この章では要除却認定の対象となる危険性の高い外壁について説明します。
1、外壁の基本的な知識
マンションの外壁は所有のマンションについても日々目にしていると思います。外壁と言っても種類はいろいろありますがもっと多く採用されている外壁は塗装外壁です。コンクリート表面に樹脂系塗装を行い日光や雨風からコンクリートを守る役目があります。
材質 | 耐久年数(年) |
アクリル塗料 | 4~7 |
ウレタ塗料 | 6~10 |
シリコン塗料 | 8~15 |
ラジカル塗料 | 8~15 |
光触媒塗料 | 10~15 |
フッ素系塗料 | 15~20 |
遮熱塗料 | 15~20 |
断熱塗料 | 15~20 |
樹脂塗装以外にタイル外壁、サイディング外壁などが一般的です。どれも新築直後はきれいで個々のマンションに高級感やレトロ感などの個性を与える大切な要素です。
外壁は1年中風雨に晒されるため、徐々に劣化します。そのため一定期間で修繕を行う必要があります。これはマンションに限ったことではなく一戸建ても同じ材質を使っている以上耐久年数は同程度です。
一般的な使用材質と耐久年数については参考として表にまとめました。でも実際、自身のマンションの材質を知っている方は少ないと思います。分からなければ管理会社に聞いてみてください。組合に竣工図が保管されています。竣工図には記載されています。
材質により耐久年数が異なりますが、15年程度で改修の必要性があることがわかります。
各マンションではこの時期に大規模修繕工事として外壁や屋上防水塗装などを一緒に行う組合が大きのではないでしょうか。
お判りだと思いますが外壁修繕は15年程度の周期で生涯実施する必要がある修繕で一度でも実施しないと外壁に大きなダメージが起きる可能性があります。
2、壁が劣化するわけ
コンクリート自体の耐久年数は100年以上と言われます。実際打ちっぱなしのコンクリート壁が汚れることはあっても朽ちてる壁はほとんど見たことがないと思います。
コンクリートは液状に混ぜられたものを固めて成形します。液状の中には骨材(無機成分)や砂が含まれています。このコンクリートを枠に中に入れ徐々に固形化させることで強度の高い皆さんが知る硬いコンクリートが出来上がります。一般的なコンクリートは固まるまで数日かかり、その間は自然環境の中で放置され強度を増すのを待ちます。

コンクリートは耐震性、耐火性、遮音性、耐熱性、耐久性に優れています。そのためマンションの躯体に用いられることが多い素材です。
コンクリートは上下(圧縮)の力に強い反面、左右に弱い性質があり、それを補強する目的で鉄筋や鉄骨が内部に配置されています。
内部の鉄筋は左右からの力に強い反面、上下(圧縮)に弱い性質でコンクリートと鉄筋は相互に弱い部分を保護してる関係にあります。
コンクリートの耐久性の高さに比べ、鉄筋は鉄素材のため水分や酸性環境には著しく腐食を受け強度の低下を招きます。これを防止する目的もコンクリートにはあります。コンクリートはアルカリ性質なので鉄の腐食を防止できます。コンクリートと鉄筋の相性の良さがわかりましたね。
コンクリートは加工がし易いように流動性のある状態で固形化させることはお話ししましたが、コンクリートは固まる時に乾燥収縮します。この際に内部や表面に小さなひびが発生します。これは竣工時であっても発生してしまいます。(ひびがまったくないコンクリートはありません。)
このひびはその後、アルカリ骨材反応(添加する無機成分)によるもの、太陽光による加熱と寒さによる凍結融解作用によるもの、コンクリートの中性化によるもの、塩化物の浸透によるもの、疲労によるものなど様々な外的要因により、初期にあったひびが徐々に大きくなります。
ただし、ひびが大きくなることでコンクリートそのものの強度の低下は限定的です。(ひびがあるからコンクリートの強度が弱いと判断できないと言う意味です。)それ以上に大きな影響を与える要因がひびから内部に入り込む水分にあります。
元々、ひびの有無に関わらず空気中の二酸化炭素がコンクリート内に浸透し、化学反応を起こし徐々に内部のコンクリートはアルカリ性の性質を失います。この現象をコンクリートの中性化と言いますが、これ自体はどのコンクリートでも起きています。
しかし、そこにひびがあるとひびから沁み込んだ水分と空気(二酸化炭素)は内部のコンクリート成分と反応してコンクリートの中性化を加速させます。すると鉄は水があると中性化では錆び始めます。(図参照)
ひとつの目安としてひびから茶色の水(錆汁)が出ている現象がある場合、内部の鉄筋が錆びていることを示唆していると言えます。
これは街中を歩いていても古いマンションや一戸建て、オフィスビルでも確認できます。
この段階で適切な修繕を行えば錆汁が出る以前にひびを埋めることで現象を止めることが出来ます。ひびに沿って塗装跡がある建物を皆さんも街中でたくさん見ているはずです。また錆汁が出ていてもひびの大きさにもよりますが修繕は可能です。
しかし、この状態を放置すると鉄筋の腐食は広がり、それと同時に体積の膨張を伴います。
これによりコンクリートは内部から圧力を加えられます。中性化も伴いコンクリートは徐々に強度を失い、最終的には大きな塊として剥落します。(図参照)


コンクリートの外壁が劣化する訳をご理解頂けたと思います。
中性化や工法上避けられない小さなひびの影響を防ぐために、一般的にはコンクリート表面を外気と直接触れさせないように塗装やタイルなどを施工することで保護しています。ただし、どの工法であろうと大小のひびの存在、コンクリートの中性化は起きています。それぞれの外壁によって発生する症状がことなるため、一定期間ごとの点検が必要であり、危険な兆候が見つかれば適正な修繕が必要であることは忘れないでください。
3、剥落の危険性
剥落が起きるとコンクリート片は落下しますが、この時、下に通行人がいた場合、最悪死亡する可能性を含んでいます。
また、最近の地震の多さや地域によっては近い将来災害級の地震の発生が報告されています。内部の鉄筋が腐食した躯体は、竣工時の耐震性はなく、倒壊の危険性も高いと言えます。
このような危険性を理解していれば剥落現象が起きているにも関わらず放置しているマンションには管理上に大きな問題があることが推測できます。
3年ごとの法定点検で目視によるひびや錆汁の確認や小規模な剥落が確認された時点で修繕を行うことは管理組合として当然の行為になります。これを放置することは自身の躯体の危険性を見過ごすだけなく、大規模な剥落の発生や震災時には周辺地域へ悪影響の危険性も含んでいます。
国土交通省がガイドラインとして示している大規模修繕を実施していれば、このような危険性は回避できるはずですが、実施しない理由に関わらず、適切な修繕を行わないこと自体に躯体を所有している責任が欠如していると言えます。
躯体の4面に多数のひびが発生しているようなマンションは危険な建造物と認識すべきです。
このような状態を放置することの危険性は組合員全員で共有すべきですが、ここに至ると管理組合の健全な運営を組合主導で行うことは難しい実情があります。
特に住民の年齢層が高齢化し、生活基盤が年金中心であれば、修繕費の捻出や現在の生活基盤を大きく変更することに躊躇う方も多いと思います。しかし、この状態まで放置した責任は負うべきであり、災害時の生命の危険性を伴う老後生活は大きな不安を生むことにもなります。
今回の改正で外壁の剥落等により周辺に危害を加える可能性があるマンションについて要除却認定が認められたことは、このようなマンションに住む住民に新たな解決の道を差し伸べたと言えます。
4、建物所有者の責任
「この歳になって今さら何ができるか?」「修繕費の捻出なんてできない」「生活が苦しいのに無理」など様々な当事者の声を聞きますが、だから修繕等の問題の解決に取り組み意思も示さないことは建物の所有者としては無責任なのではないでしょうか。
自身の危険、周辺への危害を与える可能性がある建物の所有者であることを認め、その上で自分たちに何が出来るかを検討すべきです。

しかし、先程も書きましたがこの状態まで放置していた管理組合が自主的に意識改革を行うことは難しい状況にあることは容易に想像できます。
そこで国、自治体も専門家の派遣について支援を実施しています。
また、前章でも示しましたが個々のマンションの実情に合わせて、改修、建替え又は除却に対して国や自治体から資金援助(助成金)が得られます。
このように国や自治体が準備したレールに乗るためには、区分所有者からなる管理組合のひとりひとりが事の重大性を理解して前向きに検討を行う認識をもつことが大事になります。
まず、専門家の派遣を受け、マンション躯体、施設、管理組合の運営内容、修繕計画、修繕資金の実情などあらゆる面を正しく現状を把握する必要があります。
解決方法はひとつではありません。修繕、建替え、売却、それぞれについて可能性を専門家も含めて検討を行った上で、結論をだすべきです。結果として自分達ではどうにもならないと結論がでることもあります。
全面改修ができなくても最低限の生命の危機や周辺への危害を抑える修繕を行う選択肢もあります。多少の生活の快適性は失われるかもしれませんが、それでも安全性と最低限の所有者責任を担保できるのであれば有意義なことです。また、不動産の利用方法は様々なあり、敷地売却、建替えだけが選択肢ではありません。土地の権利をデベロッパーに提供する方法もあります。
個人の事情にも配慮は必要になります。組合員ひとりひとりに家庭状況が異なり、対応できる範囲も異なります。その事情に適したアドバイスができる専門家も重要になるでしょう。
何もせずに老朽化するだけの建物に無責任に住み続けることだけは避けるべきでしょう。そのために国が用意した制度です。利用しない選択肢はありません。
では、具体的にどのように外壁等の修繕を進めるのでしょうか。
5、相談からはじめる
マンション管理組合の合意形成を進めると言うのが一般的ですが、これは管理組合が正常に運営されていることが前提条件です。外壁等の老朽化を放置する組合の自主性に期待しても無理と判断するのが一般的でしょう。
また、築年数等を考えると組合構成員の年齢層も65~70歳以上と高齢化を想定して考えるべきでしょう。

その上、修繕計画や修繕資金にも大きな問題がある組合と想像できます。
何から手を付けて良いかも当事者だけでは判断できないほど、状況は悪いとします。
このような場合、最初に行うべきことはマンションが所在する自治体に赴くことがステップ1です。
管理規約、総会議事録などを持参するべきですが、その存在する不明であれば何も持たずに相談に行くことも大きな障害にはなりません。目的は機能していない管理組合に第三者の力を入れることです。
自治体について事前に調査すべきですが、インターネット等の知識も希薄であれば、自治体の総合案内所に行き、「マンション管理組合のことで相談したいのですが、担当者に取り次いで欲しい」と伝えれば関係部署の担当者に取り次いでくれます。
ここからは、担当者に「外壁が危険な状態」「管理組合が機能不全」「修繕費もない」「高齢者中心の組合」と言ったキーワードを伝えれば今後の進め方について相談に応じてくれます。
その後は自治体が契約しているマンション管理士、建築士等が現地を訪問、管理規約、総会議事録、修繕履歴、修繕計画、財政状況等の過去資料と躯体の状況を確認します。その後、必要であれば建築士などに老朽化の状況の調査を実施した上で管理組合に現状を報告、今後の進め方を相談して決定します。
組合の皆さんは、マンション管理士等の専門家のヒアリング、必要な書類を準備するだけです。
6、最後は理事会等が総会を招集
躯体老朽化、管理規約、管理履歴、財政を調査が済むとマンション管理士等から理事会に報告があります。同時に今後の進め方について提案もあると思います。
提案は現状の躯体の危険性、管理組合の運営実情、財政実情を考慮して修繕、建替え、敷地売却の可能性についてです。
この結果を受けて理事会は、早急に臨時総会を開催する準備を行い、住民に現在の状況を説明することになります。当日、マンション管理士に報告をお願いすることも良いでしょう。
この総会で議決する内容は概ね2つです。
1、「今後のマンションの方針を検討する検討会」を理事会が設置すること
2、設置について予算の承認
マンションの将来を決定する重要な検討会です。マンション管理の専門家、躯体修繕の専門家、組合員から構成すべきです。
費用については国、自治体の補助金で対応できるかどうかは自治体の担当者とよく相談します。
自治体への相談から管理組合として方針を決定、実施に至るまでの流れを示しましたが、基本的な流れであって、この工程通りに上手くいくことの方が珍しく、組合員の中で様々な意見があり合意形成には強い指導力が必要になります。

最終的な結論が出るまでの期間も数年単位で考える必要があります。それ程、機能不全に陥り、修繕等をおろそかにした管理組合を正常に戻ることは大変な作業です。
考えただけで面倒で厄介な業務であることはわかります。まして高齢者の皆さんにはそれぞれの生活があり、日常生活に影響することが少ない外壁修繕がこれほどと思う気持ちはわかりますが、他のマンションは当たり前に行っていることです。
大きな地震や災害が発生した時のご自身の安全と周辺への迷惑を防止するためにも実施することを願いします。
最後にもっとも重要なことは、要除却認定は自治体が申請を受け付けて認定する制度です。放置しているだけでは自治体は何もしません。管理組合が合意形成を行い申請を行う必要があることを忘れないでください。
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