管理会社との管理委託契約は事務処理を行う業務委託ですが、修繕工事等は契約は請負契約に分類されます。

民法でも扱いが異なります。請負契約の特徴は成果物が存在することです。

請負契約も改正により変更になった点があります。マンション管理組合が知っておくべきことを確認しましょう。

1、請負契約の報酬

大規模修繕工事を含む修繕工事を専門業者と契約する時に締結する契約が請負契約です。

請負契約に関する民法の改定の中で特に注意すべき点は仕事が未完成のまま契約が解除された時です。

第634条
 次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。
二 請負が仕事の完成前に解除されたとき。

条文中では管理組合が注文者になります。

注文者の責めに帰することができない事由とは、管理組合に管理組合の事情で仕事が完成できない場合や管理組合から請負契約を解除した場合にはその時点までの完成度(利益の割合・・仕事の達成の割合と考えるとわかりやすいと思います)に対して報酬を支払う必要があると言うことです。

組合内で工事契約後に反対が多くなり、工事の中止が必要になった場合などが想定されます。

これは民法で復委任に当り改正されました。

民法644条の2

受任者は、委任者の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任することができない。

代理権を付与する委任において、受任者が代理権を有する復受任者を選任したときは、復受任者は、委任者に対してその権限の範囲内において、受任者と同一の権利を有し、義務を負う。

受任者が管理会社、委任者が管理組合に該当します。

管理委託契約内に再委託の項目がある場合、委託業務内容を十分に確認し、再委託する範囲を記載することが重要です。

また、委託先の会社名、所在等が記されていることを確認してください。

委託先が違法行為、不祥事等を起こした場合の責任は管理会社になります。これも覚えておきましょう。

2、管理組合からの契約途中終了時の報酬

管理会社のリプレースは契約途中で行われることもあります。この場合、管理会社はそれまでに実施した契約内容に従い管理組合に報酬を請求することができます。民法では次のように規定しています。

民法648条(受任者の報酬)

受任者は、次に掲げる場合には、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 委任者の責に帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき。
二 委任が履行の中途で終了したとき

リプレースする原因が管理会社の業務不履行であれば別ですが、

一般的なマンション管理業務委託契約は契約の途中解約は3か月前事前告知の上で行うとされています。(標準管理委託契約書より)

(解約の申入れ)
第十九条 前条の規定にかかわらず、甲及び乙は、その相手方に対し、少なくとも三月前に書面で解約の申入れを行うことにより、本契約を終了させることができる。

しかし、報酬についてまでは記載されていません。報酬については民法が適用されます。現実的には委託費用は月末に支払う(前払を含む)が一般的です。特に問題になることはありませんが、覚えておきましょう。

また、途中解約時の報酬を別途、両者で取決め契約書に記載されている場合はそれに従います。

管理会社の義務違反による契約の解除には猶予期間を催告した上で、債務不履行と認められた場合になります。この場合は損害賠償も請求できますが、履行した業務については報酬は支払う義務あるので注意してください。

(契約の解除)
第十八条 管理会社が定められた義務の履行を怠った場合は、相当の期間を定めてその履行を催告し、相手方が当該期間内に、その義務を履行しないときは、本契約を解除することができる。この場合、甲又は乙は、その相手方に対し、損害賠償を請求することができる。

3、委任解除の損害賠償

管理組合が管理会社との管理委託契約を途中で解除する場合に損害賠償の必要があるのではないか?と言う疑問が残ります。

民法では次のように規定しています。

民法651条(委任の解除)

1 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。

2 前項の規定により委任の解除をした者は、次に掲げる場合には、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。
一 相手方に不利な時期に委任を解除したとき。
二 委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したとき。

マンション管理の委託契約は「専ら報酬を得ることによるもの」に該当するとされています。そのため、損害賠償の対象とはなりません。

しかし、管理委託契約書に途中解約に関する違約金等の記載があれば支払う必要があります。

是非、現在、締結中の管理委託契約を確認してください。


「専ら報酬を得ることによるもの」とは何か?

元々委任(受任)契約は信頼関係に基づくもので無報酬が原則です。

「~おねがいできないかな?」「いいよ」と信頼関係が成立している両者の契約です。

そのため、報酬を目的とした委任契約は民法で規定している契約とは異なると考える人もいます。

委任者、受任者はいずれも、いつでも契約を解除できる点、やむを得ない事由がある場合は損害倍者の必要もないと言う点も含めて信頼関係、無報酬が原則が根底にあるからなのでしょうね。

管理会社との委任契約は信頼関係が初めからあるわけではなく、報酬を前提とした契約になるため「専ら報酬を得ることによるもの」に該当するとされています。


4、外部専門家との委託契約

規約改正、大規模修繕工事の設計会社の専門委員会のメンバーとして、あるいは不足する役員の補充で契約する外部の専門家との契約は委託契約になります。マンション管理士と契約する顧問契約も同じです。

この場合、会社と契約する訳ではなく、特定の人物の能力を評価して契約すると考えられ、原則として復委任を認めないとされています。

報酬等については管理会社の委託契約と同じです。


以上がマンション管理組合が今回の民法の改正によって委託契約に係る変更点、注意点です。

基本的に改正前と解釈を含めて大きく変更になる点はありませんが、従来、解釈として適用されていた点が明文化されたことが大きな変更点になります。


目次

1章、管理組合運営への影響

 2章、配偶者居住権の影響

3章、法定金利が変わりました

4章、消滅時効の表現が変更になりました

5章、管理委託契約に係る民法の改正

6章、修繕工事契約に係る民法の改正

7章、賃貸借契約に係る改正

8章、組合運営に係る改正


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