管理費等の延滞金の法定金利、相続時の配偶者居住権、管理会社との委託契約、請負契約、賃貸契約、保証人契約について改正された民法の管理組合として注意すべきことを説明しましたが、これ以外にも幾つか関係する改正がありました。

1、債務不履行解除

管理会社が契約事項の履行を実施しない場合、管理組合は契約内容の速やかな実施を要求することができます。

これを管理会社の状況を債務遅滞(遅れている状態)、あるいは債務不履行(実施しない状態)と言い、管理組合が実施を請求することを催告と言います。

民法の改定により債務遅滞、あるいは債務不履行にあり、催告を行っても管理会社が実施しない場合は契約の解除を認めました。

民法541条

当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。


軽微って何だ!

厄介なところは、「契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」の部分です。

判例等では目的の達成に対して債務不履行の部分が付随する業務で目的の達成にあまり関係していない場合が軽微な場合と考えられています。(むずかしい・・・。)

例えば、管理人さんは館内の清掃はしっかり実施しているが、掃除用具の整理整頓ができないとか、管理会社の担当者が依頼をしたことを実施するスピードが遅く、何度も催促してやっと履行してくれるなどのことを原因に契約の解除はできない。などですね。


管理会社が催告後、一定期間が過ぎても履行しない時は、管理組合には契約の解除をする権利があることは覚えておきましょう。

*旧民法でもこのようの解釈はされていました。

はっきりと明文化された点が改正のポイントです。

2、無催告解除

民法541条は契約を解除するには催告後、一定期間の猶予期間が必要でした。

改正民法では債務者(管理会社)が不履行の思表示した時点で解除することができるとしました。

民法542条

1、次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。

一 債務の全部の履行が不能であるとき。

二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達成することができないとき。

四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。

五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。

2、次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。

一 債務の一部の履行が不能であるとき。

二 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

条文で542条1の二項、および2の一項が管理会社に対して無催告解除が適用できる内容です。

委託契約書にある内容について、管理会社が履行を拒否する意思表示をした場合、催告の必要はなく直ちに解除することができます。

リプレースが決定的になった管理会社が業務の履行をしないことは昔はあったと聞きますが、今ではこのような事態を招く管理会社はほとんどないと思います。

これは管理会社との委託契約に限らず、管理組合が他の業務契約(顧問契約など)を締結している場合も同じです。

理事、役員の皆さんは覚えておくべき民法です。

3、意思表示の効力発生時期等

これが管理組合の運営と何か関係があるのと思われるかもしれませんが、重要なことです。

管理費等の滞納者に法的措置を行う前に支払いの督促として管理組合は内容証明を送付すると思います。

しかし、相手(債務者)が通知を拒絶した時にこの民法が効力を持ちます。

第97条
1 意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
2 相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。
3 意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。

内容証明の受取を拒否し、結果として郵便局保管期間を過ぎても相手が受取りを行わない場合、発信者(管理組合)に内容証明書は返却されますが、この場合は、通常到達したものと見なされます。

これは、積極的に受取を拒否することが通知の到達を妨げることと見なされる為です。

これは内容証明書に限らず、書面による催告や裁判通知などを受取らない行為も同様に到達したと見なされます。

注意する点は口頭では効力はなく、必ず書面で行うことが必要なことです。

4、売買における契約不適合責任

マンション管理組合も備品等を購入することがあります。

民法の改正により瑕疵担保責任の規定が変更され、買主の追完請求権が規定されました。

簡単に言うと契約(注文)した商品が納品後に、目的物の種類、品質又は数量が適合しない時に、売主に商品の交換、補充、減額(値引き)、損害賠償請求ないし契約の解除権をこうすることができることになりました。

*旧民法も解釈として同様の方法で解決していましたが、明文化された点が改正点になります。

民法611条

1、引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。

2、前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。

特に売買契約で変更になる点はありませんが、管理組合も購入者の立場で契約を締結することは多いと思います。

法的背景を覚えておくと何かあった時、毅然な態度で売主に対応することができます。


以上がマンション管理組合が今回の民法の改正によって運営上知っておくべき変更点、注意点です。


目次

1章、管理組合運営への影響

 2章、配偶者居住権の影響

3章、法定金利が変わりました

4章、消滅時効の表現が変更になりました

5章、管理委託契約に係る民法の改正

6章、修繕工事契約に係る民法の改正

7章、賃貸借契約に係る改正

8章、組合運営に係る改正


せっかめブログ

マンション管理士
マンション管理士事務所を開業1年を振り返って-1
マンション管理士
マンション長寿命化促進税制の対象になるマンションを解説します。(管理計画認定取得)
マンション管理士
管理計画認定の取得は誰のアドバイスを受けるのが良いか?
マンション管理士
管理計画認定制度の申請方法を理解する
マンション管理士
すまい・る債年平均利率0.475%、認定すまい・る債0.525%ととはどの程度の運用レベルにあるのか?
マンション管理士
2023年5月20日世田谷マンション交流会に参加して