今回の改正では専有部の配管工事費用を修繕積立金から支出する方法についての内容が追加されました。

従来は共用部の配管工事に伴い専有部の配管工事についてはその費用を各区分所有者が支払うことが決められていましたが、今回の改正では同時に実施することで費用効果が見込まれる場合には修繕衝立金からの支出することが認められました。

ただし、事前に規約にその旨を記載すること。併せて過去個人負担が発生した組合員には管理組合として補填するなどにより不公平がないことに注意することが示されました。

さらに修繕計画について、これまで5年ごとの見直しとされていた長期修繕計画の見直し期間が変更になりました。

1、配管の責任分担を理解する

配管には給水配管と排水配管があり、それぞれ専有部と共用部の範囲が異なります。

*スラブ下配管では権利関係が異なる場合があります。

まずは、給水配管から理解しましょう。

給水配管は大元は水道管からマンション内に引き込まれ、その後、館内のパイプスペースを通り各専有部に配管されます。

各戸にはメータボックスがありますが、その中に電気、ガスと同様に水道の計量計(メーター)が設置されています。

計量計(メーター)までは共用部となり、その後、専有部の台所、洗面台、風呂場、ベランダ等に配管がされます。

ちなみに水道管の共用部の始まりは、水道本管から枝管からマンションに引き込む部分から共用部になります。

専有部内の給水管の取り替え等の工事費は区分所有者の負担で行うことになっています。

次の排水配管について理解しましょう。

台所、風呂場、洗面台等の水周りから発生した排水は、専有部下の横配管を経てパイプスペースに設置された縦排水管に通り館外に排出されます。(汚水と雑排水の排水経路はマンションにより異なります。)また、ベランダにはドレインがあり雨水排水管が設置されていますがベランダは共用部に属するためすべてが共用部になります。

*スラブ下配管では権利関係が異なる場合があります。

*ディスポーザーが設置されているマンションは、ディスポーザー専用の排水経路があります。この場合も継手までは専有部となっているケースが多いようです。

ここでは、一般的な専有部で発生する雑排水、汚水配管を対象に考えます。

排水管は縦配管に設置された継手(専有部で発生した排水を縦配管に繋ぐための部分)が共用部になります。

一般的に給水経路と排水経路は別々のパイプスペースが館内に設置されています。

例えばユニットバス、トイレの交換などで発生する枝排水管の交換費用は区分所有者の負担になります。

2、改正内容

改正された内容は次のようになります。

標準管理規約21条コメント

⑦ 第2項の対象となる設備としては、配管、配線等がある。配管の清掃等に要する費用については、第27条第三号の「共用設備の保守維持費」として管理費を充当することが可能であるが、配管の取替え等に要する費用のうち専有部分に係るものについては、各区分所有者が実費に応じて負担すべきものである。なお、共用部分の配管の取替えと専有部分の配管の取替えを同時に行うことにより、専有部分の配管の取替えを単独で行うよりも費用が軽減される場合には、これらについて一体的に工事を行うことも考えられる。その場合には、あらかじめ長期修繕計画において専有部分の配管の取替えについて記載し、その工事費用を修繕積立金から拠出することについて規約に規定するとともに、先行して工事を行った区分所有者への補償の有無等についても十分留意することが必要である。大量・乱雑な放置等により避難の支障とならないよう留意する必要がある。

原則は配管の取替え等に要する費用は区分所有者が負担することはかわりませんが、同時に行うことに費用効果等のメリットがある場合には修繕積立金からの支出も可能と変更になりました。

工事の規模を考えると共用部と専有部の給水管、及び排水管を同時に工事することは工事日数、工数、材料費を考えるとボリュームディスカウントなどにより個別に行うより大幅なコストカットが出来ると推測できます。

想定される事態としては、築年数が30年を超えるマンションで排水管の老朽化が発生している場合が考えられます。

排水管の老朽化は全館で同時に進行する訳ではなく、使用頻度、排水水の温度など様々な影響によって異なり、特に継手部分が漏水発生場所になりやすい傾向があります。

特に館内で複数個所の漏水が発生した場合、発生個所以外の老朽化も疑う必要があります。改修工事は階ごと、あるいは一括全館の排水管の交換工事を行う必要があり、当然専有部内の配管も対象になります。

このような場合、共用部配管工事と併せて専有部内の配管工事を行うことはコスト的なメリットが大きいと言えます。

3、修繕積立金からの支出の条件

修繕積立金から専有部内の配管取替工事代金を支出するために次の2点がポイントになります。

3-1、長期修繕工事計画への記載

国土交通省が公開している長期修繕計画ガイドラインの(様式第3-2号) 推定修繕工事項目、修繕周期等の設定に関する表中の「対象部位等」の項目内容に次のような追加項目を加えます。

長期修繕計画ガイドラインより転出後加工

Ⅲ設備、8給水設備、①給水管の項目に室内専有部(内)給水管を追加します。

但し書きとして同時工事に限ると限定的であることも記載します。

同様に Ⅲ設備、9排水設備、①排水管の項目に室内専有部(内)排水管を追加します。

但し書きとして同時工事に限ると限定的であることも記載します。

これにより長期修繕計画の推定修繕工事項目に専有部の配管工事費が含まれたことになります。

改定のコメントの内容が金額まで変更する必要があるかは定かではありませんが、専有部の工事を同時に行う場合は当然その費用も加算される必要がありますと考えます。

次に(様式第4-1号)長期修繕計画総括表、および(様式第4-3号)長期修繕計画表修繕工事項目(小項目)別、年度別)のそれぞれの工事費用額を変える必要があります。

専有部配管をすべて取替え費用を従来の室内共用部の取替え概算額に加算します。

長期修繕計画ガイドラインより転出後加工

以上が変更点になります。

ガイドラインの書式は参考であり、内容が一致していれば書式を合わせる必要はありません。

3-2、規約に支出根拠の明記

規約の変更も併せて必要です。

修繕積立金の使用に関する規定は第28条に定められています。

(修繕積立金)
第28条 管理組合は、各区分所有者が納入する修繕積立金を積み立てるものとし、積み立てた修繕積立金は、次の各号に掲げる特別の管理に要する経費に充当する場合に限って取り崩すことができる。
一 一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕
二 不測の事故その他特別の事由により必要となる修繕
三 敷地及び共用部分等の変更
四 建物の建替え及びマンション敷地売却(以下「建替え等」という。)
に係る合意形成に必要となる事項の調査
五 その他敷地及び共用部分等の管理に関し、区分所有者全体の利益のために特別に必要となる管理

追加として記載する

六 費用軽減が見込める室内共用部と同時に行う専有部の配管取替工事を行う修繕

この条文に六(太字部分)を追加します。

長期修繕計画に専有部の配管工事も含むと定めたことで一で定めた内容でも十分と思われますが、経費削減が見込めることを敢えて記載することが必要と考えました。

*ただし、追加文の表現については管理組合でご検討ください。

3-3、先行実施者への配慮について

例えばリホームの際に専有部の配管取替工事は行ったなど、組合員の中には専有部の給排水管の取替工事をすべて、あるいは一定場所について実施済みのケースが想定されます。

この場合、共用部の給排水管の取替工事については修繕積立金から支出することに異議はないと思いますが、修繕積立金から専有部の取替費用も支払うとなれば不公平と思われる方も多いのではないでしょうか。

「なぜ自己負担になるの?」「なぜ他人の専有部の費用を負担するの?」と思われるはずです。当事者になれば当然です。

そこで、専有部工事費を修繕積立金で支払う場合には、管理組合としてすでに工事を済ませた区分所有者への補償問題も含めて事前に決め、規約にその旨を定めておく必要があると国土交通省はコメント内で示しています。

しかし、すでに取替工事を実施したと言っても20年前などと経過年数によっては、すべて交換した方が将来的に安心できる場合もあります。工事後の経過年数、費用の補償方法(算出根拠)などについて組合員が納得できる内容にする必要があり難しい問題になると思います。

ただし、一般的には先行実施者が少数になるケースが多く、単純に議決権の数だけで決定することは、その後の管理組合への不信感、人間関係の悪化等につながる可能性があるため、数に頼った議決による結論を導くことはお勧めしません。

特に補償を行わないと決める場合には、当事者が納得できるまで説明を行う必要があります。

出来るだけ補償をする方向で検討すべきと考えています。

*ちなみに工事費の補償を行う場合は、似た間取りの専有部工事費を今後の修繕積立金から一定期間減額するなどの方法があります。(専有部の工事費の実費分を補償すると工事会社やその当時の価格となり物価等を考慮できません。)

先行工事者への補償問題は管理組合として総会議決を得た上で、規約に定めることになります。(規約の変更には議決権の3/4以上の賛成が必要になります。)


スラブ下給排水管の取替え工事費用が大きい

築30~40年を過ぎると給排水管に不具合が発生する事例が増えています。この頃のマンションは配管工事がスラブ下配管になっている場合が多く、コンクリート壁やスラブの一部を壊すなどしないと取替工事が出来ないケースがほとんどです。

この場合は、工事期間は長く、規模も大きくなり費用も多大になります。工事中は住むこともできません。家財等も運び出す必要があり、工事費以外の自己負担額も大きくなります。

しかし、給排水は重要なライフラインであり、マンションに継続的に住むためには避けて通れない問題です。

多くの場合は一時金や借入金で費用を用意しています。

このような事態が急に起きないようにするために給排水管の定期洗浄と点検は必須です。

一日でも長く配管の寿命を延ばすメンテナンスが重要であることを忘れないでください。


4、大規模修繕計画の見直し期間が改定

改定前の大規模修繕計画は計画期間が25年程度以上であること。新築時においては計画期間を30年程度にする。また、長期修繕計画の内容については定期的な(おおむね5年程度ごとに)見直しをすることが必要であると定められていました。

今回の改定で次の内容に改定されました。

【コメント】第 32 条関係

② 長期修繕計画の内容としては次のようなものが必要である。
計画期間が30年以上で、かつ大規模修繕工事が2回含まれる期間以上とすること。
2 計画修繕の対象となる工事として外壁補修、屋上防水、給排水管取替え、窓及び玄関扉等の開口部の改良等が掲げられ、各部位
ごとに修繕周期、工事金額等が定められているものであること。
3 全体の工事金額が定められたものであること。
また、長期修繕計画の内容については定期的な見直しをすることが必要である。

これまで25年以上としていた計画期間を30年に変更した上で、その間に2回の大規模修繕を2回含むと改定されました。

最低でも30年間の立案期間が必要になったと言うことです。

これについては、国土交通省は修繕周期の目安の見直しとして、工事事例等を踏まえて一定の幅のある修繕周期に変更することが必要出ると考えているようです。

これにより従来12週年で立案していた管理組合は3回目の修繕計画、あるいは30年以上の修繕計画期間が必要になります。(12年単位で修繕計画を繰返す方法により立案するのではなく、工事内容により12年~15年程度の幅を持たせて30年以上に2回の大規模修繕工事を含む計画を立案することが重要であると考えています。

また、おおむね5年ごとの計画の見直しはなくなり、定期的な見直しと言う表現になりました。2022年4月から始める管理計画認定制度の議論の中で見直し期間を7年に変更する案がありました。

結果として各組合の状況により見直しが実施されていれば5年や7年には拘らないと言うことでしょう。

実際、修繕計画については管理会社の契約、あるいは更新時に見直されていることが多く、各部位の修繕工事にも随時、計画に反映されている組合がほとんどです。これに大規模修繕工事実施前後に見直しを行っていれば定期に行われていると言えます。

この点については7年程度を目安に見直しを実施していれば問題ないと考えています。

以上が維持保全についての改正内容です。


目次

 1章 WEB会議システムを理解する

2章 改定標準管理規約(WEB会議編)

3章 改定標準管理規約(電磁的方法)

4章 改定標準管理規約(理事・役員解任等)

5章 改定標準管理規約(共用部の利用)

6章 改定標準管理規約(維持保全)


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