マンション管理の会計の基本はすこしだけ理解頂けたと思います。
この章では1年間の流れに合わせて会計業務がどのように進められるかを確認しながら考えましょう。
1、管理組合の管理会計の流れ
管理会社と管理委託契約を締結するマンション管理組合の管理会計業務の流れは年間で大きく4つに分けて考えられ左図のようになります。
各組合で年度開始が異なります。図はみなさん自身の組合の年度初から1年間の理事会の運営で会計に関する業務が発生する時期ごとに分けています。
この流れの中で重要なポイントは理事会は来期予算案を作成する業務を行い、最終的な承認は、総会で組合員の承認を受ける必要があり、承認後、収支予算計画に従った運営が認められることです。
同様に年度末には、理事会は収支決算報告書案を作成します。最終的な了承を与えるのは総会の議決であり、必ず承認を受ける必要があります。
このように理事会はあくまでも案の作成を行うに過ぎず、組合員の普通議決の承認が必要になることは覚えてください。
では、①~④のそれぞれの詳細を確認しましょう。

① 新年度の開始前に理事会が次期予算書案を編成
新しい理事長や役員の選任は年度末の1~2カ月前に実施されるのが一般的です。その際に引継ぎ業務の説明があり、来期の理事長を中心に次年度の運営方針や解決したい問題を決め、それに沿った計画案が作成されます。また、年度を超える案件がある場合や何か問題点を抱えている組合ではその解決のために必要になる予算を計上することになります。
例えば、解決するために専門委員会を立ち上げ、外部の専門家と契約する必要があればその費用を計上します。
マンション管理組合が安定的に運営されている場合、管理会社が前年度の実績から作成した案を踏襲することが一般的なようです。
② 予算案を総会に議案提案、承認を受け今期予算
管理会社と理事長を中心に作成された次期予算計画案は、理事会の同意を得た上で正式な予算案になります。
この案を総会に議案として提出、組合員の普通議決で承認されます。
総会で異論が出ることはほとんどありません。是非、組合員の皆さんには質問をして欲しいのですがほとんどの参加者は問題意識もなく予算案を受入れます。
③ 期中は管理会社が管理事務を履行、1~2カ月毎に理事会に報告書を提出
このようにして決定された収支計画の実務は管理会社が行います。検査やメンテナンス費、消耗品の購入は発生するタイミングで理事長に支払指示書(出金指示書)により承諾を受けた上で支払われ、帳簿に記録されます。
管理会社は理事会開催毎に管理費等の徴収状況や支払い状況は、理事会で管理会社の月次報告として収支報告書により報告します。役員(理事長、理事等、監事)は不審な点や疑問があれば理事会内で管理会社に確認します。
組合によって月次報告書の内容は異なり、収支報告書を始めとする財務諸表を月単位で報告するケースもありますが、文章のみで結果を報告することを了承しているケースもあります。また組合によっては理事会の議事録、マンション管理組合誌を別途作成してを各戸に配布するあるようですが特に規定があるわけではありません。何も報告しない組合もあります。
マンション管理士としてのアドバイスとしては、管理会社から提出される月次報告書には財務諸表の添付は義務付け、管理組合として保管すべきだと思います。
④ 年度末、理事会が収支報告書案を作成
1年間の結果報告を行うための資料が収支報告書案になります。管理会社が作成するのが一般的です。
総会資料にはこの他、財務諸表を始め、修繕積立の状況、年度内に実施された検査やメンテナンスの実績や植栽、定期清掃などの報告も含まれ、それぞれで発生した費用が収支報告書案に反映、記載されています。
⑤ 総会で収支報告を承認、1年間の会計業務が終了
定期総会で理事長が組合員に説明を行い、普通議決の承認を得て可決されます。
会計報告を会計担当が報告を行う場合は、事前に理事会で理事の半数以上の同意があれば理事長に代わって報告することもできますが、一般的には理事長が報告します。
これを繰返すことで管理会計は行われます。これが基本的な業務の流れです。ほとんどの業務が管理会社主導で行われ、理事会は管理会社への指示だけが業務になります。
マンション管理組合の1年間の業務に流れは理解できたと思います。
2、計画外の業務発生時の処理方法
予算準拠主義のマンション管理では年度開始時に作成される予算書には来期に行う予定をすべて組込む必要があります。期中に収支計画に変更がある場合は、理事会だけで決定することはできず、必ず臨時総会を開催し組合員の過半数以上の合意が必要です。
そのため、多くの組合は予算変更を伴う場合、来期に繰越案件として先伸ばす対応を取ります。ただし、共用部の設備や施設の運用に支障をきたすような事態になり、対応に多額の費用が必要になる場合には臨時総会を開催する必要があります。また、災害時などの特別な状況には理事会だけでの支出が認められるケースもあります。
もし、特別な事情がなく理事会だけで勝手な支出が確認された場合や納得できない支出がある場合は、組合員には幾つかの対応方法があります。
3、支出に疑問がある場合の組合員の対応方法
毎月の理事会の内容を何らかの方法で各戸に配布している組合の組合員は発行毎に内容を確認することができます。それ以外の組合員も理事会議事録を閲覧する権利があります。理事長に申出れば拒否することはできません。(理由なく拒否した場合は10万円以下の過料に問われます。)
また、収支報告書に疑問や不審な点があれば、理事長に質問をすることもできます。ただし、理事長は個別に説明する義務まではなく(説明しても構いません)、次回のマンション組合誌などでその点について回答することで対応します。
これ以外にも組合員には臨時総会を開催請求する権利もありますが、このためには組合員数の1/5以上の集団(代表者を決め)で目的(議題)を決めて理事長に開催を求める必要があります。もし、理事長が臨沂総会の開催をしない場合は、代表者が臨時総会を開催することもできます。
また、理事長の適性に問題があると思えば、管轄の裁判所に理事長の解任請求をすることもできます。この場合は個人で請求が出来ます。
このように理事長や理事会(理事等)に何か問題があると判れば組合員はそれを解明する権利を有していることは覚えておきましょう。
4、会計担当の役割
区分所有法、標準管理規約では理事会は理事長、副理事長、会計担当を決定する義務があるとされています。そのため、新しく理事になった方は役職が付くことで不安をお持ちになる方が多いですよね。事実、会計担当については多くの質問があります。

本来の会計担当が毎月行う業務はかなりの業務量になります。(参考までの次に発生する業務を示しました。)
「おい、給料くれよ!!」と思わず言いたくなる仕事量です。
しかし、このルールは管理会社と管理委託契約を締結することを前提にしていません。そのため、理事長ひとりに業務が集中することを避けるために、日々の出納管理や記録を担当する役員を専任すべきとしていますが、基幹業務を含む管理委託契約を締結している場合、会計業務は管理会社が代行します。
そのため、会計担当は名称だけで実務が発生することはほとんどないと言えます。
安心しましたか。

余談ですが役職で大変な役職は防災担当ですかね。防災担当になると甲種防火講習を受けることが必要になるケースがあります。消防法で一定人数、床面積以上のマンション(共同住宅)では防火管理上必要な業務を行わせるよう義務づけています。必要な業務は8種ほどあり、特に避難計画の作成、避難経路の確保などの義務が発生します。
しかし、これらの業務も管理会社が代行しますが、責任者として甲種防火講習だけは受ける必要があります。特殊な事情がある場合に限り、第三者に代行させることも認められますが、ほとんどのマンションでは理事の一名がこの責任者になる必要があります。
この講習がなかなか大変で2日間、消防署や関連機関でみっちり勉強をします。費用も掛かりますが交通費、日当を含めて管理組合が負担します。会社を休む必要もあり結構大変です。
1年間のマンション管理組合の運営の流れを説明しましたが、ご理解頂けたでしょうか。
理事会の役割、特に理事会は予算、決算では案の作成に限定され組合員の承認があって初めて認められることは重要な点です。
そこには、予算計画や収支決算報告を各組合員がチェックする機会があることも覚えてください。
また、役員になった方は、管理会社と管理委託契約を行っている場合は面倒な業務のほとんどは管理会社が担当してくれます。
理事長、理事等の業務は確認、承認に限定されることを理解して頂けれ幸いです。ただし、理事長は日々、承認作業が発生する可能性があります。
次章、3章ではマンション管理組合の財務状況を確認するポイントについてお話しします。
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