今回の改正では理事の解任、理事の欠格要件が改定されました。

理事や監事(併せて役員)は総会等の集会により選任されます。

理事長は選任された理事の互選により任命されます。これは組合員であればご存じだと思います。

また、それ以外に副理事長、会計担当も理事会で決定されます。

これまでの標準管理規約では、選任については規定されていましたが、解任については記載がありませんでした。

今回の改定では理事長、副理事長、会計担当の解任を理事会で行うことが規定されました。

1、決定機関が解任もできる

これまでの管理規約は以下のように定められていました。

(役員)
第35条 管理組合に次の役員を置く。
一 理事長
二 副理事長 ○名
三 会計担当理事 ○名
四 理事(理事長、副理事長、会計担当理事を含む。以下同じ。) ○名
五 監事 ○名
理事及び監事は、組合員のうちから、総会で選任する
理事長、副理事長及び会計担当理事は、理事の互選により選任する。

理事、監事の決定機関は総会、理事長、副理事長、会計担当理事の決定機関は理事会と規定されていますが、解任については一切記載がありませんでした。

改定により第35条は以下ように改定されました。

第35条 管理組合に次の役員を置く。
一 理事長
二 副理事長 ○名
三 会計担当理事 ○名
四 理事(理事長、副理事長、会計担当理事を含む。以下同じ。) ○名
五 監事 ○名
2 理事及び監事は、総会の決議によって、組合員のうちから選任し、又は解任する
3 理事長、副理事長及び会計担当理事は、理事会の決議によって、理事のうちから選任し、又は解任する

これにより理事、監事が不適格な場合は、総会の議決により解任することが出来るとなりました。

同様に理事長、副理事長、会計担当理事は理事会の議決により解任が出来ることになります。

このように管理組合の役員は決定した機関が解任することが定められました。


理事を理事会では解任できない

任命を決定した機関が解任も出来ることが定められましたが、例えば理事長の任を理事会で解任しても理事の地位は維持されます。

理事の地位を解任するためには、総会で解任議決を可決する必要があります。

逆に総会で理事長を解任することはできませんが、理事の任を解任することで理事長の任も同時に解任することもできます。


2、解任議決時の理事長の投票権

理事長等の役職を解任するには、全理事の半数以上が出席した理事会において過半数以上の賛成が必要になります。

ただし、解任理由については管理規約に記載はありませんが、「運営方針が気に入らない」「不正をしている疑惑がある」「全然活動しない」などが考えられますが、「あいつが気に入らない」と言った個人的な好き嫌いや遺恨等は理由として認められません。

特に解任に関する議決を行う際には次の2つのことに注意してください。

1、理事長等の役職の解任の採決を行う場合は、事前に理事会開催周知の際に参加理事に伝える必要があること

2、役職の解任採決に当事者の出席の有無は採決結果に影響しません。欠席していても理事会開催要件を満たし、事前告知された議題であれば当事者の参加は必要ありません。

ただし、解任を問う議決を行う際に解任当事者も理事会に出席する権利、採決に参加する権利があることは忘れないでください。

*当事者(解任される人)に解任議決を伝えずに、参加者だけで採決して可決されても無効になります。


理事及び監事の解任について

理事、監事の選任、解任は総会で決定します。いずれも総会の普通議決(参加者の過半数以上の賛成)により行うことが出来ます。

理事が解任されると言うこと自体、管理組合としては大問題です。

横領などの不正や犯罪等で逮捕でもされない限り現実的に起きるとは思えません。

せっかめも遭遇した経験はありません。

ちなみに理事が理事会への参加が一度もないことを理由に解任することは可能ですが、輪番制を採用する組合ではいずれは誰もが理事に選ばれることと解任後の人間関係も考慮した上でそこまでは厳格に求めることは無いようです。


3、管理者の解任請求

標準管理規約の改定により役員の解任に関した項目が加えられたことをお話ししましたが、区分所有法に定められている管理者は、以前から集会の議決により選任、解任が出来ると認められています。また、それ以外に区分所有者が解任を裁判所に求めることも出来ると定めています。

第四節 管理者(選任及び解任)

第二十五条 区分所有者は、規約に別段の定めがない限り集会の決議によつて、管理者を選任し、又は解任することができる。

2 管理者に不正な行為その他その職務を行うに適しない事情があるときは、各区分所有者は、その解任を裁判所に請求することができる。

区分所有法に定める管理者と標準管理規約に定める理事長(理事会制度)は同じと考えれば、理事長の解任を区分所有者が裁判所に求めることは可能なのでしょうか。

結論から言うと可能です。平成29年4月19日東京高裁にて行われた裁判で区分所有者が理事長の解任を求めた裁判が結審しています。(平成19年に起こされた裁判は平成26年まで争われ、不当に使われた管理費等の請求裁判まで含めて平成29年4月19日に結審)

裁判についての詳細を知りたい方はマンションNPOをご覧ください。

この裁判から区分所有法25条2項により、区分所有者が理事長の解任を求めることはできることは明らかですが、解任請求は裁判の場で争うのではなく出来るだけ、マンションコミュニティーの中である理事会、総会で解決したいですね。

4、役員の欠格事由について

区分所有者であっても役員になれない人がいます。資格に問題がある欠格事由と言います。

改定前の欠格事由は次のように定められていました。

(役員の欠格条項)
第36条の2 次の各号のいずれかに該当する者は、役員となることができない。
一 成年被後見人若しくは被保佐人又は破産者で復権を得ないもの
二 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者
三 暴力団員等(暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者をいう。)

管理組合は多額な修繕積立金を管理することが求められます。そのため、正しい状況を見極める能力に問題があると裁判所から後見人開始の審判を受けた人、破産者であり復権を得ていない人、裁判で禁固刑以上の刑(拘置所で刑を務める必要がある)の執行が終わった日から5年間が欠格事項になります。これ以外に暴力団関係者は管理規約でも定めている通りです。(住むことさえ許されない存在です)

特に役員は金銭管理(出納業務)に携わるため、金銭的な不正を犯す可能性は皆無にする必要があり出納業務を含む運営に係るマンション管理の役員を担うことが出来ないと定めています。

しかし、破産者、犯罪者、暴力団員等と同列に扱うことは不当と言う意見もあり、今回の改定により第36条の2に定めた「成人被後見人若しくは被保佐人」の表現が変更になりました。

これまでは家庭裁判所が「成人被後見人若しくは被保佐人」に認定した場合、その段階で役員になることは出来ませんでしたが、「成人被後見人若しくは被保佐人」と言っても個人個人で精神機能の状況が異なり、一概に審判を受けただけで欠格と判断することは出来ないケースもあり改定が検討され、次のような表現に改定されました。

また、近年組合員の高齢化に伴い、認知症やアルツハイマー病等を患う方も増加傾向にあり、「成人被後見人若しくは被保佐人」に限らずマンション管理組合の役員業務を行うことが出来ない方もいます。

このような状況を踏まえ、改定では、後見人等の存在に限定せずに認知、判断、意思疎通を適切に行うことが出来ない者と範囲を広げました。

(役員の欠格条項)
第36条の2 次の各号のいずれかに該当する者は、役員となることができない。
精神の機能の障害により役員の職務を適正に執行するに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者又は破産者で復権を得ないもの
二 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者
三 暴力団員等(暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者をいう。)

ただし、欠格条項に合致しているかどうかについては、個人個人で具体的な例を挙げて判断する必要があります。

特に身寄りがなく症状が明らかな場合や本人に自覚がなく家族が病状を感じてる場合などケースバイケースで判断する必要があり、役員等を辞退する時と同様に出来るだけ書面で欠格要件であった例を記録に残す必要があることは覚えておいてください。

今後、このような問題は高経年マンションでは多く発生することが想像されます。

管理組合として輪番制の名簿から親族や本人からの申出があった場合に事前に外す等の配慮を規約に定めることも考えるべきです。


この章では理事長等の役員に関する改定された項目について説明しました。

解任については従来から解釈されていた内容が明文化されました。

また、役員の欠格要件(事由)は、高齢化に伴う記憶や判断力の低下が発症した方を含めた内容に変更され、今後予想される組合員の高齢化にも対応できるように改定されました。

次章では共用部の利用法について改正管理規約について説明をします。


目次

 1章 WEB会議システムを理解する

2章 改定標準管理規約(WEB会議編)

3章 改定標準管理規約(電磁的方法)

4章 改定標準管理規約(理事・役員解任等)

5章 改定標準管理規約(共用部の利用)

6章 改定標準管理規約(維持保全)


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