前章で今回の改正適正化法については理解頂けたと思います。

ほとんどのマンション管理組合では管理計画認定制度が気になる点ですが、健全な運営を行っていれば認定制度もマンションの資産価値の観点からプラスになります。特に気にすることはなく、今後発表される皆さんが所在する市区、あるいは都道府県の発表を待ちます。

認定基準が公開されています。達しない項目があれば、管理会社やマンション管理センター、地方自治体の相談窓具に相談をした上で必要な対策を取るようにしてください。

具体的にはマンション管理士や管理業会社に費用を含めた見積りを依頼し、来期の予算に計上します。

この章で説明するのは、改正された適正化法に不適合が明らかな組合の皆さんに対しての情報になります。

1、どんな組合が不適合なのか?

国土交通省が示した不適合とは管理組合が健全な活動を行っていない組合です。

組合の基本的な4つの質問を示しましたが、一つでも不適合があれば管理計画認定制度に合格することはできません。

この項目に該当した管理組合は、管理会社と委託契約をせずに自主管理を行っているケースがほとんどでしょう。その場合は、自治体の相談窓口に組合員として相談してください。支援制度があれば説明を受けることができます。

相談窓口がない自治体ではマンション管理センターやマンション管理業協会を紹介してくれます。

理事長や管理者はいない場合は、任命から始めることになります。マンション管理に精通したマンション管理士等とコンサルティング(顧問契約)等を締結して進めることになります。

この場合も今回の改正で自治体からの資金的、人為的な支援が期待できます。是非、利用しましょう。


管理計画認定制度を無視したらどうなるの?

最近よく理事さんから質問されます。法的な罰則はありません。また自治体によってマンション管理に対する意欲も違います。

しかし、今回の改正では従来の助言、指導より強い勧告が出来るとしています。

恐らく、自治体からの要請で管理の適正化を指導されたにも関わらず、無視しているとマンション管理組合の名称が公開される等の一定のペナルティーはあると考えています。

マンション管理組合名が公開されると市場価値が下落することが予測でき、適正な価格より安く売買されることが予想されます。



次に修繕計画、修繕資金計画についての不適格組合です。

修繕積立金は毎月徴収している組合であれば、必要費に著しく足りない金額であっても今後の規約改定で対応は可能です。大規模修繕が計画通りに実施できていない組合も改善することで管理計画認定制度に適応することは可能でしょう。

問題になる組合は次に示す項目に該当する組合です。

修繕計画、修繕積立金がない管理組合はマンション内の設備の保全等にも問題があることが想像されます。管理費だけは徴収している場合、法定検査や故障には対応が出来ますが、設備、躯体の老朽化を根本的に解決することができません。

この項目に該当した管理組合は、自治体の相談窓口に組合員として相談してください。

まず、専門家による管理運営の見直し、修繕積立の組合員への必要性の周知を行い、集会で修繕積立金の改定を行う必要があります。放置した期間により修繕費の額には差がありますが、組合員はある程度の大きな負担を覚悟する必要があります。

耐震性不足については修繕とは異なり、もっと深刻な問題になります。

昭和55年前に建てられたマンションには現在の建築基準法で示す耐震性がない躯体が一定数存在しています。耐震改修が必要になりますが、工事費用が多額になる場合、建替えを含めた検討を年単位で計画する必要があります。

早急に耐震診断を受けた上で修繕の見積りを得た上で組合として今後の方針を決める必要があります。

2、躯体の老朽化、不適格建物も対象になる

改正適正化法では管理組合の運営状況以外にも修繕を適正に行わないことで起こる外壁等の剥落等により危害、住民の高齢者化によるバリアフリーの未設置、躯体の老朽化(住宅の基本的条件である生活インフラの不足)によるも対象になりました。また、建築基準法の改正に伴う不適格建物も対象になりました。

これらは立入調査のような強制ではなく、あくまでもマンション管理組合の自主申告により申請が認められ優遇措置の利用が可能になります。築40年を超えるマンションが対象になると考えられます。

皆さんのマンションでこれから説明する項目にひとつでも該当した場合、改正適正化法の適用をマンション全体で考えてみるべきです。該当した管理組合は管理計画認定制度の対象となりいずれ行政からの指導や勧告を受けることになります。

2-1、外壁の剥落

外壁は外部から目視で確認できますが、マンション等のコンクリート壁に大きなひびが発生している状態は日常で確認できます。多くの場合は充填法などで修繕してあります。(目視で修繕の痕跡は簡単に見つけることができます。)

日々の原因はいろいろありますが、老朽化もひとつです。ひびは放置するとコンクリートの劣化を招き最悪、大きなブロックとして剥がれ落ちることがあります、これを剥落と言います。

剥落は大きなブロックとして落ちることがあり、周囲に危害を加える可能性がある大変危険な状態です。このような状態になる前に大規模修繕を実施することが必要ですが、組合の運営が機能していないマンションでは放置されます。

写真の中で茶色にシミが確認できますが、内部の鉄筋が水分により錆びている状態にあり、躯体強度が低下している可能性があります。この状態が躯体4面に多数確認されているようなマンションではかなり大規模な修繕工事が必要になり、建直しを含めた検討が必要になります。

2-2、火災安全性

建築基準法は震災、大規模火災が発生する度に改正を行ってきました。以下、今回対象になった改正を示します。

改正年度改正内容現在の条例備考
1956年外塀へのスパンドレルの設置
避難階段に通じる直通階段の設置
令第112条
令第120条
外壁の広範囲の修繕
直通階段を追加する必要がある
1959年耐火建築物又は簡易耐火建築物の義務化
3階以上のもの、2階が床面積300㎡以上のもの
3階以上の建築物の防火被覆(鉄骨造等)
面積区画に耐火建築物の500㎡区画を追加
令第20条

令第70条
令第112条
外壁の広範囲の修繕
建築内装の柱全体を処理するのは難しい
床や壁が耐火構造でない木造等は回収が難しい
1964年15階以上に通じる避難階段を特別避難階段に進化令第122、123条避難階段を全面的に作り直す必要がある
1969年竪穴区画の制定
2以上の直通階段に係る重複距離の制限
令第112条階段や吹き抜けが防火区画出ない場合、大修繕が必要
1970年非常用昇降機の設置
非常用侵入口の確保
令第34条、139条
令第126条の6,7
侵入部を設ける部分が外壁に無い場合は困難
1973年2以上の直通階段が必要な建築物の適用拡大
(6階以上は面積に関わらず必要)
令第121条避難上有効なバルコニー、野外避難階段がない場合大規模修繕
1998年単体既定の性能規定化
法第38条に基づく大臣認定の廃止
大臣認定を受けた構造方法を用いている場合、再認定が必要
国土交通省、要除去認定基準の方向性より

いずれの改定も火災の安全性を確保するための改定ですが、改定時にすでに建築されているマンションは対応が出来ていません。また、改定に則する修繕を行う場合、多額の費用が必要であり老朽化を考慮すると建て直しも一つの選択肢なります。

管理組合の役員だけでは、基準違反を的確に探すことは難しいため、専門家に確認を依頼する必要があります。

万が一の火災の際に命に関わる問題です。家族を含めたマンション全体で話合う必要があります。

今回の改定では防火安全性に問題があると認定されると要除去認定を受けることが出来、敷地売却を目的とした事業が認められます。また、建替えを選択した場合に容積率の特例が認められます。

2-3、水漏れ

老朽化したマンションでは排水管からの水漏れ問題があります。

排水管は台所、洗面所、風呂、トイレを館外に排出しマンション内の生活環境、衛生を保つ重要な生活ライフラインのひとつです。

現在のマンションの構造は各専有部の床とスラブ(コンクリート床)の間に排水管が設置されているため、排水系のトラブルは各専有部から修繕等を行うことができます。これに対して築年数が長い躯体では排水管がスラブ(コンクリート床)を貫通して設置され、階下の天井裏に設置されているため修繕には、階下の住民の協力が不可欠になります。また、漏水個所を特定するためには広範囲を調査する必要があり大掛かりな工事になります。

このような構造のマンションでは共用廊下や壁に黒いシミのような跡や専有部内の天井にシミや黒ずみなどがある場合には内部配管の漏水や水漏れが疑われます。

全館の排水管の交換となると工事間の住民の生活の問題もあり、建替え等を検討する必要があります。

2-4、バリアフリーへの対応不足

築40年を過ぎたマンションの住民年齢層は、購入時年齢を30~40代と考えても70~80歳を超えています。以前、公営住宅などで5階建ての団地にエレベータがーがなく、高齢者は階段しか利用できないことで外出を諦める原因のひとつになっていました。

最近では車椅子を利用する方を多く見かけるようになりました。これは「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」が施行され、公共機関や公共建物、会社などが車椅子や障害者の利用を前提に建物の構造を設計していることによります。また、社会全体が高齢者、障害者の移動を認知したことも大きな原因でしょう。

マンションのバリアフリーは建築基準法で努力目標に設定されていますが、各自治体が特別特定建築物に認定している地域は出入口の幅、共用廊下の幅、傾斜路の勾配や幅、エレベーターの設置、エレベーターホールの大きさ、籠の大きさ等に基準が適用されます。

車椅子を利用している方でマンション出入口が狭く苦労している方、足が不自由になり階段の利用が著しく難しくなり、外出も一人ではできないなどの状況が発生しているマンションの住民の皆さんが対象となる制度です。

今回の改定ではバリアフリーへの対応不足と認定されると建替え時の容積率の優遇措置が認められます。(要除去認定の対象ではありません。建替え時に特例です)

2-5、団地は敷地分割事業が対象

都市圏のベットタウンとして発展した団地ですが、人口の減少等により大きな役目は終えたと言われています。

その中で築年数が40年を過ぎた団地は老朽化が進んでいます。また、住民の年齢層も高くなり空き家なども多く目にします。

一方、築年数が40年以上の団地は、市場性が乏しくなかなか次の買手が見つからず、空家が増加した結果として修繕費不足による老朽化が進む傾向になります。

このような状況の中で今回の改正は団地について敷地分割事業を認めることが決まりました。

団地は土地を共有する団地全体の管理組合があり、一部の敷地を分割するためには組合員全員の合意が必要になります。しかし、高齢化が進み相続や所在が不明の区分所有者が多くなると全員の合意は得られない状況です。

団地内で老朽化した棟は景観上、安全上も除去したいと思う組合員も多いのではありませんか。

そんな時に老朽化したマンションの区画を団地敷地から分割する事業が認められた制度を利用することが出来ます。耐震不足、火災安全性に問題があることが認められれば、その棟だけを要除去認定マンションに認定を受けます。その後、全体団地組合員の議決権の4/5以上の合意で分割、その後、分割した区画を売却、あるいは再建を選択します。

売却・建替えについてはすでに円滑法があります。この制度に従い実施することが出来ます。


等価交換の特例が利用できる

分割するマンションに住んでいる人はどうなるの?素朴な疑問ですよね。

老朽化したマンションは安全性に問題があり居住者も心配です。そこで不動産に等価交換を利用すると良いでしょうね。存続するマンションには空家があるはずです。空家所有者も出来れば売却したいと考えているはずです。そこで不動産の交換譲渡を行います。

同一敷地内、同一用途の交換ですから原則、譲渡税も課税されません。(登記上同じ敷地内で交換です。)これを等価交換の特例と言います。

これにより既存マンションの空き室率を下げることができます。このような工夫をすることで老朽化したマンションに住む人たちの生活を確保します。

空家所有者にとっても、譲渡が出来ず固定資産税を毎年支払う不動産の所有は避けたいところでしょう。等価交換後に売却権利分は当然支払われます。(譲渡税が課税されますが恐らく控除範囲で済む程度ではと思います。)


団地居住者が徐々に減り、知合いも少なくなることは生活不安を招きます。管理組合の役員の皆さんも大変苦労していると聞きます。

一人暮らしの高齢者が増えれば見守り体制も整える必要があるでしょう。団地の再生を考える時、どうしても若い世代の入居が必要になりますが老朽化したマンションの市場性を考えると難しいと言えます。

団地敷地を区画単位で売却、あるいは敷地を提供することでデベロッパー等に開発を委ね、魅力あるマンションを提供することで若い世代を迎え入れ、団地組合として入居者数、年齢構成を改善することもひとつの手段と言えます。

この再生は、敷地内の区画を順次、分割売却することで世代交代をスムーズに行える取組になります。

団地役員の皆さんが抱える団地内の問題を解決する手段の一つとして検討してみてはいかがでしょうか。

3、各制度のまとめ

改正適正化法の適用フローを示しました。

いずれも組合が申請する制度ですが、管理計画認定制度は各自治体が対象とするマンションを規定すると思われます。

例えば従来制度で東京都が2020年から発表した「マンション管理・再生促進計画」はその後「管理の促進に関する条例」につながり「マンション管理状況届出制度」が実施されています。

対象は東京都のマンション管理組合ですが、昭和58年12月31日前に新築された専有部が6戸以上のマンションに届出を義務化しています。

今回の改正で自治体ごとに認定制度への適応範囲をどのように設定するかはわかりませんが、少なくとも築年数が40年以上のマンションはどの自治体も届出義務を設定することが考えられます。

築40年を超えるマンション、あるいは昭和58年以前に新築されたマンションに該当する場合、下記表から該当要素に当てはまる管理組合はマンション全体(組合員の合意)として将来の方針を決定することに迫られます。

選択肢は「建替え」「敷地売却」になります。

該当要素建替え時の容積率の特例措置マンション敷地売却事業の認定
耐震不足 要除去認定
防火安全性不足 要除去認定
外壁等の剥落による周辺危害 要除去認定
排水管腐食による安全性欠如
バリアフリー基準への不適合
改定された改正適正化法

それ以外のマンションは、各自治体が設定する管理計画認定制度により異なりますが対象になったマンションは、上手に自治体の助言や支援を受け、この機会に管理組合の運営の健全化、適正化を進めるべきでしょう。

また、対象外であっても自主的に認定を受けることは不動産市場で高い評価が得られるため、これを維持すること(5年ごとに更新が必要)マンション全体の価値を高い状態にすることができます。

残念ながら管理組合の実態がない、運営管理規約の不備、修繕計画の不備、修繕積立金の過不足を指摘された場合は、マンション管理士等の助けを借りながら安住の住処としてのマンションを安心、安全に守るために組合員一丸となって改善を進めてください。


2章に渡り2022年4月から施行される改正適正化法の内容、マンション管理組合員に与える影響についてお話ししました。

公開の制度は、国土交通省がすでに現在の安全性基準を満たさず、マンションの快適な住環境の提供も出来ず、資産価値も下落したマンションを探し出し、除却、改善を求めることです。その存続は将来、周辺地域の安全性にも悪影響を与えるため、かなり強力に推し進めることになりました。

また、現在は問題が無いマンションも躯体の経過による老朽化、住民の加齢により維持管理が難しくなることが無いように監督する意味も含んでいます。

すでに適正な運営を実施しているマンション管理組合がほとんどでしょう。私が知る管理組合も資料をもう一度整理する必要がある程度で管理計画認定制度は認定が受けられる状態でした。

是非、マンション住民の皆さんが長く快適な住環境を維持し、次世代に引き継げる資産として価値を保つためにこの制度を利用しもう一度、マンション管理組合の見直しを実施して頂けることを願いします。

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