要除却は国や自治体から強制的な力でマンションの撤去を命じられるわけではありません。住民の同意によりマンション全体を売却する、あるいは建替える場合に円滑に推進できるように措置を行うための制度です。

このことは間違えないでください。

住民が反対している状態で代執行のようなことを行う訳ではありません。

かといって現状維持を続けることができるかと言えば難しいと言えます。

国も自治体も周辺に危険な建物をそのまま放置することはできないと考えています。


やり過ごすことはできません

今回の改正管理適正化法の改正では、高経年マンションの中で管理をおろそかにしたことで、老朽化が進み将来的に都市機能に悪影響を与える可能性があるマンションを探し出し、適切に管理を行う、あるいは都市再生の一環として敷地売却を促す目的があります。また、今回の改正で管理計画認定制度が導入されたことで更新5年となり、5年ごとに管理状況を見直すことになりました。

「ほっといても大丈夫だよね~」と聞かれることがあります。

高齢者のマンション居住者に今回の改正のことをお話しすると「今さら金をかけて直してもね」と言われます。子供たちもそれぞれ独立して老朽化したマンションに資産価値もほとんどなく、更地にして売却してもほとんど手元に残らないケースもあります。(敷地面積が小さなマンション程、この傾向は大きくなります。)

その上、その後の家賃負担、住み馴れた地域を離れることへの不安もあります。老後資金が不足気味の方にはとても受け入れがたい気持ちもわかります。

また、改修や建替えになれば一時金を支払うためには新規にローンを組む必要があるでしょう。年齢的に子供との共同ローン(親子ローン)を選択せざる得ない方も多いと思います。

気持ちはわかりますが、何もしないわけにはいきません。今回の改正では自治体からの勧告が明文化されています。

*勧告は法的拘束力はありません。


1、要除却認定制度の概要を理解する

この制度は以前から耐震不足のマンションに対して建替円滑化法のひとつとしてありました。

耐震基準に関する建築基準法の改正はこれまで2度実施されています。1度目は1971年、2度目は1981年でこれが現在の耐震基準になっています。1981年5月31日以前の建築基準法(建築確認を受けた)で建てられたマンションを旧耐震と言います。

築年数で言うと築39~40年を経過したマンションが旧耐震マンションである可能性が高いと言えます。(注:竣工時期ではなく、建築確認時期で判断します。また、建築確認時期がそれ以前でも現在の建築基準を満たしているマンションもあります。)

築39年以上を経過したマンションの管理組合では自主的に耐震診断を行い、結果次第で必要な耐震補強を行う必要があります。この時の選択肢として各図に示す3つの選択が一般的です。尚、耐震診断に必要な費用は、国、自治体から2/3の補助金が支給されます。(令和2年現在)

修繕により耐震補強を行う場合、組合員議決権の1/2以上の賛成により実施することが出来ます。この際、容積率の緩和特例を受けることも可能です。

以前は躯体の構造的な変更を伴う改修には組合員の3/4以上の合意が必要でしたが改正により耐震改修については普通議決で可能になりました。

耐震改修には様々な方法があり、代表的には鉄骨ブレース増設、耐震壁の増設、柱の補強などがありますが、躯体の形状、構造により対策があり専門家への相談が必要になり、必要な費用にも大きな差があります。

建替えを選択した場合は、現存する管理組合以外に建替え組合を普通議決の可決により設立し事業を起こします。建替え後の完成図、権利の配分、一時金や借入金を含めた資金計画を含む事業計画の完成した段階で組合員の3/4以上の賛成により建替え議決を成立させます。この際も、容積率の緩和特例を受けることが出来ます。

敷地売却については組合員議決権、及び敷地の所有権のいずれも4/5以上の合意が必要になります。賛成者からなる敷地売却組合を立上、敷地売却事業を立ち上げます。(反対者の所有権は敷地売却組合が買取る)

このように国土交通省はマンションの建替・売却について円滑に推進できるように法制度を整えました。これがマンション建替え法と言われる法律です。

また、修繕や建替えについても国や自治体は金銭的な支援策を出しています。

左表に示しましたが、補助金の制度を利用することが出来ます。

この制度を利用するためには自治体に「要除却認定」の申請を行い認められると補助金、容積率の緩和特例を受けることが出来ます。

要除却認定を受けるためには、改修、建替えのいずれかの決議を組合として承認した後に申請します。各自治体により申請の書式や認定機関が決まっています。所在する自治体のホームページ等を調べてください。

自己資金と補助金だけでは修繕費が不足する場合には、住宅金融支援機構が融資制度を用意しています。

詳しくは 住宅金融支援機構のホームページから確認できます。スマイル債を保有していると金利が優遇され、修繕積立金の滞納率が10%を超えると審査が厳しくなるなどのルールがあります。

要除却認定制度はお分かり頂けたでしょうか。

大事なことはマンション管理組合が自主的に調査を実施し、耐震改修や建替えが必要出ることを組合として合意した上で申請により利用できる制度です。

では、今回の改正により耐震不足以外に要除却認定を受けることができる要素が広がった点についてお話しします。

2、拡大された認定要素について

特集記事の冒頭に示した表になります。

チェック項目該当要素
1マンションの外壁に目視で確認できるひびがあり、ヒビに沿って薄茶色の着色が確認できる外壁の剥落による周辺への危害
2マンションの外壁に大きなブロック状の穴が確認できる外壁の剥落による周辺への危害
3住民に高齢者が多いにも関わらずエレベーターが設置されていないバリアフリー性能不足
4直通避難階段がない(直線的な避難が出来ない構造)火災安全性不足
5天井や壁に黒いシミ(黒カビ)の発生がおおい配管設備腐食
6水漏れがマンション内で発生する頻度が多い配管設備腐食
マンション老朽化による危険シグナル

今回の改正では5項目について要除却認定の申請を行うことができるようになりました。

具体的には次のフローシートに示しましたが、耐震診断、火災安全性、外壁の剥落危険、漏水問題、バリアフリー不足が該当項目になります。

各項目については各章で説明を加えますが、チェックリストで該当した項目の章を確認してください。また、管理計画認定制度については特集2021年7月号 管理計画認定制度とは何か?で説明しています。

管理計画認定制度は上記項目に該当する高経年マンション管理組合を見つけ出すための制度と考えると分かり易いと思います。


該当項目については次の章で説明します。

目次(該当する項目をお読みください。)

 1章、要除却認定とは何か?

2章、危険性の高いマンション外壁について

3章、火災時の安全性について

4章、排水系等の漏水(水漏れ)について

5章、高齢者、障害者にとってのバリアフリーについて

6章、団地の敷地分割売却事業とは


➡ 特集記事に戻る