マンション管理の会計業務の1年間の流れと理事会の役目については理解頂けたと思います。

この章では皆さんが実際に報告を受ける時に手渡しされる資料をどのように評価するかをポイントについてお話しします。

1、収支報告書はここをチェック!

マンション管理の基本的考え方と方法は理解できましたか。

いよいよマンション管理組合の収支報告書のどの箇所を確認すれば健全な運営がなされているかを確認する方法についての説明をします。

組合員の皆さんは今までの内容を知らなくても何をチェックすれば安全かを確認できれば良いわけですよね。

代表的な収支報告書の例です。(管理会社によって書式は異なりますが気にする必要はありません。)

収支報告書(例)

皆さんが収支報告書をチェックする時は次の2つを確認します。

1、費消率に大きなずれがないこと

2、当期余剰金がプラスであること

費消率はあまり聞きなれない言葉ですが、達成率のことです。(1章で説明しましたね)

予算に対して実際はどの程度の実績があったのかを判断する目安となります。

この値が大きくかけ離れている時は、予算案の精度が悪かった、あるいは、何か運営に問題や支障が生じている可能性があります。

月単位で発行される収支報告書は月単位の費消率で表示する場合と年間に対する費消率を表示する場合があります。どちらで表示されているかは理事会に問合わせるとすぐにわかります。

当期余剰金は、キャッシュフローの現状を確認します。黒字が普通です。当期余剰金がマイナスは赤字に陥っていることを示します。その場合、運営の見直しや管理費の増額などが求められる事態になります。

期中の収支報告書でも余剰金がプラス表示であれば、前月以前の繰越を含めてプラスであり、管理会計に大きな問題が発生していないと推測できます。

2、賃借対照表の見方

次は賃借対照表です。代表的な賃借対照表の例です。(管理会社によって書式は異なりますが気にする必要はありません。)

見慣れない表になると思います。各科目の詳細を説明します。

表の左側に緑の点線で示した資産(収入)の部の説明になります。

① 現金・貯金

内訳を確認すると管理組合に現金で65,900円が保存されています。普通貯金が340,000円、××銀行に残高としてあることがわかります。他に〇〇銀行に1,250,000万円を定期預金してます。現金の総額は1,650,900円であることがわかります。

② 預け金

預け金とは相手に預けている金額になります。この表から管理会社に4月25日支払い予定の金額を管理費として683,000円を預けていることがわかります。

③ 未収金

未収金は滞納金です。管理費と駐車場利用料金が未払いになっています。支払う義務は債務者にあります。これは資産となります。(早く払ってほしいものです。)

④ 前払金

前払金は先払いした金額です。管理委託費を前払いしています。損害保険料を一括払いをしている場合、当月当月保険料を記帳します。翌月分以降は前払金として処理します。また、敷地外駐車場賃料(マンション内の駐車場が少なく外部に組合として駐車場を確保している)として50,000円を支払っていることがわかります。

①~④の資産(収入)の部に関する総額が3,906,500円であることがわかります。

表の右側に青の点線で示した負債(支出)の部の説明になります。

⑤ 未払金

物品などを購入した時に翌月月末払い等がある場合が相当します。

アマゾンで什器(備品類のこと)を購入、支払が来月以降である場合、未払金として記帳します。これは負債になります。

⑥ 前受金

先払いを受けるとこの科目になります。

管理費を年度開始時に半年分支払う方もいます。このような場合預かり金となり、実際には資産の現金に含まれます。ですが他の用途に使用することはできません。そのため会計上は負債として扱います。最近は、銀行自動引落が一般的ですから前受金はあまり見かけません。

表の右側にオレンジの点線で示した正味財産の部の説明になります。

⑦ 正味財産

正味財産は前期までの繰越金に今期に発生している繰越金の総額になります。

そのため、前期までの繰越金と現在の収支報告書の当期余剰金の合計と一致します。

3、資金繰りが厳しい組合の賃借対照表の特徴

借入金はないが管理費に余剰金がない組合の賃借対照表を見てみましょう。

3-1、未収金が多い組合

滞納者が多い組合では未収金が多くなります。その分、現金は少なくなります。

一般的には10%を超えるといろいろな影響が出始めまると言われています。しかし、実際には前期までの繰越金や前月までの余剰金があるため、合計金額だけでは見えにく部分です。

理事会は月単位で滞納率と現在の状況を組合員に知らせることが重要になります。

特に滞納は、不注意による滞納(翌月に解消される滞納)と連続する滞納があり、どちらも問題ですが特に滞納が連続した場合には早めに理事会として対応する必要があります。

また、滞納を繰返す組合員は要チェックとして理事会として情報を捉ええておくことも必要でしょう。

組合員は毎月公開される賃借対照表で未収金が占める割合はチェックすべきです。

3-2、借入金がある組合

マンション管理組合が借りたお金は負債に掲載されます。

借入れた直後の賃借対照表では借入金は資産の現金に加算され、同額が借入金として負債に記載されます。

借入金を支払いに使うと現金(資産)は減りますが、借入金は返済をしていません。結果として正味財産がマイナスになります。

毎月の返済計画に従い、借入金額は減少します。正味財産も徐々にプラスになります。(マイナス額が少なくなる)

借入金には当然、利息が発生しますが、利息の支払いは収支報告書に記載されます。賃借対照表には借入金の現在の借入残金が表示されます。

このように収支報告書では借入金はわかりませんが、賃借対照表では組合の資産状況を明確に確認することが出来ます。

3-3、未払金が多額な場合は注意が必要

未払金は負債です。本来支払うべき金額が契約上の理由等によって翌月以降に支払う契約がされている場合に発生します。代表的な例は水道料金ですよね。また、修繕工事が当月に実施され、請求が翌月行われる場合は商慣例としてよくあることです。これ自体が特に問題になることはありません。

気にすべき点はマンション管理組合が何らかの事情で支払いを実施していない時にも発生します。(債務不履行になっている場合です。)債務不履行による未払金は大変なことです。場合によっては利息や賠償請求に可能性もあります。

未払金の理由は理事会は当然に把握していますが、組合員も賃借対照表を見る時は確認しておくと安心でしょう。特に未払金が現金・預貯金を超えるている場合は管理組合が運営難に陥っている可能性があります。

3-4、現金と前受金には注意が必要

前受金は事前に受取っているが使い道が決まっている預かり金です。現在の管理費等は引落制度が主流のため、あまり見られませんが、現金が不足する組合ではしばしば、前受金を取り崩して支払いに当る組合がありました。

所謂、自転車操業のような運営をしている組合です。

最近はほとんどありませんが、前受金がある場合は、現金に余裕があることを確認しておくことも必要になります。

4、賃借対照表の4点をチェック

1、正味財産がプラスであることを確認する。

2、未収金額の割合を把握する

3、現金・預貯金額が負債額より多いことを確認する。

4、借入金がないことを確認する。

すべてが確認できれば、健全化どうかはわかりませんが、管理会計は比較的安定しています。

正味財産は、資産総額ー負債総額になります。これがマイナスになっている場合は、負債が資産を超えています。(債務超過)

また、未収金額が多い場合にも十分な注意が必要です。滞納者が多い場合、金融機関からの借入が認められないケースもあります。また、今後開始が予想される管理計画認定制度(2022年)の登録要件を満たさないことになる可能性があります。

現金・貯金額より負債が大きい場合、キャッシュフロー(すぐに現金として支払うことが可能なお金)に支障をきたす可能性があります。

借入金がある場合は、返済計画が明確にされていることが重要になります。

ひとつでも該当した管理組合は、専門家(税理士やマンション管理士)に相談することをお勧めします。このような状態を放置していた管理会社に相談するのは止めた方が良いと思います。


如何だったでしょうか。問い合わせが多い会計について出来るだけ分かり易く説明しました。会計の知識が無くてもチェックするポイントだけを知っていれば、自身の管理組合の財務状況は把握できます。

何よりも大切なことは興味を持って、精査することです。その気持ちを持つだけで大きな進歩です。

財政が悪化してから知らさせるよりも事前に兆候を感じ取れれば早期の対策を実施できます。

是非、理事会から配布される財務諸表をチェックするようにしてください。


目次

1章 管理会計についての基本知識

2章 管理会計の1年間の流れ

3章 マンション管理会計のチェックポイント

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