WEB会議の次は電磁的方法に関する改正です。

前章でも記載しましたがWEB会議システムの利用と電磁的方法を混同されている方がいます。

まずは、そこを整理しましょう。

1、電磁的方法とは何か?

磁石?と思われる方は少ないと思いますが、皆さんの身の回りを探してみると電磁的方法はたくさんあります。

テレビに接続されている記録媒体と言えばハードディスクですが、それ以外にもCD、メモリーカード、USBメモリーなど特別な存在ではありません。皆さんも一度は触れたことがあるのではありませんか?

これらの媒体を用いて情報を伝達する行為を電磁的方法と言います。

これ以外にも携帯やPCからメールを送ることも電磁的方法です。

従来の方法は紙媒体を用いて直接、あるいは郵便等の方法により情報を交換する方法です。

標準管理規約では次のような方法を電磁的利用と定義しています。

標準管理規約2条

十 電磁的方法 電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって次に定めるものをいう。

イ 送信者の使用に係る電子計算機と受信者の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織を使用する方法であって、当該電気通信回線を通じて情報が送信され、受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該情報が記録されるもの

ロ 磁気ディスクその他これに準ずる方法により一定の情報を確実に記録しておくことができる物をもって調製するファイルに情報を記録したもの(以下「電磁的記録」という。)を交付する方法

まず、電子情報処理組織を使用する方法とはパソコンと考えてください。

管理組合がパソコンを所有していない場合、例えCDやUSBメモリーでデータを保管していたとしても電磁的利用には当たらないと考えるべきです。その理由はメモリー内部に保存されているデータを見ることができない以上、実務上に意味がありません。

そのため、パソコンを有していない組合では電磁的利用の該当項目はありません。

これに対してWEB会議システムは第三者のシステムを借り、各個人が所有するパソコン等を利用して会議を開催することです。そのためWEB会議は電磁的利用にはならないと考えられています。

次にイについてですが、ネットでつながる環境にあり、メール等の添付ファイル機能を用いて情報を伝達する方法のことが示されています。

また、これ以外に管理組合が管理運営するホームページがあり、組合員だけがアクセスできる環境を有したシステム上で届出等を入力することで情報を伝達する方法もこの中に含まれます。

ロについては、従来紙媒体で行われていた届出などを管理組合がCDやUSBメモリー等内に雛形を準備し、各組合員に交付し必要項目を組合員が入力後、媒体を渡す方法になります。

想定される届出は、区分所有者変更届、賃貸借者届出、駐輪場契約書、駐車場契約書、ペット飼育届出など各マンションで異なると思いますが、従来紙媒体で行っていた作業を電磁的方法で行うことになります。(改正標準管理規約で認められた届出を含む)

これ以外に理事会、総会の議事録、竣工図、修繕記録、大規模修繕計画、修繕積立金計画など様々な書類を電子書籍化することができます。

これによるメリットは毎年増えるづける書類を少なくすることで物理的な保管面積を減少できること。管理人が不在な時にでも届出を提出できることがありますが、管理組合ホームページ等を作成、管理運営すればいつでも組合員が収支報告書、総会議事録、理事会議事録を閲覧することも可能になります。


電磁的利用時の署名について

記名押印が廃止され署名に変更されましたが、議事録や各種届出の署名はどのように運用されるべきなのでしょうか。

理事会、総会の署名の署名については標準管理規約に「電子署名(電子署名及び認証業務に関する法律第2条第1項の「電子署名」をいう。」と規定されています。

法務省のホームページでは電子署名は政府が認定した機関が発行する電子署名のことであり、認印として利用できる電子印鑑等ではないと考えれます。標準規約に示された電子署名を利用するためには、認定企業に申込、月単位の費用(月額1万円程度)が必要です。

このように考えると議事録を電磁的に保存することは現時点ではランニングコスト的にメリットはないのではと考えています。


2、スキャナーによる保存も出来る

紙媒体を利用している管理組合でも電磁的利用による書類を保管する方法があります。

紙で保存をすると長年の蓄積により膨大な紙の量になります。各書面の保存期間は概ね5年ですが、破棄せずに過去何十年間の書類を保存している組合もあり保管場所を確保することに苦労されているとも聞きます。

大規模修繕や修繕記録は保管期間5年では短く、出来れば竣工時からの履歴としてすべて保管しておきたいところです。後になって「前回はどうやったのか?」などを知るために重要な記録であり、管理組合の財産とも言えます。

このような場合、保管期間の5年を過ぎた書類をスキャナーにより読取りデジタルデータとして取込みます。A4サイズの用紙でデジタルデータとして保存した場合500KB~1MB(PDFファイル、カラー)程度です。

最近のプリンターはスキャナー機能が標準機能として装備されているため、特に設備投資をしなくてもできると思います。

管理人さんの空き時間などに期限を決めずに少しずつ過去の書類の整理をお願いしても良いでしょう。また、デジタル化のサービスを行っている会社もあります。有料にはなりますが管理室の整理と考えて依頼することもできるのはないでしょうか。


マンションみらいネットを利用する

マンション管理センターが行っているサービスのひとつで管理規約の保管の他に理事会、総会の議事録、修繕記録、長期修繕計画、修繕積立金計画などの書類をマンション管理センターのシステムに保存する方法です。

マンションみらいネットに登録するとIDとパスワードが発行され、組合員にこの情報を共有すればいつでも組合員は自宅のPCから情報を確認することが出来ます。

また、マンションみらいネットの機能には複数の掲示板機能があり、管理組合からのお知らせや理事会の役員同士の意見交換などに利用することが出来ます。

管理組合が独自にホームページを作成し、維持管理する場合、初期の作成費用の他にサーバーの維持費、ドメイン費用など運営コストも年単位で必要になります。

月1,000円のサーバーを借りても年間で12,000円です。

マンションみらいネットの利用料は年間で20,000円になりますが、管理組合の運営、修繕積立費の状況を評価するサービスや弁護士の無料相談、融資の優遇などもあり多才なメリットがあります。

マンション管理センターのホームページにはマンションみらいネットを体験できるコーナーもあります。一度アクセスして体験してみるのも良いと思います。マンション管理センターのホームページ


3、改正された電磁的利用が可能な届出

今回改正された標準管理規約では次の届出も電磁的利用で行うことが出来ると明記されました。

番号届出名備考
1専有部の修繕工事の申請書標準管理規約17条1項
2暴力団員への貸与の禁止に関する誓約書標準管理規約19条の2第2項
3敷地、共用部の保存行為の承認書標準管理規約21条3項
4ガラス等の改良工事の承認書 標準管理規約22条2項
5組合員資格の得喪の届出標準管理規約31条
6総会時の代理権届標準管理規約46条8項
改正により電磁的利用が認められた届出や承認書

従来は標準管理規約に各届出の雛形が示され、多く組合は書面による提出により行われていたと思いますが、今後は電磁気利用で行うことも可能になります。

署名の問題はありますが、認印で済むような届出、承認であれば電子印鑑でも対応が可能と考えれば、無料で作成できるソフトもあるため採用する組合も増えるのはないかと思います。

4、組合ホームページのメリット・デメリット

標準管理規約の改定によりITを推し進める国土交通省の姿勢も明らかになりました。背景にはコロナの流行がありますが、国のデジタル化推進政策も影響しているように思います。

今後、この流れの中で積極的にマンション管理運営にITを導入する組合も増加することになるのではないでしょうか。

その一つとしてマンション管理組合がホームページを自費で作成し運営することを検討する組合は少しずつ相談件数が増えています。

これ自体、とても良い傾向だと思いますが、導入は慎重に検討すべきです。

以前、町会ホームページを導入した町会を支援したことがあります。(かなり先進的な取組だったと記憶しています。)町会もマンションと同じ地域に住む人たちから町会費を集め運営されている組織です。マンション管理組合とは異なり入会は任意です。皆さんも地元の町会に入会されている方もいると思います。いずれにしても大切な町会費を使って製作したホームページです。

運営開始直後は大々的に町内に宣伝を行い、従来の町会回覧板をすべてサイト内で行うことを予定していました。当初は役員の皆さんも積極的に参加していましたが、1年も過ぎると更新がなくなり、数年で運営を中止することになり従来の回覧板に戻したことがあります。

原因は幾つかありますが、インターネット環境が今ほど普及していなかったことが一番の問題でした。ガラケイ時代の話ですからスマートフォンは無い頃です。閲覧できる環境を所有している方の絶対数が少なかったと言う点です。

また、町会の役員の年齢層が高く、ホームページの入力にも時間がかかり、業者や青年会の助けが必要になり、結局のところ維持管理が他人任せになってしまったことも大きな失敗の原因です。

時代も進みインターネット環境の普及率もかなり進んでいますが、失敗しないためには、サイトを導入する目的と運営の当事者を明確にすることが必要です。

ホームページの作成は第三者に依頼すれば綺麗で見栄えの良いサイトは完成できますが、それを維持管理することはかなりの能力が必要になります。先に示した事例では町会の役員の皆さんにも仕事があり時間的制限があり、現役を引退した役員の皆さんにはインターネットやサイト運営の知識がありませんでした。どれだけ丁寧な取説があってもサイトの更新作業にはそれなりの知識と学習は必要です。

それでは、マンション管理組合に必要なホームページとはどのようなものでしょうか。

ホームページには不特定多数の第三者向けと特定の人向けに情報を公開する目的で運営されるホームページ、営利目的、非営利目的など様々な分類がありますが、マンション管理組合のホームページは、区分所有者、および居住者向けにマンション管理に関する情報を公開することが一般的であり、特定の組合員と居住者に向けた行事、定期検査等の告知や注意喚起が目的になります。

更に、組合員に限定して集会の告知、集会の議事録、集会の議決権の行使、その他管理組合に届け出る必要がある書面の申請などを行うことが出来る機能を付加することも可能になります。

下記表に基本的なマンション管理組合のホームページに必要な機能を挙げました。

番号機能要件備考1備考2
1会員サイトであることログインがあることIDは組合員のメールアドレス
パスワードは各自設定
2各種届出が出来ること各届出毎に入力画面があること電磁的利用が認められた届出等
3議事録が閲覧できること過去履歴をいつでも閲覧できること理事会・総会
4掲示板があること管理組合、管理会社からの告知が出来ること理事会開催告知
総会開催告知
点検等のお知らせ
管理会社からのお知らせ
5住民掲示板があること住民からの要望・苦情の書込みが可能書込み者がわかること
6集会への出欠理事会の出欠
総会の出欠
7投票システム議案毎に賛否の投票ができること
8議決権行使システム議案毎に賛否の投票ができること賛成・反対・棄権
9管理費各月末時の残高が確認できること出納システムは必要ない
10修繕積立金各月末時の残高が確認できること出納システムは必要ない
管理組合ホームページの機能要件

すべての機能が必要なわけではありませんが、管理組合の運営を出来るだけIT化を進めるためには必要な機能ですが、このような機能を持つホームページを構築することはそれなりの費用が必要になります。

また、初期投資以外にも毎年、サーバーレンタル料、ドメイン(URLで住所の獲得)、プロバイダー(管理組合にネット環境を維持するため)が必要になります。

維持管理は管理課者に委託する場合はその費用も請求されることになります。

確かにIT化を進めることで便利にはなりますが、それなりにの費用も必要になります。

性急にIT化を進める前に現在の管理組合の運営方法をもう一度見直した上でそれでも導入する意味があると判断できれば進めるべきでしょうが、安易に管理会社の提案だからなどで導入を進めると大切な管理費を無駄に消費することになりかねません。

それだけの投資効果があると判断できれば進めるべきです。

まずはマンションみらいネットなどの実績のあるシステムを安価に利用することでメリット、デメリットを実感した上で独自のシステム等の導入を検討しても遅くはないと思います。


この章では電磁的利用について改正内容を中心に説明を行いました。

IT化は時代の流れになりますが、マンション管理組合程度の規模ですべての管理業務をIT化をするためには、設備投資、維持管理費を含めたメリット、デメリットを十分検討した上で進める必要があります。

IT化は便利で、効率性も良く事務処理の効果は期待できますが、元々事務処理は管理会社が行うべきものであり、管理会社の業務の効率化のために導入するべきものではないことを十分に考慮する必要があります。

特に挿入に際して慣れない間は、紙媒体との二重な手間暇も必要になります。また、慣れない方(使えない方)をサポートする体制も必要であることを忘れてはいけません。その上、その方の権利が導入により少しでも損なわれることは絶対に避けなければいけません。

メリットとデメリットを理解して上で導入することが必要であると言うことを忘れないでください。

その上で組合員の皆さんがネット環境(スマートフォンを含めて)を有し、ある程度の操作を含めた慣れることも必要になります。

次章ではIT化以外の改正管理規約について説明をします。


目次

 1章 WEB会議システムを理解する

2章 改定標準管理規約(WEB会議編)

3章 改定標準管理規約(電磁的方法)

4章 改定標準管理規約(理事・役員解任等)

5章 改定標準管理規約(共用部の利用)

6章 改定標準管理規約(維持保全)


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