を将来的に良好な状況で維持することが目的であれば、相続時(不動産相続税)の軽減税率などの優遇があれば、現在の区分所有者に限らず相続人(子供たち)に修繕の重要性を認識させ積極的なバックアップ(資金援助)を期待することもできるのではないかと考えています。

*売れない、魅力のない不動産を相続しても相続人自身が自宅を所有していれば、固定資産税、都市計画税の負担が毎年あります。

国土交通省が将来的に不動産売買市場に有用な情報を提供する環境が整えば、これまで管理運営には消極的と言われている投資用マンション所有者や賃貸不動産会社も管理組合の運営や修繕にも前向きな姿勢に変わるかもしれません。

いずれにしても、市場への情報は売手にとっては必要ですがそれ以外の組合員にとっては大きな意味を持たないことは忘れてはいけません。

5、不動産業界の受け止め方

中古マンションを扱っている不動産会社は、制度の導入について好意的に受け止めている会社が多いようです。特に不動産売買情報を公開しているポータルサイトは従来の中古マンションとは異なる視点で評価することに期待を寄せているようです。

ただし、不動産会社は売買仲介手数料で収入を得ているため、制度の導入により認定を受けられないマンションの売買が不調に終わることも考えられるため、それによりマンション全体の売買件数が減ることに不安を抱く方もいるようです。

現在の中古マンション売買時の仲介には、宅建士による重要事項説明が義務化されています。その中にマンションの状況説明として管理規約、使用細則、毎月の管理費、修繕積立金の額は説明事項にありますが、管理組合の運営評価については通知義務はありません。

そのため、購入後に1~2年で管理費や修繕費の値上げがあったなどのクレームはよくあることです。

このような事態は不動産会社の信用にも関わりますが、不動産会社の担当者(宅建士とは限らない)にマンション管理の知識が無いケースも多く、物件そのものの善し悪しとは違う側面を評価して購入者に伝える能力がない人も多く仕方がないとも言えます。

管理計画認定制度が国土交通省が目指す不動産売買の貴重な情報として利用できるようになれば、中古マンションの市場に起きているクレームの多くは無くなるのかもしれません。

今回の管理計画認定制度では、既存マンション管理組合以外のこれから建設されるマンションについても対象となる見込みです。

分譲会社(デベロッパー)と管理会社が申請者となり、国土交通省の指針が示す運用を約束することで認定を受ける制度です。

この制度は現在準備中ですが、最大の特徴は購入者が住宅支援機構等のフラット35を使用する時の金利が優遇されることです。

実現すれば購入者にはメリットが大きく、分譲会社もこの制度の導入を積極的に進めるのではないかと言われています。

ただし、国土交通省の示すガイドラインでは修繕積立金は均等積立方式で㎡当たりの負担額も大きいため、購入は富裕層に偏る懸念もあります。

ローン返済額と修繕積立金

分譲会社(デベロッパー)は新築マンションを建て、販売することで開発費をペイします。

そのため、売残りは厳禁です。そこで少しでも購入しやすい条件として毎月のローン額の他に組合に徴収される管理費と修繕積立金を出来るだけ少額にして購入者のハードルを下げる手法を取る会社を多く見かけます。

本来、必要な管理費と修繕積立金が4万円/月になるにも関わらず、管理費等1万5千円と販売時に表示します。

販売終了後、管理費の赤字や修繕金の不足は入居後、5年以上経過して発覚するため、分譲会社には無関係になるわけです。

このような組合では管理費の値上げが繰り返され、修繕積立金は大規模修繕工事の前になると4~5倍に値上げされる組合はたくさんあります。

このような手法は、管理計画認定制度の算出根拠の認定基準によりあまりにも不自然な安価な修繕積立金は認められないため、利用できなくなります。

現在のマンション賃料と同等なローン返済額でマンションが購入できますと言った怪しい広告はよく見ますが、今後はこのようなことが少しでも減ることにつながれば良いと思っています。

首都圏を始めとしてマンション販売価格はバブル期を超え、史上最高値と言う報告もあり、新規購入者は高額年収の家庭に限定されつつあります。反面、比較的安価に手に入る中古マンションの価値も見直されています。

「マンションは管理で買え」と言われて久しいですが、中古マンションの需要が増えれば、管理組合の運営状況の優劣が販売価格に反映されるのは当然のことで、その意味では管理計画認定制度は重要な役割を果たす可能性があります。

既存の管理組合も空室や賃貸不動産化は防ぎたいことであり、活発な中古マンション市場は歓迎したいと考えています。例え、築年数が35年を超えていても適切な管理と修繕を実施していればマンションの価値が上がることが明確になれば、認定制度を積極的に受ける組合も増えてくると考えられます。

開始されてから地方自治体の法制化の準備期間もありしばらくは動向を見守る必要があり、幾つかの問題点もある制度ですが、改善やインセンティブの追加により将来的には制度への登録が当たり前になる時代がくるのかもしれません。


目次(追加分を含む目次)

1章 管理計画認定制度の中身

2章 管理計画認定制度に備える

3章 マンション管理適正評価制度とは?

4章、管理計画認定制度が公開 2021年10月追記

5章、管理計画認定制度ガイドライン公開1 (修繕積立金の基準値変更)2021年12月6日追記

6章、管理計画認定制度ガイドライン公開2 (管理計画認定制度の申込方法)2021年12月6日追記

7章、管理計画認定制度の現状 (管理計画認定制度の申込方法)2021年12月6日追記