マンション管理組合が屋上を通信アンテナ拠点として通信会社と賃貸借契約を結ぶ、あるいは空き駐車場を外部の第三者に貸出すなど貸主として賃貸借契約を結ぶことは良くあることです。

賃貸借も改正により変更になった点があります。マンション管理組合が知っておくべきことを確認しましょう。

1、賃貸借契約で問題になること

多くの皆さんは賃借人の経験はあると思いますが、賃貸人になった経験は少ないと思います。

区分所有者の方であれば将来、部屋を貸出すことも考えている方もいると思いますが、賃貸人になった時に注意することがあります。

不動産のアドバイザー業務で賃貸人、賃借人の両者からの相談でもっとも多い事項は「敷金返還」「原状回復」です。

敷金の定義はクリーニング代と考えられていると思いますが、契約書に別途明記してあれば別ですが、クリーニング代は貸した部屋が通常の使用を逸脱した場合に求めるものであり常識の範囲内で使用する場合には敷金は返還されることが一般的です。

相談に来られる賃貸者の中には、初めから敷金は自分の収入と勘違いされている方もいるのも事実ですが、敷金はあくまでも保証金の意味で賃借人から預かるお金です。そのため、敷金の保管は別勘定として管理することを国土交通省も求めています。

では、借りた時と賃貸借契約が終了して部屋を返す時の原状回復とはどのようなことなのでしょうか。この点について以前は明確なルールがなく、賃貸借人の間でトラブルになるケースが多くありました。

そこで国土交通省が指針を公開、民法の改正で法律として明確にされました。(と言っても原状回復については東京ルールを始め、運用上大分認知されていますが、法的に今まで規定がなかったことを明文化したと考えてください。)

以下改正された民法の条文です。

民法621条

賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

特に注意する点は、損傷の定義です。

摩耗や経年変化による損傷は原状回復に含まれないと規定しています。例えば畳は使用すれば傷むのは当たり前で、それを元の状態(畳返しを行って新品にする行為)までは賃借人に求めることはできないと言うことです。

これまでに相談を受けた代表的な論争になった点は次のようになります。

論争点結果解説
1壁紙が日焼けによって変色した問題なしレースのカーテンの使用は義務ではありません。
日当たり次第では大家側が設置すべきです。
2床にタバコの焦げ跡を付けた一部屋分のフローリングの交換本人の過失より発生
3浴室をカビだらけにしたクリーニング業者による清掃費用清潔に使用することは義務です。
掃除を行うことも義務になります。
4流しを酷く汚し落ちない汚れを付けたクリーニング業者による清掃費用掃除を行うことも義務になります。
5壁に釘を打った壁の修復、壁紙の一部交換釘の使用はできません。過失になります。
6壁に画鋲(がびょう)を打った支払い義務はない画鋲程度は問題になりません。
7冷蔵庫設置跡が床についた支払い義務はない通常の使用で発生する現象です。
8次の人に課すためのクリーニング代支払い義務はない賃貸人が負担すべき費用です。

一部の例ですが、大家さんが何とか貸す前の状況を賃借人から貰い受けたいと思う気持ちがあっての揉め事ですが、これ以外にも些細なこと論争は日々、たくさん発生しています。

特にNo8は、契約書に特約事項があると賃借人に支払い義務が発生することになるため注意が必要になります。

賃貸人つぃて第三者に貸出す時は、経年劣化などの通常に使用で起きる劣化は請求できないことは覚えておきましょう。

2、特約条項を上手に使う

民法の改正では原状回復の定義が規定されましたが、特約事項については改正されていません。

以前から物件の賃貸借契約書には特約事項を設けてクリーニング代を賃借人が負担することを明記する方法が一般的で、民法の改定でもこの点については改正されていません。そのため、多くの賃借人は契約段階で退去時のクリーニング費用を認めています。

ただし、敷金は全額返却義務があり、クリーニング費用は別途請求するべきが本来の姿ですが、手間暇を考えた時に敷金と清算して返却することが行われています。

大家さんになる区分所有者の皆さんは、クリーニング代の費用を賃借人に支払わせたければ必ず、特約事項を追加する必要があります。大抵は、仲介業者が契約書内に記載してくれますが、個人的に貸出す場合も含めて契約書を事前に確認することは忘れずに行ってください。

これ以外にも区分所有者が賃貸人(オーナー)として賃貸借契約を締結する時の契約上の注意点については賃貸運営で詳しく説明しています。

また、敷金から修理代金やクリーニング代金を相殺する時も各工事の費用明細を賃借人に提出する義務があることも忘れないでください。

3、物件・施設の一部損失による賃料の割引

マンションの駐車場、あるいは屋上を第三者に貸出す時に注意することがあります。これは賃貸物件の設備についても同じ考え方が適用されます。区分所有者の方も知っておくべきです。

災害等で駐車場が使用できない、屋上が使用できない等の問題が発生した時の対処方法です。

今回の民法改正では以下のように改正されました。

民法611条

1、賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。

賃借人の過失以外の理由で使用する目的が達成できない、あるいは収益を上げることができないとは、駐車場であれば車を止めることが目的になり、アンテナ等の中継基地は何らかの理由で機能を失った時と考えてください。(ただし、アンテナ等に係る設備の故障などは設置人側に責任になります。)

災害等の賃借人責任が無い場合に限定されます。(延焼による被害などもこれに含まれます。)賃借人の過失は自業自得ですから「減額などもってのほか」です。


一部使用について

屋根付き駐車場の場合、台風等の自然災害で屋根が破損した場合、車は駐車できますが賃借人が求めている屋根付きの目的が達成できなくなります。このような場合は減額されると言うことです。

これは賃貸物件でも同じで契約時に常設されていた設備(トイレ、エアコン、給湯器など)が壊れた場合、すぐに修理出来ずに一日でも使えない状況に対いても減額されると言うことになります。


改正のポイントは、旧民法ではこのような事態になった時、賃借人が減額を請求することができるとしていましたが、減額は請求に関わらず実施されると変更になった点です。

賃借人から何も申し入れがないから、減額する必要ないと思ってはいけません。

事態が発生したら修理までの日数に対して減額されます。

次に契約の解除についてです。

民法611条

2、賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。

旧民法では解除要件に「滅失」が条件でしたが、滅失に限らず、一部滅失でも目的を達成できなくなったと言うことがポイントになります。これについては、過失の有無は問われません。過失がどちらにあったとしても契約の解除は可能です。

賃借人に過失があっても契約の解除できますが、これとは別に賃貸人は被害を受けた場合には損害賠償の権利はあります。使用できない状態を認知しているにもかかわらず契約が継続されることに合理性がないと考えられたと言うことです。


修理の先延ばしも解除の対象になります。

設備が故障した連絡を受けて、賃貸人がその状態を放置した場合、契約の解除の原因になることもあります。また、損害賠償を求められることもあるので、賃借人から連絡を受けたら出来るだけ早く修理の手配を行い、相手に伝えることが重要になります。


屋上を賃貸する場合の相手は通信会社や広告会社であることを多く、今回の民法の改正に対しても十分に対応が出来ていることがほとんどで、問題になることはありませんが、賃貸借契約では特約事項については契約前に十分確認することが必要であることは覚えてください。

賃貸借契約では賃借人保護の観点から賃借人に不利益な事項を盛込むことはできないとされていますが、特約に別途明記することで可能であるケースもあります。

4、保証人には上限額(限度額)を明記

不動産物件の賃貸借契約では賃借人に保証人を求めることが一般的です。最近では、個人ではなく家賃保証会社が保証人となるケースも多くなっています。

従来の民法では保証人に対して、万が一の場合の保証額に金額を明記することはなく、賃料等の未払いに対して保証を契約していました。

今回の民法改正では次のように改正されました。

民法465条

1、一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。

2、個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。

3、第446条第2項及び第3項の規定は、個人根保証契約における第1項に規定する極度額の定めについて準用する。

例えば賃料が月8万円とすれば、概ね3か月と修繕費、クリーニング費用などを考慮した上で上限額を40~50万円と設定するなどが考えられます。(3か月延滞した時点で保証人に連絡するとした場合)


根保証契約って何?

時間的に変動する債務への保証のことです。

賃貸借契約の保証額は毎月の賃料、延滞金、および退去時の修繕費用、ゴミ等の処理費用など契約時に金額が確定していません。このような契約を保証する契約を根保証契約と言います。


保証契約は賃貸借契約の開始時に契約しますが、民法改正前に契約された保証契約は有効で限度額の記載は必要ありません。

限度額については必ず書面に残す必要があります。(口頭での約束は無効です。)

賃貸人として保証人の設定をお願いする場合は必ず限度額を記載するようにしてください。万が一の場合、保証人に請求できなくなります。

5、保証人への情報公開義務

保証契約の保証人から債務者について、保証額に関する情報請求があった際に速やかに応じる必要があります。

次のような民法の条文が定められました。

民法452条の2

保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、保証人の請求があったときは、債権者は、保証人に対し、遅滞なく、主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない。

ポイントは未払いや延滞金など保証人に請求する可能性がある債務情報をすべて提供する必要があることです。もちろん、滞納等が無かれば債務はありませんと伝える必要があります。

保証人にとっては突然、「金○○円の返済をお願いします。」と言った事態にならないように契約中は債務の状況を把握する権利があると言うことです。


以上がマンション管理組合が今回の民法の改正によって賃貸借契約に係る変更点、注意点です。


目次

1章、管理組合運営への影響

 2章、配偶者居住権の影響

3章、法定金利が変わりました

4章、消滅時効の表現が変更になりました

5章、管理委託契約に係る民法の改正

6章、修繕工事契約に係る民法の改正

7章、賃貸借契約に係る改正

8章、組合運営に係る改正


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