今回改正された法律は、これまでそれぞれに発布された2つの法律の問題点を集約した形で改正された点が特徴です。
2つの法律は、マンションの管理に関する適正に関する法律とマンション建替の円滑化法です。
1、改正の概要を理解する

新築マンションは、日々の適正な点検、補修により維持され、大規模修繕等により適切な時期に計画修繕を繰返し実施することで、良好な住環境を提供でき、資産を維持することができます。しかし、建物の老朽化により修繕だけでは良好な住環境の維持が出来なくなった場合には、建物の建替えや敷地売却により循環を繰返すことが重要であると示されました。
管理の適正化と建替え等については個別の法整備がされていましたが、今回の改正で一体化した内容になりました。
両法律の関係について国土交通省は次のように示しています。

㍇の管理の適正化の推進については、修繕の実施による老朽化の鈍化を目的にしています。これまでの法律との明確な違いはこれまでマンション管理組合の自主性に任せていた管理、修繕を行政による監視監督下に置くことです。
さらに、高経年マンションには再生の道筋を明確にした上で、従来の法律の範囲を広げ、建替えや敷地売却をよりし易くする制度を導入しました。
2、マンションの管理の適正化の推進とは?

国は7項目について基本方針をしましました。
詳細な内容は全文を読んで頂ければと思いますが、概要で示した内容が文章で表されています。特に注目すべき点は、国、地方自治体、マンション管理士、マンション管理業等のそれぞれの役割を明確にした点です。その上で相互に協力してマンション管理の適正化を推進することが示されています。
国が示す基本方針に従い、地方自治体がマンション管理適正化の推進を行う制度設計になります。
地方自治体(市区単位)には推進計画の策定が実施されます。ただし、推進制度の設置は任意です。策定しなくても良いことになりますが、その場合、県が直接実施します。また、問題がある管理組合には指導・助言を行え、それでも実施しない組合に対しては勧告と言う厳しい対処をします。

ではどのような管理組合が指導や助言の対象になるのでしょうか。これについても国土交通省は対象を示しています。
区分所有法、標準管理規約等が守られていない組合と考えれば分かり易いと思います。
また、これまでに地方自治体が実施している取組も今回の改正に含まれていることが判ります。
不適格な運営を明確化するために「管理計画認定制度」の導入も今回の改正で新しく新設された制度です。
各組合の管理状況を項目別にチェックすることで、問題点を表面化します。これによりマンション管理を健全に実施している組合と不適格な運営をする組合を分けることが出来、不適格な運営をしている組合に対しては助言、指導を行います。
それでも従わない組合に対してはより強い権限で改善を迫ります。
このように今回の改正では管理組合だけでは改善ができない状況にあるマンションに対して幅広く制度の告知を行い、ひとつでも多くの組合が健全な管理運営を行うことで将来への老朽化を鈍化し、都市の再生を促進させることが目的であることがわかります。
3、マンションの再生の円滑化の推進とは?
適正化を実施してもすでに躯体の老朽化が進みすぎ改善ができない、あるいは改善に多額な費用を要するマンションがあります。
このようなマンションに対しては、従来の建替円滑化法が適用されますが従来の建替円滑化法は耐震不足が適用基準でしたが、それだけでは老朽化したマンションが該当しないケースが多くありました。
そこで国土交通省は、建替円滑化法の一部を改正し、より多くのマンションが対象になるように改正しました。

ひとつめは、外壁の剥落等びより第三者に危害を生ずるマンションを対象に加えました。
剥落等とは外壁にヒビが多数発生している、あるいは内部の鉄筋に沿って浮きが発生しているマンションになります。

これらについては、躯体の4面の発生割合を調査し基準を策定しました。
また、火災安全性の観点から建築基準法の防火・避難規定に不適合なマンションで、簡易な修繕では対応できないマンションについても対象としました。具体的には直通階段がない、新たに設置する必要がある、非常用昇降機の設置などがあります。
これにより要除却認定マンションに認められると組合員の4/5以上の同意により敷地の売却が出来るようになりました。また、建替えを行う場合には容積率の特例が認められます。
詳しい資料は国土交通省のホームページで公開されています。
次に住宅の基本的条件である生活インフラが不十分なマンションについてはバリアフリー性能不足として建替えの容積率の特例を認めました。(注意する点は、バリアフリー性能不足だけでは敷地売却の対象にはならないことです。)

バリアフリー性能とはマンション内での車椅子の使用に対応することを念頭に考えられました。近年築50年を過ぎた高経年マンションが増大していますが、高経年マンションの居住者の多くは高齢者であり車椅子の利用も多くなりました。しかし、これらのマンションは特別特定建築物に指定されていないことが多く(条例で規定する必要がある)、バリアフリー化がされていないマンションがほとんどです。
そこで、各都道府県がマンションを特別特定建築物に指定することでバリアフリー法(「高齢者、障害者の移動等の円滑化に関する法律」)の適用にするとしました。
これにより、廊下の幅、傾斜老の幅、マンション出入口の幅、エレベーターの設置、エレベーターホールの空間専有、各戸の玄関の入り口幅などに基準値が適用されます。
4、団地における敷地分割制度の創設

全国の総マンションストックのうち、団地型マンションの割合は約1/3(約5,000団地、約200万戸)に達しします。(平成25年調査)
意外に多いと思いましたが、団地は三大都市圏に集中して建てられています。大都市へのベットタウンとして建てられたためでしょう。
全国にある団地の中で築年数が25年を超える団地は、約2800団地(団地の5割)あり、そのうち旧耐震基準で建てられている団地は約1600団地もあり、3割強の団地が耐震不足の状況にあります。


また、団地は広大な敷地を所有するため、区画単位に建設が実施され、区画ごとに築年数が異なることも特徴です。そのため、建築基準法の適応が異なるケースもあり、建築年数による老朽化の度合いも異なります。
国土交通省は平成27年調査時点でも将来的な問題として2025年(調査時点で10年後、2021年では4年後になります。)で築45年を超える団地の存在にかなり不安を持っていることがわかります。
さらに調査時でも団地では組合員の高齢者化、空家率、賃貸率が単棟マンションと比較しても高い数値の結果を示しています。
比較項目 | 単棟マンション | 団地マンション |
高齢化率 | 27.7% | 33.3% |
空家率 | 5.2% | 7.6% |
賃貸率 | 19.8% | 11.5% |
新築マンションが増加傾向にある近年、築年数が45年を超えるマンションの市場価値は増々低下する傾向にあります。
市場性が低下したマンションは放置され管理がおろそかになります。団地構成員の高齢化もあり、空家率は今後も増加することが見込まれ、このままでは団地の老朽化が進み、団地全体が廃墟化することも有り得る事態です。
このような状況の中、国土交通省は単棟マンションとは別に団地マンションについても再生の推進を実施するため、法改正の対象としました。それが「団地における敷地分割制度の創設」です。
これは、団地内の老朽化の進行度が異なるマンションについて、区画を敷地分割により団地敷地より分割し、売却事業を実施します。

区分所有法における団地の定義は、同一敷地内に2棟以上の建物があり、それぞれに一人以上の区分所有者が存在します。各区分所有者は敷地を共有する関係にあることが大原則です。各棟ごとの管理組合の他、団地全体の管理組合、共用する土地の管理組合など複数の管理組合が存在します。
民法では敷地の売却(分割を含む)を行う場合には共有者全員の同意が必要になりますが、団地のような区分所有者の集合では全員の合意を得ることは非常に難しい現実があります。
そこで改正では、敷地の売却(分割を含む)を行うための合意を議決権の4/5に変更しました。これにより敷地売却の合意形成のハードルが若干下げることができます。また、売却により得られた資金は、団地から退去する皆さんには次の住まいの確保に利用でき、そのまま団地に残る組合員にとっては棟の修繕の一時金として改修等に使用することも可能です。
退去する組合員が残る団地の空き部屋に移動することもできるようにすれば、団地の空き家率も下げることができます。
さらに売却した土地に新しい開発が入ることで、団地全体の高齢化を抑え、若い人を積極的に迎えることができます。
このサイクルを区画ごとに繰り返せば、団地の再生が可能と考えています。
最後に今回の改正では、管理の適正化に関する事業に地方住宅供給公社も対象になりました。これにより地方住宅供給公社自体が修繕事業を行うことも可能になりました。これにより団地の修繕事業はより進むと考えられます。
5、国土交通省の狙い
これまでの説明を通して国土交通省が、老朽化が進むマンションが都市にとって負の遺産になることに歯止めをかける目的で改正が行われたことがわかります。
特に「管理計画認定制度」と「要除却認定制度」を導入することで高経年マンションの中で管理組合の運営が機能していない組合を見つけ出して再生へ繋げることが大きな目的になっています。
また、現在は良好な運営を行っている管理組合でも将来的(20、30年後)に高齢化、空家、賃貸者増加により運営の悪化を招かないように監督する制度の導入しました。さらに今後新築されるマンションに対しても同様の制度を拡張する検討を行っています。
これにより躯体の劣化速度を出来るだけ鈍化させ、マンションの寿命を延ばすことができる適正な修繕を確保するための制度であると言えます。
それでも老朽化が進むことは避けられません。また、現在すでに高経年マンションが都市再生のサイクルから外れ、廃墟化により周辺地域の安全性、美観、防災等を損ない放置される事態を避けるために、土地の売却、建替え、修繕により都市再生のサイクルに取り組むことができるための窓口を広くしました。
しかし、管理組合員だけで自主的な行動を行うには、法的、建築、資金等の知識不足であり積極的な専門家の関与が必要です。そこで自治体、マンション管理士、マンション管理業等の管理運営の専門家を参加させることでマンション管理組合を後押しする制度を導入しました。
その上で従来の助言、指導に勧告を追加、より強い管理体制としました。
今回の改正は、令和4年4月から本格的な制度化が実施されます。
管理組合が機能不全に陥っているマンション、老朽化が酷く将来に不安を持っているマンションの組合員の皆さんにはこの機会に改正されたマンション適正化法を上手に利用して、将来への不安を解消することを検討して頂きたいと思います。
➡ 第2章、改正適正化法に適応するためにに続く