今回の改正ではバリアフリーの機能不足も要除却認定の対象になり申請が認められると建替え時の容積率の緩和が受けられることになりました。
バリアフリーの機能不足とはどのような内容が該当するのかについてを中心に説明します。
バリアフリーと言うと段差がない、階段以外にスロープを設置する、手摺の設置義務などを思い出される方も多いと思いますが、今回の対象になった認定要素は築年数が古い、バリアフリーの概念が普及する以前に建てられたマンションが対象になります。
高層化する近年のマンションですが、土地の高騰、狭小敷地を多くの人が利用できるようにするためには仕方がないことです。
ほとんどのマンションでは、エレベーターが設置され住民の移動もエレベーターの利用が中心になっていることは皆さんも日々の生活で感じているのではないでしょうか。
しかし、エレベーターの設置義務は一定の高さ以上(30m以上)の災害時の非常用を除き規制項目ではありません。当たり前の設備の様ですが居住者の利便性を目的とした設備になります。
公共施設を始めとして交通機関、デパート、映画館、商業ビルなどどの施設もエレベーターやエスカレーターが当たり前にありますが、これは「高齢者、障害者の移動の円滑化の促進に関する法律」(2006年)が制定されてから義務化を含めて急速に普及しました。
エレベーターやエスカレーターは建築基準法では昇降機と呼ばれます。
実は、バリアフリーは、昇降機の設置や段差のない出入口等以外にも入口、廊下、手摺など建物の様々部分に規定があり、ほとんどの建物はそれに準じて建てられています。
そのため、現在の建築基準法に適合したマンションであれば対象になりません。
今回の改正で建替え時の容積率の特例の対象となったバリアフリー不足のマンションとはどのようなマンションが該当するかを説明します。
1、バリアフリー法とは
バリアフリー法はどなたも一度は聞いたことがあると思いますが、バリアフリー法は通称で正式名称は「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(平成18年6月21日施行)です。

この法律は高齢者や障害者が日常生活を送る上で移動の妨げになる段差等を無くし階段の代わりにエレベーターやエスカレーターを設置することを交通機関、道路、公園などの公共性が高い施設と一般の人が広く利用する建物を中心に設けられた法律です。
対象となる建物も3000㎡以上の床面積がある一定の用途を目的に建てられた建物になります。
建物に関するバリアフリーの規定は、車いす利用者を中心に出来る限り利用上の障害がない建物の構造や施設の充実化を目的に様々な項目について設定されています。
いろいろな建物に車椅子の利用が可能であることを示すマークを見かけたことがあると思います。
皆さんは車椅子の横幅等のサイズをご存じですか。思ったよりコンパクトな大きさに設計されていますが、一般の人たちが利用する出入口が車椅子利用者には通れない場合があります。(JIS規格)

現在の建築基準法では野外に通じる出入口の規格は80cm以上で、段差がないことと規定されています。
車椅子の横幅を考えると決して余裕のあるサイスではありませんが車椅子に配慮されていることが判ります。
また、公共性の高い建物は、車椅子が障害なく出入りできる入口をひとつ以上設けることが義務化されています。
これはひとつの例ですが、車椅子利用者のトイレも各階ごとに少なくともひとつの設置義務などが代表例です。
このように現在の建築基準法では車椅子等のバリアフリー対策は含まれています。主要な項目は次のようになります。





多くの方が利用する建物はいろいろな規制の中、建築が認められていることがわかります。
建物のバリアフリーについて理解して頂けたでしょうか。
では、マンションはこの規制にどのように関わるのでしょうか。
2、マンションのバリアフリー
マンションの躯体や共用部については先ほど説明した建物の規制対象にはなっていません。
ではどのような対象になっているのでしょうか。これを理解するためには特定建築物と特別特定建築物の違いを知る必要があります。
特定建築物 | 特別特定建築物 | |
2000㎡未満のマンション | 努力目標 | 対象外 |
2000㎡以上のマンション | 努力目標 | 対象外 |
特定建築物とは不特定多数が利用する建物であり、用途ごとに22種類が指定されています。そのひとつに共同住宅、寄宿舎又は下宿があり、マンションも共同住宅に含まれます。
特定建築物に指定された建物は、新築、改築、増築、用途変更を伴う修繕、模様替えを行う際にバリアフリー法に適合するように努力することが義務とされています。
これに対して特別特定建築物は、不特定多数の利用者の他に高齢者、障害者が利用する建物です。用途ごとの22種類に違いはありませんが、高齢者、障害者が利用することが多い建物(ただし、2000㎡以上)はバリアフリー法に適合義務があります。
しかし、構造的な改築が必要になるため、バリアフリー法施行以前に建てられた既存建物は努力目標としています。
特別特定建築物にもマンションは対象になっていません。
結果としてマンションはバリアフリー法に適合する努力目標はありますが、適合義務はありません。
3、規制の強化を条例で変更ができる
しかし、この規制にはもうひとつの側面があります。各自治体の条例により、特定建築物を特別特定建築物に追加することが出来ます。さらに2000㎡未満の規制も引き下げを行うことができます。
自治体の条例次第でマンションもバリアフリー法の適合義務を課すことができるとしています。
東京都が制定している「建築物バリアフリー条例」を例にマンションに関する規制を説明します。
東京都は右表中の青文字で示した建築物について条例でバリアフリー化を義務化しています。
マンションも共同住宅に属するため2000㎡以上のマンションは規制の対象となっていることがわかります。
また、マンションと店舗がある複合型マンションも対象となることがわかります。
ちなみに床面積2000㎡以上とは一般的2DKで60㎡と考えると33戸ぐらいになり、7階建てとすると各階5戸と計算できます。
最近の分譲マンションはほとんど対象になるイメージが沸くと思います。
ほとんどの自治体は同様の条例を制定しています。ご自身の自治体のホームページなどを調べて確認してください。
このようにマンションのほとんどはバリアフリー法の適合義務があることがわかります。
4、今回の改正の背景
今回の改正の背景は経年マンション(築年数が50年を超えるマンション)の居住者の年齢にあります。購入時30~40代としても推定される年齢は80歳以上になる計算です。平均寿命を考えても足腰の衰えによる車椅子利用者等の増加が見込まれます。
建設時、車椅子は普及していません。当然ですがバリアフリー基準としてもありませんでした。そのため、建設そのものは違法でも何でもなくご普通だったと言えるでしょう。

今でこそ電車やバスで車椅子利用者を見かけることは当たり前になり、そのために車椅子利用者が利用する施設建物についてはバリアフリー法が必要となりました。しかし、高齢者や障害者が日常生活の移動手段として用いる様になった現在では自宅への出入りにも適用されるべきであり、マンションも例外ではありません。
車椅子の規格は手動タイプで奥行110㎝あり、横幅も61㎝です。自走はこれよりも大きくなります。
マンション出入口開口幅が60㎝未満の場合、高齢者や障害者は一度、車椅子を降りてマンション内に入る必要があります。さらにマンション内の廊下幅が60㎝に満たない場合、廊下を通行できないことになります。
また、マンションの出入口が階段で外部とつながっている場合、車椅子の利用はできません。
これ以外にも築年年数によってはエレベーターの設置が無い、あるいは車椅子を想定した設計がされていないマンションもあります。
設置されていてもエレベーターの籠の大きさ、開閉部の幅が狭く、車椅子の利用が出来ない。行先を決めるボタンの位置なども対応できていないエレベーターもあります。エレベーター前のロビー部分が狭く、車椅子が向きを変えることが難しいなどの問題があるケースもあります。
そこで国はバリアフリー法の中でも車椅子利用者が多いにも関わらず、対応が出来ていない高経年マンションに対して建替え時の優遇策を準備したことが今回の改正の背景になります。
5、要除却認定の要件

右図に示しましたが、認定の要件はいずれも車椅子生活者を前提に考えた時にマンション生活では必要なことです。
共用廊下の幅、エレベーターの出入口を始め、どの項目も修繕工事では設計上大きさを変更することが著しくむずかしく、構造的な変更が必要になります。
費用も多大になり高経年マンションであれば、資産的価値を考えた時に建替えも選択肢のひとつになります。
また、基準を満たさない修繕はバリアフリー法を満たさないため建築確認が得られないと考えらます。
特に3階以上のマンションでエレベーターの設置が無い場合、足腰に疾病や傷みを伴う持病がある住民にとっては生活がなりたたなくなるケースもあり、ひきこもりや運動不足による体調不良につながることが報告されています。
車椅子利用者だけでなく、今は気にならなくても近い将来起こりえる事態を想像した改善方法を考える必要があります。
尚、要除却認定を受け、建替えを実施する時には、敷地内通路が基準を満たす必要であることには注意してください。マンション館内だけではなく、敷地外までの通路の確保が必要になります。
6、認定の申請前に総会の建替え承認が必要
要除却認定制度は建替え議決が総会で承認された上で各自治体に申請します。
手順は自治体により多少異なりますが、フローに示したように進めます。
いずれにしても何かを始める前に自治体に相談することから始めます。
自治体から専門家が派遣され、住民へのヒアリングや修繕履歴、現地調査などが実施され評定機関等を紹介されます。
その結果を受け、組合は建替え事業を立ち上げることになります。
実際には合意形成のため、建替え検討会を先に立ち上げる組合もありますが、どちらでも構いません。もっとも時間を要するのは組合員の合意形成になります。特に築年数が50年を超えるマンションは住民の高齢化も進んでいます。
工事費等の資金面、建替え中の生活の確保など各組合ごとに事情が異なり、自分だけで決めることが出来ないケースも多く、子供たちを交えて相談することになるでしょう。
ただし、耐震や火災安全性とは異なり震災や火災が生命に関わる問題とは異なり、改修でも対応できる場合も多いのが事実です。国土交通省もその点を踏まえて、敷地売却事業の対象とはしていません。この点も十分に考慮して組合は合意形成を進める必要があります。
7、相続財産として考える(各章共通)
高齢になると子供たちに少しでも財産を残したいと考えます。高経年マンションの財産価値は土地です。例外的に立地条件や遺産的な建物のような付加価値が付くマンションもありますが、ほとんどは土地の価格が評価額になります。
FP(ファイナンシャルプランナー)資格を持っていますが、マンションの住民の方から相続について相談を受けることが良くありますが、子供たちが親のマンションを相続することに難色を示すケースがあります。
相続人自身がすでに自宅を所有しており、親のマンションが不動産的な価値が希薄で賃貸物件としてもあまり魅力がない場合です。費用をかけてリフォームを行い、賃貸物件として活用を考えても借手が付かないような物件では相続する側にもメリットがないと判断します。その上、相続税、更に毎年の固定資産税、都市計画税は負担になる場合も多く、他に現金や證券などの資産がないと相続放棄を選択するケースがあります。
皆さんが所有するマンションがこのようなケースに当てはまるかはわかりませんが、このようなケースでは不動産の所有権は相続管財人に引継がれ所有者が不明になり、後々、空家問題、組合員の人数不足など管理組合に迷惑をかけることになります。実際、このようなケースは増加傾向にあると言われています。
相続人であるお子さんたちが皆さんの(親)の財産をどのように考えているか確認したことはあるでしょうか。一度きちんと話合いの場を設け、その上で現在の住まいの今後を考えることも必要なのではないでしょうか。
今回の改正で決定されたマンション内のバリアフリー機能不足について説明しました。
日々の生活で移動に不自由を感じることは精神的なプレッシャーとなります。特に日々の買い物等は避けられない生活の一部です。
重い荷物を持って長い階段を上るだけでも買い物へ行く気持ちが萎えてしまいます。
これは特別なことではなく高齢になれば誰でもが迎えることです。また、車椅子利用者にとっては自分一人で外出できないと思うだけで気持ちが沈みがちになります。
このような気持ちを持つ人たちがマンション内に一定の数が存在する場合は、建替えを検討する価値はあります。
当然、建替えはひとりで決定することはできない経済的に大きな負担を伴い、家族の支援や相続とも大きく関わることです。
簡単に結論が出ることではありませんが、国や自治体は支援する体制があることは覚えておいていただきたいと思います。
目次(該当する項目をお読みください。)
➡ 特集記事に戻る