標準管理規約にWEB会議システムを利用した理事会、総会の開催が明記されました。

改定された標準管理規約の内容をひとつひとつ説明するよりは、皆さんがWEB会議を開催する時に必要になる事項をテーマ別にまとめました。

1、規約の変更は必要か?

結論からお話しすると「必要ありません」

ただし、今後もWEB会議システムを活用することを考えているとすれば、規約の改定、使用細則(WEB会議の活用時の運用)を明確にしておくことをお勧めします。

理事会のメンバーが変わる度に運用ルールが変更されると組合員も戸惑います。

では、管理規約をどのように変更すべきか?

改定標準管理規約で示された内容は下線部、太文字で示した一文を追加することです。

(総会の会議及び議事)
第47条 総会の会議(WEB会議システム等を用いて開催する会議を含む。)は、前条第1項に定める議決権総数の半数以上を有する組合員が出席しなければならない。

関連する部分としては招集手続きについても変更点があります。

(招集手続)
第43条 総会を招集するには、少なくとも会議を開く日の2週間前(会議の目的が建替え決議又はマンション敷地売却決議であるときは2か月前)までに、会議の日時、場所(WEB会議システム等を用いて会議を開催するときは、その開催方法及び目的を示して、組合員に通知を発しなければならない。

総会の開催と同様に理事会についても同様の部分を追加します。

(理事会の会議及び議事)
第53条 理事会の会議(WEB会議システム等を用いて開催する会議を含む。)は、理事の半数以上が出席しなければ開くことができず、その議事は出席理事の過半数で決する。

以上3か所が追加する内容になります。


WEB会議システムと磁気的方法の違いについて

標準管理規約には「磁気的利用が可能な場合」と言う表現がよく書かれています。

具体的には総会の開催告知、区分所有者名簿の提出、専有部の修繕届、賃借人届、理事会・総会の議事録などがあります。また総会の代理人届や議決権行使書も磁気的な利用が可能な場合について記載されています。

エクセルやワード等で作成された定型ファイルを紙媒体ではなくUSBやメモリーカード等で提出するケースや管理組合のメールアドレスに添付ファイルで送付する場合などが考えられます。

これ以外にもマンション管理組合が維持管理するホームページに各届出等の必要項目が設定され、入力するような場合も含まれます。

そのためには管理組合がコンピューターを所有し管理に使用していることが必要になります。管理組合が独自にメールアドレスを所有しその情報を組合員に提供していること。あるいはマンション管理組合のホームページを維持管理している場合が磁気的利用が可能な場合に該当します。

これ以外に総会の議案を会議をせずにホームページを通じて賛否の意志を表明すること、メール等で意思を伝えることもこの方法に含まれますが、この場合は事前に総会で組合員全員の同意が必要になります。

一般的にはメールを伝達手段として認めることを管理規約に加える方法が一般的です。

これに対してWEB会議は第三者が運営するシステムを利用して理事会や総会を開催することであり、定期の会議の開催権は理事長にあり、区分所有法で開催義務が示されています。(臨時の請求権は区分所有者全員がもっています。)そのため、管理規約では対面会議と同じと考え特別な記載がありません。

WEB会議を磁気的方法と混同している方はまったく別なことです。

ただし、WEB会議を開催する時は開催告知等はメールで行わないと不便です。そのため、少なくとも開催告知にはメールによる告知を認めるための条文は追加すべきです。


管理規約に追加する内容はわかったと思います。では、実際に理事会や総会を開催する際にポイントになる点を説明します。

2、集会の開催通知は原則変更なし

対面会議を前提とした集会(理事会・総会)の開催通知は開催日の2週間前に届け先の住所(届出がない場合は区分所有者住所)に送付することを規約に定めています。管理組合によっては通知期間の期限を1週間としているケースもあります。また、マンション内に開催通知を掲示することで変えることを規定している組合があります。

WEB会議もまったく同じです。開催方法が変わるだけで開催通知義務に変更はありません。

*建替え等の集会についてもWEB会議で行うことは可能であり、開催通知義務も変わらないため割愛します。

ただし、内容は異なります。

開催場所がアクセス先のURL、入室用のパスワードが開始日時以外に必要になることは違いますが、告知義務の期限等には同じです。

3、開催通知方法にメール通知を追加

WEB会議では開催場所はインターネットURLになります。(かなりの桁数の半角全角アルファベット数字の羅列)

そのため、紙で開催通知を送付するとスマートフォンやPCに入力が必要になります。

WEB会議のURLは桁数が多く、特に普段、入力を行う機会が少ない高齢者や不慣れな方にはストレスになります。

ネットでは気づかないような小さな違いでもアクセスできません。皆さんの多くは経験していると思います。

そこでメールで開催通知を送るとメール内に書かれたURLアドレスをクリックするだけでアクセスでき操作の簡略化が可能です。

慣れている方には笑い話かもしれませんが、スマートフォンでアルファベットと数字の羅列を入力するのは本当に難しく、苦痛に感じる方もいます。簡素化できることは出来るだけ簡単にすべきです。

実際、入力が出来ずにWEB会議に参加できなかった方もいます。このような事態にならないように開催通知はメールによる方法をお勧めします。

しかし、そのためには管理規約に集会(理事会・総会)の開催通知方法にメールによる通知方法を追加する必要があります。

改定例としては次のような内容になります。

(招集手続)
第43条 総会を招集するには、少なくとも会議を開く日の2週間前(会議の目的が建替え決議又はマンション敷地売却決議であるときは2か月前)までに、会議の日時、場所及び目的を示して、組合員に通知を発しなければならない。
2 前項の通知は、電子メールによっても行うことができる。
3 第1項の通知は、管理組合に対し組合員が届出をしたあて先又はメールアドレスに発するものとする。ただし、その届出のない組合員に対しては、対象物件内の専有部分の所在地あてに発するものとする

*2週間、2カ月は各管理組合で異なります。

これにより開催通知にメールによる通知が可能になります。

4、全組合員のメールアドレスの登録が必要になる

理事会は理事長、副理事長、役員、監事、その他管理会社担当者、マンション管理士等の第三者が参加することが想定できます。

参加する可能性がある方のメールアドレスは事前登録をお願いすることになります。

また、管理組合としてメールアドレスを用意する必要があります。出来れば管理室にPCを準備しプロバイダー契約を行いメールアドレスを準備すべきですが、理事長がフリーメール等(Gmailやyahooメール)を用意することでも対応は出来ますが、あまりお勧めはしません。

管理会社に準備をお願いすることも可能ですが、恐らく有償に成ると思います。(管理会社は独自のドメインwww:○○〇でメールアドレスを作成することができます。)聞くだけはただなので管理会社の担当者に聞いてみるのも良いでしょう。

各役員等は個人個人で普段から使っているメールアドレスで問題ありません。(フリーメールでもOKです。)

総会をWEB会議で行うためには、全組合員のメールアドレスの登録が必要になります。

しかし、実際のところ、全員が全員、WEB会議に参加する組合は少なく、メールアドレスを準備できない組合員が一定数いることを想定したグループ分散型会議方式で行う例が多いはずです。

WEB会議に参加できない人向けに総会会場に役員と共に参加する。あるいは、モニターを用意した部屋で会議に参加するなど方法はいろいろあります。

そのため、開催通知はメールと郵送を併用する方法が一般的になります。

現実問題として理事会程度の規模であればWEB会議もすんなりと出来ますが、マンションの規模にもよりますが、団地規模の総会となるとかなり大変です。

WEB会議システムで総会を行う際には、事前に組合員に対して参加可能、不可能(不可能な理由も記述式で回答を求める)などのネット環境の状況を含めた上で開催の可否を判断することになります。

特にネット環境は組合員の年齢構成などに左右される為、コロナだから必ずWEB会議を選択する必要はなく、感染対策が目的であることを踏まえて会場の分散化など各管理組合は工夫しながら総会を開催することになります。

ただし、十数人程度の理事会の規模であれば是非、チャレンジして欲しいと思います。

5、議決権の行使について

WEB会議システムを利用した理事会や総会でも各案件によって普通議決、特別議決により議案の可否が決定されます。

問題となるのは議決権の行使方法です。

理事会の場合は原則過半数ですが、挙手が基本でしょう。

画面越しに挙手を確認する方法が一般的ですが、人数が多いと画面越しに確認するだけでも面倒な作業になります。

WEB会議システムではチャット(入力に文字を使って会話する方式の総称です。)が利用できることが一般的です。

チャットは会議室に入室する際に個人名を入力することができ、個人を確認しながら意思確認ができます。(ペンネーム等でも可能ですが理事会では本名を入力すべきでしょうね)

この機能を利用して議決に対する賛否を確認することもできます。

また、会議システムには投票機能が用意されている場合もありこれを利用するのも問題ありません。

気になるのはこれらの議決権行使が「磁気的的方法」に該当するかどうかになります。

これについては区分所有法に次のように規定されています。

(議事)

第三十九条 集会の議事は、この法律又は規約に別段の定めがない限り、区分所有者及び議決権の各過半数で決する。

 議決権は、書面で、又は代理人によつて行使することができる。

 区分所有者は、規約又は集会の決議により、前項の規定による書面による議決権の行使に代えて、電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)によつて議決権を行使することができる。

事前に規約や集会が必要に感じますが、国土交通省が示した「マンション管理規約の概要」でWEB会議システムを用いて開催される集会に参加している組合員は、対面式の集会に参加している者と同様に扱うことができるとされました。

そのため、管理規約の改定を行わずWEB会議を開催することは可能であり、WEB会議に参加している組合員の議決権行使の方法について特に定める必要はないと解釈されています。

結果として区分所有法39条の規定には抵触せず、挙手、パネル、チャット、投票システム等を用いて議決権を意思表示することは通常の集会で意志表示する行為と同じであるとしました。

ここで勘違いしていけないことは、従来の代理人、議決権行使書等は従来通り議決として集計することになります。(集会の開催要件も同様です。)


とは言え・・・

何も開催ルールを決めずにWEB会議を導入することはお勧めしません。

国土交通省も改定管理規約53条関係のコメントでWEB会議の運用については、議決権の行使方法等を規約や細則で定めていることが望ましいと公開しています。

”せっかめ”もWEB会議の運用についての使用細則の雛形を作成中です。いずれh公開できればと思っています。


6、通信障害への対応ルールについて

インターネットの通信障害は昔に比べかなり安定し、改善しましたが完全に無くなったわけではありません。

発生する原因としては、WEBシステムを提供している会社側の問題、開催している組合の問題、個人の通信環境などが考えられます。

いずれにしても会議に途中で参加できない状況が発生した時、特に議決権の行使が出来なかった時の対処方法は事前に決めておくべきです。

そのためにもWEB会議の使用細則を定めることをお勧めします。

現在、当事務所で検討している通信障害が発生した場合の対処方法の案は次のようになります。

番号通信障害の原因症状・現象対処方法備考
1WEBシステム会社参加者全員が会議システムへアクセスできない日時変更による再開催
2管理組合参加者全員が会議システムへアクセスできない日時変更による再開催セッティングの問題
URLの間違い
パスワード伝達ミス
3参加者の環境一部が会議システムへアクセスできない欠席扱い通信環境劣化
4参加者の環境一部が会議システムへアクセスできない欠席扱いプロバイダーによる障害
5参加者の操作ミス一部が会議システムへアクセスできない欠席扱い入力ミス
操作の未熟さ
6参加者の問題議決権行使ができない欠席・無効扱い操作ミス
操作の未熟さ
集会開催時の通信障害への対象方法(当事務所検討中の案)

契約した会議システム会社、開催を行っている管理組合の問題により発生した場合には、集会の再開催が原則になると考えています。

組合員側の問題により参加できなかった場合は欠席扱い、議決権の行使が出来なかった場合は、無効にすべきではないかと考えています。ただし、議事録には議決権行使が出来なかった事実は該当票数、発生原因は記録に残すべきでしょう。

7、質疑応答の方法

管理組合が開催する理事会や総会は議案毎に質疑応答の機会が設けられることが一般的です。

確認事項や素朴な疑問などの活発な意見交換が行われる機会ですが、WEB会議でも意見があれば挙手後に会話をすることも、チャットを用いて質問を参加者に表示させることも出来ます。

質問者のカメラに切り換えれば当事者を画面に表示することも可能です。

対面の集会と変わりなく実施することができます。

8、議事録について

管理組合が開催する集会は議事録として保管する義務があります。

これについても対面で実施される集会と同じように理事長が作成を行い、集会に参加した2名の署名後、保管されます。


「記名押印」が「署名」に変更になりました。

これまで理事会、総会の議事録は参加者から理事長が指名した2名が記名押印することが必要でしたが、デジタル社会形成法が施行されたことに伴い今回の改正で署名に変更になりました。

WEB会議で実施した場合も同様になります。

世の中からハンコ、印鑑は徐々に減少していくのかもしれませんね。


WEB会議システムを利用した集会の開催について説明しましたが、対面と変わらない開催ができることは理解頂けたと思います。

総会は参加人数や参加者のネット環境、組合員のWEBシステムへの知識などの問題で開催には高いハードルがありますが、理事会はそれ程困難ではないため、理事会程度はWEB会議を利用することも検討すべきだと思います。

マンション管理士の講習会や相談会もネット上で告知が行われ、WEB会議システムを利用することが主流になっています。

コロナが今後どのようになるかはわかりませんが、デジタル化の流れは政府が推し進める政策でもあり、管理組合も積極的に取組むことも将来的には重要になると考えています。

総会の目的が普通議決、特別議決、それ以外の建替えや敷地売却等の議決権の4/5以上についてもWEB会議で開催することは可能であることを最後に付け加えます。

次の章では電磁的利用について改正内容も含めて説明します。


目次

 1章 WEB会議システムを理解する

2章 改定標準管理規約(WEB会議編)

3章 改定標準管理規約(電磁的方法)

4章 改定標準管理規約(理事・役員解任等)

5章 改定標準管理規約(共用部の利用)

6章 改定標準管理規約(維持保全)


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