今回の改正で住宅の基本的条件である生活インフラが不十分として排水の水漏れが問題になっているマンションが建替え時に容積率の緩和特例を受けることが認められました。この章では対象になるマンションの水漏れ問題について説明します。

誤解のないように、耐震や火災の危険性で認められた要除却認定とは異なり、敷地売却事業の特例は認められていません。建替え時の容積率の特例が認められたことは間違いないようにしてください。

対象になるマンションの排水配管は現在のマンションとは配置が異なっている点がポイントになります。

1、排水管の配置を知る

現在の排水配管はスラブ上配管が主流で、各専有部の床下に各家庭のは配管が配置されています。(図1参照)

図1、床スラブ上配管イメージ
リフォームマンション推進協議会HPより

スラブとは建築用語でコンクリート床で皆さんのマンションでは構造部分もことを言います。

自宅の床下に室内の設備(台所、洗面所、風呂、トイレ等)の排水管が設置されています。そのため、床下部分の配管で水漏れが発生したてもすぐには階下の専有部に被害を与える影響は少ない構造になっています。

また、配管のメンツナンスや修繕は専有部の床下にあり、自宅の床を取除くことで行うことが出来ます。

これに対して昔の工法はスラブ下配管(床スラブ貫通配管とも言います)は、自宅の配管が床スラブを貫通して階下の専有部の天井裏に配置されている構造です。(図2参照)

図2、床スラブ下配管イメージ
リフォームマンション推進協議会HPより

この場合、床下の配管に不具合が発生すると漏水により発生した汚水は階下の専有部の天井に流れ出します。汚水の量が多ければ雨漏りとなり、階下の住民は多大な被害を受けることになりますが、修繕する際も階下の住民の天井を外し修理する必要があります。その上、漏水発生場所の特定が出来にくく、広範囲に渡り天井を外す必要があり、階下の住民の生活に多大な迷惑をかけることになります。(図3参照)

また、長年少量の漏水は階下の天井裏に湿気を生み、結果として天井に黒カビやシミが現象として現れます。小さな子供がいると喘息や呼吸系の疾病につながることもあります。

このような問題が発生するスラブ床下配管は昭和40年~50代(1965~75年頃の建てられたマンション:築年数35年以上)で採用された方法です。なぜこのような工法が採用されていたのかはわかりませんが、今となっては大きな問題になっています。

自分のマンションがスラブ上排水管、スラブ下配管のいずれが採用されているかを確認する方法は、竣工図を確認すればすぐにわかりますが、竣工図が無い場合は台所、浴室等の水回りの点検口を確認する方法、天井を開けてみるとわかります。

点検口からコンクリートに配管が埋まっていればスラブ下排水配です。排水管が横に走っていればスラブ上排水管です。天井に排水管が確認できればスラブ下排水配です。

スラブ上排水管とスラブ下排水管(床スラブ貫通)の違いを理解して頂けましたか。

今回の改正で修繕や建替え時の容積率の特例が認められるケースは、スラブ下排水管(床スラブ貫通)のマンションですでに漏水が複数個所発生していることが必要になります。

尚、今回の改正では給水配管、ガス配管は対象ではありません。注意してください。

2、排水管の耐久年数

マンションを構成するすべての部材に耐久年数があります。使用する材質により長短はありますが耐久年数があります。

排水管も例外ではなく耐久年数があります。代表的な材質は雑排水と汚水で異なります。表に示したので確認してください。

材質使用場所耐久年数
1配管用炭素鋼鋼管(白ガス管)館内雑排水15~20年
硬質塩ビ管館内雑排水25~30年
3排水用鉄鋼管室内汚水管30~40年

雑排水は台所、洗面台、浴室から発生する生活排水です。汚水は糞尿です。固形物の量等から異なる材質を使用します。

大規模修繕計画を立案している組合であれば耐久年数に合わせて工事が組み込まれ、費用も含まれて計算されています。

でも、思ったより耐久年数が短いと思いませんか。もっと丈夫な排水管があっても良いと思いますが、昭和40~50年代では一般的に使われていた材質です。

実際には使用する環境、頻度によって耐久年数が異なりますが、竣工後20年以上を経過したマンションでは交換や補修を含めた修繕計画は考えておくべきでしょう。

3、漏水の発生原因

漏水の原因は配管の腐食によります。排水管は各専有部から同一階を横に走る横排水管と各階の横配管から流れ出す排水を階下に流す竪排水管に大きく分類されます。材質的には金属と塩ビ系が終了ですが、どちらも長い間に表面成分が溶解、元々の厚みは薄くなります。表面に付着する固形物が管にダメージを与えることもあり、腐食の原因は1つではなく複数の要因が複雑に絡み合い発生します。

また、設置時の工事不良も要因のひとつではあります。躯体のひずみや留め金の劣化などで管に外的圧力が掛かり、亀裂を発生することもあります。

いずれにしても材料の耐久年数であり避けることが出来ない老朽化です。

横配管では表面に穴が開くピンホール、竪配管では横配管との連結部が漏水の発生個所としては多いようです。国土交通省が要除却認定制度を検討した際に使用した資料から写真をアップしました。

「完全保存版 マンション給排水モデル事例集」
(一財)経済調査会より出典
「完全保存版 マンション給排水モデル事例集」
(一財)経済調査会より出典

日頃住民の皆さんの目に留まらないマンション内で設備の老朽化が起きていることは知っておくべきです。このような状態に至らないためにも定期的な洗浄、点検、必要な修繕を行うことの重要性がわかると思います。

4、漏水の衛生問題

黒カビが発生

排水管は生活排水や汚水をマンション外に衛生的に輸送することが求められますが、漏水があると衛生的でない水が生活圏に入り込むことになります。

大規模な漏水が発生した場合は住民も事故にすぐに気づき応急対応を含めた修繕を行いますが、徐々に進む漏水は生活環境に悪影響をゆっくりと与えることになり、気づかない間に住民の健康被害につながりかねません。

国土交通省も今回の認定対象を検討する時点で、漏水が与える住民への衛生面の問題を重要と考えています。

排水は雑菌等の繁殖を招き、衛生面に重大な影響を与える可能性があります。

特に湿気はカビの繁殖を招き、気管支炎や喘息の原因にもなります。壁紙や天井に黒い波紋状の模様が発生している箇所が専有部内に複数ある場合には躯体内部の漏水を疑う必要があります。

5、改修での対応方法

排水管の老朽化を防止する方法の定期的な清掃を初めてとしたメンテナンスが中心になります。これにより排水管の腐食を出来る限り遅らせることが出来ます。しかし、耐久性には限界がありいずれは排水管の交換は必要な修繕です。

修繕のタイミングは大規模修繕前の検査等が目安になります。検査の方法はいろいろありますが最近はファイバースコープ(内視鏡検査)を用いた管内部を調査する方法が主流です。

排水管の腐食が進んでいる場合は更新と言われる排水管の交換作業になります。

しかし、ここで思い出してほしいのはスラブ下排水管(スラブ貫通排水管)の修繕の難しさです。

スラブ上排水管であれば各専有部の床下にはパイプスペースがあり、床を一時的に外すことで配管を交換することが出来ますがスラブ下排水管の場合、階下の専有部の天井を外して工事が必要になります。

他の方法としては各専有部の上部に新しくパイプスペースを用意する方法がありますが、各専有部の天井が低くなるデメリットがあります。この場合でも排水管に規格の傾斜を満たした設置ができないなど幾つかのハードルがあります。

詳しいことを知りたい方はサイトで「マンション スラブ下配管 改修」と検索すれば各修繕工事会社が詳細や導入事例をたくさん掲載しています。管理会社と相談しながら計画を立てると良いと思います。

これらの方法はあくまでも修繕方法のひとつであり、築年数が比較的浅い45年前のマンションの回収方法です。

これに対してスラブ下配水管が用いられていた1970年代の築年数(50年を超える)を考慮した場合、建替えもひとつの選択肢と考えれます。

老朽化した躯体や今後の多額な修繕を考えた場合、大規模修繕よりも建替えにメリットがあると判断できる場合になります。

その際に建替え後の建物の容積率の緩和特例を受けるメリットは大きいと言うことです。

6、認定の要素

今回の改定では配水系の漏水を衛生面問題とした容積率の緩和特例を認めることになりましたが、認定要素は2つです。

排水管の配置が構造的にスラブ床下配管であることです。もうひとつが漏水がマンション全体で2か所以上発生していることになります。

一般的に組合に水漏れに関する相談件数は、築年数の経過とともに増加する傾向があります。

組合は漏水の発生、修繕履歴を記録保管し理事長の交代に左右されない継承を行い、適切な清掃、点検、改修、修繕を行うことが求められますが、排水管以外の老朽化等を含め、建替えを検討する場合には、建替え後のマンションの間取り等を優位に建設するために要除却認定制度を利用することも併せて検討すべきです。

給水管、ガス管は排水管系統と同じ場合が多いようですが今回の認定には含まれません。

7、認定の申請前に総会の建替え承認が必要

要除却認定制度は建替え議決が総会で承認された上で各自治体に申請します。

手順は自治体により多少異なりますが、フローに示したように進めます。

いずれにしても何かを始める前に自治体に相談することから始めます。

自治体から専門家が派遣され、住民へのヒアリングや修繕履歴、現地調査などが実施され評定機関等を紹介されます。

その結果を受け、組合は建替え事業を立ち上げることになります。

実際には合意形成のため、建替え検討会を先に立ち上げる組合もありますが、どちらでも構いません。もっとも時間を要するのは組合員の合意形成になります。特に築年数が50年を超えるマンションは住民の高齢化も進んでいます。

工事費等の資金面、建替え中の生活の確保など各組合ごとに事情が異なり、自分だけで決めることが出来ないケースも多く、子供たちを交えて相談することになるでしょう。

ただし、耐震や火災安全性とは異なり震災や火災が生命に関わる問題とは異なり、改修でも対応できる場合も多いのが事実です。国土交通省もその点を踏まえて、敷地売却事業の対象とはしていません。この点も十分に考慮して組合は合意形成を進める必要があります。

8、相続財産として考える(各章共通)

高齢になると子供たちに少しでも財産を残したいと考えます。高経年マンションの財産価値は土地です。例外的に立地条件や遺産的な建物のような付加価値が付くマンションもありますが、ほとんどは土地の価格が評価額になります。

FP(ファイナンシャルプランナー)資格を持っていますが、マンションの住民の方から相続について相談を受けることが良くありますが、子供たちが親のマンションを相続することに難色を示すケースがあります。

相続人自身がすでに自宅を所有しており、親のマンションが不動産的な価値が希薄で賃貸物件としてもあまり魅力がない場合です。費用をかけてリフォームを行い、賃貸物件として活用を考えても借手が付かないような物件では相続する側にもメリットがないと判断します。その上、相続税、更に毎年の固定資産税、都市計画税は負担になる場合も多く、他に現金や證券などの資産がないと相続放棄を選択するケースがあります。

皆さんが所有するマンションがこのようなケースに当てはまるかはわかりませんが、このようなケースでは不動産の所有権は相続管財人に引継がれ所有者が不明になり、後々、空家問題、組合員の人数不足など管理組合に迷惑をかけることになります。実際、このようなケースは増加傾向にあると言われています。

相続人であるお子さんたちが皆さんの(親)の財産をどのように考えているか確認したことはあるでしょうか。一度きちんと話合いの場を設け、その上で現在の住まいの今後を考えることも必要なのではないでしょうか。


今回の改正で決定されたマンション内の排水管の老朽化について説明しました。

耐震や火災時の安全性と異なり、生命に危険には直接に関係することではありませんが、快適な居住環境の中で生活する目的で定められた標準管理規約の観点から排水管の老朽化による漏水の問題点をご理解いただけますと幸いです。


目次(該当する項目をお読みください。)

 1章、要除却認定とは何か?

2章、危険性の高いマンション外壁について

3章、火災時の安全性について

4章、排水系等の漏水(水漏れ)について

5章、高齢者、障害者にとってのバリアフリーについて

6章、団地の敷地分割売却事業とは


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