ご質問で多かったマンション管理会計についてご説明します。

管理会計は、管理組合が集めた管理費をどのように使用したかの結果を記録し、次期マンション管理組合の収支計画案を作成するために重要な業務になります。

法人管理組合と非法人管理組合で税金納税義務が異なりますが、帳簿の記載を始め、会計管理業務の流れは同じです。

また、科目の名称が異なる場合もあります。(科目名称にルールはありません)

マンションの管理組合の管理会計は3つの基本原則に従い運用されます。まずそれを理解しましょう。

1、管理組合の管理会計の基本

マンションの管理組合の管理会計は予算準拠主義で行われます。

予算準拠主義とは予算編成に重きを置き、一度決定された予算計画を正しく履行することを重んじる会計方法のひとつです。

このことを念頭に置けばマンション管理組合の管理会計はかなり分かり易いと思います。(皆さんの家計の会計にかなり似ていると思います。)

非法人のマンション管理組合は利潤を求めないことを条件に、特別な会計概念で運営することが認められた組織になります。そのため、税法上も優遇されています。しかし、法人化することで一般の会社と同様の扱いに変更されます。

大切なことはマンション管理では何よりも予算を事前に決め、それに従い運用することが基本ルールになります。

2、一般会計と特別会計を知る

マンション管理組合は組合員の皆さんから毎月、管理費と修繕積立金を徴収します。

管理費は一般会計となり、修繕積立金は特別会計になり両者を同じ会計で処理することを避けるとしています。これ以外に機械駐車場のような経費がかかる施設に関する会計を管理費の会計と別に設けることも出来ます。(この場合は一般会計が2種類になります。)

この管理方法を「目的別会計」と言います。

使用目的別に収入と支出を分けて管理する方法です。

一般会計と特別会計を相互振替することは法律上、禁止されているわけではありません。そのため、組合によっては管理費が不足した場合、修繕積立金の一部を流用するケースもありますが、これは絶対に避けるべきです。

互いの会計区別の枠を外すと目的とは異なる流用が一般的になり、会計自体が杜撰(ずさん)になります。そのため、管理費が不足した場合は、一時金の徴収で補填する方法や管理費の値上げと実施時期の遅延により赤字を発生させないような運用を行うべきです。

ちなみに管理費を修繕積立金に振替える場合には、規約の変更が必要になり特別議決が必要になります。逆も同じです。

管理費と修繕積立金は個別に管理することが求められることを理解してください。

3、発生主義を理解する

マンション管理の会計が難しいとされる理由のひとつです。

発生主義は会計原則のひとつでマンション管理組合ではこの原理を持ちいることが求められます。

簡単に言えば「計画が何より大事」と言うことです。

管理費は毎月、決まった額を徴収します。そのため、収支計画では毎月一定額が増加します。

一般的な現実主義では、管理費は支払われた時に初めて帳簿上入金とされますが、発生主義では未納の時でも徴収はされたと記帳します。ただし、状態は未収金として計上します。

例えば月管理費が15,000円、毎月28日引落の組合では各戸の管理費は帳簿上、次のように記載します。しかし、滞納があった場合は未収金と言う科目で処理されます。後日(翌月の7/3)に引き落とされた時に未収金が解消されます。

面倒な方法ですが、これはルールです。このような帳簿の記載ルールが簿記になります。簿記には商業簿記、工業簿記など特別な会計上のルールがたくさんあり、3級、2級、1級と分かれています。ちなみにマンション管理会計は簿記3級程度の初級になります。

*帳簿中「現金」と記載しましたが、実際には「普通(徴収)預金〇〇〇」と口座名になります。

マンション管理会計で重要な科目は「未収金」「前受金」「未払金」「前払金」があります。以下各科目の内容は次の通りです。

科目概要
未収金期限を過ぎても支払われない金額組合員の滞納管理費
前受金期限前に支払われた金額組合員から前払された管理費
未払金工事等は済んでいるが契約上支払い期限が来ていない金額
実績に合わせて後日請求される金額
電気代、水道代、翌月払いの工費
管理組合が滞納している費用
前払金契約上、支払を先に済ませることに対する金額工事の前金や掛捨て保険の一括払い
マンション管理軽々で重要な科目

発生主義の細かなことは組合員の方は覚える必要はありませんが、現実主義とは違う起点の考え方は覚えておくと良いでしょうね。

4、財務諸表を覚える

会社等の組織の財務状況を判断するための資料に財務諸表があります。これは、法人組織を含め営利、非営利に関わらず団体が経済活動を行う時に決算時に作成する必要があります。

特に上場企業や一定額以上の資本金の法人には公開義務があります。この資料を基に会社四季報や株式の投資活動が行われています。(公開義務は上場企業で4半期ごとになります。)

マンション管理組合も法人、非法人に関わらず経済活動を行う集団になり、作成義務があります。ただし、非法人の場合、非営利団体のため簡便な資料作成でも良いとされています。

財務諸表の種類は3種類です。

組合の皆さんが総会で配布される資料に添付されています。この3つの資料をみれば、あなたのマンション管理組合の財務状況を知ることが出来ます。

それぞれの資料について簡単な説明はしますが、資料の詳細を覚える必要はありません。

名前だけは憶えてください。

各資料のどこをチェックすれば良いかは後述します。何のために作成される資料なのかをわかれば大丈夫です。

4-1、収支報告書

予算計画書のある時点での履行状況を記した報告書になります。一般的には毎月の理事会で管理会社の月次報告内で示されます。

収支報告書は、収入と支出では考え方が少し違います。収入は加算され、それが予算額に対する達成率になります。支出は減算され、それが予算額に対する消化率になります。

達成率と消化率を合わせて「費消率」と表現します。

収入の場合は、管理費は毎月一定額が増加します。設定額に対して毎月増加します。

支出の場合は、光熱費として15万円の予算を計上したとします。電気代は毎月月末に前月分が請求されます。その結果、15万円の予算額が徐々に減り、年度末で0円に近づきます。

しかし、収入の管理費に滞納(未収金)や先払い(前払金)があった場合は正確性がなくなる欠点があります。収支報告書には「未収金」「前受金」「未払金」「前払金」の概念はありません。そのため次のようなケースでは事実を正確に表現することができません。

(例)月15,000円、区分所有者10名の場合を考えます。

毎月の計画額は15,000円×10=150,000円です。しかし、滞納者2名がいる場合の実際の入金額は120,000万円になります。(達成率は80%)また、この月に3ヵ月分管理費を前払いした方がいた場合の入金額は165,000円になります。(達成率は110%)

収支報告書は計画に対する収入、支出の額と費消率を知ることが出来ますが、表だけでは読みとれない情報が存在する可能性があります。

また、支出については計画と大幅に差異が発生した場合はその原因を別途記載する必要があります。

このことを覚えておくことが重要になります。また、収支報告書は繰越金(余剰金)や證券などの資産を加味していないことも重要になります。

4-2、賃借対照表

賃借対照表はバランスシートと言われ、ある時点のマンション管理組合の財政状態を表す書類です。 一般的なルールとして左側に預貯金、定期預金、「未収金」、「前払金」を示す「資産の部」が表示され、右側に「未払金」「前受金」である「負債の部」と前期までの繰越金である「正味財産の部」が表示されます。これにより、収支決算では正確に表現できなかった部分も知ることができます。

*なぜこのような形式が取られているかは長年の商法の中で決まられたルールです。あまり気にせず表現方法のひとつとして慣れてください。

管理会社によって賃借対照表の書式には違いがありますが、各科目や項目は同じです。

賃借対照表の最大の特徴は右側の合計と左側の合計が一致することです。一致していない場合、記入漏れや記入の間違いがあり、帳簿からすべて見直す必要があります。

賃借対照表も細かなことは覚える必要はありませんが、「未収金」、「前払金」が資産であること、「未払金」「前受金」は負債になることは覚えておきましょう。

4ー3、財産目録

法人管理組合では年度開始時に必ず更新して所定の場所に保管することが義務になりますが、非法人では義務ではありませんが、組合の財産を示す重要な資料になります。

「スマイル債」などの証券を購入した場合に記載する必要があります。株式などでは時価価格の記載もすべきとされています。

いずれにしてもマンション管理組合の財産は皆さんの財産です。どこに幾ら保有する財産があるかを確認するためにも確認するようにしましょう。

5、まとめ

マンション管理組合の会計に関する基本である予算準拠主義、目的別会計、発生主義と財務諸表の見方を説明しました。

少しはご理解頂けましたか。多くの方は何となくわかったけど実感がないのではありませんか。何ごとも解説はその程度で良いと思います。

次章では実際のマンション管理組合の1年間の業務に流れに従って基本で説明した内容がどのように反映されるかを考えます。

きっともう少し理解が進むはずです。

やっぱり無理と諦めず、次の章をチェックしてください。

次章は、マンション管理組合の1年間の活動を会計から考えましょう。

管理費収入

組合員の皆さんが毎月支払う管理費です。

基本は各年度に必要な額を組合員から毎月徴収します。年度初めに決定される収支予算計画には、多少の余裕を持たせるケースが多く、マンション管理では計画外出費が発生することは滅多にありません。

そのため、管理費は余剰金が発生し次月以降に繰越金として組合の資産になります。

一度納めた管理費は返却されない

管理費の余剰金は原則、組合員に返却されることはなく組合の資産になります。

管理費の繰越金が一定額を超えると「スマイル債」などの元金保証の証券に変え利息による収入を確保します。「スマイル債」の保有は大規模修繕時の借入にも優位に働く一面もあり、その意味で購入される組合も多いようですね。

それ以外にも災害等の万が一の事態に備えていると考えて良いと思います。

管理費が潤沢な組合は、修繕積立金も潤沢であるケースが多く、逆に管理費に困っている組合は、修繕費も不足する傾向になります。

突然の修繕や修理のための予備費

マンション管理組合によっては毎年、突然の支出に備えて予算計画に予備費を計上している組合もあります。

組合員の総意として総会で承認を受けているため、あまり疑問に思わない方も多いようですが、多大な繰越金のあるような組合でも毎年予備費を計上することは色々な意味で経済的に余裕がある組合員から構成される管理組合と推測できますね。

「予備費については懸念される点もあり、予備費の設定水準によっては、予算の持つ収支の統制機能が発揮されず、予備費の流用や事実上の予算超過支出を招きかねない危険性が考えられ、予算上、予備費を計上する場合留意する必要があります。」(横浜市ホームページより)

適正な予備費はマンションの規模や保有する施設等でかなり異なります。

共用施設使用費収入

駐車場利用料、専用庭使用料、駐輪場使用料、管理室にあるコピー機やファックスを利用する場合も含めて規約で定められた組合員がお金を払って使用する施設から得られる収入です。

期中に料金の値上げなどがなければ一定の収入は計画段階でわかります。

雑収入

雑収入は、主に余剰金を定期預金などに預け入れた時に発生する利息収入になります。

共用部光熱費

共用施設内で使用される電気ガス代です。エントランスや共用廊下の照明、管理員室で使用される電気、ガス代になります。

一般的には日照時間の関係で夏場は安く、冬場は高くなる傾向があります。

共用部水道費

清掃に使用される共用施設内にあるトイレや洗面台、植栽への散水、日常清掃や定期清掃、排水管の洗浄などでも多量の水が使用されますが、それらのすべての水道料金になります。

そのため、管理組合によっては日常の水道メータの数値の記録をするケースもあります。

これは意外に重要なことで特に老朽化が進んだマンションでは数値記録により館内の水漏れなどをいち早く見つけることが出来たケースもあります。

通信費

電話代(固定、携帯)、切手、インターネットプロバイダー料金など管理員室で使用する通信費になります。

業務委託費

管理会社に支払う管理費になります。

管理組合運用費

組合を運営する際に発生する経費です。会議室を有しているマンション以外では総会・理事会毎に施設を借りる必要がある組合もあります。その場合は会場の賃貸料がこの費用に含まれます。それ以外に総会・理事会の資料作成費、お茶代、ネームプレートの作成費などの経費が必要になります。

備品購入費

事務机、椅子やキャビネット、手提げ金庫、電話機、ファックスなどを設置しているマンションも多いと思います。

一般的に10万円以上の資産はは減価償却の対象となり原則として固定資産として貸借対照表へ計上することが必要になります。

これに対して法人税法上、少額の備品(備品については 1 個、1 組又は一そろいごとに判定して、取得価格が 10 万円未満のもの)については損金計上することが認められています。(法人税法施行令第 133 条)

損金計上とは経費として処理することです。

管理組合の場合には、組合が有する固定資産は殆どが備品であり、金額的な重要性が小さいことから固定資産に計上すべきものも多くはないと推測されることから、簡便的な処理も認められ、これらの備品については、固定資産台帳を作成して、取得年月日、品名・数量、耐用年数、設置場所等を記載して管理することが望まれるとされています。

備品の 1 個、1 組又は一揃いの考え方

応接セットは椅子や長椅子、テーブルで一式になりますが価格は個別にあります。この場合は一組と考えて処理します。

事務机も椅子とセットと考えます。

部屋のカーテンもレースや数か所ある場合は部屋単位で一揃えとして処理します。

雑費

マンション内で使用される様々な消耗品購入費などを雑費として処理しているケースが多いようです。

雑費にはほんとうに色々な費用が含まれます。マンション内使われる紙代や掃除用具、殺虫剤、洗剤類、印刷用のインク代(カートリッジ購入費)、文房具などです。

各購入内容は出納帳ですべて管理されます。

管理状況と不動産価格の関係

皆さんの所有するマンションの不動産価値は税務的な価値と市場価値があることはお分かりだと思います。税務的な価値は毎年、あるいは3年ごとに発表される固定資産税や相続税評価額があります。路線価などとして耳にしたことがありますよね。市場価値は原則これに順次するように指導されていますが、需要と供給の関係から値段が大きくかわります。市場価格は立地性、住環境、間取りなどでおおよそ各地域毎で決まります。しかし、分譲マンションの場合はこれに組合の運営状況が大きく影響します。マンション管理組合の財務状況が市場価格に影響することです。修繕積立金ばかりが取りざたされていますが管理組合の財務状況を確認せずに中古物件を購入して酷い目に合う方は多くいます。

私のところにも中古物件購入希望者からマンションの評価の依頼が年に数件ほどあります。建物の状況や修繕状況、大規模修繕に関する状況などを調べますが同時にチェックするのが「賃借対照表」です。

管理費の収支報告書に問題が無くても「賃借対照表」を見れば財務状況はすぐにわかります。例えば黒字経営に見える組合が多大な借金によって運営されているケースもあります。

建物がどんなに素敵で立地条件が良くても管理会計状況によっては不動産売却価格が低く算出されるケースがあることを忘れるべきではありません。

不動産屋さんは専門外です

不動産屋は物件の売買手数料でも儲ける組織です。売れれば収益は入ります。販売価格によって最大手数料が決められているため高い価格程収益は多くなります。

しかし、マンションの管理に関しては自身で勉強する以外に方法はなく、正しく中古分譲マンションを評価していない不動産屋も多くいます。

担当する営業マンがどの程度マンション管理に精通しているかは重要な点になります。

中古分譲マンションを購入、売却する皆さんは是非とも一度、マンション管理の専門家に管理組合の運営状況を確認した上で不動産屋を訪れることをお勧めします。あるいは、購入前に財務諸表を入手して専門家のチェックを受けることをお勧めします。

時価価格とは何?

株式や金などは購入価格に対して価格が変動します。財産目録を作成した日時で売却したと仮定した時の資産を時価価格(評価額)と言います。

就活中の学生さんも是非チェック

ご子息に大学3年生がいるご家庭では財務諸表の見方は是非、子供を巻きこんで話をしてください。就職先の経営状況はその会社の公開している財務諸表を見ればすぐにわかります。株式会社の財務諸表は管理組合と違い複雑ですがこれが理解できれば、組合の財務は簡単に見抜けます。